第06話 守るべき者との契約
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ドサッ!!
有「イリヤ!」
「「「「「「イリヤ!!」」」」」」
その場に居た全員がイリヤの名を呼び慌てて近くに駆け寄った。
イリヤの身体からは淡い光が蒸気の様に出ていてイリヤはピクリとも動かない。
有「イリヤ、イリヤっ!!」
村「渋谷、落ち着いて!揺すっちゃ駄目だ!」
有「だけどイリヤの身体からなんか光が出てる」
ギ「あぁイリヤ様!!」
グ「この3日間の疲労が出たか…」
コ「ヨザック、直ぐにギーゼラを!」
ヨ「はいっ!!」
『お待ち下さい!!』
俺達が慌てふためく中、聞き慣れない声が俺達を止めた。
ギーゼラを呼びに部屋を出ようとしたヨザックを含め魔族一同が振り返った。
有「誰だよこんな時に!今はそれどころじゃ…」
『皆様、落ち着いて下さい』
俺達が振り返ると、そこにはメイドイン・グウェンダル産のピエール2号がふよふよと浮いていた。
有「ぴ、ぴぴぴぴぴ、ピエール2号!?ううううう浮いてる、動いてる、喋ってるぅぅぅ!?」
「「「「「「…………」」」」」」
『いぇ、私はピエール2号様ではありません。先程、御挨拶させて戴きました水の精霊、ヴァッサーでございます』
そう言うとピエール2号は短い手足を使って器用にお辞儀した。
有「ななななな何で!?何でピエール2号が…」
『ですから私はヴァッサーです。今はピエール2号様のお身体を借りております』
ピエール2号は俺に訂正をした後、イリヤを抱きかかえているコンラッドに向き直った。
『大丈夫、イリヤ様は眠っていらっしゃるだけです』
有「眠ってるって…やっぱり、3日間も眠らなかったから…?」
『……イリヤ様は、本来のイリヤ様に戻られているだけです』
村「…………」
ギ「兎に角、直ぐに聖下を寝所へ」
コ「あぁ、グウェン」
グ「解った」
コンラッドはグウェンダルに目で合図するとそのままイリヤを抱きかかえ部屋を出て行った。
部屋に残された魔族達は全員ピエール2号に視線を向た。
村「ヴァッサー、君には少し聞きたい事があるんだけど…」
『はい』
村「イリヤは普通の精霊使いではないね?」
『…………』
有「えっ?普通の精霊使いじゃないって…村田、どうゆう事?」
「「「「…………」」」」
村「いくらイリヤの力が強くても10種の精霊総てと契約が出来るなんて…どう考えても普通じゃない。イリヤは一体何者なんだい?」
『村田様、いいえ今は猊下とお呼びした方が宜しいですね。確かに、イリヤ様は普通の精霊使い様とは違います。ですが…イリヤ様はイリヤ様です。何の偽りもございません』
有「なぁ、さっきイリヤが眠ってるだけって言ったのは?本来の姿って?」
『……イリヤ様が眠られていないのは、この眞魔国に来た3日間だけではありません』
有「え?」
グ「…どういう意味だ?」
村「…………」
『皆様は各精霊がこの世に一つの存在だと、ご存知ですか?』
有「それはイリヤから聞いてるよ、精霊使いも精霊達もその代に一つの存在だって…」
『……えぇ、精霊使い様はその代に御一人しか存在しません』
ヴ「精霊使い“は”…?」
『我ら精霊は…この世にたった一つの存在なのです』
ヨ「…どう違うんだ?」
『精霊は生まれ変わる事も、死に逝く事もありません』
有「え…?」
『力を使い、疲れ果て、どんなに傷付いたとしても、我らは自らの力ではその傷を癒す事も出来ない…』
村「それを癒すのが精霊使い…」
『はい。ですが精霊使い様に御会い出来る精霊は、ほんの僅かな者だけです。猊下が仰っていた様に通常の精霊使い様が精霊と契約を交せるのは一体、力の強い御方でも三体です。でもそれは本当に運の良い場合。殆どの精霊が精霊使い様と御会いする事は出来ません。例え御会い出来たとしても必ず契約を交せる訳ではありません。精霊使い様御自身がそのお力に気付かれていない事や、その運命を受け入れない事もございます。中にはその力を過信して悪用される御方もいらっしゃいます』
有「そんな…」
『私は李様が精霊使い様として命を受けた時から御側に居ました』
有「イリヤが生まれた時?」
『精霊の中には傷を抱えたままでも、それ以上傷付かぬ様に精霊使い様との契約を拒む者もいますが…私の様に例え一時でも癒しを受けられるのならば精霊使い様に御仕えする精霊もいるんです。でもそれも他の精霊と契約をされている御方とは契約が結べません。私はイリヤ様がお生まれになった地球のアメリカの地に居ました。そこでイリヤ様が精霊使い様として覚醒される日を御側で待ち望んだ…』
有「精霊使いとしての…覚醒?」
村「初めから精霊使いって訳じゃないのかい?」
『イリヤ様は特別です』
有「特別?」
『神の魂…御霊がイリヤ様の御身体を神の器として御選びになった』
「「「「「「神!?」」」」」」
『我ら精霊を初めに御創りになった御方を我らはそう呼んでおります。その御方もイリヤ様と同じ双白銀の…この世に一つの色を宿した御方でした。イリヤ様の御身体は精霊使い様として覚醒されるまで光の球の中で御育ちになられました。それは例えイリヤ様の母であるアイリーン様でも李様に触れる事は許されませんでした』
有「触れる事もって…親子なのに!?」
『……それがイリヤ様の受け入れた精霊使いとしての宿命です。イリヤ様の御身体は元々はアイリーン様の一部、御2人が別々の固体として在ったのはイリヤ様が光の中に居た数年の間です。アイリーン様もその運命を受け入れイリヤ様に自らの命を捧げました』
有「だって…だって、お爺さんの話とかよくお母さんから聞いたって…」
『それは…アイリーン様が光の中に居るイリヤ様に話し掛けたものです。例え少しの時間でもアイリーン様はイリヤ様との時間を大切にされていました』
有「そんな…そんなのって……っ」
村「渋谷…」
「「「「…………」」」」
俺達はイリヤの出生と精霊使いとしての運命に言葉を失った…。
実の親子が目の前に居ながら一度もその胸に抱く事も抱かれる事も…直接会話する事も…何も出来ないなんて…それどころか自分の身体を創る為に大切な人の命を削るなんて…
この世に命を受け初めて自分の足で立つその時に、イリヤはたった独りで何を見たんだろう…
誰の気配も声も温もりさえ消えたその部屋でイリヤが感じたもの…
『少々、お喋りが過ぎましたね…』
声のする方へ顔を向けて、自分が俯いていた事に気付く。
俺の前にはメイドイン・グウェンダル産のピエール2号が浮いている。
さっきと違うのは、ピエール2号が歪んでいてよく見えない。今ならブタでもクマでもネコでも何にでも見えるだろう…そう俺は泣いていた。
『皆様にそんな顔をしてもらいたくて話した訳では無いんですよ…』
少し困った風に言うピエール2号の言葉に俺は自分の腕で涙を拭ってから振返ると、一緒に話を聞いていた魔族一同の頬には涙が伝っていた。
普段から汁だくのギュンターだけでなく、ヴォルフラムはその大きな目からボロボロと大粒の涙を零し、普段涙なんて絶対に見れないグウェンダルやヨザック、そして村田までもが拳をギュッと握り締め声を殺して泣いていた。
『……李様は精霊使い様として覚醒された後、ずっとその時を待っていた私と契約を交されました。そして私だけではなく自らのお力で色々な世界を旅をして総ての精霊を探し、傷を癒し契約を交された……我らが傷付かず幸せに暮らせる地との契約を結ぶその日まで、自らの身の内で我らを飼う事で永く我らを守って下さいました』
村「身の内で?」
グ「精霊を自分の身体で飼っていたと!?」
『イリヤ様は我らと契約を結ぶ条件の一つとして、御自分の身の内で我らを守り癒す事を約束して下さいました。我らに安全な土地が見付かるその日までずっと守ると…イリヤ様はその日から一睡もしておりません』
ヨ「なっ!?ずっと守る為に!?」
『えぇ…我ら総ての精霊との契約を交わし、その身の内で飼う事は例えイリヤ様の御力を持ってでも、かなりの御負担だった事でしょう…我らが身の内に居るという事は、ずっと強い力を使い続けているという事…ましてや、異世界へ行く度にイリヤ様は本来の御姿を力を使って偽り続けた…精霊使い様は本来の姿あってこそ、その御力が発揮出来るのです…それでもイリヤ様は我らの為に歩む足を止める事はしなかった』
有「じゃあ…イリヤがずっと旅をしていたのは…」
『総て我ら精霊の為でございます』
村「そうだったのか…」
「「「「…………」」」」
『皆様、魔族の方に初めて御会いした夜も…イリヤ様の中には皆様と共に居たいという気持ちが既にございました』
有「え?」
ヴ「そうなのか?」
『はい。イリヤ様の身の内に居る我らにはイリヤ様の御心がそのまま伝わります。決して嘘偽りのないお優しい御心が…精霊使い様が決めた事に精霊が歯向う事はありません。ですが…イリヤ様はあの夜も最後の決断を我らに委ねて下さいました。我らが決して傷付かぬ様、皆がずっと幸せに暮らせるかどうか…』
村「そうか…だからイリヤは眞魔国の地を見ようとはしなかったのか…」
有「あ、もしかしてイリヤが時々、知らない国の言葉を呟いていたのって…」
『はい。我らの報告を受けていたんです』
イリヤが知らない国の言葉を呟きながら嬉しそうに微笑んでいた顔が浮かんだ。
この3日間、何度か見掛けたその光景を思い出し、俺はイリヤがこの眞魔国で俺達と過ごす事を選んでくれた事に改めて感謝した。
イリヤ…君の笑顔がずっとそのままで居られる様なそんな国になるように俺はもっと、もっと善い王様になると約束するよ。
君が選んでくれたこの国が君の本当の居場所になるように…俺が、俺達が君の家族だ。
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