第04話 生きとし 生けるもの
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イリヤ Side――――――
夕食を終え、広い部屋に戻って来た。
俺に気を使ってか、魔王の護衛に戻ったのか、コンラートは部屋まで俺を送ると何処かへ行った。
もうすっかり日の沈んだ今は部屋に月明りだけが射していた。
俺は窓際に行き、外を見ると城を囲む様に松明を手にした兵士達が見張りをしているのが見えた。
鍛えられた身体に適度な筋肉、色艶の良い顔を見る限りこの国はユーリによって下の者達にも充分な待遇が与えられている事が伺える。
現魔王であるユーリも、ユーリを取り巻く側近達も、俺はかなり気に入っていた。
眞魔国と呼ばれるこの土地も、永年の戦いによって荒れたとは言え、地球に比べたら自然が沢山あって、暮らす事を考えたら申し分ない土地だ。
地球で友人となった村田ともお互いを高めあう良い関係だったから、このまま眞魔国と契約を結べばずっとお互い良い関係を続けていけるだろう。
後は……彼等が此処をどう思うかだ。
イリヤは胸元に手を翳し呪文を唱えた。
李「££££££」
イリヤの手が翳された胸元はクロスを象って光り出した。やがてそこから掌に乗る位の小さな光の粒達が現れる。光の粒は10の色に分かれイリヤを囲む様にクルクルと周ってからイリヤの掌の上で止まった。
『イリヤ様』
それぞれがイリヤの名前を呼んだ。イリヤはその声に微笑むと光の粒達に話し掛けた。
李「皆も知っての通り、眞魔国との契約を考えなければいけない。俺はお前達が傷付かずに平和に暮らせる土地と契約をしたい。ここからの判断はお前達に任せる。考える時間はあと2回日が沈むまで
ある。それまでの間に、それぞれの場所を確認して欲しい。皆が笑って過ごせるかどうかを…俺が望むのはそれだけだ」
『御意』
光の粒達は一斉に外へ、眞魔国の大地へと飛び立って行った。
李「此処が……お前達にとって…安らげる場所になるといいな……そしたら…やっと、お前達との約束が1つ叶えられる…」
光の粒が飛び立った方を見つめながらそっとイリヤは呟いた。
テラスに出ると心地良い風を感じた。
こんなに穏やかな気持ちになれたのは初めてかもしれない…ずっとこのまま此処に居られたらいいのに…
暫くテラスに居ると部屋に近付く気配を感じた。
この気はコンラートのものだろう…さっきまで俺の様子を伺っていたお庭番のヨザックに言われ、心配して様子を見に来たに違いない。
きっと遠慮がちにノックして入って来るであろう婚約者の顔を思い浮かべ、イリヤはクスッと笑った。
寝静まった血盟城の廊下を進み、愛しい婚約者の部屋の前に着くとコンラートは遠慮がちにドアをノックした。
ヨザックの話しだとイリヤはまだ床についていないと言っていたが、もしかしたらもう寝てしまったかもしれない。
慣れない土地に来てなかなか寝付けないのはよくある事だ。
深夜になって、疲れれば嫌でも眠くなる。愛しい婚約者の睡眠を妨げない様になるべく小さくノックすると、部屋の主からの返事は無かった。
やはり、もう寝てしまったのだろう……。
一瞬、踵を返そうとしたが、せっかく此処まで来たのなら可愛い寝顔を見たい。
コンラートは私欲を抑えきれず扉を開けた。
扉を開けると部屋に涼しい風が通り抜けた。
ベッドに目をやると婚約者の姿はなく、テラスへ続くガラス戸が開いていた。コンラートは“まさか”という気持ちを抑えきれず慌ててテラスに向かうと月明りに照らされた美しい婚約者の姿があった。
ほっとして、婚約者の名を呼ぶ。
コ「イリヤ…」
イリヤは用意された寝間着のままテラスから外を見ていた。
風に揺れる美しい白銀糸の髪を掬いそっと髪に口付けをしてからコンラートは自分の上着をイリヤに掛けた。
コ「眠れないんですか?こんな薄着のままでは風邪を引いてしまいますよ。此処は昼は暖かいですが、夜になるとグッと気温が下がりますから」
李「星を見ていたんだ…」
イリヤの隣りに立ち、コンラートも空を見上げた。夜空には月明りに負けない程の満天の星が輝いていた。
李「綺麗だな…昼の景色もいいが、夜も綺麗だ…」
コ「そうですね、地球に比べると此処は人工で作られた町の明かりが無いですから…」
コンラートがイリヤの肩を抱き寄せ「寒くないですか?」と聞くと「あぁ…大丈夫だ」とイリヤはコンラートに微笑み返した。
コ「貴方に初めて会った夜も、今日と同じ位、美しい星空でしたね」
李「あぁ…」
コ「あの時は、お互い名前も名乗りませんでしたが…」
李「そうだな…本当に…また…お前に会えるとはな……しかも、俺から求婚するなんて…」
コ「クスクスッ。貴方はいつも俺を驚かしてくれる」
李「………ユーリなんだろ?」
コ「え?」
李「あの時、お前が胸に抱いていた…浄化された魂は…」
コ「えぇ…あの時、貴方が助けた魂はユーリのものです」
李「……デカクなったな」
コ「はい。とても…とても真っ直ぐに成長してくれています」
李「……そうか」
コ「彼が王にならなかったら、この国は今の平和を得られなかった…」
コンラートは自分の腕の中に居るイリヤをギュッと抱き締めた。
コ「イリヤ…身体が大分冷えています。そろそろ中に入りましょう」
李「あぁ、お前が風邪を引いても困るしな」
コ「俺は大丈夫ですよ、鍛えてありますからv」
李「駄目だ、ちゃんとコレを着ろ」
そう言うと、自分に掛けられていた上着をコンラートに着せていく。
コ「クスッ。何だか新婚さんみたいですねv」
李「似た様なもんだろ、婚約して同じ屋根の下に居るんだから。それに、俺のせいでお前が風邪を引いたらグウェンの眉間の皺が一本増えるしな…軍服ってボタンが難しいよな…よし出来た。お前も、もう寝ろ明日の仕事に差し支えるぞ!」
コ「クスクスッ。はいv」
可愛い婚約者の新妻の様な台詞に顔の筋肉が緩むのを抑えきれない。
早く寝る様に諭されてコンラートは部屋の扉の前まで来ると、もう一度、愛しい婚約者の顔を見ておきたくて振返った。
イリヤはテラスへ続くガラス戸を閉めカーテンを引いていた。早く此方を振り向かないかと愛しい背中を見つめていたが、イリヤが此方を向く事は無かった。
どうしたのだろう……?
そうコンラートが思った時、イリヤがコンラートの名を呼んだ。
李「……コンラート」
コ「はい…?」
イリヤ、愛しいイリヤ…頼むから君の顔を見せてくれ……君の笑顔を…俺に…
李「コンラート…」
コ「イリヤ…?」
李「お前……今、幸せか…?」
あの時…あの時、俺が…助けた命は…幸せか…?
コ「勿論です」
李「………そうか、それなら………よかった」
やっと此方を見たイリヤの顔は雲によって月明りが遮られその表情は見えない。
コンラートは堪らず駆け寄りイリヤを抱き締めた。
李「……コンラート?」
コ「イリヤ!あの時、貴方に助けて貰った命は、とても…とても大きな幸せを手に入れました。貴方に救われなかったら…俺はこんなに幸せになれなかった。俺だけじゃない、あの時、俺が運んだ魂も、この国の者達も…総ては貴方があの時、俺を救ってくれたからこそ得た幸せだ!」
コンラートの言葉にイリヤの目から一滴の涙が落ちた。
自分を抱き締める腕の強さに、その言葉が嘘でないと教えてくれる。震える指先をコンラートの背に回し、イリヤはコンラートを抱き締め返した。
李「よかった…よかった…ほんとうに……よかった」
コンラートはイリヤの頬を伝う滴を指で拭い瞼に口づけた。
自分を助けた事で、その先の人生の重みをずっと背負って来たのかと思うと胸が苦しくなった。
こんな小さな身体で彼はいったいどれだけの事を背負って来たのだろう。
コ「これからは、俺がずっと側に…もう貴方を一人にはさせない」
俺たちは暫くそのまま抱き合っていた。
日が昇る少し前になると城内の見回りの交代でギュンターが来た。
ソファーで寄り添う俺たちを見たギュンターは『婚前に何と破廉恥な!』と、くどくどと説教を始めたが途中から、汁を垂らし『陛下といい、聖下といい、どうしてあなた方兄弟は私の愛しい方々を奪うのですかぁぁ~』と、おいおい泣き始めた。
汁を垂らしながら泣くギュンターにイリヤがハンカチを差し出すと『あぁ、聖下のお優しい気持ちがこの布に染み渡っておりますぅぅ~v』と言ってギュン汁を大放出させ倒れたので、仕方なくギュンターを引き摺りイリヤの部屋を出た。
イリヤの表情からは不安が消え、とても穏やかに微笑んでいた。
祈りたい事は一つだけ
今日という日が終わっても
明日も今日と
同じでありますように
君がここにいる時は
僕の君でありますように
(夢花季より)
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