第04話 生きとし 生けるもの
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食事が終り、ヴォルフが風呂に入っている間、俺は自室でコンラッドに気になっていた事を聞いた。
有「なぁ、コンラッド」
コ「何です陛下?」
有「陛下って言うなよ、名付け親!」
コ「すみません、つい…それで、ユーリ何か聞きたい事が?」
有「うん。あのさ、コンラッドが始めてイリヤに会ったのって21年前って言ってたじゃん?どんな出会いだったのかな~って…21年前って、コンラッドが俺の…ってゆーか、ジュリアさんの魂を浄化して俺の魂になった頃の話しだよな!?」
コ「はい。俺が綺麗に浄化された魂を地球に運んでいる時の話です」
有「その頃のイリヤってどんな感じだったの?」
コ「そうですね……歳は地球年齢でいう6歳位に見えました」
コンラッドは窓から見える月を見ながら、ゆっくりと思い出す様に話し始めた。
21年前―――――――
当時の俺は、人間との戦いでジュリアや大切な仲間を失い生きる事を恥じていた。
何故、自分だけが生き永らえているのか、ジュリアの魂が次期魔王陛下の魂として生まれ変わり、それを俺に安全な土地である地球へ運べと命じた眞王を恨んだ。
ジュリアは自分の運命を受け入れ戦地で死んで逝った。
自分の魂を俺に運ばせるようにしたのはジュリア本人だとウルリーケに聞かされた。
目の前が真っ暗になって何もかもがどうでもよくなっていた、生きている意味もジュリアの居ない世界もどうでもよかった。眞魔国に差別などない平和な未来を願った同志は俺の前から消えたのだ。
戦地での傷が治り、俺は眞王の力によって異世界の地、地球のアメリカに居た。
地球に着いてもまだ死ぬ事を考えていた俺は、皆が寝静まった夜中に川の近くで浄化された魂と一緒に星を見ていた。
よく、眼の見えないジュリアが俺に教えてくれた眞魔国の空に輝く星たちはどれも素晴らしく綺麗だった。彼女との想い出を懐かしく思い地球で見上げた星空に魂だけになった今なら彼女もこの星が見えるんじゃないかと思った。
イリヤと初めて逢ったのは、そんな夜だった。
俺は星を充分に眺めたら魂と一緒に死ぬつもりでいた。川辺に座り、空に向け魂が入った瓶を翳していた。
コ「ジュリア、この星を見たら俺も君の側に逝くよ」
俺がそう呟いた時、川上の方で何かが落ちた音がした。
ドボ―――――――ン。
何だ!? 俺はすぐさま音のした方に目を凝らすと子供が川に落ちて溺れていた。
『ガボッ…だれ…か…たすけ……』
助けを呼ぶ声からしてまだかなり小さい。川の流れは緩やかだが子供の背丈よりも深く、今にも子供を飲み込んでしまいそうだった。
俺は慌てて川に飛び込んで子供を助けた。
俺の服に必死にしがみついて苦しそうに飲んでしまった水をゴホゴホと出している。
コ「もう大丈夫だ。落ち着いて呼吸をしろ」
『ゴホッ、ゴホッ…はぁ、はぁ…ゴホッ…』
岸に上がり背中を擦ってやると、少年は安心したのかしがみついていた手を離し俺の顔を見た。
『…ありがとう…助かった…死ぬかと思ったよ…』
濡れた服を乾かす為、火を焚くと少年の顔がはっきりと見えた。
金色の髪に緑の瞳、眞魔国にいる弟を思い出させた。
丁度、弟が自分から離れた頃もコレくらいの歳だった。
純血魔族に育った弟は俺の中に人間の血が流れていると知った日から俺を兄と呼ばなくなった。
その頃の俺はもう大分、大人になっていたから今まで懐いていた弟が離れた事は淋しかったが、俺に冷たい態度を取る時の弟の辛そうな顔を見ると本当は好いてくれているのだと分かっていた。
俺が少年の顔をじっと見ていたせいか、少年は俺に聞いてきた。
『なぁ、俺の顔に何かついてるのか?』
コ「いや…、弟の小さい頃を思い出してね」
『弟?』
コ「あぁ、今は離れた所にいるんだが…君と同じ金色の髪に緑を瞳に宿しているんだ」
『ふぅん、似てるのか?』
コ「そうだな…クスッ。似てなくもないが、何ていうか…君の方がより、可憐かな」
『ソレって、女っぽいって事か!?心外だ』と言って、目の前の子供が歳よりも大人びた喋り方をするので少し可笑しかった。
コ「それよりも、こんな時間に子供一人で何をしていたんだ?危ないぞ、家に送ってってやるから…」
『家なんてないよ』
コ「え?」
『それに、子供扱いするな!俺はもう大人だッ!』
家出か……?見たところ少し大きめの荷物が何より物語っている。
気が済めばそのうち親元に帰りたくなるだろうが…
こんな小さな子供を放っておくのは心配だ。
『なぁ、お前も旅してるんだろ?』
コ「え?」
『俺も、旅をしているんだ。一度、自分が生まれた場所を見たくてこの町に来たんだけど…此処にはおかしな乗り物があるよな、あの丸い足が生えた鉄の固まりを見たか?色んな種類があるみたいだが、どれも黒い煙をケツから出して動いてて変な感じだ。俺はやっぱり、乗るなら馬がいいな!あ、お前の故郷には馬いるか?」
コ「…………」
『…なぁ、馬いるか?』
コ「……あぁ、馬ならいるよ」
俺の答えに少年は楽しそうに話しを続けていたが、何とも不思議な感じだ。
どうでもいい事ばかり楽しそうに話している。今頃、この子の親がさぞ心配しているだろうに…。
コ「なぁ、君の親は?心配してるんじゃないのか?」
俺の言葉に少年はぴたりと話すのを止め、空を指差した。
空には満天の星が輝いている。さっき、見た時よりも輝きが増して見える。
俺が星を見ていると、少年は俺の隣りに来て寝転がった。
『知ってるか?この世界では死んだら星になるんだって』
コ「…………」
『だから俺はこの時間が好きなんだ。この時間だけ、逢えるだろ?』
コ「ずっと……一人で?」
『一人じゃないさ、俺の中には想い出があるからな!淋しくなったら空をみればいい…そしたら、また頑張れる』
コ「辛くはない?」
『俺は生きてる』
コ「え?」
『逝ってしまった者達の思いと、自分の思いを叶える時間を俺はまだもっている。俺にしか出来ない事だ、泣いている暇なんてない』
コ「思いを叶える時間……」
その夜、死ぬはずだった俺は、その少年と夜通し話した事で生きる道を選んだ。
俺に出来る事…ジュリアの、戦地で死んで逝った仲間達の思いを受け継ぐために俺にしか出来ない事がある。
お互い何処の誰なのか、名前も知らないまま夜が明けた。太陽の光りをうけた少年はとても美しかった。
『今の俺にはムリだが、いつか俺に力がついて、もしまたお前に会えた時は今度は俺がお前を助けてやるからな!』
少年はそう言うと、鞄を背負って歩き出した。
本当に旅をしているのだろうか…?あんなに小さな身体で、たった一人で空を見ながら…。
俺は少年の姿が見えなくなるまで見送っていた。
コ「イリヤと会ったのはそれぶりなんです。たった一晩ですが、俺にとってはとても大きな出会いでした」
有「何か、いいよな~お互い名前も知らないまま一晩中語り合うって…」
コ「あの時、俺は自分で思っているよりも気が動転していたらしくて…後から色々と気付かされた事があるんです」
有「気付かされた事…?」
コ「まず、俺が初めてイリヤに逢った時は、まだ猊下の魂を運んだロドリゲスに会う前なんです」
有「ロドリゲスに?」
コ「えぇ、俺はロドリゲスに会ってから地球語の英語が話せる様になったんです」
有「え…じゃあ、一晩中話したって…」
コ「はい。眞魔国の言葉で話していたのも気付かないくらい自然に話していたんです。…それに気付いて後日、イリヤと会った川辺に行ったんですが…あの辺りの川は緩やかな流れですがとても深い為、安全の為に当時の彼の背丈よりも高い囲いが取り付けてあったんです」
有「それって…」
コ「はい。おそらく彼は“わざと川に落ちた”んだと思います。俺に命の大切さを教える為に、イリヤを助ける事によってソレを俺に気付かせるために……」
有「そっかぁ…じゃあさ、イリヤは俺にとっても魔族にとっても命の恩人なわけだ!」
コ「ユーリ…」
有「だってさ、コンラッドを助けた事で、俺の魂は無事お袋の中に宿って、そんで皆で宗主を倒しただろ?って事はイリヤは沢山の命を救った事になるだろっ!」
コ「そうですね」
有「何かさぁ、良いよなイリヤって、真っ直ぐで正直で男前で!俺、ぜってー良い友達になれる気がするんだ!」
コ「はい」
丁度、話に区切りがついた辺りで風呂から上がって、愛用のピンクのネグリジェに身を包んだヴォルフラムが部屋に入って来た。
ヴ「ユーリ、僕はもう眠いから寝るぞ…ん?何だコンラート来ていたのか、お前は自分の婚約者の所へ行け、僕とユーリの邪魔をするな!」
有「てか、お前も俺の睡眠の邪魔すんなよッ!こんなとこギュンターに見られたらまた怒られるだろッ!?」
ヴ「五月蠅い、アイツは何かと考え方が古臭いんだ!婚約者が夜伽を共にして何が悪い!!大体、年寄りのクセに僕のユーリに隙あらばという考えが…ブツブツ…」
コ「やれやれ…全く、たかが雑魚寝なのに…」
ヴ「……何か言ったか?」
コ「いいや、何でもないよ。じゃあ2人ともお休み」
コンラッドがその後、本当にイリヤの所に行ったかどうかは知らないけど…、俺はあの2人の出会いは偶然なんかじゃないと思った。会うべくして逢った2人は絶対に運命なんだと思った。
コンラッドのデレデレ顔を思い出し、少しくらいなら名付け親のイメージが崩れてもいいかなと思った。
今度こそコンラッドには幸せになって欲しい。
心からそう思ったんだ。
ユーリの部屋を出てから今日の執務を終わらせ、愛しい婚約者の寝顔を見ようと部屋へ向かっている途中、イリヤの部屋の監視役をしていたヨザックが部屋の大分手前で俺を呼び止めた。
ヨ「隊長、隊長っ!」
声のする方へ向くと、ヨザックが植え込みから手招きをしていた。
コ「ヨザック!?」
ヨ「しぃーっ。お静かに!」
ヨザックの声に合わせて俺も声を潜めた。
コ「どうした?お前はイリヤの部屋の監視中じゃなかったのか!?それとも、イリヤに何か?」
ヨ「いや、監視はしてたんですけどね…」
コ「まさか、寝てしまったから逃げる心配は無いとか言うわけじゃないよな。イリヤの監視もあるが彼の安全の意味でもお前を就けさせてあるんだぞ」
ヨ「そんなの分かってますって、俺だってバカじゃないんだし」
コ「俺より先にイリヤの寝顔を見るなんて、たとえ任務でも許しがたいのに…」
ヨ「あんたって人は…てか、寝顔なんて見てませんよ。そもそも寝てない人の寝顔なんて見れないし」
コ「寝ていない!?もう深夜だぞ!?」
ヨ「そうなんです。それで、あの勘の良さですから、きっと俺が見てる事も多分気が付いてるでしょうし…だから部屋よりも大分手前で、隊長を待っていたんです。きっと、寝顔を見に来るだろうと思って」
コ「…………」
ヨ「…………」
ニヤニヤとヨザックは俺の顔を見つめてきた。
コ「愛しい婚約者の寝顔を見たいと思うのは男として当然だろう!しかし、そうか…寝ていないのか、慣れない土地で緊張しているんだろうか?」
ヨ「緊張したり、警戒している様には見えなかったっすけど…何度か此方の言葉とは違う言葉を呟いてたな…」
コ「………ヨザ、お前はもう下がっていいぞ(黒笑)」
ヨ「え?」
コ「きっと、慣れない土地で困惑されているんだろう。俺がたっぷりの愛情で解して差し上げるから、お前はもう下がれ!(消えろ!)」
ヨ「………ハイυ」
ヨザックは微笑む俺を見て青褪めながら帰っていった。
イリヤ…可哀想に、きっと俺の姿がなくて心細かっただろうに…
今すぐ抱き締めてあげるよv
↑思い込み。
俺は足取りも軽やかにルンルンでイリヤが居る客室へと向かった。
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