第05話 ピエールと紐パンツ
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コンラートが汁だく王佐を引き摺って部屋を出てから2時間ほどたった頃、部屋に朝日が差し込み始めた。
俺が部屋に新しい風を入れようと窓を開けると青い羽色をしたハゲタカの様な鳥がバッサ、バッサと飛びながら…
『エンギワル―――――ッ』
…と鳴いた。
李「…………」
俺の目の前を通り過ぎ、朝っぱらから不吉な事を吐き捨て飛び立った鳥の後ろ姿を見ていると今度は部屋の前にある木から熱い視線を感じた。
ふと熱い視線が送られてくる方を見ると木の枝の上で器用に体育座りをしている骨格標本と目が合った。
李「…………」
『…………』
李「…よぉ、元気か?」
『カタカタカタッ』
骨格標本は俺に話し掛けられるとカタカタと顎を鳴らし返事をした。
李「……可愛いな」
『カタカタカタッ』
李「おおっ!お前、羽が付いてるのか!すげぇな!」
『カタカタカタッ』
俺が骨格標本と話をしていると、部屋の真上でヨザックの気配を感じた。
李「ヨザックおはよう!早いな!」
ヨ「…………」
李「なぁ、こいつ可愛いな!名前、何て言うんだ?」
俺の問い掛けに屋根に居たヨザックがテラスへ下りてきた。
ヨ「おはようございます。全く…貴方って人は、監視役をしている俺の立場ってモンが…」
李「朝っぱらから何、難い事言ってんだよ!それよりコイツなんて言うんだ?」
ヨ「ソレは魔族の仲間で骨飛族です。陛下はコッヒーとか呼んでますけど…」
李「ふぅん、コッヒー宜しくな!」
『カタカタカタッ♪』
李「しっかし、見慣れない生き物が多いな、さっき不吉な事を吐く鳥がいたぞ」
ヨ「あぁ、あれは一番目覚まし鳥ですよ」
李「目覚まし鳥!?」
ヨ「えぇ、極楽鳥と言って、このくらいの時間から一時間に一回鳴くんで、此処では目覚まし鳥と…」
李「毎朝あの不吉な声で起きてるのか?」
ヨ「俺は仕事がら目覚まし鳥が鳴く前に起きますけど…ウェラー卿は一番目覚まし鳥で、ギュンター閣下は二番目覚まし鳥、陛下は三番目覚まし鳥で起きてますよ」
李「へぇ…」
何だか物凄くどうでもいい魔族の生活習慣を聞かされた……。
ヨ「にしても…勘が良いと言うか、何と言うか…持ち場に就いた途端バレるなんて…しかも自分の側に呼び出すなんて前代未聞ですよ、隠れて監視している意味がない」
李「まぁそう言うな、どうせずっと監視してるなら初めから側に居ればいいだろ?」
ヨ「はぁ~っ。なんてお庭番泣かせな御方…Σって、何で脱いでるんっすか!?」
李「何でって、風呂?」
ヨ「え?」
李「風呂だよ、風呂、朝風呂は気持ち良いぞ!お前も一緒に入るか?」
ヨ「なっ!?」
李「せっかく部屋にこんな立派な風呂がついてるのに使わないのは勿体無いからな!」
ヨザックの前で全裸になったイリヤは、慌てふためくヨザックの手を引き湯殿の扉を開けた。
ガラッ。
李「ほら、見てみろよ!こんなにデカイんだぜ、1人で入るには勿体無いほど広いだろ?」
ヨ「いや、確かに朝風呂は気持ち良いし、湯殿も広いっすけど…って、そうじゃなくて!貴方と一緒に入
ったら俺がウェラー卿に殺されますよ」
李「何で?」
ヨ「何でって…υ自分の婚約者が他の男と一緒に風呂に入るなんて…」
李「女と入るなら兎も角、男のお前と入って何が悪いんだ?」
ヨ「ですが…俺は貴方の監視役ですし…」
李「だって、どうせ見てるなら一緒だろ?」
ヨ「…………」
……それもそうだ。
彼が風呂に入っている間ずっと彼の様子を伺っているなら結局、彼の裸を見る事には違いない。
李「だいたい今更、何言ってんだよ!一番最初に風呂場を覗いていた奴が、それともお前は覗きが趣味なのか?」
ヨ「………υ」
あぁ…やっぱり、バレていたんですね…。
自分の前で全裸で仁王立ちしている美人は今日も男前だ。
ヨザックはこの麗しい客人に付き合って朝風呂に入る事にした。
先に湯殿に入っていったイリヤは長い髪を一つに束ね顔を洗っていた。
湯気で曇った鏡を手で擦り自分の顔が映るとイリヤは自分の顔をじっと見つめている。
ヨ「おや、御自分の顔に惚れ惚れですか~?」
李「いや…自分のこの顔を見るの随分と久し振りだから…」
ヨ「……どれくらい振り何です?」
李「そうだな…10…いや11年振りか」
ヨ「11年っすか!?」
李「何か、他人の顔見てるみたいで不思議だなと思ってさ…」
ヨ「他人の顔ねぇ…まぁ確かに、それだけ見目麗しいと善い意味でも悪い意味でも目立ちますね…今まで本来の御姿で居れたのって、どれくらいなんです?」
李「1ヶ所だ…」
ヨ「え…?」
李「俺が、本来の姿を人に見せたのは、この眞魔国の他に1ヶ所だけだ」
ヨ「後はずっと?」
李「あぁ…」
一瞬、昨日の話を思い出し何とも言えない気持ちになった。
自分が考えていた以上に彼の送ってきた人生は複雑で、寂しさを感じるものだった。
ヨザックがイリヤを見ると長く美しい白銀糸の髪を洗っていた。
色んな意味で、なんて無防備なんだろう……υ
仮にも自分の事を一番信用していない相手の前で…この人は…υ
だが、逆に言えばそれだけ自分の事を信用しているのかもしれない。あんな態度をとった自分の何を信用しているのかは解からないが悪い気はしない。
泡だらけの手で洗面器を探す姿が可愛くてヨザックは見兼ねてイリヤの頭に湯を掛けた。
李「おぉ!悪いな」
髪の水気を絞り、一つに括るとイリヤがヨザックに向き直った。
李「よし、今度はお前の番だ」
ヨ「え?」
李「早く此処に座れ」
イリヤの言う通り大人しくヨザックが腰を下ろすと、シャンプーを泡立て鼻歌交じりにヨザックの頭を洗い始めた。
李「一度やってみたかったんだ、美容師ごっこ♪」
ヨ「びよぅしごっこ?」
李「お客様、他にお痒いところはごさいませんかぁ?」
ヨ「………υ」
李「はい、お湯流しまぁす♪」
ザバァっとヨザックの頭に湯を掛け、櫛で髪をといた。
李「ヨザック、少しだけ上を向いて目を瞑れ」
ヨ「え?」
訳が解らないと質問する間もなくヨザックの目のところに少し熱めの湯で絞られたタオルがのせられた。
ヨ「……あの…υこれは…?」
李「少しじっとしていろ」
そう言いながらイリヤは別のタオルでヨザックの髪の毛を拭いていく。髪を拭いていたタオルをさっきと同じ様に少し熱めの湯で絞り、それを今度は肩に置いた。イリヤは頭から首、肩にかけてヨザックにマッサージしていく。
イリヤの心地良い鼻歌と指先の力に身体が解れて少しだけうとうとし始めた時、目に置かれていたタオルが取られ眩しい朝日の光が入ってきた。一瞬だけ眩しさに目を瞑り、再び目を開けると笑顔で自分を覗き込むイリヤの美しい顔があった。
魔族である自分が言うのは可笑しいが、もしこの世に神がいるならきっと彼の様なのだろうと思った。
ヨ「…………」
李「どうだ?気持ち良かったか?」
ヨ「そりゃ~もう夢心地でしたよ」
李「大袈裟だな」
ヨザックの言葉を聞いてアハハと笑いながらイリヤは湯船に入った。ヨザックも湯船に入りイリヤと向き合った。
ヨ「ウェラー卿が知ったら半殺しじゃ済まなそうだな…」
李「何を?」
ヨ「何をって…υ」
李「?」
可愛く首を傾げる彼の姿に、抱き締めたいという感情が芽生えている自分がいた。
初めて彼の目を見た時からヤバイ気がしてたんだ。
俺はきっと彼を好きになるって、その時はその感情が友情に近いモノか恋愛に近いモノなのかは解らなかったけど、まさかこんな形で自覚する羽目になるなんて。
ヨ「色々とですよ…υ」
李「煮え切らない奴だな」
そう言うと彼はザバッと湯船から上がり、さっき身体を洗っていた場所まで行くと何かを洗い始めた。
腰に巻かれたタオルが彼の動きに合わせて揺れ、チラチラと可愛いお尻が見えるのが何とも色っぽい。
暫くその光景を楽しんでいたが、ふと彼が何をしているのか気になった。
ヨ「……何してるんです?」
李「何って、洗濯?」
ヨ「は?」
李「何だお前、洗濯も知らないのか?」
ヨ「いや…勿論、知ってますけど、何で洗濯なんか?」
李「何で?お前、可笑しな事を聞くな!?普通、自分の着た物を洗うだろ?」
ヨ「いや…υそうでなくて、そういうのはメイド達の仕事でしょ。仮にも聖下という御立場ですし…」
李「誰が決めた?」
ヨ「え…?」
李「俺は自分で穿いたパンツは自分で洗う主義だッ!」
ヨ「主義って言われても…υ」
李「しかし…なるほど…ヨザックの話を聞いて昨日、俺が着ていた服が風呂に入っている間に消えた理由が分かったぞ」
ヨ「多分、それはお風呂に入られている間に新しい服と入れ替えたんですね」
李「そうみたいだな。しかし、なんでこの国のパンツは紐パンなんだ?」
ヨ「あぁ、それは貴族の御方だけです。一般兵の軍人や庶民はもう少し普通のを穿いてますよ」
李「へぇ…じゃ、ユーリも紐パンか?」
ヨ「はい、坊ちゃん…陛下のは黒の紐パンです」
李「………大胆だなυ」
風呂から上がりイリヤはバスローブ姿のままテラスに洗いたての白い紐パンを干した。
パンツの紐がなやましくヒラヒラと舞っている。
グラスに水を注ぎ腰に手を当ててゴクゴク飲む様は何とも勇ましいが、その顔は湯上がり美人だ。
イリヤがパンツを干している間、先に早々と着替え終えたヨザックがイリヤの新しい着替えを手に待っていた。イリヤはもう一つのグラスに水を注ぎ服を受け取りながらヨザックに差し出した。
イリヤ「お前も飲むか?」
ヨ「はい」
李「風呂上がりの水は美味いよな」
イリヤから水を受け取り口に流し込むとスッと溶ける様に身体に染み渡る。
こんなに美味い水は初めてだった。
ヨ「美味い」
李「だろっ♪」
イリヤは着替え終えると、着ていたバスローブも手際よく洗い干した。
ヨ「しっかし、手慣れてますねぇ」
李「まぁな、もう長いコトやってるからな」
ヨ「さぁて、後は貴方の髪を乾かしましょう」
テラス席にイリヤを座らせヨザックはさっきのお返しとばかりに丁寧にイリヤの髪の毛をタオルで拭いていく。ヨザックはもうあと数分で終わるかもしれない2人きりの時間を楽しんだ。
暫く2人がテラスで話していると丁度、テラスの真下で聞き覚えのある声がした。
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