hpmi (Ⅱ)
放課後になるとサッカー部と陸上部の校庭の周回ランニングの掛け声が聞こえてくる。その中に二郎がいない事に気付いてこなしていた業務が止まってしまっていると室内にいた副会長が窓までやって来て俺の視線の先を辿って「山田二郎?」と聞いてくる。俺はそれに答えず見ていた書類に目を落とすがまた振り返って校庭の方に目をやって探してしまう。それに副会長は溜息をついて新たに持ってきた書類を机の上に置く。
「十分だけだぞ」
十分という短い自由時間を設けられて此奴に俺の仕事での自由時間を決められたり拘束等されたくないのに相変わらず人を縛る事が癖のようでそれに気分悪くなりながらも生徒会室から出て行く。
二郎が校庭にいないという事は部活動は出ていないという事だった。って事は講師から何か仕事を押し付けられているか他の生徒と用事があって帰宅したか萬屋の手伝いに行ってるかのどれかだろう。とにかく教室から探すのが手っ取り早いと二郎のクラスの教室へと行くと教室で一人ポツンと自席に座っている二郎をいきなり見つける。少し上がる息を抑えて近付くと俺は二郎の前の席に腰掛ける。
「何、また追試になっちゃった?」
「ちげぇって。日誌」
「ああ…最後の書き込む所で行き詰まってる感じか」
二郎が日誌と睨めっこしていた顔を上げるとちょっと機嫌が悪そうで本当にこういうの苦手だなと思いつつ、見せてみと日誌の書き込んでた向きを変えて自分の方に見えやすいような位置にするとそこに書かれてた内容に笑ってしまう。
「今日は良い天気って…もっと書かなきゃいけない事あるっしょ」
「だって」
「まあいいや。ここの所は俺が何とかするから。それよりちょっと時間ちょーだい」
「ん?何だよ」
首を横に傾けて鳴らしている二郎に俺はシャーペンを受け取って手元に置くと制服の上着に入れておいた物を取り出す。封筒に入ったそれを二郎は見て「はい、あげる」と手渡す。二郎はそれに不思議そうに封筒の表裏を見ると中を開封する。中には二郎の行きたがってたサッカー試合のチケットがありそれを見た途端予想はしていたが見る見る内に良くなっていく機嫌。
「凄ぇこれ中々取れねぇやつじゃん!」
「あ、そうなの?」
「そうだよ!中々手に入らねぇ値打ち物だぜ」
同じ言葉を連呼している二郎に聞いて見てる此方が少し面白くて笑いを堪えながら日誌の続きを書いてやっていると二郎はペアチケットなのに気付いてでも他の問題があるのにも気付いて肩を落とす。それでも二郎に話し掛け続ける。
「行かない?俺と」
「行けねーよ。今季シーズンはどうしても萬屋の仕事が忙しくて手伝わないとなんだ」
そうは言っても好物を前に欲しがる子供のような目でチケットを見つめて顔を渋めている二郎に俺はちょっといきなり出して酷だった等と苦笑いして「だよなぁ」と呟く。二郎はエンジンの抜けた機械のように机に突っ伏す。
「あーでも行きてぇなぁ!」
「手が届かない歯痒さ」
「そう、それマジ」
「んー。じゃあなぁ、ちょっとお兄さんに俺から話してみようか」
「あ?それなら俺が何とか説得するって」
一郎さんと話す機会をくれと自分から言ってみたはいいものの説得させる自信はあるようで無かった。でもあの人の事だから押しに押せば優しく対応してくれると何処かで思ってしまっていて、それでも二郎はそれはさすがにチケット貰った上に説得までやってもらうのはとでも考えているのか自身で説得すると言い出すが頭を抱え始める。
「兄ちゃんに今月は仕事手伝うって約束したんだよな」
約束という言葉にはとても強いパワーが込められていて良い方にも使えるしその逆もあるけど二郎にとってはサッカーの試合の方に行ってしまうと一郎さんとの約束破りになってしまうのでそれが性格上で許せないらしかった。
俺はスラスラと書き込んでいた日誌の最後の欄をうめてやると二郎の方に向きを変えてペンと一緒に返してやる。
「じゃあ俺、生徒会戻るわ」
「ちょ、まだ行けるかどうか分かんねぇから他の奴も候補入れといた方がいいかも」
「ジロちゃんとしか行きたくないの。分からない?」
二郎の短く息を呑む音が聞こえて俺は笑顔を浮かべて座っていた椅子をちゃんと戻しヒラヒラと手を振って教室から出て行く。
チケットが入ってた上着ポケットの片方のポケットの中のスマホを取り出しさっきから着信が入っているのが副会長からだと確認して生徒会室に足早に歩き戻って行く。けど途中で虚無感が込み上げてきて立ち止まって足を止めてしまう。
「(何時だって、二郎の事諦められる。…そう思ってたのに)」
窓の外の夕焼け空を見て俺は二郎に渡すだけ渡してきたチケットの行方が何処に行くのかを考えるが俺と二郎の二枚分になる事は今は無いだろうなと、忙しなく鳴り響く着信音に自身の心がかき乱され続けていた。
(25.12.13)
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