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母国から遠く離れた異国の島国にやって来た理由は一つだった。次の大型任務で手に入れないと通れないある情報が必要だった。その情報はどうしてもスパイ行動で単独で手に入れるには難しくその情報を持っている男は要塞のような城から一歩も外に出ようとしない。任務を遂行するには城の主ボスであり裏では誰もが知っている大情報屋そいつから今回欲しい情報を買ってしまうのが手っ取り早いのだ。

俺と席を何席も離して交渉に応じてるボスの男は、指定した金額が自分の手元に来たのに満足した様子で両手を重ね擦り合わせてアタッシュケースの中の金を確認すると、部下に下がるよう命じて俺に少し不気味な笑みを向けてくる。


「確かに頂戴しましたよ」
「…情報は」


ボスの指先からパチンとよく響く音が鳴ると俺の近くにいた俺を入口からここまで案内してくれた桃色髪の見た目少年が暗証番号付きの錠の付いた小さなケースを持ってきて俺の前に置く。
ケースを一目してから「番号は」と聞く。男は顔前で手を合わせたまま不敵な笑みを崩さずにゆっくりと「0000」と言う。ふざけた番号だ。そんな子供騙しな番号にするくらいなら初めからデータをすんなりと見せておけばいいものを。俺は自分で解錠するとケースの中身はUSBメモリ。ボスを見やる。


「本物なんだろうな」
「ええ。間違っていたらまた来て頂いて宜しいですよ。私は何か無い限りここから出たりしないので」
「…交渉成立だ」


ケースを持って席から立ち早々に城から出ようとするとボスが俺を呼び止める。雷が鳴り響き窓の外を見る。外は嵐の豪雨。


「今夜は泊まっていかれては?」
「結構ですよ」
「そんなそんな…凄い雨ですし取っておきの夜のお供をお付けしますので、是非」


壁の前に立っていた女が一人側までやって来る。桃色髪の少年の隣に立つと恐ろしい程美しい笑みを向けてくる。二人共背丈が大体同じで少年は隣に並ばれて少し嫌そうな表情を一瞬見せる。この美女が夜のお供ねぇ。
品定めする俺の視線に得意気な顔の女は顔を見合わせ整った笑顔をまた向ける。俺は目線を今度は即効で逸らす。そして隣に立つ桃色髪の少年の腕を掴み上げる。


「こっちにしろ」
「…は?」
「夜のお供を用意してくれんだよな?じゃあこっちを」


ボスは今日会ってから初めて表情を大袈裟に崩した。成程なこいつはボスの「お気に入り」ってとこか。俺は笑って掴んでるお気に入りの腕を離してやる。周囲のSP全員に銃を突きつけられているからだ。ボスは咳払いをすると「いいでしょう」と少し掠れた声で話し出す。


「ですがそちらをお供としてされるのでしたら追加料金が発生しますよ」
「どれくらい」
「_____」
「はっ、そりゃすげぇや。今夜は絶対に手は出さないな」


軽くやり取りして商談室から出ると桃色少年に早速今夜泊まる部屋とやらを案内してもらう。部屋に入るなり思っていた以上に広い室内をぐるりと見渡していれば少年が扉を閉めた瞬間に笑う。


「何が可笑しい」
「だって、ボクと今夜寝れなくて残念だったねーって」
「……」


こいつ随分と思ってた様な性格と違った。それに悪戯っぽく笑うと更に幼そうに見えてとにかく一言で苛つく。俺はケラケラと笑う少年にやり返す。


「全部冗談だって事、知ってたか?」


少年は笑うのをやめて俺を睨み据えてくる。この視線それだけでこいつの「素顔」が見えてこちらも負けじと笑み返してやる。少年はくるりと踵を返すと部屋から出て行こうとしているのか「ごゆっくり」とか言い出してくる。素早く近付いて少年の腕を引くと噛み付くようなキス一つ。


「今夜は添い寝してくれんだろ?」
「……ッ!」


腕の中で暴れる少年をベッドに放る。少年の腕を纏め上げて首筋に噛み付こうとすれば目をぎゅっと瞑る仕草。俺は首筋でクツクツと笑うと手を解放してやる。


「冗談」
「!!」


少年が俺を押し退かして部屋から出て行く。扉を開けて出て行き際に「お前の役目はどうした?」と聞けばうるさいと取り乱した様に返されて随分と出しゃばったお気に入りだなとは思った。それだけだ。



(24.07.05)



実際の公式様、団体様、会社、人物、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。



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