hpmi (Ⅱ)


事務所の前でよく見かける不思議な女性がいる。何度も見掛けるので一度話し掛けてみようと建物の前で掃き掃除をしていた時に思い切って声を掛けてみると女性は俺と目を合わせようとせず逃げるように去って行った。もしかしたら仕事関連で相談していた依頼人だったかもしれないしそうだとしたら、考えると反省しか無くちょっと前の過去に戻って掛ける言葉をもう少し考えてみるべきだったかとか色々と頭を巡らせてしまう。大体皆依頼だったら上手く話が進むのだがこういうパターンもたまにはあるのかと考えてはもしかして依頼ではなかったかもとも考える。掃除をして事務所の中に戻ろうして今から学校に行く二郎が階段を降りてくる。俺の浮かない表情を見て「どうしたの?」と聞いてくる。


「ちょっと…な」
「?よく分かんねぇけど、元気出していこうぜ」
「ああ。…学校だよな行ってこい」
「うん。今朝はバスケ部に呼ばれてんだ。試合やるからって」


じゃあ行ってくるねと二郎は手を降って駆け去って行く。俺も気を引き締めて一日の仕事に取り掛からないとと自身に言い聞かせて事務所へと戻って行った。



***



その日は大雨だった。刺すような土砂降りに台風が近付いてくるからそれでこんなに降ってくるんだなと予めニュースで見て知っていたから外回りの仕事は出来なかった。室内で出来る事を熟しながら萬屋の一日を過ごす。夜になってきてパソコンをずっと操作していて凝り固まった身体を解す為にストレッチをする。もうすぐ事務所の外灯をつけようと窓の外を見れば女性が事務所の前に立っているのが見えた。この雨の中傘を持たずに。俺はその女性があの時の依頼人だったかもしれない人と同一人物だと分かると傘を持って下に降りて行く。けど降りた先に女性はいなかった。何処に行ったのかまたいなくなっちまったのかと辺りを見渡す。すると横断歩道の向こう側にいるのに気付き丁度信号が青点滅で急いで駆けて渡る。
俺はそのまま女性の後を追う。何故傘を持っていないのか、何で何時も俺の事務所の前に来るのに声を掛けようとしてくれないのか、きっと悪いとかじゃない。そう思いたくて必死に女性を追っていたが曲がり角で見失ってしまう。


「何処…だ」


雨は次第に強くなっていく。俺は傘を持っていたがあの女性は持っていなかった。もしかしたら途中で買いに行ったかもしれない。すれ違いだと近くのガードレール前に手を付いて溜息をこぼす。一度ここまでになると気になり出して止まらない性質だったがこれ以上はあっちから出るのを待つしかないと思った。でももしかしたらこれっきりになってしまうのか。いきなり訪れた不思議現象。謎過ぎて考えれば考える程こんがらがっていく脳内。
すると足元に子猫がいるのに気付く。雨で濡れたその身体を抱き上げてやると首輪もついてないから野良だという事が分かる。


「一緒に帰るか」


子猫を抱いて事務所へと戻って行く。帰路の途中、俺の腕の中で子猫は眠っているのか震えて目を閉じている。二郎と三郎、俺が拾ってきたとなるときっと子猫を受け入れてくれるだろうと思い安心していいぞと小さく声を掛けて俺は雨風の強くなる道を歩き抜けた。



***



陽だまりの中、長い事デスクワークをして疲れ目を休ませる為にベッドでうたた寝をしていると俺の傍で一緒に眠っていた大雨で出会った子猫、今は子猫では無いがレインがいない事に気付く。


「レイン…?」


起き上がって寝ぼけ眼で辺りを見渡す。何時も俺と一緒に眠っているレインが俺が起きるまで離れる事は無いのに何処に行ったんだとちゃんと探そうとすると俺の隣に人が眠っているのを見つけてしまう。驚いてベッドから降りようとしたがその人物、女性は俺に抱きついていて離れない。視線がお互い真正面に合う。思えばあの時の消えた女性だった。


「何で…ここに…レインは」


困惑して女性から目を背けて離れようとする。だが女性は俺を真っ直ぐに見つめ続けている。その瞳を見て分かってしまう。この女性が、レインなのだと。

子猫を拾ってから事務所で飼い続けてきた二年間が一つに繋がる。俺の今までのレインとの思い出がこの女性であるのなら。これがきっと彼女との始まりなのかもしれない。




(25.07.29)



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