hpmi (Ⅱ)
長時間乗車していた車を降りて深呼吸する。後部座席に乗っていた帝統と乱数も外に出て辺りを見渡し衣替えしてない木々達を眺めてる私に乱数は今朝のニュースでまだ紅葉していないと報道していたと告げる。どうやら来る前から知っていたようだが昨年はもっと早い時期から色付いていたようだ。今年の気候変動が少しおかしかったのもその原因かと思えた。
今日ここに来たのは帝統の見つけてきたバイトの手伝いだった。シブヤ内でやる仕事と思っていたのに聞けばその仕事内容はトウキョウ外。栗拾いの仕事という何とも平和的で季節感のある帝統の選んだ仕事としては少し地味なもののように感じた。バイトを見つけてきた当人の帝統はというと広い駐車場の奥の方にある食べ物屋が連なってる道の駅に興味を示していて仕事の事などそっちのけのようだった。仕事場である栗の木の側に車を停めたというのに今にも賑わう食べ物屋の方に行こうとする帝統のフードを掴んで踏み込んで前進しようとしていたのを阻止する。
「あっちにソフトクリームって書いてあるからよ〜!」
「自ら凍えに行くようなものですよ」
「さつまいもソフトってのもあるね」
食いたいと叫んで前のめりにバタバタと手足を動かすバカ猫に俺は掴んでいた手をパッと離して見事に地面に前へ転がる帝統。振り返って涙目で子供のように駄々を捏ねる帝統を見下ろし「味噌田楽なら宜しいですよ」とソフトクリームの隣の方の古風な店の方を向く。
「味噌!田楽!…って何だ?」
「くっ、これだから若者は」
「腹拵えに早速食いに行こうぜ」
立ち上がって尻についた埃をはらう帝統は本当に食べる事しか今は興味が無いのかさすがに静かに事を聞いていた乱数も口を開く。
「駄目だよ。栗拾いに来たんでしょ。冷たいフードも暖かフードも後で」
「栗は逃げねーって」
「逃げるとか逃げないとかの問題じゃないですよ。我々の今回の目的を後回しにするわけにはいかないと言っているんです」
ん、と乱数は帝統にトランクから出した籠を差し出す。帝統はちぇと文句を言いながらも籠を受け取ると三人で道の駅の反対方向にある栗の木の方に歩いて行く。
「それにしても栗って金になんのか?」
「自分が見つけてきた仕事じゃん。何時もの危ないバイトじゃ無さそうだったから手伝ってあげてるのに」
「手伝いをする事に意味があるのですよ?」
「へいへい。…あ、何だ?」
前を歩いていた帝統が何かに気付く。足元を見下ろしている帝統に我々も下を見る。落ちている栗の殆どが中身の無いイガばかりでまるで先に誰かが取りに行ってしまったような有りようだった。それに帝統が「先越された?」と不安がる。ここの栗の木達は所有者の依頼人の木だと思うのだがまだ手を付けてない筈だしどういう事なのだろう。
すると乱数の携帯にメール着信が入る。聞くと他の人もヘルプで栗拾いに向かってくれてるとの事だった。その人達と共に協力してお願いしますと急なメールだが丁寧に書かれていて、もしかしたらそのヘルプの人達はここに来て取り始めているのかと三人で栗の落ちてない木の下を見下ろしイガを木の棒でつついていたりしていると、後方から「飴村くん」と声が掛かる。
「寂雷?」
「よっ、来んの遅かったなー」
「ヘルプってお前らだったのか」
栗を先に取っていたヘルプというのは麻天狼三人だったようでまさかの大きな依頼引受人に唖然としていると神宮寺は持っていた栗の沢山入った籠を下に置いて綺麗な艶のある栗の一つを見せてくれる。
「立派なのが取れました。取れた栗を少しお裾分けして貰えるようなので栗ご飯にするんです」
「あと、モンブランな」
食欲の秋に相応しい二品が述べられると隣で帝統が今にも食べたそうにしている。けれど周囲の栗の木を見るなり殆ど仕事を麻天狼が片付けたようなもので我々の来た意味が無いじゃないかと言いた気に乱数は肩を下げている。それに神宮寺は逸早く察したのか「キミ達の車に半分」と言い出す。
「残りの車に半分、収穫してくれた栗を乗せてくれると有り難いのですが」
乱数が下向いていた顔を上げると目の前の神宮寺を見上げて少しずつ穏やかな表情へと戻っていく。籠を手分けして持って車まで運ぶ。その間にも食べ物の話で盛り上がる。
「あっちに直売所もあんだけど、そこでさつまいも買って行こうぜ。秋の味覚大集合って感じで」
「そうですね。…飴村くん達も御一緒にどうですか」
楽しそうに麻天狼内で話していた神宮寺が俺にも話を振ってくる。それに帝統は、行くと元気に即決していたが乱数は過去の事もあるのかやはり迷っているようだった。小さく「いいのか…俺は」と口にするが神宮寺は前を歩きながら自身の車まで来ると籠を置いて隣の乱数を見つめ微笑み掛ける。
「以前だったら戸惑いますが…今は違うので」
車のトランクが閉められる。同じように笑いかける麻天狼の優しさに気付いたのか乱数はやんわりと笑み返してありがとう、と言っていた。
(25.11.02)
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