第04話 生きとし 生けるもの
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正直、俺は面食らっていた。
自慢じゃないが、今まで俺の変装(主に女装)は固より監視している時に初めから気付かれた事なんかなかった。猊下と一緒に地球から起こしになられた御方は、閣下共々総ての男を虜にさせてしまえるくらいの美人だった。
艶やかな黒髪に大きな瞳、小柄で華奢な身体つきは強く抱き締めたら壊れてしまいそうな程だった。
双黒フェチの閣下や小さくて可愛いもの好きの上司だけでなく、あの御婦人を魅力させてやまないウェラー卿ですら虜にさせた。
だから興味があったと言う訳ではないが、たとえ双黒で、どんなにか弱い御婦人だろうと全く素性の知らない人物を安全だと決め付けるのは危険だ。
だから、決して下心があったと言うわけじゃないという事を前提として理解して戴きたい。
ギュンター閣下に連れられて湯殿に着いた客人は、世話役のメイド達を脱衣所から追い出した。
監視役としては、そうゆう時こそ力を発揮出来るというものだ。
何度も言うが決して若く美しい御婦人の裸が見たいとか、スケベ心で覗いた訳じゃない
↑しつこい。
窓の外側から湯殿を覗く…いや、様子を伺うと、麗しい客人は水に濡れた服を脱いでいた。
………あれ?
何か違和感を感じる……フリフリの服を脱ぐと予想よりも華奢な身体だ。
細いな…って、そうじゃない!
なっ…υ
あ、アレは…確かに見覚えのある…そう、自分にもついている…イチモツ……υ
……と、まぁ俺は閣下達よりも先に衝撃の事実を知っていたわけだが…
男だと分かった後も、あのウェラー卿が半ば強引に婚約を取り付けたのは俺も予想外だった。
一体、いつの時点でそんな気になっていたのかを俺は知りたい……。
坊ちゃん(陛下)が言う様に、見た目と中身のギャップも凄かった…
ちょっと突き飛ばされたら泣いてしまいそうな程可憐なその人は、口を開いたらかなりの男前だった。
多少、乱暴に聞こえるその言葉も聞けば尤もで彼の聡明さを感じさせる。
彼は陛下や猊下、閣下たちだけでなく、俺と話をしている時も俺と目を合わせ話した。
真っ直ぐに見つめてくるその視線は、その気持ちに嘘が無い事を感じとれた。
愛想が悪いと怒られても愛想笑いをするなと言われたのは初めてだった、顔面パンチをくらった位の衝撃に俺としては短時間にしてかなりの好印象で途中、話の雲行きが怪しくもなったがよくよく聞いてみるとキチンと相手のことを考えての意見だった。
確かに今、眞魔国が抱えている問題は此方の事情だ。
精霊使いの彼にどんな事情があるのかは分からないが此方としてはこれから生きて行くのに精霊使いの存在は大きい。
“見極めろ”と言われても此方側としては契約する以外に道はない。
それに、悠長な時間もない。
たかだか3日で何が違うのだろうか…?
ただ、ここで決断を急ぐ事も出来ない、相手は己の力で異世界に行ける力を持っている。
下手に騒ぎ立てて帰られたら元も子もない……
そして、何よりもビックリしたのは実は双黒ではなく双白銀だったということだ。
今までその色を宿した者を見た事が無い。とてもこの世の者とは思えないくらい絢爛な顔立ちに、美しく気高いその眼差しは魔族を魅了させた。
白銀糸の髪が揺らめく背中を見つめながら相手の思考を思い歩いていると彼が歩む足を止め、中庭を見た。
李「此処は、綺麗だな」
コ「はい。庭師が丹精込めて手入れをしています。裏庭の花壇もとても美しいですよ、明日ご案内しま
すv」
李「あぁ、頼む」
婚約者の言葉に気を良くしてウェラー卿は彼の腰に回している手をグッと引き寄せた。
コ「どの花も貴方の美しさには叶いませんがv」
李「そんな事はない。自然に生きるモノの美しさは計り知れない」
コ「奥ゆかしいんですねv そんなところも好きですよv」
李「そうか……良かったな?」
コ「はいv」
ヨ「…………」
………何だろう、会話に若干のズレを感じる。
俺の隣りを歩く猊下を見ると2人のやり取りをニヤニヤしながら聞いている。
ウェラー卿と話をしながら暫く中庭を眺めていた彼が全く違う話を猊下に聞いてきた。
李「なぁ村田」
村「なぁに?」
李「こっちの世界と、地球との時の流れの時間差はどれくらいだ?」
村「そうだね~だいたい地球での1週間がこっちの世界だと3ヶ月以上かな、だから1週間やそこいら居ても地球では数分だよ」
李「……そうか」
コ「あちらの世界に何か気掛かりでも?」
李「いや……まぁ、気掛かりっちゃ気掛かりか…」
村「何かあった?」
ヨ「…………」
李「指名客が…」
「「「指名客!?」」」
李「あぁ、学祭で俺に来ていた指名客がまだ沢山いたからな!お前のお陰で俺の労働はムダになった。あの服(ゴスロリ)を着て人を集める代わりに俺にリベートが入るはずだったのに…」
コ「リベートですか?」
ヨ「りぃべぇと?って何っすか?」
村「店の売り上げ金の一部をもらえる事だよ」
ヨ「金…?」
金だって!? 俺は一瞬、自分の耳を疑った。
必要以上に着飾る貴族達の顔がチラついた。
どんなに国に金があったって潤っているのはいつも上流社会に生きる者達で平民や難民達はどんなに働いても毎日生きて行くのが精一杯だ。
今のユーリ陛下は庶民派の御方だから歴代の魔王陛下達の様に贅沢はしない。
それどころか庶民の子供達に文字の読み書きを教える環境を整えたり、生活の便に役立つ橋や水路を作る事をした。お陰で庶民の暮らしは昔に比べて随分と人らしい生活を送っている。
もしも、聖下が富豪を好む御方なら今、魔族が抱えている問題が解決すると同時に違う問題も浮上するだろう…だが、この数時間の彼を見ている限りそんな様子は伺えない。
今の時点で彼が富豪を好むと決め付けるのはどうだろう……?
俺がそんな事を考えていると彼が話を続けた。
李「今日、俺にはリベートとして3万の金が入る予定だった。村田、お前は俺に何の許可もなく水に落としただけでなく、俺の午前中の働きを無駄にさせ、入る予定の金も無くしたと言うわけだ」
村「イリヤ…υ」
李「着たくも無い服を着て笑顔を振り撒き、したくも無い接待を野郎どもにしていた俺の労働は水の泡だ」
村「あ――……υ」
コ「俺以外の男にあの格好(ゴスロリ)で笑顔を振り撒くなんて妬けますね…」
李「此処へ来る前の事で妬くな!俺だってリベートさえ入らなきゃ誰がそんな事するかっ!」
コ「リベートの為とは言え、そんなにイヤな事をしてまで…何か欲しい物でもあったんですか?」
流石のウェラー卿も最初こそ顔も知らない男達に嫉妬していたが、彼の金に対する気持ちが気になったのか、金の使い道を聞いた。
李「欲しい物?そうだな…あえて言えば米か?」
「「米!?」」
李「近所のスーパーで明日から米の特売が始まるって書いてあったからな!俺も色々と旅をしたが、日本の米は美味いな!パンも美味いが米の方が腹持ちがいいしな」
ヨ「米って…つまり喰いモンの事ですか?」
李「だって、必要だろ?人が生きる為に最低限の衣食住は」
「「…………」」
村「あぁ…、イリヤは一人暮らしなんだよ」
コ「一人暮らし…」
ヨ「…………」
予想外だった、確かに彼を見ている限り目立った贅沢はしそうにないが…
仮にも精霊使い、聖下とあろう御方が、飯の為に女装までして金を稼ぐなんて…てっきり、何か欲しい物でもあるのかと思っていたが…やっぱり、彼は俺の印象を裏切らない。
李「兎に角、きっちり3万分お前には身体で払って貰うからな!」
「「「身体で!?」」」
どうして彼はこう周囲を驚かせる発言が多いのだろう…身体で払えって…ウェラー卿の顔が引きつってるし。背後から出てるドス黒オーラが怖いんっすけど…υ
村「あ~…イリヤ、身体でって…また大胆な……まぁ、僕的には君の顔はかなりタイプではあるんだけど…僕も男だし、やっぱり受身より攻めたいというか…」
李「アホか!お前とちちくりあって俺に何のメリットがあるんだ!大体、そっちに関してはこいつ一人で十分、事足りる」
コ「そうですよ猊下、イリヤには俺が全力でたっぷりの愛情を注ぎますからv 他の相手は必要ありませんよ」
「「…………」」
何だかんだお似合いな2人かもしれない……。
男前な彼はあんなにも乳についての理想論を語っていたのに一度約束した事にはきっちりと守るタイプの様だ。
浮気心なんてこれっぽっちもない御様子だ。
お陰で気を良くしたウェラー卿は爽やかスマイルに戻って一途な婚約者殿の腰をいやらしい手付きで撫でている。
………さっきの会合からずっと思っていた事だが、彼は何故、抵抗しないんだろう…?
俺達はまた歩き出し、正式に決まるまでの間とりあえず彼を客室へ案内することにした。
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