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俺の専門は現代社会だ。まだ現代社会の何の知識も無い自分より歳が下の奴に教える高校教師ってのも悪くはねぇと思う。だがこの学校かなり捻くれているというか金持ち校だが外部の奴らには分からねぇようにしてある絶対的な「掟」がある。そんなものに一々耳を貸すのも時間の無駄だ、生徒達の中で嘲り笑ってる生徒がいようが苦しむ生徒がいようが関係ねぇ…なんてなぁ、俺はそういう強者に甘く弱者に厳しいのが嫌いだ。

俺の授業は寝る奴が多いがここまでぐっすりと寝てる奴はこいつの他にいねぇ。7-Aの波羅夷空却。こいつはとにかくマイペース過ぎでどんな時でも自我を崩さねぇ。自分がしたい事をする、自分がやりたい時にやる。一見しょうもねぇ奴に見えるがこの学校でこんな態度で貫き通せる奴は大したもんだと思う。
目の前で堂々と今日も寝られて、俺は容赦なく手に持ってた教科書を並行にしてパンとよく響く音を鳴らして叩く。暴力だ、なんて言う保護者もいたりするがこいつは別だ。怒る時は誰かがしっかり怒らなくちゃならねぇ。
小さく声を零して空却は頭を押さえて俺を目付きの悪い瞳で見上げる。こんなんだからクラスメイトに思い切り笑われるんだろうが。

授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると早々に教室を後にする。次の授業の教える箇所をまとめておきたくて足早に廊下を抜けているとさっきまで笑い者にされてた空却が俺の横に続いてきて話し掛けてくる。


「よく眠れたか」
「おう」
「昨日は徹夜で自主勉でもしてたか」
「してるわけねぇだろ」
「じゃあ何してた」


歩むペースをやや緩めて隣で鼻の頭を掻いて目線を外している空却に聞けば空却は俺と目を合わせてきて少し言いたくなさそうな声調で話す。


「寝てた」
「俺に嘘つくたぁ何百年早ぇんだよ。…本当の所何してた」 


返事にかったるそうに目を細めて溜息をつかれる。つきてぇのはこっちだ。尽く俺の授業寝やがって。


「その辺のチンピラ生徒と喧嘩してた」
「おい、BATの部活動に支障が出るのは分かってるよな?」
「あっちからけしかけてきたんだ。あっちが悪ぃ」
「お前が夜間帯外に出てるのが悪い」
「拙僧よりもよく知らねぇ他校の生徒に味方すんのか?それもひでぇ話だろ」


細めた目を更に鋭く研ぎ澄ましたかのような刃の瞳で俺を射抜いてくる。デート部、何となくこの集団の正体を内から掴んでやろうと思って空却に誘われ顧問兼部員としてやってみたがこいつは今はBATデート部の部長だというのに実際の所あまり稼ごうとか思ってないのかたまに部活動に来ては女と絡んで適当に過ごして帰ってくるという強者だった。十四なんかは一人一人大切にしているがこいつは…そういう性じゃないらしい。じゃあ何でやってんだって聞いてみた事はあるが笑って「知らねぇよ」と躱される。謎の多い奴だ。それよりもこいつが外で喧嘩に明け暮れてる事の方が大問題だ。こいつの身も心配はしている。
肩に手を置けば、振りはらわれる。


「喧嘩したって何の得にもならねぇ」
「得の問題じゃねぇ」
「ならやめろ」


鋭さに鋭さを持って返すとそんな俺の諭す言葉も聞き入れずか、制服の上着のポケットに入ってる風船ガムを取り出し口の中に入れて呑気に噛み始める。


「俺はお前の為を思って言ってやってる」
「余計なお世話だ。…授業中に起こすのもな」
「俺の授業だが?」


返す言葉がこれ以上見つからないのか、空却は俺を横に見て睨んできた。だが人が真剣な話をしている時に笑ってきやがって少し仕掛けるような笑みも向けてくる。


「時田が戻ってきたそうじゃねぇか」
「……話を逸らすな」
「お前は女取り合って火花散らすんだろが。説教したって、人の事言えねぇなぁ!」


もう一つおまけに鼻で笑われて立ち止まった俺を追い越し駆けて行く。時田ってのは美術の女講師だ。ずっと体調崩して休んでてやっと復帰してきたのだ。火花を散らすってのは多少心当たりは…ある。
まるではしゃぎ駆け抜ける様なその背中を見つめて「廊下走んじゃねぇ!」と講師らしく注意はするがこいつが言う事を聞かねぇのは知っていた。




(24.06.24)


実際の公式様、団体様、会社、人物、事件、組織等とは一切関係御座いません。



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