風間夢
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旧校舎の床は古ぼけていて一歩足を出す度にぎしぎしと音が鳴り、夕暮れのオレンジの光が私と風間の行先を道標かのように照らしている。
本来なら今頃の私は楽しみにしていたドラマの再放送を見ている筈だった。だが、教室から出ようとしていたところに奴に邪魔されて無理矢理この旧校舎に連れてこられたのだ。風間が何をしたいのかわからないがさっさと目的を達成して家に帰りたい。
「……ねぇ、風間」
「ん?」
「わざわざと旧校舎に忍び込んで何がしたいの? 肝試しなら他のところでやってくれないかな」
「今日は肝試しに来たわけじゃない。実は旧校舎のとある噂が飛び交っているんだよ。知ってるかい? あっ、失敬。友達のいない君には知らないだろうね」
風間の言葉にかなりイラッとしたが、ここで反応しては奴の思う壺だ。ここは何も言わずに冷静に対処しよう。
「……」
私はじっと奴を睨みつける。それが効いたのか否か風間は「冗談だよ、冗談!」と言って軽薄に笑いながら大きな身振りで手を振った。こんなところまで来ていつもと変わらない風間の様子に呆れた私は小さくため息を吐く。
「......旧校舎の噂って何?」
「おっ! 気になるかい!?」
「いや別に……ただ、興味ないからどうでも良かったけど、風間がしつこいから聞いてあげるよ。あと、早く帰ってドラマ見たいし」
「ふっ、素直じゃないなぁ~。まあそういう所も僕は好きだぜ」
風間はキメ顔でウィンクをしている。これも無視しよう。
「旧校舎の噂は三階の3-B教室にあるものが出るっていうものなんだ。どんなものが出ると思う?」
「幽霊」
「よく分かったね。正解だよ」
「旧校舎の噂なんて九割九分が幽霊関係でしょ。私でも知ってるよ。そんなの」
「それがね、幽霊は幽霊でもちょっと変わった幽霊らしいんだ」
「へー。それってどんな幽霊なの」
「それを今から確かめに行くんだよ」
風間の後を歩いているといつの間にか私達は例の教室に辿り着いていた。風間が教室の扉に手をかけるとすんなりと扉が開いた。教室を覗くと至って普通の教室にしか見えない。
「どうしたのさ。君も早く入りなよ」
「……分かったよ」
風間に招かれ私は教室に入った。教室に入った瞬間異様な寒気がする……なんてことは無く、積もった埃が宙を舞うだけだった。
幽霊が出るまで私は何となしに教室の中を探索するも何も成果は無かった。
教室に入ってからかなりの時間が経つ。日は沈みかけていて暗闇が迫りつつある。
「ねぇ、風間。もう帰ろうよ」
私は椅子に座っている風間に近寄った。すると、いきなり風間が私の手を掴んできた。
「ちょっと! 何するの!?」
「黙ってて」
「……」
仕方なく黙り込むと風間はゆっくりと私の手を握った。その瞬間、私の心臓は大きく跳ね上がる。風間の手は異常な程冷たかった。これはまるで。
「……幽霊」
「うん、正解だよ」
無機質な風間の声だけが暗闇の中で響き渡る。風間の「正解」という言葉の意味が理解出来なかった。
風間の奴はいつものように変なことを言って私を揶揄っているに違いない。「馬鹿じゃないの」と口にしようとするも、私の喉に何が引っかかっていて言葉が吐き出せない。ただ震える呼吸の音だけが私の口から漏れ出ている。
風間の言葉を聞いた直後だった。扉が開かれる音が聞こえる。思わず息を飲み込んだ。
「あれ、見つからないな。この辺だと思っていたんだけどな」
耳馴染みの声が聞こえた。その声を聞いて私は耳がおかしくなったのだと思ってしまった。
────ありえない、ありえない。だって、この声は風間なのだから。
「おかしいな? ここじゃないのか」
そう言い残しその声の持ち主は去っていった。背筋にたらりと冷たいものが流れ落ちた。
「かっ……風間。いま、のは」
ぎゅうぎゅうに振り絞って出てきたようやく出てきた声は震えていてか細い。
「なんだろうね。アレは」
繋がれていた手が更に強く握られる。
「ね、ねぇ……はな、して」
「............」
風間は何も言わない。だけど、異常に冷たい手だけは未だに力強く握り締められている。
「風間。お願いだから、離して」
「嫌だね」
風間は……いや、風間の姿をした何かはギギギとぎこちなく首をこちらに向けて不気味な笑みを浮かべた。
「やっとだ......ようやく生贄が手に入る!!」
ソイツは口が裂けそうなぐらいに口角を釣り上げて笑う。そして、私の首めがけてもう片方の手を伸ばしている。首を掴まれる寸前、思いっきり風間を突き飛ばした。
「うぐっ......」
それは打ちどころが悪かったのか顔をくしゃくしゃに歪ませ、蹲っている。
今がチャンスだ、急いで逃げないと。
私は駆け出した。ぎしぎしとまるで悲鳴のように不気味に鳴る廊下を全速力で駆け抜ける。ようやく玄関に着き、扉を開けようとするも扉は固く閉ざされている。
「どうして!?」
何度も力いっぱい引っ張るがびくともしない。後ろを振り向くと風間の姿をした化け物がこちらに向かってくるのが見える。
「逃がさないよォ……」
「くそっ……」
この場から離れて私は再び走り出した。しばらく走り回り、空いていた教室に逃げ込んだ。
荒い息を抑える。落ち着こうとしても上手くいかない。胸を押さえながら机の下に隠れるようにしゃがみこんだ。すると、扉ががらりと開く音が聞こえた。
もしや、見つかった?
身を固くして警戒していると足音は段々と近づいてきた。そして、それは私の目の前でぴたりと止まった。
「............こんなところで何をしているんだい」
「えっ......?」
顔を上げるとそこには困惑した表情をしている風間がいた。顔だけ見ればいつものように見えるけどもこれは私を油断させる罠に違いない。
……あぁ、終わった。私の人生。短い人生だったな。
私は目を瞑り、死を待った。だが、いつまで経ってもやってこない。
恐る恐る目を開くと風間は相変わらずに困惑した顔をしながら私を見つめているだけだった。
「............私を殺さないの?」
「殺すだって!? 誰がそんなこと」
「風間が私を」
「ハァ? 僕がそんなことするはずないだろう」
「さ、さっき私を生贄にするって言ってた」
「僕はそんなこと言ってない。そもそも今日僕は学校を休んだ。今日初めて会ったじゃないか。君とは」
と、風間は言っているがコイツが本物の風間かどうか未だにわからない。私はとあることを質問することにした。
「ねぇ、風間。一週間前に私が何円貸したかちゃんと覚えているよね」
「もちろんさ。五千円だろ?」
「……………………」
「えっ。合ってるよな。来週までに返さなかったら一ヶ月間君のパシリになることもちゃんと僕は覚えているからな!」
「正解」
「はぁ……驚かせないでよ、まったく。ところで君はさっき殺すとか生贄とか何やら変なことを言っていたけど何があったんだい?」
私は今までに起こった出来事を風間に話した。風間は自分の偽物についてとても興味を引かれている。
「へぇ……僕の偽物ね。是非とも会ってみたいな」
「風間の偽物に殺されそうになったんだけど。なんでもするからアイツをなんとかして」
「............なんでもするって?」
妙な間が空き、風間は真剣な顔を私に近づけてきた。
「う、うん......」
何か嫌な予感を感じつつも私は頷くしかなかった。私が頷いたのを見た風間は真剣な顔から打って変わり、やたらとご機嫌なイイ笑顔を浮かべた。
「じゃあ明日から購買で人気のあのパンを毎日買ってもらおうか」
風間の言葉に私は耳を疑った。購入するだけで一日の苦労を削がれるあのパンを買ってこいだって? これではまるで私は風間のパシリじゃないか。
「……はい?」
「ん? どうしたのかな。まさか出来ないなんてことはないよね」
風間は仁王立ちしてご機嫌なイイ笑顔を見せつけながら威圧してくる。
くそ……明日からとんでもない一日が始まってしまう。だが、命には変えられない。
「わ、わかったよ! それでいいから早く助けてよ」
「よし、交渉成立だね」
風間は私の腕を掴んで立ちがらせた。
「............ありがとう。それでどうやってアイツをやっつけるの?」
「それは秘密」
「は? ふざけてるの!?」
「僕は至って真面目だよ。それにもうすぐ来るから大丈夫」
「何が来るの!?」
風間の言葉の意味が分からず、当惑していると教室の扉が大きな音を立てて開かれた。
「みつけた……やっと捕まえたァ」
「ヒッ……」
再びアイツの姿を見てしまい先程の光景が再び頭によぎった。自分の想像以上に私はアイツのことがトラウマになっているようで、情けないことに腰が抜けてしまい私は地面に座りこんでしまった。
「おっと、危ない」
そう言い、風間は私のことを持ち上げるとそのまま抱きかかえた。所謂お姫様抱っこというものだ。
「なっ……降ろして!! 恥ずかしい!!」
「暴れると落ちるよ」
「うっ……」
風間に冷静にそう言われてしまえば大人しくせざるを得ない。私は大人しく身を縮こませた。
「僕の胸ポケットにある道具を出してくれないか」
「わかった」
私は風間の言う通りに胸ポケットから何やら変な道具を取り出した。
「......コレなに」
「コレはね、僕の故郷のスンバラリア星にある護身用グッズ。僕はスンバラリアで偉い立場にあるからね、命をよく狙われるのさ」
こんな状況なのに何言ってんだコイツ。私は呆れて何も言えなかった。
「まあ、君は気にしなくて良いよ。それの一番大きなボタンあるだろう? そこを押してくれ」
私は存在を主張している丸くて大きくて赤いボタンを押した。
『AFGJBFTJJ&VF!!』
聞いたことのない言葉が変な道具から聞こえたかと思うと眩い光がアイツに放たれて、轟音が響く。
あまりにも衝撃が強すぎて意識が朦朧とする。
「こんな……わすれ……いい。おや……み」
朦朧する意識の中、風間が何やら私に語りかけてきたが聞き取れない。私は風間に聞き返すことなく、意識を手放してしまった。
「......ぃ。おーい」
誰かに呼ばれている気がしてゆっくりと瞼を開いた。目の前には風間の顔がある。
「うわっ!!」
驚いて思わず後ずさると風間は不服そうな顔をしていた。
「そんな反応しなくても良くないか?」
「いきなり目の前に顔があったら驚くでしょ!」
「たしかに僕のカッコよくて美しい顔があったらそりゃ驚くか。アッハハハ! もう放課後だと言うのに机で突っ伏して寝ていてどうしたんだい」
「え......だって風間から旧校舎に行こうって言われたからそれで」
「何を言っているんだ? 旧校舎に行こうなんて言ってないぞ。夢でも見たんじゃないか」
「……うん。そうかもね」
「ぼさっとしてないで。ほら、さっさと帰るよ」
私は風間の手によって立ち上がされた。その手は温かい。生きている人の手だ。
「ん? 僕の手をまじまじと見つめてどうしたんだい」
「……何でもない」
私達は教室を出た。廊下に出ると優しいオレンジ色の夕日が窓から差し込み、辺りを照らしている。
風間のくだらない話を右から左へと流していると旧校舎が見えてきた。チラリと横目で旧校舎を見る。
あたりまえのことだけど、そこには誰もいなかった。
私は未だに手を繋いでいる風間の手をぎゅっと握り返してやった。
本来なら今頃の私は楽しみにしていたドラマの再放送を見ている筈だった。だが、教室から出ようとしていたところに奴に邪魔されて無理矢理この旧校舎に連れてこられたのだ。風間が何をしたいのかわからないがさっさと目的を達成して家に帰りたい。
「……ねぇ、風間」
「ん?」
「わざわざと旧校舎に忍び込んで何がしたいの? 肝試しなら他のところでやってくれないかな」
「今日は肝試しに来たわけじゃない。実は旧校舎のとある噂が飛び交っているんだよ。知ってるかい? あっ、失敬。友達のいない君には知らないだろうね」
風間の言葉にかなりイラッとしたが、ここで反応しては奴の思う壺だ。ここは何も言わずに冷静に対処しよう。
「……」
私はじっと奴を睨みつける。それが効いたのか否か風間は「冗談だよ、冗談!」と言って軽薄に笑いながら大きな身振りで手を振った。こんなところまで来ていつもと変わらない風間の様子に呆れた私は小さくため息を吐く。
「......旧校舎の噂って何?」
「おっ! 気になるかい!?」
「いや別に……ただ、興味ないからどうでも良かったけど、風間がしつこいから聞いてあげるよ。あと、早く帰ってドラマ見たいし」
「ふっ、素直じゃないなぁ~。まあそういう所も僕は好きだぜ」
風間はキメ顔でウィンクをしている。これも無視しよう。
「旧校舎の噂は三階の3-B教室にあるものが出るっていうものなんだ。どんなものが出ると思う?」
「幽霊」
「よく分かったね。正解だよ」
「旧校舎の噂なんて九割九分が幽霊関係でしょ。私でも知ってるよ。そんなの」
「それがね、幽霊は幽霊でもちょっと変わった幽霊らしいんだ」
「へー。それってどんな幽霊なの」
「それを今から確かめに行くんだよ」
風間の後を歩いているといつの間にか私達は例の教室に辿り着いていた。風間が教室の扉に手をかけるとすんなりと扉が開いた。教室を覗くと至って普通の教室にしか見えない。
「どうしたのさ。君も早く入りなよ」
「……分かったよ」
風間に招かれ私は教室に入った。教室に入った瞬間異様な寒気がする……なんてことは無く、積もった埃が宙を舞うだけだった。
幽霊が出るまで私は何となしに教室の中を探索するも何も成果は無かった。
教室に入ってからかなりの時間が経つ。日は沈みかけていて暗闇が迫りつつある。
「ねぇ、風間。もう帰ろうよ」
私は椅子に座っている風間に近寄った。すると、いきなり風間が私の手を掴んできた。
「ちょっと! 何するの!?」
「黙ってて」
「……」
仕方なく黙り込むと風間はゆっくりと私の手を握った。その瞬間、私の心臓は大きく跳ね上がる。風間の手は異常な程冷たかった。これはまるで。
「……幽霊」
「うん、正解だよ」
無機質な風間の声だけが暗闇の中で響き渡る。風間の「正解」という言葉の意味が理解出来なかった。
風間の奴はいつものように変なことを言って私を揶揄っているに違いない。「馬鹿じゃないの」と口にしようとするも、私の喉に何が引っかかっていて言葉が吐き出せない。ただ震える呼吸の音だけが私の口から漏れ出ている。
風間の言葉を聞いた直後だった。扉が開かれる音が聞こえる。思わず息を飲み込んだ。
「あれ、見つからないな。この辺だと思っていたんだけどな」
耳馴染みの声が聞こえた。その声を聞いて私は耳がおかしくなったのだと思ってしまった。
────ありえない、ありえない。だって、この声は風間なのだから。
「おかしいな? ここじゃないのか」
そう言い残しその声の持ち主は去っていった。背筋にたらりと冷たいものが流れ落ちた。
「かっ……風間。いま、のは」
ぎゅうぎゅうに振り絞って出てきたようやく出てきた声は震えていてか細い。
「なんだろうね。アレは」
繋がれていた手が更に強く握られる。
「ね、ねぇ……はな、して」
「............」
風間は何も言わない。だけど、異常に冷たい手だけは未だに力強く握り締められている。
「風間。お願いだから、離して」
「嫌だね」
風間は……いや、風間の姿をした何かはギギギとぎこちなく首をこちらに向けて不気味な笑みを浮かべた。
「やっとだ......ようやく生贄が手に入る!!」
ソイツは口が裂けそうなぐらいに口角を釣り上げて笑う。そして、私の首めがけてもう片方の手を伸ばしている。首を掴まれる寸前、思いっきり風間を突き飛ばした。
「うぐっ......」
それは打ちどころが悪かったのか顔をくしゃくしゃに歪ませ、蹲っている。
今がチャンスだ、急いで逃げないと。
私は駆け出した。ぎしぎしとまるで悲鳴のように不気味に鳴る廊下を全速力で駆け抜ける。ようやく玄関に着き、扉を開けようとするも扉は固く閉ざされている。
「どうして!?」
何度も力いっぱい引っ張るがびくともしない。後ろを振り向くと風間の姿をした化け物がこちらに向かってくるのが見える。
「逃がさないよォ……」
「くそっ……」
この場から離れて私は再び走り出した。しばらく走り回り、空いていた教室に逃げ込んだ。
荒い息を抑える。落ち着こうとしても上手くいかない。胸を押さえながら机の下に隠れるようにしゃがみこんだ。すると、扉ががらりと開く音が聞こえた。
もしや、見つかった?
身を固くして警戒していると足音は段々と近づいてきた。そして、それは私の目の前でぴたりと止まった。
「............こんなところで何をしているんだい」
「えっ......?」
顔を上げるとそこには困惑した表情をしている風間がいた。顔だけ見ればいつものように見えるけどもこれは私を油断させる罠に違いない。
……あぁ、終わった。私の人生。短い人生だったな。
私は目を瞑り、死を待った。だが、いつまで経ってもやってこない。
恐る恐る目を開くと風間は相変わらずに困惑した顔をしながら私を見つめているだけだった。
「............私を殺さないの?」
「殺すだって!? 誰がそんなこと」
「風間が私を」
「ハァ? 僕がそんなことするはずないだろう」
「さ、さっき私を生贄にするって言ってた」
「僕はそんなこと言ってない。そもそも今日僕は学校を休んだ。今日初めて会ったじゃないか。君とは」
と、風間は言っているがコイツが本物の風間かどうか未だにわからない。私はとあることを質問することにした。
「ねぇ、風間。一週間前に私が何円貸したかちゃんと覚えているよね」
「もちろんさ。五千円だろ?」
「……………………」
「えっ。合ってるよな。来週までに返さなかったら一ヶ月間君のパシリになることもちゃんと僕は覚えているからな!」
「正解」
「はぁ……驚かせないでよ、まったく。ところで君はさっき殺すとか生贄とか何やら変なことを言っていたけど何があったんだい?」
私は今までに起こった出来事を風間に話した。風間は自分の偽物についてとても興味を引かれている。
「へぇ……僕の偽物ね。是非とも会ってみたいな」
「風間の偽物に殺されそうになったんだけど。なんでもするからアイツをなんとかして」
「............なんでもするって?」
妙な間が空き、風間は真剣な顔を私に近づけてきた。
「う、うん......」
何か嫌な予感を感じつつも私は頷くしかなかった。私が頷いたのを見た風間は真剣な顔から打って変わり、やたらとご機嫌なイイ笑顔を浮かべた。
「じゃあ明日から購買で人気のあのパンを毎日買ってもらおうか」
風間の言葉に私は耳を疑った。購入するだけで一日の苦労を削がれるあのパンを買ってこいだって? これではまるで私は風間のパシリじゃないか。
「……はい?」
「ん? どうしたのかな。まさか出来ないなんてことはないよね」
風間は仁王立ちしてご機嫌なイイ笑顔を見せつけながら威圧してくる。
くそ……明日からとんでもない一日が始まってしまう。だが、命には変えられない。
「わ、わかったよ! それでいいから早く助けてよ」
「よし、交渉成立だね」
風間は私の腕を掴んで立ちがらせた。
「............ありがとう。それでどうやってアイツをやっつけるの?」
「それは秘密」
「は? ふざけてるの!?」
「僕は至って真面目だよ。それにもうすぐ来るから大丈夫」
「何が来るの!?」
風間の言葉の意味が分からず、当惑していると教室の扉が大きな音を立てて開かれた。
「みつけた……やっと捕まえたァ」
「ヒッ……」
再びアイツの姿を見てしまい先程の光景が再び頭によぎった。自分の想像以上に私はアイツのことがトラウマになっているようで、情けないことに腰が抜けてしまい私は地面に座りこんでしまった。
「おっと、危ない」
そう言い、風間は私のことを持ち上げるとそのまま抱きかかえた。所謂お姫様抱っこというものだ。
「なっ……降ろして!! 恥ずかしい!!」
「暴れると落ちるよ」
「うっ……」
風間に冷静にそう言われてしまえば大人しくせざるを得ない。私は大人しく身を縮こませた。
「僕の胸ポケットにある道具を出してくれないか」
「わかった」
私は風間の言う通りに胸ポケットから何やら変な道具を取り出した。
「......コレなに」
「コレはね、僕の故郷のスンバラリア星にある護身用グッズ。僕はスンバラリアで偉い立場にあるからね、命をよく狙われるのさ」
こんな状況なのに何言ってんだコイツ。私は呆れて何も言えなかった。
「まあ、君は気にしなくて良いよ。それの一番大きなボタンあるだろう? そこを押してくれ」
私は存在を主張している丸くて大きくて赤いボタンを押した。
『AFGJBFTJJ&VF!!』
聞いたことのない言葉が変な道具から聞こえたかと思うと眩い光がアイツに放たれて、轟音が響く。
あまりにも衝撃が強すぎて意識が朦朧とする。
「こんな……わすれ……いい。おや……み」
朦朧する意識の中、風間が何やら私に語りかけてきたが聞き取れない。私は風間に聞き返すことなく、意識を手放してしまった。
「......ぃ。おーい」
誰かに呼ばれている気がしてゆっくりと瞼を開いた。目の前には風間の顔がある。
「うわっ!!」
驚いて思わず後ずさると風間は不服そうな顔をしていた。
「そんな反応しなくても良くないか?」
「いきなり目の前に顔があったら驚くでしょ!」
「たしかに僕のカッコよくて美しい顔があったらそりゃ驚くか。アッハハハ! もう放課後だと言うのに机で突っ伏して寝ていてどうしたんだい」
「え......だって風間から旧校舎に行こうって言われたからそれで」
「何を言っているんだ? 旧校舎に行こうなんて言ってないぞ。夢でも見たんじゃないか」
「……うん。そうかもね」
「ぼさっとしてないで。ほら、さっさと帰るよ」
私は風間の手によって立ち上がされた。その手は温かい。生きている人の手だ。
「ん? 僕の手をまじまじと見つめてどうしたんだい」
「……何でもない」
私達は教室を出た。廊下に出ると優しいオレンジ色の夕日が窓から差し込み、辺りを照らしている。
風間のくだらない話を右から左へと流していると旧校舎が見えてきた。チラリと横目で旧校舎を見る。
あたりまえのことだけど、そこには誰もいなかった。
私は未だに手を繋いでいる風間の手をぎゅっと握り返してやった。