風間夢
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「なぁ、苗字。君は今幸せか?」
一緒に隣を歩いていた風間が立ち止まり唐突にそんなことを言った。まるで宗教の勧誘のような口ぶりに私は眉を顰めた。
「いきなり何の話?」
「いいから早く答えてよ」
「……まぁ、幸せだよ」
「ふーん、なるほど。それじゃあ、もっと幸せになりたいと思わないかい?」
「いいや、別に」
私はそうキッパリと風間に告げた。そりゃあ私だって豪華な家に住んでいる人や高級な料理を食べているところをテレビで見て羨ましいとは思ったりする。でも、慣れ親しんだ小さな家で母の料理を食べている日々こそが私にとっての最大の幸せなのだ。
私の答えを聞いた風間が大きなため息を吐いてつまらないと言いたげな瞳を向けている。
「苗字は欲が無いねぇ……それだから君はいつも辛気臭い顔をしているんだよ。そんなんじゃせっかくの人生楽しめないぞ」
「うるさいなぁ」
「そんな苗字に一つ朗報がある。聞きたいだろう?」
風間は胸を張って自信満々に笑っている。私はその顔を見て「この後碌でもない目に合う」と本能的に感じ取ったのでコイツから逃げようとする。しかし、風間は私の手をぎゅっと掴んだ。私はヤツの魔の手から逃げられなくなってしまった。
「聞いて驚け。僕は今手っ取り早く幸せになる方法を知っているんだ。それは何だと思う?」
「知らないし、興味ないから」
「ブブー。違うぞ苗字。正解はこれだ!」
「話を聞いて!!」
「これを身につけると幸運になれるんだ。お手頃に幸せになれるなんて凄いよね」
風間はポケットから何やら小さくて銀色に光るものを取り出した。目を凝らしてよくよく見るとそれは指輪だった。指輪といっても風間が取り出したのは豪華なものではなく、縁日の屋台に売っているような子供向けのチープな指輪だ。誰がどう見てもそれを身につけて幸せになれる代物ではない。
「どうだ苗字。欲しくなってきただろう」
「いや、別に……欲しくはないから」
「通常ならこれは一万円の代物。だがしかし、本日限りの大出血サービスによって七千円になったよ。これはお買い得だね! さぁ、買った買った!」
「いや、だから買わないって! ねぇ、話聞いてる?」
私がいくら叫んでも風間は聞く耳を持たずニコニコと愛想の良い笑顔のままで指輪を私に押し付けてくる。
「そんなに遠慮しないで、さあ」
「遠慮してないし要らないってさっきから言ってるんだけど!?」
「ほらほら〜」
風間がグイグイと力任せに押しつけてくるので私は思わず指輪を受け取ってしまった。
「受け取ったね。さっそく付けてみなよ」
「付けないし、要らないから返す」
「どこに付けようか迷っているのかい? そうだなぁ……僕が左手の薬指にでも嵌めてやろうか?」
「いや、嵌めなくていいから」
「遠慮しないの。ほら、早く左手を出しなよ」
「ちょっ……」
風間は私の手を無理やり持ち上げて左手の薬指に指輪を嵌めようとする。
その時、背筋に冷たいものが走った。慌てて振り解こうとしたが遅かった。私の左手の薬指には小さい指輪はピッタリと嵌っていてその存在を主張している。
「どうだい? これは僕が作った特別品だからそう簡単には取れないよ。まぁ、しかし……僕の予想以上に似合っているじゃないか。よし、僕と君の仲だ。今回だけ特別にお金は取らないことにするよ。よかったじゃないか。早速幸運が舞い降りてきたぞ」
「ちょっと! 何してくれてんの!?」
私は急いで指輪を取ろうとしたが、外れる気配は全くない。これはまるでゲームに出てくる呪いの装備ではないか。
「風間さんと苗字さん何やってるんですか?」
必死に指輪と格闘していると後輩の坂上くんが偶然にも私たちの前を通りかかった。
風間は「やあ、坂上くん」と彼に手を振って挨拶をしている。風間に声をかけられた坂上くんはきょとんと首を傾げて不思議そうに私たちを交互に見た。
「何をしてるんですか?」
「いや、ちょっと苗字と遊んでいただけだよ」
「そ、そうですか……なんか苗字さん大変そうですけど大丈夫ですか?」
風間の返答に困ったように笑っている坂上くんに対して私は半泣きになりながら助けを乞うた。
「風間が指輪嵌めてきたの……」
必死に訴えると坂上くんは私の元にやってきた。そして、私の左手の薬指に嵌っている指輪を発見したようで坂上くんは苦笑いを浮かべた。
「わざわざと薬指に嵌めてきたんですね。お気の毒に……僕が外しますよ」
坂上くんはなんて出来た後輩なのだろう。彼の優しさに私はとても感動した。
坂上くんは指輪を取ろうとしたが指輪はピッタリと私の薬指に嵌っていて取れない。坂上くんはいとも簡単に私の指から指輪を外すことができると思っていたらしく大きく目を見開いて驚いている。
「えっ!? 嘘でしょ?」
「坂上くんでも外せないほど強力な指輪なんだね。僕って凄いだろう? 存分に褒めてくれていいんだよ」
「すごいですね……」
得意気な風間と若干引き気味な坂上くんを見て私は泣きたくなった。これから先ずっと私は薬指に指輪をはめて過ごさないといけないなんて信じられない……
絶望に打ちひしがれる私の肩を風間がポンっと叩いてニヤリと笑った。
「大丈夫だ、苗字。僕も付けたから」
風間の左手の薬指は私の薬指に嵌められている指輪と同じデザインの指輪があった。それを見て私はとうとう言葉を無くしてしまった。
「なんで風間さんまでも薬指に指輪付けてるんですか!?」
坂上くんが風間の行動にツッコミを入れてくれたがヤツには届いていない。
「これで僕らは夫婦だ! 喜ばしいね苗字。あ、君も風間だから名前って呼んだほうがいいか」
風間が嬉しそうに私の名を呼びながら顔を覗き込んできたので反射的に顔を背けた。そして、私はこの状況を何とかすべく再度坂上くんに助けを求めた。
「ねぇ、坂上くん……」
坂上くんは申し訳なさそうに私から目を逸らした。う、うそでしょ、坂上くん……貴方ならこんな状況から救ってくれると信じていたのに。
「風間さん、苗字さん……末長くお幸せに」
そう言い残し坂上くんは足早に去っていく。私は追いかけることも出来ずに呆然と坂上くんの後姿を見ていた。
すると、唐突に私の身体が温かいものに包まれた。風間が抱きついてきたのだ。
「僕たち晴れて夫婦になった訳だし誓いのキスでもしようか」
「ちょっ……」
風間の顔が徐々に近づいてくる。逃れようも抱きしめられている為逃げられない。
避けられないと悟り、私はぎゅっと目を瞑った。そして、私の唇と風間の唇が触れ────
目が、覚めた。
目の前にあるのは風間ではなく、見慣れた自分の家。どうやら今のは夢だったようで私は心底安心した。
今日風間と会ったら一発ぶん殴ってやろう。そう決意した私は布団から起き上がりいつものように身支度を始める。
ことん、と何が落ちた音が聞こえた。音の発生源辺りを探していたら落とし物を見つけた。私はそれを見て悲鳴を上げたくなった。何故ならそれは。
あの夢と同じ形、同じ大きさ、同じ色の指輪だったからだ。
絶句する私をよそに指輪はあの夢と同じように銀色に光り輝いていた。
一緒に隣を歩いていた風間が立ち止まり唐突にそんなことを言った。まるで宗教の勧誘のような口ぶりに私は眉を顰めた。
「いきなり何の話?」
「いいから早く答えてよ」
「……まぁ、幸せだよ」
「ふーん、なるほど。それじゃあ、もっと幸せになりたいと思わないかい?」
「いいや、別に」
私はそうキッパリと風間に告げた。そりゃあ私だって豪華な家に住んでいる人や高級な料理を食べているところをテレビで見て羨ましいとは思ったりする。でも、慣れ親しんだ小さな家で母の料理を食べている日々こそが私にとっての最大の幸せなのだ。
私の答えを聞いた風間が大きなため息を吐いてつまらないと言いたげな瞳を向けている。
「苗字は欲が無いねぇ……それだから君はいつも辛気臭い顔をしているんだよ。そんなんじゃせっかくの人生楽しめないぞ」
「うるさいなぁ」
「そんな苗字に一つ朗報がある。聞きたいだろう?」
風間は胸を張って自信満々に笑っている。私はその顔を見て「この後碌でもない目に合う」と本能的に感じ取ったのでコイツから逃げようとする。しかし、風間は私の手をぎゅっと掴んだ。私はヤツの魔の手から逃げられなくなってしまった。
「聞いて驚け。僕は今手っ取り早く幸せになる方法を知っているんだ。それは何だと思う?」
「知らないし、興味ないから」
「ブブー。違うぞ苗字。正解はこれだ!」
「話を聞いて!!」
「これを身につけると幸運になれるんだ。お手頃に幸せになれるなんて凄いよね」
風間はポケットから何やら小さくて銀色に光るものを取り出した。目を凝らしてよくよく見るとそれは指輪だった。指輪といっても風間が取り出したのは豪華なものではなく、縁日の屋台に売っているような子供向けのチープな指輪だ。誰がどう見てもそれを身につけて幸せになれる代物ではない。
「どうだ苗字。欲しくなってきただろう」
「いや、別に……欲しくはないから」
「通常ならこれは一万円の代物。だがしかし、本日限りの大出血サービスによって七千円になったよ。これはお買い得だね! さぁ、買った買った!」
「いや、だから買わないって! ねぇ、話聞いてる?」
私がいくら叫んでも風間は聞く耳を持たずニコニコと愛想の良い笑顔のままで指輪を私に押し付けてくる。
「そんなに遠慮しないで、さあ」
「遠慮してないし要らないってさっきから言ってるんだけど!?」
「ほらほら〜」
風間がグイグイと力任せに押しつけてくるので私は思わず指輪を受け取ってしまった。
「受け取ったね。さっそく付けてみなよ」
「付けないし、要らないから返す」
「どこに付けようか迷っているのかい? そうだなぁ……僕が左手の薬指にでも嵌めてやろうか?」
「いや、嵌めなくていいから」
「遠慮しないの。ほら、早く左手を出しなよ」
「ちょっ……」
風間は私の手を無理やり持ち上げて左手の薬指に指輪を嵌めようとする。
その時、背筋に冷たいものが走った。慌てて振り解こうとしたが遅かった。私の左手の薬指には小さい指輪はピッタリと嵌っていてその存在を主張している。
「どうだい? これは僕が作った特別品だからそう簡単には取れないよ。まぁ、しかし……僕の予想以上に似合っているじゃないか。よし、僕と君の仲だ。今回だけ特別にお金は取らないことにするよ。よかったじゃないか。早速幸運が舞い降りてきたぞ」
「ちょっと! 何してくれてんの!?」
私は急いで指輪を取ろうとしたが、外れる気配は全くない。これはまるでゲームに出てくる呪いの装備ではないか。
「風間さんと苗字さん何やってるんですか?」
必死に指輪と格闘していると後輩の坂上くんが偶然にも私たちの前を通りかかった。
風間は「やあ、坂上くん」と彼に手を振って挨拶をしている。風間に声をかけられた坂上くんはきょとんと首を傾げて不思議そうに私たちを交互に見た。
「何をしてるんですか?」
「いや、ちょっと苗字と遊んでいただけだよ」
「そ、そうですか……なんか苗字さん大変そうですけど大丈夫ですか?」
風間の返答に困ったように笑っている坂上くんに対して私は半泣きになりながら助けを乞うた。
「風間が指輪嵌めてきたの……」
必死に訴えると坂上くんは私の元にやってきた。そして、私の左手の薬指に嵌っている指輪を発見したようで坂上くんは苦笑いを浮かべた。
「わざわざと薬指に嵌めてきたんですね。お気の毒に……僕が外しますよ」
坂上くんはなんて出来た後輩なのだろう。彼の優しさに私はとても感動した。
坂上くんは指輪を取ろうとしたが指輪はピッタリと私の薬指に嵌っていて取れない。坂上くんはいとも簡単に私の指から指輪を外すことができると思っていたらしく大きく目を見開いて驚いている。
「えっ!? 嘘でしょ?」
「坂上くんでも外せないほど強力な指輪なんだね。僕って凄いだろう? 存分に褒めてくれていいんだよ」
「すごいですね……」
得意気な風間と若干引き気味な坂上くんを見て私は泣きたくなった。これから先ずっと私は薬指に指輪をはめて過ごさないといけないなんて信じられない……
絶望に打ちひしがれる私の肩を風間がポンっと叩いてニヤリと笑った。
「大丈夫だ、苗字。僕も付けたから」
風間の左手の薬指は私の薬指に嵌められている指輪と同じデザインの指輪があった。それを見て私はとうとう言葉を無くしてしまった。
「なんで風間さんまでも薬指に指輪付けてるんですか!?」
坂上くんが風間の行動にツッコミを入れてくれたがヤツには届いていない。
「これで僕らは夫婦だ! 喜ばしいね苗字。あ、君も風間だから名前って呼んだほうがいいか」
風間が嬉しそうに私の名を呼びながら顔を覗き込んできたので反射的に顔を背けた。そして、私はこの状況を何とかすべく再度坂上くんに助けを求めた。
「ねぇ、坂上くん……」
坂上くんは申し訳なさそうに私から目を逸らした。う、うそでしょ、坂上くん……貴方ならこんな状況から救ってくれると信じていたのに。
「風間さん、苗字さん……末長くお幸せに」
そう言い残し坂上くんは足早に去っていく。私は追いかけることも出来ずに呆然と坂上くんの後姿を見ていた。
すると、唐突に私の身体が温かいものに包まれた。風間が抱きついてきたのだ。
「僕たち晴れて夫婦になった訳だし誓いのキスでもしようか」
「ちょっ……」
風間の顔が徐々に近づいてくる。逃れようも抱きしめられている為逃げられない。
避けられないと悟り、私はぎゅっと目を瞑った。そして、私の唇と風間の唇が触れ────
目が、覚めた。
目の前にあるのは風間ではなく、見慣れた自分の家。どうやら今のは夢だったようで私は心底安心した。
今日風間と会ったら一発ぶん殴ってやろう。そう決意した私は布団から起き上がりいつものように身支度を始める。
ことん、と何が落ちた音が聞こえた。音の発生源辺りを探していたら落とし物を見つけた。私はそれを見て悲鳴を上げたくなった。何故ならそれは。
あの夢と同じ形、同じ大きさ、同じ色の指輪だったからだ。
絶句する私をよそに指輪はあの夢と同じように銀色に光り輝いていた。