日が落ちてからかなりの時間が経ち、宵がふけてきた頃。名前とアオキは食事と酒を交えながら愉しげに会話をしていた。
　顔が赤らんでおり勢いよく酒を呷った彼女は唐突にこんなことを言い出した。
「ねぇ、アオキさぁん……わたしのこと、どのぐらいあいしてますかぁ？　……って、きゃっ！　聞いちゃった！」
　普段から恥ずかしがってこんなことを聞かない筈の名前だがかなり酔いが回ってしまったのだろう。彼女には羞恥心など何処かへ消え失せてしまったようだった。
「……」
　名前の突然の問いかけによってアオキの全ての動作がピタリと止まり、部屋が静寂に包まれた。
「んふふふ〜」
　名前は固まってしまったアオキをにこにこと上機嫌に見つめている。あまり感情を表にださない彼がどんな言動するのだろう。名前はそれが気になってしょうがなかった。
「……」
　固まっていたアオキがのそりと動いた。彼は身体を正面にいる名前に向け、顔を上げる。
　アオキの瞳は名前に向けられた。
「貴女のことはとても愛しております」
　愚直でシンプルな愛の言葉だった。だからこそ、その威力は高い。
　まさかそんなことを言われるなんて思わなかった名前は深く動揺した。じんわりと汗が滲み、心臓の鼓動が早まり、赤らんでいる顔が更に赤くなっていく。
「どうしましたか、名前さん。何か自分は変なことを言いましたか」
「いや！　そ、そんなことは……」
　先程までの態度と打って変わり、しおらしくなった彼女を見てアオキは口角を上げた。
「随分と可愛らしい反応しますね。いつも貴女は可愛らしいですが、今日は更に可愛らしい」
「かわっ……！？」
「えぇ、とても可愛らしいです。それとも綺麗と言った方がいいですか」
「い、いや……」
「可憐で綺麗で、性格は非の打ち所がなく、家事を完璧にこなしますよね」
「ちょっと！」
「自分にはもったいないぐらいの自慢の妻です」
「アオキさん！！　いいかげんにしてください！！」
　恥ずかしさのあまり小さく蹲った名前は顔を真っ赤に染め上げ、アオキをにらみつける。そんな彼女を見たアオキは肩を震わせてくつくつと笑った。
「すみません。困らせてしまいましたね」
「お世辞だからと言って言って良いことと悪ことがあるんですからね！」
「……いいえ。自分はお世辞を言ったつもりはありませんよ」
「……っ、もう。そんなことを言うなんてアオキさん酔っているんですよね！」
　名前からの問いにすかさずアオキは答えた。
「いいえシラフです」
「なんでシラフなのー！？　もうばかばかばかー！！！　アオキさんなんてあいしてるから！！！」
　更に体を小さく蹲った名前は真っ赤な顔でにらみつけ愛の言葉をほえる。
「……ッ、そうですか」
　とても気分が良くなった彼は未開封の酒の蓋を開けた。グイッとそれを一気に呷ったアオキは目を細め、へなへなになった名前を愛おしい気に見つめた。