hpmi (Ⅱ)


俺の知り合いの作家の家に度々お邪魔する事があった。ここ最近めっきり減ったのだが次の本のネタの資料を見せてくれると言うのでやって来た。久方振りに訪れた知人の家は相変わらず広い家だ。けれど家に来ると資料を見せて貰った後に知人の家主は誰かを捜していて誰を捜しているのかと聞けば妹のミサさんだという。ミサさんといえば随分前に会ったきりで最後に会った時もあまり会話をしていなかったと思う。知人が彼女の名を口に出すまで今の小説家の仕事やディビジョンラップバトルの事で頭が一杯だったから記憶を頭の奥にしまっていた感じだ。名を聞けばちゃんと思い出す。存在ごと忘れる事はない絶対に無い筈だ。
私も捜しますと知人に言うと多分温室かもしれません、俺は三階を捜しますんでと言って上階へと上がって行った。一体何部屋あるんだここの家はと思いながらと言われた通り温室へと向かう。中に入ると居心地の良さそうな外気の寒さと打って変わっての暖かさ。部屋の室温はいい。それよりも目に入ってしまったのは地面に無数に積んである本だった。無数といっても私の読む比では無い。軽く読めそうな本が数段重なってあるくらいだった。


「ミサさん」


本の間で地面の芝生に横たわり眠っている彼女に声を掛ける。ミサさんは名を呼ばれてハッとしたようにうたた寝だったのか俺の存在に気付くと飛び起きて積み上がってた本が一段分倒れる。頬に寝跡がついている。


「もしかして夢野さん?」
「そう、ですが」
「久し振りですね。凄い久し振り…」


ミサさんは寝起きを見られたのか少し恥ずかしいのか癖のついてる髪を耳に掛けてまだ完全にはっきりとしてない視界で私を捉える。しゃがんで倒れた本を直そうと一冊手に取る。その際に雪崩のようになった本達の表紙が全てさらけ出されて大体どんなジャンルを読んでいるのかこの一瞬見ただけで察した。


「本は好きですか」
「嫌いじゃないです」
「では…好きではないと?」
「いえ。好きです」


崩れた本を直して他の一番無造作に置かれている本の一冊を手に表紙を眺めて何となく聞いてみる。ミサさんは少し困った様にでも読めない本もある、と話す。何が読めないのか予想は何となくつくが敢えて聞く姿勢を取ろうとすると自分から「恋愛物」と言う。


「ほぼ読めませんね」
「ごめんなさい。嘘です」
「…此処にあるのは全て恋愛物のジャンルに該当しない」


芝の上に散らかってる本を纏めたが台が直ぐ側にあったのでそこに置く。私の推測は当たっているだろう。彼女、きっと最近失恋したという事。また私が口に出すまでも無く自身の事を話し出す彼女に私はいつの間にか変愛、人生相談にのってあげてる自分がいるのに気付く。


「あんなに本が好きだったのに今は活字すらも追えなくなってる。これって重症ですかね」
「…そう、ですね」
「ごめんなさい。書き手の夢野さんからしたらどう返すんだって話ですよね」
「いえ、参考になります」


つい本音を言ってしまった。人を観察するのが癖だとバレてしまったかもしれない。それでも彼女は座っていた脚を体育座りに曲げて溜息をつき恋愛って分からないものだと呟く。ますます相談にのるのが難しくなってくる。でも悪くはない。


「途中で一度冷められればそこで終わるってなんて事になるなら初めからしなきゃ良かったって…分かってればこんな」
「それは相手に失礼ではないですかね。本気の恋愛をしていたから恋の本だって上手く読めなくなってくる。立ち止まってる。それは確かに貴方が歩んできた道であって決して恋心が薄れたわけじゃない」
「………」
「最終的に何処にいこうが貴方はまだ未練がある。そうじゃないですか」


未練、という言葉に彼女の瞳が泳ぐのを見て何故か胸が高揚する。私は今、形はどうであれ恋をしている人物と話して小説のネタが一つ二つ思い付いたのに心の底から歓喜している。そんな私を見てさすがにミサさんも何かを察したのか話しかけづらそうにもその一言が中々言えずに戸惑いの瞳に変わる。
温室の扉が開く。中にミサさんを捜していた知人が入って来ると「いたいた」と言葉にして台上の足元の本を見て呆れたような声を出す。


「また本読み漁ってたのか。母さんに怒られるだろ」
「勉強になりました」
「え?あ。夢野さん、もう行くんですか」


温室の外に出ると知人は続いて出てきて扉を閉めて顳かみを掻きながら笑う。


「変わった子でしょう?」
「いえ、一生懸命な子です」


思った事を口に出してみれば知人はポカンとした顔でいて表情が元に戻る前に温室前から離れて行った。





(25.09.22)



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