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遊園地に出掛ける当日の一週間前に娘の瑠那ははしゃぎまくっててあまりに嬉しそうにしてるもんだからよくベタで当日熱出したなんて羽目外す事にならねぇように見張ってんのも一苦労だった。瑠那はどっちかって言うと未実に似てる。俺と似てる所もあるがどっちに似てようが二人共愛してる。

メリーゴーランドの前で俺と手を繋いで歩いていた瑠那が「パパおうまさんのりたい」なんて言い出す。大半は子供が多いこのアトラクション。乗り物が白馬で統一されていてその白馬に乗ってる姿を撮ると映えるからという理由で人気がある。俺を丸っこい赤の瞳が強請るように見上げてくる。


「おう。乗ってこい」
「パパと乗りたいんだよねー」
「お前と瑠那でいいだろがよ」
「あの」


ニマニマと笑ってる未実と瑠那と会話している途中で突然声掛けられる。見知らぬ女三人だ。手には何故かサイン帳がありペンなんかもちゃっかり持ってる。直ぐに何が目的で俺様に話し掛けてきたのか分かって未実をチラ見すればつまらなさそうな不貞腐れた顔をしている。その場でサインをスラスラと書くと特に長いやり取りもせずに三人は嬉しそうにはしゃいでいなくなった。未実は俺を細目で見ながら俺の行動に少し有り得ないと言いたげに見つめている。俺はヨコハマ代表の顔があるからな。ファンサぐらい我慢しろやと言葉で言わずとも目で伝えれば未実は仕方なさげに「はいはい」と喧嘩まで発展せずに終わる。


「それより、カメラの準備は出来てますよ、パパ?」


俺が買った一眼レフカメラのレンズを此方に向けてニヤニヤと笑む未実からレンズを手で下に下げる。俺を撮ってもいいがメリーゴーランドは…この俺様が乗るとなると今さっきの三人にも気付かれて無駄に話のネタにされるし拡散される可能性が高い。それと注目の的になってしまう。それだけは家族を守るのもあって避けたいのもありでも瑠那と乗りてぇのもあって天秤が左右に揺れてる。


「おや」
「あ。璃兎くんだー!」


瑠那の声で振り返ると、瑠那の言う通り銃兎の息子の璃兎と銃兎と銃兎の妻の凜がいた。一瞬銃兎が遊園地?と二度見してしまそうになったが璃兎も凜も傍にいるし純粋に家族で遊びに来たんだなとは思う。銃兎も俺を見つけると驚いた顔を見せ微笑する。


「出掛けると言っていたが。ここだったんだな」
「お前こそ珍しいな。どうした」
「ちょっとしたご褒美ですよ。璃兎が受験に受かったので」
「え、そうなの?!」


小さく拍手する未実に銃兎は自分の事のように少々得意気に笑っている。お受験なぁ。もうそんなシーズンか。時が経つのは早ぇもんだ。


「受験やら塾やら習い事やら…徹底してるな」
「璃兎の為だ」


璃兎の頭を撫でている銃兎に俺んとこだったら有り得ねぇ教育方針だなと思ってしまった。でも今のうちに学ばせるのも親心ってやつなのかもしれねぇが。
じゃあなと言って銃兎、入間ファミリーはメリーゴーランド前から離れていこうとする。瑠那を凝視していた璃兎は銃兎に軽く手を引かれてまた振り返っていなくなった。未実は人波に消えていく銃兎達を見てクスと笑う。


「璃兎くんは瑠那の事好きなのね」
「何言ってんだ。こんな小っこい歳から」
「でも会う度にべったりだし…これはもう未来の瑠那の王子様かな」
「るなのおうじさまはパパだよ!」
「え。ちょ、ここにも小さなライバルが」


マジな顔して瑠那と顔を見合わせてる未実に大人気ねぇなあと笑いを堪えて未実の首から提げてる一眼レフカメラを取って自分の首に掛ける。


「おら、行ってこい」
「はぁい。行こっか瑠那」


二人は手を繋いで次の搭乗の順番列に列び始める。
ゆっくりと動き出したメリーゴーランド。白馬に乗った娘の瑠那と未実をさり気なく瞬間的にシーンを切り取るように思い出の一枚に撮りおさめた。




(24.06.27)


実際の公式様、団体様、会社、人物、事件、組織等とは一切関係御座いません。



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