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布地と布地を合わせてデザインパターンを合わて次に作る服を考えているとスマホの音声着信が鳴ってそれに出れば幻太郎からだった。幻太郎と話すのは久方振りで中々会えなかったのは仕事が立て込んでいたのと梅雨入りして外に出れなかったのが理由だった。でも今は落ち着いてきたしちょっとくらい会ってもいいかなと窓を見る。外はやっぱり雨天で事務所から出て楽しむと言える状況じゃないけど。


「はいはい乱数ちゃんだよー。幻太郎久し振りだね!」
「今日は雨ですね」
「確かに雨だー。ニュースではずっと降り続けるって」


幻太郎が僕の返事に何か考えているのか少しの間黙る。そして「傘」とポツリと言葉を紡ぐ。それに聞き返すと幻太郎は向こうで溜息をついているのか考え事してるか困ってる様だった。何だろう、幻太郎今は外にいるとか?でも人の声とか全然聞こえないし家には居るみたいなんだけど。


「小生、今締切の小説執筆で手が離せないんです」
「んん?でも電話してるって事は?」
「どうしてもその… 傘でも何でもいいので雨を凌げる雨具を持っていってあげて欲しい人がいるんですが」


そう言って頼まれてくれますか?と言う幻太郎に僕は何が言いたいのか誰の事を話してるのか分かった。スマホを耳に当てたまま前に知り合いの雨具専用のブランド会社の人と一緒に作ったレインコートと傘を押し入れから取り出す。まだ使ってなくて真新しい。


「持ってくよ。帝統でしょ?」
「はい。…雨が強くなって大雨になる可能性があるので注意して下さい」
「うん。おけおけ。あ、幻太郎執筆無理せず頑張ってね!」


クスと電話越しに静かに笑う声が聞こえて「はい、ではまた」と通話をあっちから終了させる。レインコートを広げて絵の具で塗り零した様な虹色の素材とオリジナルの傘を開き見る。面白そうだから自己満で作った雨具だったけどここで帝統の為に活用出来る機会があるのなら雨の中でも届けないとね。



***


外に出ると嵐の台風の目に入ったのか雨風は止んでいた。今がチャンスだと外に出るとシブヤの街中の人波を抜けて自分のお気に入りの傘を持って公園までやって来る。所々に大きな水溜りがあって泥濘んでて長靴を履いてきたから完全防備だもんねと心の中で呟く。
また風が強くなってくる前に帝統を見つける。帝統は大木の下で雨宿りしてて彼に声掛ける。帝統は濡れた前髪を掻き上げて以前よりげっそりとした顔と声で「よっ」と空元気に言う。


「凄い雨だね。帝統、無事?」
「無事に見えるか?もうこの時期は地獄だぜ」
「そんなお困りの帝統にはこれを授けよう」


さっき確認した持ってきた傘とレインコートを手渡す。帝統は目を輝かせる。でも何だか物寂しそうな顔をしている。大体分かるけどこれは聞いても良かったのかな。ほら、帝統ってば本当に気を許した相手にしか助けを求めないとは思ってたから。


「ボクのウチ来る?」
「行く」
「え。即答?思ったより光の速さだった」


新品の傘の留め具を外してパッと開いて帝統の頭上に差してあげようとする。けど帝統が僕を抱きしめてくる。ギュと自分より大きな身体に包まれると優しくされるとどうしていいか分からなくなる。気恥ずかしい様な。素直に嬉しいのは本当なんだ。


「もう…帝統びしょ濡れじゃん。早く事務所行くよ」
「乱数ぁ、あんがとな。マジで天使」
「天使かどうかは分からないけど…もう風邪引いちゃうから帰ろ」
「おう」


帝統が僕に抱きついたまま二人で歩き出す。帝統ってこんなに甘えただったっけ。でも誰かに抱きしめられるのっていいな。帝統に抱きしめられたの初めてだったから特に。ジメジメした気候を吹き飛ばす様な何時もより可愛い彼の行動に笑みをこぼしてちょっと残念だったけど結局持ってきた新品の傘や雨具は使わずに一つの傘を二人でシェアして使い事務所へと歩みを進めた。




(24.07.20)


実際の公式様、団体様、会社、人物、事件、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。



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