第05話 ピエールと紐パンツ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
グウェンダルSide ―――
執務の合間の息抜きに血盟城の廊下を歩いていると、中庭で魔王陛下とコンラートが“きゃっちぃぼぉーる”とか言う地球の遊びをしていた。それを近くで見ているイリヤの姿が目に止まる。
ちょこんと身体を丸めて座る姿は何とも愛らしい。小さな身体が更に小さく見えるイリヤの腕には先程、里子に出したネコちゃん(ピエール2号)が抱かれていた。
私が近付くとその大きな瞳で見上げてきた。
李「グウェン」
グ「ネコちゃんは気に入ったか?」
李「うん♪名前はピエール2号だ」
グ「“ピエール2号”か…良い名だ」
李「だろっ♪」
グ「…………」
可愛い……上目遣いで自分を見つめてくるイリヤにグウェンダルは汁が出そうな気持ちをグッと堪えた。
グ「……少し、聞いても良いか?」
李「何だ?」
グ「……何故、3日間の猶予を?」
李「…………」
グ「我々としては今、この現状で精霊使いの力は必要不可欠だ。だが…自らの力で異世界に行ける力を持つならば我々の話を聞かずとも、帰る事も出来たろうに…何故、そうした?」
李「別に…話しくらいは聞くさ、条件が良ければ契約だって考えるしな……俺も、お前等と同じだ」
グ「同じ?」
李「お前等が、これまで王と国を守って来て、そしてこれからもそうして行くのと同じ様に、俺にもこれまで守って来て、これからも守って行くものがある、ただそれだけだ」
グ「…………」
李「…………」
グ「……コンラートから話は聞いている、アイツの命、魔王の魂を救った事、そして…地球での記録と記憶を消すこと…」
李「そうか…」
グ「お前が、契約を結ぶ為に何を求めているのかは知らないが……それは、我々の力で補えるものか?」
李「え?」
グ「今の時点で、お前から見てこの眞魔国が契約するには難しい状態だったとして…それは、これからの我々の努力しだいで何とかなるものなのか?」
李「グウェン……」
グ「精霊使いとしてのお前も確かにこの国には必要だが…お前個人としても我々の中に既に無くてはならない存在だ」
李「………ありがとう」
グ「だから、もしも…もしも、この国を去る事となったとしても、この眞魔国で我々と過ごした事はどうか消さないで欲しい…」
李「………うん」
イリヤはグウェンダルから目線を外しピエール2号をギュッと抱き締めた。
グウェンダルは小刻みに震えるイリヤの姿を見てとても切ない気持ちになった。
この小さな身体でたった独り、いったいどれだけの孤独と向き合ってきたのだろう…たった数日でイリヤの孤独を解ってやれるほど簡単なものではない。とても計り知れない寂しさと、精霊使いとしての重圧…イリヤは我々と同じだと言ったが、大勢で支え合い守るのと、たった独りで守りぬくのとでは大きな違いがある。
今の時点で此方との契約の他にコンラートとの話まで持ち出すのは荷が重過ぎるだろう…。
グウェンダルはイリヤの頭を優しく撫でた。
グ「明日も私の部屋に来るといい、お前の好きな菓子と紅茶を用意してやる」
そう言うとグウェンダルは静かにその場を離れ歩き出した。
李「グウェン!」
少し震えた声で自分を呼ぶ声に止まり後ろを振返ると、今にも泣き出しそうな顔でイリヤが微笑んでいた。
李「グウェン、ありがとう…」
グ「あぁ…」
それはイリヤの心からのお礼の言葉だった。
短い会話の中でも心を通わせる事が出来るものだ、以前の自分ならこんな事はしなかった。
ユーリと出逢って魔族と人間が理解しあえる様になってきて、自分の中の考え方も少しずつ変わっていった。そしてイリヤと出逢ってまた少し柔らかな気持ちになる自分を見付けた。この出会いを大切にしたい。
グウェンダルは執務室へは戻らず自室へと向かった。
目頭が熱くなるのを抑える事が出来ない、彼もまたイリヤと同じ様に今は人に見られたくない顔をしていたからだ。
イリヤとの3日間はあっという間に過ぎて行った。
最初の予定通り、特別に何処かを案内する事もなくイリヤは血盟城の中で過ごした。
その中でもイリヤは庭園が気に入ったらしくコンラッドやヨザックと一緒に草花を愛でていた。俺達も食事の時間だけは全員揃ってイリヤとの時間を過ごした。
時折、解らない国の言葉を呟いては嬉しそうに微笑む姿を何度か見掛けた。
この3日間のうちに、ただ一つだけ俺達が気になった事があった。
気になるというよりは皆、酷くイリヤの体調を心配したと言う方が正しい表現かもしれない。
この眞魔国に来てからイリヤは一度もベッドを使わなかった。
交代で見張りをしていた魔族大人組達がイリヤが一睡もしていないと言っていた。それでも、俺達の前でイリヤは特に変わった素振りも見せず元気に笑っていた。
もうずっと昔から知っていた様にイリヤの存在は大きくて、明日、もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれないなんて考えられなくて、俺達はそれぞれ何とも言えない気持ちを胸に抱えたまま夜を過ごし、4日目の朝を迎えた。
.
11/11ページ