風間夢
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日が暮れて今日も一日が終わろうとしている。夜の暗闇が街を包む中、ときどき思い出したように街灯がぽつぽつと置いてある「いつものところ」では風間の溌剌とした、はしゃいでいる声が響いていた。
「ほーう。中々種類が豊富だね! そうだな……まずはこれにしよう」
風間は私の名を呼び、こちらに向かって手招きをしている。ベンチに座っていた私はおもむろに立ち上がり、風間の元へ向かう。
「さぁ! 早く始めよう!」
ねずみ花火を手にして風間は目を一層キラキラと輝かせている。あの光景を見た風間がどんな反応をするのか今から楽しみだ。私はほくそ笑み、ねずみ花火に火をつけた。
ことの発端は風間の「花火、やってみたかったんだよねぇ……」というボソリと吐かれた独り言からだった。風間は地球に来てから一度も花火をしたことが無いそうで「花火セット買ったからやろーぜ」と言って騒いでいるクラスメイト達に羨望の眼差しを向けている。
そんな風間を見ていたら胸がキュッと締め付けられたように苦しくなって、ついこんなことを私は口走っていた。
「花火、やろうよ」
「……え」
風間はまさか独り言が拾われるとは思わなかったようで間の抜けた顔をして何回も瞬きをしている。
「いつ、するんだい?」
「今日の夜」
質問に即答した途端、彼の目の色が変わった。
「……本当だよな」
「本当だよ」
「ほんとうの本当にするのかい」
「ほんとうの本当にするよ」
「ホントウのほんとうの本当にするのかい!?」
「しつこいなぁ! 絶対にやるから!!」
「……君が嘘をつくことは無いとは思っているけど念の為に指切りをしよう。急用ができたって言って何処かに行こうとしたら僕は君にしがみつくからね。絶対に離さないからね」
「はいはい。どうぞご自由に」
ゆびきりげんまん。と、いつもの口上を言って私の小指と風間の小指が交わった。
「花火、楽しみにしてるよ」
「うん。わかった」
約束を終えた小指たちは離れていく。彼は自分の小指をじっと見つめて無邪気に、無垢な子供のような顔で笑っている。そして、聴き馴染みの無いメロディーの鼻歌を奏で始めた。
風間の鼻歌をBGMに花火の売っている店を思い出しているといつの間にか、胸の締め付けが解けていたことに私は気がついた。
そして、放課後になってあちこちのお店で大量の花火を買い込んだ。ちゃんと風間との約束を守り、今に至る。
白い火花を散らしながら勢いよく、くるくるとねずみ花火は回っている。そして、最後にパンッと大きな音が鳴った。
「うわっ!?」
風間はねずみ花火の挙動と最後の音に目を白黒させて驚き、肩を大きくビクつかせている。想像以上の風間の反応に笑いが止まらない。
「……君ねぇ、笑い過ぎ。どうしてこうなることを先に言ってくれなかったんだよ」
風間はムッと膨れっ面をして私を睨んでいる。私はごめんごめんと軽く謝り、すすき花火を渡し、火をつけた。
赤い火花が一直線に燃えて、煙がもくもくと上がる。しばらくすると赤色から緑色に色が変わり、風間は感嘆の声を上げた。
「これはすごいねぇ……スンバラリアでもこんな物は無かったよ。中々やるじゃないか地球人も。ほら、早く次の花火をちょうだいよ」
「はいはい」
風間に次々とあらゆる花火を渡す。受け取る度に風間は色鮮やかに派手に燃え上がる花火を大きく見開いて目に収めている。
風間がとても満喫しているようでなによりだ。眺めている私までも楽しい気分になってくる。
私も小さい頃あんな感じで花火を楽しんでいたなぁ。さて、次はどれを渡そうかなと花火セットの袋を物色していたら風間に声をかけられた。
「君の好きな花火はなんだい」
「線香花火だよ」
「ふーん……じゃあ次はそれにしよう」
「オッケー。えっーと、あった。はいこれが線香花火だよ」
先程と同じように線香花火を風間に渡すと彼はこんなことを言い出した。
「君はやらないのか」
今までは風間が花火で遊んでいる様子を私は眺めていただけなので唐突に誘われて驚く。
「好きなんだろう線香花火。だったら一緒にやろうじゃないか」
「……うん!」
線香花火に火を付ける。着火した線香花火は蕾のように小さく丸く燃えている。そして、次第に火の勢いが増しパチパチと音を鳴らして弾けるように燃え盛っている。
「何で線香花火が好きなんだい?」
「最初はあんまり燃えないけど、時間が経つとこんな風にさ、勢いよくパチパチ燃えるのが面白くて好きなんだよね」
「ふーん。僕はすすき花火が気に入ったね。燃え方の迫力とカラフルな色が実にいい」
「そうなんだ。線香花火は気に入った?」
「……ねずみ花火の次に気に入ったよ」
「んふふッ……そっかぁ」
「思い出し笑いをしないでくれるかい? あーもう……君のせいで火が落ちてしまったよ」
「ごめんなさーい」
風間の線香花火に火を付けた。その灯は見ているとなんだかホッと安心する。シーンと静まり返る公園に風間の落ち着いた声が響く。
「初めて会った日のことを覚えているかい」
「覚えているよ。学校の初日に私が落とした消しゴム拾ってくれたよね。それで、拾ってくれたけども中々私に渡さないでずっと消しゴム見ててさ、なんか変な人だなぁって思ったよ」
「仕方ないだろ、あの時初めて消しゴム見たんだから」
「えっ……そうだったの」
「地球に到着して一週間も経っていなかったんだよあの時は。だから目に映る全てが見慣れないものばかり。君だって知らないものがあったらジロジロと見てしまうだろう?」
「まぁ……そうだけど」
「もし君がスンバラリア星に来たらハイテクノロジーに驚き過ぎてひっくり返っているだろうね。あははっ!」
「ちょっと風間笑わないで! 火が落ちちゃったじゃん!」
思わず風間の顔を見ると彼はさっきのお返しだと言わんばかりにニヤけた顔をしていた。やっぱり何回見てもムカつく顔だ。
花火セットの袋を覗くと線香花火二つだけが残されている。あれだけ買い込んだ花火が無くなってしまうとは……なんだか寂しい。
「これが最後だからね」
最後の線香花火に火を付けた。静かな公園にパチパチと火が弾ける音が響く。さっきまであれ程話していたのに私も風間も口を開こうとしない。でも、この静けさが心地よい。
こんな時間がずっと続けばいいのにとそんなことをつい、思ってしまった。風間は明日、居なくなるというのに。
「ねぇ、風間。地球の生活は楽しかった?」
恐る恐る風間の顔を伺う。彼の顔は線香花火の温かみのある光に照らされている。
「……あぁ、楽しかったさ。とても」
彼は満足気に微笑んだ。それと同時に私達の持っていた線香花火の火が落ちて、辺りは暗闇に包まれた。
風間望がいなくなるまであと一日。
「ほーう。中々種類が豊富だね! そうだな……まずはこれにしよう」
風間は私の名を呼び、こちらに向かって手招きをしている。ベンチに座っていた私はおもむろに立ち上がり、風間の元へ向かう。
「さぁ! 早く始めよう!」
ねずみ花火を手にして風間は目を一層キラキラと輝かせている。あの光景を見た風間がどんな反応をするのか今から楽しみだ。私はほくそ笑み、ねずみ花火に火をつけた。
ことの発端は風間の「花火、やってみたかったんだよねぇ……」というボソリと吐かれた独り言からだった。風間は地球に来てから一度も花火をしたことが無いそうで「花火セット買ったからやろーぜ」と言って騒いでいるクラスメイト達に羨望の眼差しを向けている。
そんな風間を見ていたら胸がキュッと締め付けられたように苦しくなって、ついこんなことを私は口走っていた。
「花火、やろうよ」
「……え」
風間はまさか独り言が拾われるとは思わなかったようで間の抜けた顔をして何回も瞬きをしている。
「いつ、するんだい?」
「今日の夜」
質問に即答した途端、彼の目の色が変わった。
「……本当だよな」
「本当だよ」
「ほんとうの本当にするのかい」
「ほんとうの本当にするよ」
「ホントウのほんとうの本当にするのかい!?」
「しつこいなぁ! 絶対にやるから!!」
「……君が嘘をつくことは無いとは思っているけど念の為に指切りをしよう。急用ができたって言って何処かに行こうとしたら僕は君にしがみつくからね。絶対に離さないからね」
「はいはい。どうぞご自由に」
ゆびきりげんまん。と、いつもの口上を言って私の小指と風間の小指が交わった。
「花火、楽しみにしてるよ」
「うん。わかった」
約束を終えた小指たちは離れていく。彼は自分の小指をじっと見つめて無邪気に、無垢な子供のような顔で笑っている。そして、聴き馴染みの無いメロディーの鼻歌を奏で始めた。
風間の鼻歌をBGMに花火の売っている店を思い出しているといつの間にか、胸の締め付けが解けていたことに私は気がついた。
そして、放課後になってあちこちのお店で大量の花火を買い込んだ。ちゃんと風間との約束を守り、今に至る。
白い火花を散らしながら勢いよく、くるくるとねずみ花火は回っている。そして、最後にパンッと大きな音が鳴った。
「うわっ!?」
風間はねずみ花火の挙動と最後の音に目を白黒させて驚き、肩を大きくビクつかせている。想像以上の風間の反応に笑いが止まらない。
「……君ねぇ、笑い過ぎ。どうしてこうなることを先に言ってくれなかったんだよ」
風間はムッと膨れっ面をして私を睨んでいる。私はごめんごめんと軽く謝り、すすき花火を渡し、火をつけた。
赤い火花が一直線に燃えて、煙がもくもくと上がる。しばらくすると赤色から緑色に色が変わり、風間は感嘆の声を上げた。
「これはすごいねぇ……スンバラリアでもこんな物は無かったよ。中々やるじゃないか地球人も。ほら、早く次の花火をちょうだいよ」
「はいはい」
風間に次々とあらゆる花火を渡す。受け取る度に風間は色鮮やかに派手に燃え上がる花火を大きく見開いて目に収めている。
風間がとても満喫しているようでなによりだ。眺めている私までも楽しい気分になってくる。
私も小さい頃あんな感じで花火を楽しんでいたなぁ。さて、次はどれを渡そうかなと花火セットの袋を物色していたら風間に声をかけられた。
「君の好きな花火はなんだい」
「線香花火だよ」
「ふーん……じゃあ次はそれにしよう」
「オッケー。えっーと、あった。はいこれが線香花火だよ」
先程と同じように線香花火を風間に渡すと彼はこんなことを言い出した。
「君はやらないのか」
今までは風間が花火で遊んでいる様子を私は眺めていただけなので唐突に誘われて驚く。
「好きなんだろう線香花火。だったら一緒にやろうじゃないか」
「……うん!」
線香花火に火を付ける。着火した線香花火は蕾のように小さく丸く燃えている。そして、次第に火の勢いが増しパチパチと音を鳴らして弾けるように燃え盛っている。
「何で線香花火が好きなんだい?」
「最初はあんまり燃えないけど、時間が経つとこんな風にさ、勢いよくパチパチ燃えるのが面白くて好きなんだよね」
「ふーん。僕はすすき花火が気に入ったね。燃え方の迫力とカラフルな色が実にいい」
「そうなんだ。線香花火は気に入った?」
「……ねずみ花火の次に気に入ったよ」
「んふふッ……そっかぁ」
「思い出し笑いをしないでくれるかい? あーもう……君のせいで火が落ちてしまったよ」
「ごめんなさーい」
風間の線香花火に火を付けた。その灯は見ているとなんだかホッと安心する。シーンと静まり返る公園に風間の落ち着いた声が響く。
「初めて会った日のことを覚えているかい」
「覚えているよ。学校の初日に私が落とした消しゴム拾ってくれたよね。それで、拾ってくれたけども中々私に渡さないでずっと消しゴム見ててさ、なんか変な人だなぁって思ったよ」
「仕方ないだろ、あの時初めて消しゴム見たんだから」
「えっ……そうだったの」
「地球に到着して一週間も経っていなかったんだよあの時は。だから目に映る全てが見慣れないものばかり。君だって知らないものがあったらジロジロと見てしまうだろう?」
「まぁ……そうだけど」
「もし君がスンバラリア星に来たらハイテクノロジーに驚き過ぎてひっくり返っているだろうね。あははっ!」
「ちょっと風間笑わないで! 火が落ちちゃったじゃん!」
思わず風間の顔を見ると彼はさっきのお返しだと言わんばかりにニヤけた顔をしていた。やっぱり何回見てもムカつく顔だ。
花火セットの袋を覗くと線香花火二つだけが残されている。あれだけ買い込んだ花火が無くなってしまうとは……なんだか寂しい。
「これが最後だからね」
最後の線香花火に火を付けた。静かな公園にパチパチと火が弾ける音が響く。さっきまであれ程話していたのに私も風間も口を開こうとしない。でも、この静けさが心地よい。
こんな時間がずっと続けばいいのにとそんなことをつい、思ってしまった。風間は明日、居なくなるというのに。
「ねぇ、風間。地球の生活は楽しかった?」
恐る恐る風間の顔を伺う。彼の顔は線香花火の温かみのある光に照らされている。
「……あぁ、楽しかったさ。とても」
彼は満足気に微笑んだ。それと同時に私達の持っていた線香花火の火が落ちて、辺りは暗闇に包まれた。
風間望がいなくなるまであと一日。