if
星の国の海沿いの丘の上に僕の研究所はあった。街から少し離れているけど誰にも干渉されずに研究に没頭出来るのは贅沢の一つの様なものだ。でもたまに寂しくなる。人ってのはそういう生き物だ。一人じゃ生きられないから、だから気の合った仲間を見つけたり恋をしたりする。一人が嫌だからと理由付けて誰かと一緒になるなんてそんなのとは違う。唯、確かな愛と寄り添っていたいのだ。
窓際で研究書物を読みながらもうすぐ陽が落ちる街灯の明りの灯る街を見下ろしていると扉が開いて中に誰かが入って来る。帝統だ。帝統は机の上のさっきまで林檎の入っていたフルーツ籠を覗き込んでいる。
「帝統、食べ物なら無いよー」
「幻太郎から伝言あんだけど」
「幻太郎?何?」
「今夜丘の下に来てくれないかって言ってたぞ。星の海を一緒に見たいんだと」
弄っていた顕微鏡から顔を上げる。星の海、三日月の夜に誰かと見るここの海には何の意味があるのか知らないわけじゃない。林檎を一つだけ見つけてしまったらしい帝統がこちらを見て一口齧り小さく笑みを向ける。
「で?行くのかよ」
「…行くよ」
「そうかい。夜道は危険だから幻太郎に会ったら足元照らしてもらえな」
「ねぇ帝統」
「ん?」
何も無い僕等のこれから起きる事に何も感じてなさそうな顔をしてるポーカーフェイスの帝統を前に僕は言葉が上手く出なかった。
帝統と幻太郎、僕の唯一の友人だ。でも二人とはあまり深い仲になるわけじゃなかった。だって僕は街の嫌われ者だし。特に帝統は隠していてもこの国の女王の血縁の子だって分かってる。幻太郎は星の力を操れる星族の一人だし僕なんかとはつり合わない人達だってのは分かってたのに。なのに。
「何でもない」
不器用に笑ってみせれば帝統も笑い返してくれる。その笑みと瞳は何かを諦めていて譲って祝福してるようなそんな優しさと寂しさに見えた。
***
イカダに乗って二人で星の海の星空や三日月がよく見える海上のスポットへと漕ぎ出すと美しい満天の星空の下で欠けた三日月が僕達を出迎えてくれる。漕いでいた幻太郎が手を止めるとここで星を見るのか静かな時間が訪れる。綺麗だねって言おうとしたら幻太郎が一つ一つの星の名前を教えてくれる。今まで知らなかった星の名前から既存の星の詳しい名前の由来まで。まるで彼自身が星の辞書みたい。クスリと笑っていると幻太郎が水面に手を翳す。水が光り出し暗かった水面が光る砂を零したように輝き出す。天の川だ。
「わぁ…凄く綺麗」
水をひと掬いしたり手で撫ぜたりしてどういう仕組みなのかを詳しく調べてみたくなるけど幻太郎の星の力は魔法だから絶対僕なんかじゃ解明出来ない。もっと幻太郎の傍で見てみたくて座ってる場所をもう少し前に移動しようとすると思ったよりイカダが不安定なのか揺れてこれ以上は動けなかった。幻太郎に近付けないのは仕方ないかと思っていれば幻太郎の手先が宙を泳ぐ。そこから星の光の粒子を集めるとその手の中に小さな輪っかのような物が出来る。指輪だ。僕は幻太郎と目を合わせる。
「貰ってくれますか」
星の明り、月の明りの下で告白、と期待していたものが確実になって嬉しくてどうにかなりそうだったけどふと帝統の寂しそうな顔が過った。でも僕は。
頷く。その僕の動作に嬉しそうに幻太郎は笑むと「手を」と僕の手をとって左手の薬指に星の指輪をはめてくれる。その指輪を月明かりに翳す。
「これからも宜しくお願いしますね」
「うん…ありがとう。幻太郎大好きだよ」
「小生も愛しておりますよ」
指をすくって光るリングの上からキスをおとす彼はいつもの倍カッコよく見えた。
星にずっと幻太郎と一緒にいたいって願いをかけてみる。それこそ贅沢かな。でもね僕達はもう繋がった仲間なんだ。幻太郎も帝統だって。ずっと一緒にいられたらいいのに。いつか離れてしまっても心で繋がってるしこの星の指輪がいつだって思い出せるから。
(24.07.17)
実際の公式様、団体様、会社、人物、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。