ふと、目が覚めた。チュンチュンと外から鳥ポケモンか鳴く音が聞こえ、窓からは心地よい陽光がが降りそそぎ、私の体を温かく包んでいる。
　もう少し布団の中でゆっくりしていたいけれども、久しぶりに休日がとれたアオキさんにとびっきり美味しい朝ご飯を作って喜ぶ彼の顔が見たい。その一心で私は隣にぐっすりと寝ているアオキさんを起こさないようにひっそりと寝床から抜け出そうとした。
「いかないでください」
　背後から小さいながらも強い意志を感じる声が私の耳に入りこんできた。
「お、おはようございます……。いつから起きてたんですか」
「貴女が起きる三十分くらい前ですかね」
「結構早いですね。起こしてくれてよかったんですよ」
「気持ち良さそうに眠っているものですから起こすのに気が引けまして」
　私が先に起床し家事をこなしていると後からアオキさんが起床するのがいつものパターンだが、まさか彼に寝顔を見られていたとは。なんだか恥ずかしいな……。変な寝顔とかしなかったか心配でしょうがない。
「こっちに向いてくれませんか」
　彼の言う通りにぐるりと寝返りを打ち、アオキさんの方に身体を向ける。
　日頃の労働から解放され、ぐっすりと眠ったであろう彼は心なしかいつもより顔色が良く見えた。
「何処に行こうとしていたのですか」
「折角のアオキさんのお休みだから豪勢な朝食を作ろうと思いましてキッチンに。アオキさんのポケモンたちにも美味しいご飯を用意しますね。そのあと、風呂場のお掃除をして、洗濯して……あっ、それから買い物にスーパーでも行こうかな」
　私がそう答えると、ほんの僅かに眉間に皺を寄せ、気難しい顔をしてじっとこちらの顔を見つめてくる。
　あれ？　何か変なことでも言ってしまったのだろうか。でも思い当たる節は無い。どうしたものかと返答に悩んでいるとアオキさんが口を開いた。
「自分だって休みですから、たまには貴女も家事を休まれてはどうですか」
　今の彼の発言で気がついた。もしかするとアオキさんは私を気遣ってくれてあの言動をしたのだろう。その気持ちは嬉しいが、私はとにかくアオキさんが何のストレスも無く休日を過ごして欲しいので、家事をやらなくてはいけないのだ。気持ちだけ受け取っておこう。
「心配してくれてありがとうございます。私は大丈夫ですよ。アオキさんは毎日頑張っていますから今日ぐらい何も気にせずにゆっくり過ごしてくださいよ」
　これで納得してくれるかと思いきや更に彼の眉間は深くなってしまい、口をとがらせている。
「そういう貴女だって毎日頑張っているでしょう。たまにはゆっくりするべきですよ」
「うっ……でもぉ……」
　彼は意外と頑固なのできっと私が何を言っても意見を曲げない筈。だからといって、私はアオキさんをとにかく休ませたいという意見は曲げるつもりはない。彼の考えを変えさせるような良い考えはないかと頭を巡らせていると、ぐぅというなんとも気の抜けた音が聞こえた。
　あの音の持ち主はもちろうアオキさんだ。きっと朝ご飯を食べたいと彼のお腹がそう主張しているのだ。
　……しめた。これでご飯を作る理由ができた。ならキッチンに向かうと身動きをしたら、彼に手を掴まれた。
　何事だと思い、彼を見つめるとポツポツとアオキさんは語り出した。
「最近見つけた美味しい定食屋があるんです。そこにこれから行きましょう。貴女好みの味付けなのできっと気に入ります」
　彼の言葉を聞いた瞬間、ぐぅと、大きめなお腹の鳴る音が聞こえた。……今度は私のお腹からだった。
　あの音が彼の耳にもバッチリと聞こえたようで、ふっ、と息を漏らしながら笑った。
「定食屋に行くことは決定ですね。それから以前貴女が行きたいと言っていたあそこに行きましょうか。その後は……」
　つらつらと何故か楽しげにその後の予定を述べる。そんなに予定を詰めて大丈夫なのだろうかと心配になったので、そのことを彼に告げた。
　すると、彼は目を瞑り大きく息を吐いた。ゆっくりと瞼を開き、アオキさんと目線が混じり合う。何か覚悟を決めたような目つきをして、口を開いた。
「回りくどくては伝わりませんね。その、これは……自分なりにデートの誘いのつもりなのですが」
「えぇ！？」
　予想していた斜め上の言葉に思わず驚きの声を上げてしまった。まさかデートの誘いとは思いもよらなかった。だからあんなに家事を休ませそうとしていたのか。
「それは嬉しいんですけどら折角のお休みなのにいいんですか？　私とデートしちゃって」
　おずおずしている私を見てアオキさんは顔を緩ませ、優しい笑みを浮かべた。
「折角の休みだからこそ貴女と特別な思い出を作りたいのです。……ダメですか」
　私の手が彼の大きな手のひらに包まれた。
　そんなこと言われてしまったら、もう。
「デートのお誘いありがとうございます。よろこんで行かせていただきますね。アオキさん」
　私の返答を聞いた彼は心底嬉しそうに笑っていた。