第04話 生きとし 生けるもの
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客室の扉の前に来るとウェラー卿が彼の腰を抱きながら部屋の扉を開けた。
コ「こちらです」
李「広い部屋だな」
コ「そうですか?此処は客室なので、これでも狭い方になります」
李「贅沢な…」
彼は部屋のテラス側へ行くと外の景色を眺めた。
李「やっぱり、此処はまだ自然が沢山あっていいな」
ヨ「はい。荒れた土地も大分、復旧してきました。陛下が皆でやれば早いって、自ら泥だらけになって土を運んで」
李「あぁ、あいつらしいな、村田からよく話を聞いている。嘘が吐けなくて、真っ直ぐで、人を疑う事もなく今時、珍しいくらい心根が綺麗な奴だって…ユーリは善き王だな、それを支えるお前達も…この国の民は幸せだ」
そう言いながら少し微笑んだ彼の中に眞魔国での生活を考えているのが伺えて少し安心した。
彼が外を眺めている間にウェラー卿は4人分のお茶を手際良く用意し、猊下は向かい合わせのソファーに腰を下ろした。
村「……それで、イリヤ…君の話って?」
李「…………」
村「…………」
「「…………」」
外を見ていた彼は一度、猊下を見ると、ウェラー卿と俺を見て2人だけで話をしたいという様な視線を投げてきたが、その意思が伝わっても、ウェラー卿も俺も退室する気はなかった。
彼が猊下に何か危害をくわえるとも思えないし、元の世界に帰ってしまうという心配もなかったが、
これだけストレートに自分の意思を伝える彼が猊下と2人で何を話すのかを知りたかった。
わざわざ猊下を名指しで呼び付けると言う事は、地球でのただの雑談だとは思えない、
だとしたら今、この状況で話す事は眞魔国に関わる事だ。
此処は何としても彼の現状の考えを知っておきたい。
李「ふうっ。…いいだろう。俺が自ら見極めろと言ったんだからな、お前らには聞く権利がある。ただし、これから村田と話す事には口を挟まないでくれ」
コ「解りました」
ヨ「はい」
李「コンラート、何か書くものをくれ」
コ「はい」
ウェラー卿から紙とペンを受け取ると、彼は何かを書き始めた。
どうやら地球文字の様で俺には何が書かれているのかは全く解らなかったが、何かの項目のように見えた。さらさらと書き終わると猊下にその紙を渡した。
村「これは?」
李「3万円分のお前の労働だ」
村「え?」
李「さっき言っただろ、お前には身体で返して貰うって」
「「…………」」
李「そこに書かれている場所に、俺が作った精妖石が埋まっている。それをお前が地球に戻った時に全部回収して処分して欲しい。処分の仕方は一番下に書いてある」
村「…精妖石?埋めてあるって、此処に書いてある8ヶ所に?」
李「あぁ、8ヶ所と言っても半分は俺の住んでるアパートの敷地内で、後の半分は学園の敷地内だ」
猊下はそう言われるとさっき渡されたメモを見ながら場所を確認している。
だが、聞く限りただ石を回収して手順にそって処分するだけで3万とやらの代わりになるんだろうか…?それじゃまるで子供の使いだ。
村「それだけ?」
李「あぁ、それだけだ」
「「…………」」
村「でもどうして?石の回収なら僕なんかに頼むより君が帰った時にすればいいんじゃないの?自分でやった方が確実なんじゃ?」
李「……俺は、もう地球には戻らない」
「「「えっ!?」」」
李「勘違いするなよ、地球に帰らないからと言って確実に眞魔国と契約するとは言ってないからな」
「「「…………」」」
李「……確かに、俺が直接回収する事も出来るが…それは、眞魔国との契約をしなかったらの話しだ」
村「どういう事?」
李「……俺は、精霊使いとして生まれてから、まだ契約を結んだ事がない。まぁ、結んでいたら此処にも来てないが…旅をしながらずっと選んでいた、自分がどの場所で契約を結ぶかを…今まではどの土地に行ってもそう人と深く関わらない様にしていたんだが、最後の日本では少し人と関わり過ぎた。勿論、それでも必要最低限にはしてあるが、キチンとした住居を持ったのも、学校に通ったのもアレが初めてだ」
村「イリヤ…」
「「…………」」
李「そこに書かれてある精妖石を処分すれば俺が関わった総ての記録と記憶が消える様にしてある」
「「な……っ!?」」
村「……それを僕にしろと?」
李「いつもは自分で処理を終えて移動するんだが、今回は予定外だったしな…お前が説明無しに俺を巻き込んだのが悪い、その責任はお前に取ってもらう。それにどの道、俺が眞魔国と契約をすれば、俺は此処から動けなくなる。契約するという事はそういう事だ。お前が本当に眞魔国の為と思うなら出来るだろ?まぁ、万が一、契約しなかった時は元クラスメイトの送別代とでも思え」
村「…………」
「「…………」」
精霊使いが契約を結ぶ時、それはその国の為に生きるという事……単純にただ力を使って土地を復旧するのとは訳が違う、その土地をずっと守らなければならない。
彼が此処へ来るまでの地球で過ごした関わりを抹消しなければならない。
地球で過ごした仲間との日々も、記憶も…彼等の中にあるイリヤを総て消す…
“契約するという事はそういう事だ”そう言った彼の瞳はお前達にそれだけの覚悟があるなら見せてみろと語っている。
村「………寂しくなるよ、君が居ないと…皆だって…」
李「俺についての記憶は無くなるんだ皆は覚えてない寂しくなんかないさ、それに俺が居なくなったらお前は首席だ。特別優待券もお食事券も全部お前の物だ」
村「…………」
そんなの君と張り合うから首席になれた時、嬉しいんじゃないか…と言おうとしたが村田は留まった。
今の自分は大賢者として精霊使いと話しをしている。
ただのクラスメイトで、村田健とイリヤの会話じゃない。
渋谷とはまた違う真っ直ぐさが大好きで、そして色々なモノを見極める冷静で胆略な所がどこか自分と似ている様で彼の存在は学園生活においても大切な存在で自分にとっても、とても大切な友人だった。そのクラスメイトはもういない。村田は膝の上でグッと拳を作った。
イリヤは僕を試してる…?
此方の都合で巻き込んでしまった、その責任を取れと…
イリヤの今の生活を総て無にしてまでも眞魔国にとって精霊使いが必要かどうか、魔族にその覚悟はあるのかと…。イリヤからのバトンは渡された、このチャンスを生かすも殺すも僕に懸かっている。
ならば、僕が出す答えは一つしかない。
村「…解ったよ」
李「……そんな顔をするな、どちらにせよ遅かれ早かれそうするつもりだったんだ。あそこには長く居過ぎたからな……もし、お前が望むなら…お前の中にある俺と過ごした学園生活も消すぞ?」
村「いや、それは…それは必要ないよ。君と過ごした時間は僕にとって、とても貴重な財産だからね」
李「……そうか」
「「…………」」
陛下の時も、今回も、もしも俺がその立場だったら…なんて恐れ多くて考える事すら皆無だが…
上に立つ御方の魂はやっぱり選ばれた魂なのだと思った。
李「俺の話しは終りだ、そっちに話が無ければ少し休ませてくれ」
部屋を出た後も、猊下は黙ったままだった。
暫く無言で歩いていると、ウェラー卿が口を開いた。
コ「彼は……ずっと、そうして生きて来たんですね……」
村「………そうだね、僕たちが考えている以上に精霊使いの人生は複雑だね…」
ヨ「今、彼を大好きな地球の皆さんも……彼を忘れちゃうんですよね……一緒に過ごした日々を自分だけが覚えているなんて……どんな気持ちなんだろう…」
コ「…………」
村「作ればいいさ」
猊下は歩む足を止め俺たちに向き直った。
村「想い出も、仲間と呼べる友人も…、眞魔国と契約したら皆で新しく…地球に負けないくらいの彼の本当の居場所を…」
ヨ「…………」
そう言った猊下の目は真っ直ぐ大切な友人との未来を見ていた。
コ「……猊下、そうですね。俺という婚約者もいますしv イリヤが淋しさを感じられないくらい俺の愛情で包んで差し上げますよv」
村「あぁ~…もうこのシリアスさが台無し…」
ヨ「………υ」
コ「何か言いましたか?(黒笑)」
村「まぁ、ウェラー卿の愛はそう言う意味では最強かもね」
コ「勿論v」
話せば話すほど彼の魅力に惹かれていく、願わくばこの眞魔国で彼が自分の居場所を見付けてくれるといい。
だが、この時の俺たちは彼が精霊使いとしてどう生きて来たかなんて、まだ半分も分かっていなかった。
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