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山田三兄弟が揃っているBBデート部の部室内で俺の何気なく呟いた声が大きく響き渡ってるような気がした。デカい声で誰に話をするわけでもなく紡いだ言葉を二人は拾っていて部活の日誌を書いていた兄ちゃんは手を止めてしまって本棚を整理していた三郎は俺を睨み付けている。この部活やる意味あるのかなと言ってしまった。確かに今言った事は冗談でも言うべきじゃないっていうのは分かってる。けど俺はやっぱりこの学校の規則や見えない掟に納得がいかない。その俺が言いたい事を悟っているであろう二人。
兄ちゃんはペンを手に俺の言葉なんかに考え始めちゃってるし三郎は何でそんな事を今言うのか理解出来ないみたいな目を向けてくる。


「そんな事言うなよ。ここには特別に兄弟揃って入学させて貰ってるんだから…文句言うなら頭冷やしてこいよ」
「別に三郎に相談したんじゃねぇよ。ただ俺は」


言葉が絡まって上手く発する事が出来ない。兄ちゃんは手のペンを左右に小さく揺らして俺のせいで止まってしまった日誌書きを保留にしようとしていて書いていた日誌の頁の間にメモ用紙を挟むと帳簿の方を見やっている。デート部のデートでかかったお金やその他諸々の資金等を纏めたノートの表紙を撫ぜる。


「ここのバイトは俺達には助かるが、やっぱり生徒の中で格差があって平等に扱ってもらえないからな。…辛かったら無理しなくていい」
「ご、ごめん」


兄ちゃんの最もな言葉に反省モードに入ってしまう。自分の発言が二人の前で言うべきじゃないって事ちゃんとそれくらい理解出来てるのにこの学園の問題は俺達じゃどうしようもならなくて。兄ちゃんも俺の言葉を受け流すとかそういう事はせずに話を聞いてくれるのか俺の隣のソファーに移動する。


「何かあったら何でも伝えてくれ。三人で協力して笑顔で卒業しようぜ」


優しく、何時だって俺の不安な心を落ち着かせてくれる皆から頼りにされてる懐のでかい兄。俺もこんな中途半端に泣き言言ってる場合じゃないと同じくこっちを見ている三郎を見る。三郎はその通りだよと言いた気にこくこくと頷く。兄ちゃんの大きな掌が俺の頭を撫でてくれる。でも俺には今兄が支えてくれる分もう一つの不安が同じくらいあってそれが裏側で潜み待ち構えている。それは兄が俺達より先に「卒業してしまう」ことだ。
それを伝えれば兄ちゃんは眉根を顰めて真剣に考え出す。心配掛けちゃったかな。これは言わなきゃ良かったかも。ちょっと空気読めば良かったかなと直ぐにごめんと謝れば兄ちゃんは俺の頭を再び撫でてくれる。そしてもう片方の手を俺の背中に持っていくと抱きしめられる。兄の抱擁の温もりを感じたのは久し振りだった。


「寂しいか?」
「うん…。でも強くなるよ。兄貴みたいに」
「僕もです」


三郎もしまい途中の本を棚に戻して俺等の傍にやって来る。兄ちゃんは三郎も抱き寄せると山田三兄弟サンドになって嬉しくて笑ってしまう。兄の腕に抱かれながらせり上がってくる感情を何とか留める。


「大好きだぜ、二人共」


同じ時はずっと続かない。今は少しでも今だけの何気ない幸せを抱きしめていたい。いつかここを三人が出た時、笑い合えるその日まで。俺達は歩み続ける。




(24.07.12)


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