hpmi (Ⅱ)


悲しくなったり落ち込んだりするとよく訪れるバーがあって今夜もそこに行って自身を慰める。目の前で作られていく青色のカクテルを見つめているとカクテルを作ってくれているバーテンダーの男の人が「大切な人だったんですか」と私のさっきから話し込んで紡がれる言葉を律儀に聞いてくれる。出来上がったものが私の前にすっと差し出されると頬杖をついて突っ伏していた身体を起こして透き通った青色を眺める。このバーに通い始めてもう数年近くは経っていてその度に落ち込んだりそうじゃなかったりしたけど今夜の落ち込み様は今までと比べると唯の悲観というよりも自身のこれからに迷っているというものだった。確かに大切な人を失ったのは悲しい。けど酷く悲しい別れとかじゃなかった。決してそうでは無くメールで一言で友情を断ち切るような終わり方とかそんなのばかりだったけど彼は最後まで私に私が納得するまで付き添ってくれていたから。


「だからもう…これ以上は甘えてられないのよね」
「え?」
「私なんかとは付き合ってくれるとは初めから思ってはいなかったからショックも今となっては少ないというか」


バーテンダーはカクテル作りに使用した道具を片しながら私の今までの落ち込み様とは軽いものに驚いているようだった。恋愛となればとことんもっと傷付くと思っていたのだろう。でも話を聞いて私の表情を見て優しい形としての離別をしたのだなと分かったのだろう。


「優しい人だったんですね」
「…うん」


それでも涙は出るものだ。離れるのだからそりゃ悲しいし。涙よりも溜息の方が多いけど。今目の前にいるのは色んな人の愚痴を此処で聞いてきたベテランでまだ若いバーテンダーの男の人だけどさすが私の心情も見抜いているようで。少し涙ぐんでる私を見つめながら次の言葉を探している。


「此処には色んな人が来ます。皆何か悩みがあって。でも俺のカクテル飲むと元気になるって言ってくれるんです。ちょっと自慢になっちゃうんですけど」
「うん、それは本当だよ」


私は出来上がったカクテルを一口飲む。ここ最近は彼との時間を作っていたからか店前は通っても酒を呑みには来ていなかった。久方振りに呑んでカクテルの美味しさとまた人生の岐路に立っているのに気付かされるというか。


「相談には上手くのれる方じゃないんですけどカクテルだったら自信あります」
「自信持っていいと思うよ」
「…どんな人だったんですか」


どんな人かと聞かれて自分の直ぐ隣にいた彼の事を今更ながらに振り返ってみる。頭が良くて仕事熱心。けれどそれが理由で私とプライベートの時間が作れず離れる事に至ったこと。そう改めて思うと恋には元々興味が無かったのかもしれない、無理させてしまっていたかもしれないと考えてしまう。けどそれだけじゃないのも最近では分かっていて彼が人気者である事もそれの理由には入っているとは理解している。それを包み隠さず話すと男の人はグラスを拭きながら私の彼がどんな人かを想像しているようだった。
扉が開き中に客が入って来る。見るとまさかの彼、獄さんだった。その私の反応に男の人は察して成る程といった表情になる。


「ちょっといいか」


カクテルを呑んでる途中だったけどすぐ側に来てくれる獄さんに反するような態度はとりたくないし出来ず男の人に席を外すと一言言って外に二人出る。
外は来た時よりも冷え込んでいて手にある咄嗟に持ってきたマフラーをかけようとして彼が寒がっているのに気付いてマフラーをかけてあげる。暫しの小さな沈黙に彼の言葉を唯待つ。


「俺が仕事人間なのは変わらねぇよ」
「…はい、分かってます」
「それと」
「分かってます。獄さんが人気者で私が恋愛する相手に値しないのも」


マフラーを柔く巻いてあげると獄さんは少し困ったように目の前の私の視線から視線を逸らされる。私はそれに「迷惑だったら捨てちゃっていいですから」と何時もながらにネガティブな発言をしてしまう。


「獄さん、私応援してます。獄さんのことずっと好きです」


街の街頭や近くの通りがかった車を見やる彼。中から仕事帰りの旦那を迎えに来たのか女性が出てきてハグをした後、車に乗っていなくなる。その車内から聞こえた曲がナゴヤディビジョンのBATの曲だったのに獄さんは分かったらしく去って行く車から私に向き直る。彼に会えて嬉しいのか離れて悲しいのか泣き出しそうな私を見てそっと頬に触れる。


「夜華はもっと自信持っていいと思うぜ」
「…え」
「前に進め。振り返るな、全てを過去にしなくてもいいから」


私の頬から温もりが離れていく。


「仕事で構ってやれる時間が作れるかどうか分からねぇが…また会おう」
「はい…いつでも待ってます」


きっと私はここまで優しい人に出会う事も無いだろう。ならせめて好きでいる事は正直でいたい。彼が私の傍にいてもいなくても心はもう共にあってこれからもささやかな心の拠り所として支えられ支え続けるんだろう。



(25.12.01)



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