いいたいことがあるの
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七日ぶりに帰ってきた家は相変わらずとても静かだ。まるでこの家だけ時が止まってしまったみたいだ。
「ただいま帰りました」
そんな静けさを吹き飛ばすように家中に響く声で言い放つ。
音がしない、それもそうだ。この家は私と父しかいない。
私の家族である弟はこの家からいなくなってしまったのだから。
とりあえず居間に向かうことにしよう。靴を脱ぎ、居間へ一歩踏み出したそのとき。ドタドタとこの静かな家に似つわしくない騒音が響いた。
「名前……」
名前を呼ばれ振り向いた。
肩で呼吸をし、きっちりと整えている髪はボサボサに崩れ、いつもの無表情が崩れ、ひどく焦った顔つきの父がそこにいた。
「お、お父さ」
ぎゅっと、包み込むように力強く抱きしめられた。
「よくやったな、名前」
その言葉が聞こえた瞬間、私の目から涙が溢れ出した。お父さんはゴツゴツとした大きな手で私の頭をいつまでも撫でいた。
「ごめんくださーい」
玄関から誰かの声がした。急いで玄関に向かう。
「はじめまして、貴方が苗字名前さんですか?」
「はい、そうです」
扉を開けるとそこには狸のお面をつけた男性が立っていた。
「私は鉄鎖といいます。貴方の日輪刀を造り、届けに来ました」
「ほ、ほんとうですか!? えぇと、お茶をお出しするのでよかったら、家に上がりませんか?」
「では、お言葉に甘えますね」
鉄鎖さんを居間に案内する。居間にはお茶とお菓子が既に用意され、父がそこにいた。
「ご無沙汰ですね」
「……あぁ、久しいな。鉄鎖」
「そうですね。このお菓子、好物なんですよね。未だに覚えててくれてたんですね」
父と鉄鎖さんが親しげに会話をしている。二人はどういった関係なのだろうか。
「まさか私が貴方の日輪刀に続いて娘の名前さんの日輪刀を造らせていただくなんて……」
「それって……」
「はい。鬼殺隊に入り、引退するまで貴方のお父さんである清信さんの日輪刀を私が造りました。実はですね、清信さん不器用な人ですから刀を直ぐに折ってしまってたんですよ。ははは! おかげさまで私の技術が上がって万々歳ですよ」
「ふふ、そ、そうなんですか……あの、父さんが」
「……鉄鎖」
「ははは! すみません!」
鉄鎖さんの笑い声に釣られて思わず私も笑ってしまった。面白い人だなぁ鉄鎖さん!
「ところで、清信さん。病気の具合はどうですか」
穏やかな雰囲気から一転、鉄鎖さんの一言で緊迫した雰囲気が場を支配する。
「……病気のことは気にするな」
「……そうですか」
父は数年前から病気に罹ってしまっている。お医者様が言うには治療法が見つからず、治せないとのことだ。半年前は体調を崩しがちだったが、最近は体調はすこぶる好調だ。
「……なんだか湿っぽい空気にさせてすみませんね。あっ! そういえば、まだ名前さんの日輪刀を見せていませんでしたね」
鉄鎖さんは背負っていた刀を畳に置き、包んでいた布をそっと外した。そして、その中から日輪刀が姿を現した。
「こちらが名前さんの日輪刀です」
鉄鎖さんから日輪刀を受け取る。今まで持ってきた刀よりもずっしりと重みがありながらも、不思議と私の手にとてもよく馴染む。
「さぁ、刀を抜いてみてください」
「……はい」
私は意を込めて刀を抜いた。日輪刀はみるみるうちに刃の色を変える。そして、私の日輪刀は錫色に色を変えた。
「ほぉ……」
「……」
鉄鎖さんは恍惚とした様子で刀を見つめ、父は真剣な面持ちで刀を見据えている。
「いやぁ、惚れ惚れしちゃいますよ……これは私史上最高出来と言っても過言ではありませんね」
「あの、この色って何の呼吸の適性色ですか?」
「もう! 苗字さんったらわざと言わせるんですか? その色は」
「影の呼吸だ」
今まで沈黙を貫き通していた父が鉄鎖さんの言葉を遮った。
「日輪刀を錫色に変え、影の呼吸を全て会得し、名前に命ずる」
「本日をもって、苗字名前を苗字家今代の当主とする」
一瞬、父から何を言われたのか分からなかった。私が苗字家の当主……? いくらなんでも早すぎる。
「父さん、私には」
「断るなぞ承知しない」
「っ……」
父からの圧が強く、反論ができない。
「父さん。私はまだ鬼殺隊に入ったばっかりで鬼を一匹も狩っていないのに当主に……」
「苗字。お前には名前家の当主となる実力も才能も持ち合わせているのだ。俺の目に狂いは無い」
「そうですよ、自信持ってください。なんせ清信さんは元柱なんですよ。その方が言うことは間違い無しですよ」
「でも……」
「大丈夫だ」
父は今まで見たことないくらい優しい笑顔で私の頭をそっと撫でた。その顔を見てしまい私の目に涙が流れてしまった。
「ははっ……泣き虫なところは昔から変わらないな名前は」
「はいどうぞ、名前さん」
鉄鎖さんから手拭いを渡され、それで涙を拭く。
尊敬する師であり父からの使命だ。言われたからには何かなんでも遂行するしかない。私は覚悟を決めた。
涙はあらかた拭き終わった。手拭いをちゃぶ台に置き、私は深く息を吸う。
「わたくし、苗字名前は今代の苗字家の当主して不肖ながら誠心誠意を持って務めますことをここに誓います」
父は満足げな顔をして頷き、鉄鎖さんは割れんばかりの大きな拍手をしてくれていた。
「それでは私はここでお暇しますね」
「鉄鎖さん、今日は本当に色々とありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。名前さん、鬼殺隊の一員と苗字家の当主のお務め、がんばってくださいね」
「……はい!」
「それと、清信さん」
「……なんだ」
「貴方はとにかく健康に気をつけてくださいね。もう柱を引退したのですから無茶はしないように」
「あぁ、分かっている」
「分かってくださるのならそれで結構。それではまたお会いしましょうね」
「鉄鎖さんもお体に気をつけてください!」
私達は鉄鎖さんが豆粒の様に小さくなり、そして、見えなくまるまで見送った。
「名前これから町に行くぞ」
「……はい? でもなぜ急に?」
「……赤飯とお前の好物を町で調達するぞ」
「はい!」
父は私の返事を待たずに先に進む。父は歩く速度が早いからどんどんと置いてかれてしまう。
私は父のその大きな背中に追いつくように走り出した。
「ただいま帰りました」
そんな静けさを吹き飛ばすように家中に響く声で言い放つ。
音がしない、それもそうだ。この家は私と父しかいない。
私の家族である弟はこの家からいなくなってしまったのだから。
とりあえず居間に向かうことにしよう。靴を脱ぎ、居間へ一歩踏み出したそのとき。ドタドタとこの静かな家に似つわしくない騒音が響いた。
「名前……」
名前を呼ばれ振り向いた。
肩で呼吸をし、きっちりと整えている髪はボサボサに崩れ、いつもの無表情が崩れ、ひどく焦った顔つきの父がそこにいた。
「お、お父さ」
ぎゅっと、包み込むように力強く抱きしめられた。
「よくやったな、名前」
その言葉が聞こえた瞬間、私の目から涙が溢れ出した。お父さんはゴツゴツとした大きな手で私の頭をいつまでも撫でいた。
「ごめんくださーい」
玄関から誰かの声がした。急いで玄関に向かう。
「はじめまして、貴方が苗字名前さんですか?」
「はい、そうです」
扉を開けるとそこには狸のお面をつけた男性が立っていた。
「私は鉄鎖といいます。貴方の日輪刀を造り、届けに来ました」
「ほ、ほんとうですか!? えぇと、お茶をお出しするのでよかったら、家に上がりませんか?」
「では、お言葉に甘えますね」
鉄鎖さんを居間に案内する。居間にはお茶とお菓子が既に用意され、父がそこにいた。
「ご無沙汰ですね」
「……あぁ、久しいな。鉄鎖」
「そうですね。このお菓子、好物なんですよね。未だに覚えててくれてたんですね」
父と鉄鎖さんが親しげに会話をしている。二人はどういった関係なのだろうか。
「まさか私が貴方の日輪刀に続いて娘の名前さんの日輪刀を造らせていただくなんて……」
「それって……」
「はい。鬼殺隊に入り、引退するまで貴方のお父さんである清信さんの日輪刀を私が造りました。実はですね、清信さん不器用な人ですから刀を直ぐに折ってしまってたんですよ。ははは! おかげさまで私の技術が上がって万々歳ですよ」
「ふふ、そ、そうなんですか……あの、父さんが」
「……鉄鎖」
「ははは! すみません!」
鉄鎖さんの笑い声に釣られて思わず私も笑ってしまった。面白い人だなぁ鉄鎖さん!
「ところで、清信さん。病気の具合はどうですか」
穏やかな雰囲気から一転、鉄鎖さんの一言で緊迫した雰囲気が場を支配する。
「……病気のことは気にするな」
「……そうですか」
父は数年前から病気に罹ってしまっている。お医者様が言うには治療法が見つからず、治せないとのことだ。半年前は体調を崩しがちだったが、最近は体調はすこぶる好調だ。
「……なんだか湿っぽい空気にさせてすみませんね。あっ! そういえば、まだ名前さんの日輪刀を見せていませんでしたね」
鉄鎖さんは背負っていた刀を畳に置き、包んでいた布をそっと外した。そして、その中から日輪刀が姿を現した。
「こちらが名前さんの日輪刀です」
鉄鎖さんから日輪刀を受け取る。今まで持ってきた刀よりもずっしりと重みがありながらも、不思議と私の手にとてもよく馴染む。
「さぁ、刀を抜いてみてください」
「……はい」
私は意を込めて刀を抜いた。日輪刀はみるみるうちに刃の色を変える。そして、私の日輪刀は錫色に色を変えた。
「ほぉ……」
「……」
鉄鎖さんは恍惚とした様子で刀を見つめ、父は真剣な面持ちで刀を見据えている。
「いやぁ、惚れ惚れしちゃいますよ……これは私史上最高出来と言っても過言ではありませんね」
「あの、この色って何の呼吸の適性色ですか?」
「もう! 苗字さんったらわざと言わせるんですか? その色は」
「影の呼吸だ」
今まで沈黙を貫き通していた父が鉄鎖さんの言葉を遮った。
「日輪刀を錫色に変え、影の呼吸を全て会得し、名前に命ずる」
「本日をもって、苗字名前を苗字家今代の当主とする」
一瞬、父から何を言われたのか分からなかった。私が苗字家の当主……? いくらなんでも早すぎる。
「父さん、私には」
「断るなぞ承知しない」
「っ……」
父からの圧が強く、反論ができない。
「父さん。私はまだ鬼殺隊に入ったばっかりで鬼を一匹も狩っていないのに当主に……」
「苗字。お前には名前家の当主となる実力も才能も持ち合わせているのだ。俺の目に狂いは無い」
「そうですよ、自信持ってください。なんせ清信さんは元柱なんですよ。その方が言うことは間違い無しですよ」
「でも……」
「大丈夫だ」
父は今まで見たことないくらい優しい笑顔で私の頭をそっと撫でた。その顔を見てしまい私の目に涙が流れてしまった。
「ははっ……泣き虫なところは昔から変わらないな名前は」
「はいどうぞ、名前さん」
鉄鎖さんから手拭いを渡され、それで涙を拭く。
尊敬する師であり父からの使命だ。言われたからには何かなんでも遂行するしかない。私は覚悟を決めた。
涙はあらかた拭き終わった。手拭いをちゃぶ台に置き、私は深く息を吸う。
「わたくし、苗字名前は今代の苗字家の当主して不肖ながら誠心誠意を持って務めますことをここに誓います」
父は満足げな顔をして頷き、鉄鎖さんは割れんばかりの大きな拍手をしてくれていた。
「それでは私はここでお暇しますね」
「鉄鎖さん、今日は本当に色々とありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。名前さん、鬼殺隊の一員と苗字家の当主のお務め、がんばってくださいね」
「……はい!」
「それと、清信さん」
「……なんだ」
「貴方はとにかく健康に気をつけてくださいね。もう柱を引退したのですから無茶はしないように」
「あぁ、分かっている」
「分かってくださるのならそれで結構。それではまたお会いしましょうね」
「鉄鎖さんもお体に気をつけてください!」
私達は鉄鎖さんが豆粒の様に小さくなり、そして、見えなくまるまで見送った。
「名前これから町に行くぞ」
「……はい? でもなぜ急に?」
「……赤飯とお前の好物を町で調達するぞ」
「はい!」
父は私の返事を待たずに先に進む。父は歩く速度が早いからどんどんと置いてかれてしまう。
私は父のその大きな背中に追いつくように走り出した。