風間夢
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いつもの時間に起きて、ご飯を食べ、家を出る。いつもの道を通り、学校に着き、自分の席に着いた。今日こそは平穏な1日を過ごせますようにと願う。だが、その願いは奴の登場によりかき消された。
「やぁ。おはよう」
風間望。奴が私が望む平穏な日常をことごとく破壊する変な奴、否。頭のおかしい奴。
本当はこんな奴とは会話したくも無いのだが、無視すると更に面倒な事になるので仕方がなく返事をする。
「風間おはよう」
「いやぁ、今日もこのカッコマンと会えて君は今日も幸せ者だねぇ」
今日も風間は殴りたくなるほどムカつく笑顔を浮かべ、私の隣の席に座った。私と会話をしたくて仕方がないのか、休み時間になると必ずと言っていい程、話しかけてくる。私はそんな彼に迷惑しているのだ。
それに、彼はこの学校でかなりの人気者で女子からモテているらしい。こんな奴のどこに魅力を感じるのかさっぱりわからない。
たしかに顔とスタイルは良い、それは認める。だが性格が最悪なのだ。この男は。とにかくウザイ。話が長いし、しつこい。無理矢理こっくりさんに付き合わせられるし、その後500円取られるし。
悲しいことに三年間も風間望と同じクラスになってしまったのだ。きっとこれから先もずっと付きまとわれるんだろうなと思うと憂鬱になる。そんな事を考えながら机の上で頬杖をつく。
その時だった。ふわりとした風が教室内に吹き込んできた。それと同時に桜の花びらがひらりと舞い落ちる。窓から外を見ると満開になったソメイヨシノの木があった。
そういえばもう春か。なんて事を考えていると隣に座っていたはずの風間の姿が見えなくなっていた。トイレでも行ってるのかな?と思いながらも視線を戻し、彼を待つ。だがそこには誰もいなかった。
あれ……さっきまでここに居たはずなのに……。
キョロキョロと周りを見渡してみるがやはり姿はない。不思議に思いつつもそのまま授業を受けた。チャイムの音と共に授業が終わった。結局、風間はいなかった。あの後、どこに行ったのだろうかと考えつつ教科書等を鞄の中にしまう。そして帰ろうと立ち上がり歩き出した瞬間、背後から声をかけられた。
「ちょっと待ってよ」
振り返るとそこには風間がいた。いつの間に後ろに立っていたのだろう。全く気付かなかった。というより何で呼び止められたのか、今まで何処に行ってたのかと沢山の疑問を抱きながら彼の方を見る。
「えっと……何か用?」
恐る恐る聞いてみた。すると彼は相変わらずムカつく笑顔を浮かべながらこう言った。
「宇宙に行ってみたいとは思わないかい」
一瞬何を言われたのか理解出来なかった。いきなり訳の分からないことを言われても困ってしまう。
「......なんだって?」
「だから。宇宙に行ってみたいとは思わないかいと言っているんだ」
聞き返すと彼はもう一度同じ言葉を繰り返した。今度はしっかりと聞こえたがそれでも意味がわからなかった。
宇宙に行きたいかどうかだって? なんで急にそんなことを聞くんだろうか。
「行きたいとは思うけど……」
「だと思ったよ。君は宇宙に行くのが夢なんだろう?」
「えっ......! うん、そうだよ」
困惑しながら答えると彼は嬉しそうな表情を見せた。一体どうしたというのだろう。いつも以上に様子がおかしい気がする。
というか、まさか私の夢を風間が覚えているなんて驚いた。だって私の夢を風間に話したのは一年生の時だったから。入学したての頃に図書館で宇宙の本を読んでいたら風間に声をかけられた「君、宇宙に興味があるのかい」と。
その質問に私は大きく頷き、小さい頃から天文学が好きだからと答えた。それから何故か宇宙のことに詳しい風間と話が進み、その当時友達がいなかった私は浮かれてしまってついつい「私の夢は宇宙に行くことなんだよ」と口走ったのだ。
あぁ、そうだ。今思い出した。それを聞いた風間が目を見開かせて驚いた顔をしていたな。
それからだんだんと風間と仲良くなってしまい、今に至る。もし過去に戻れるならあの当時の私に言いたい。風間望とは付き合うなと。......いや、付き合うなは言い過ぎかな。ほどほどに仲良くしろとでも言っておこう。
「僕が宇宙に連れて行ってやるよ。今は無理だけどね」
「なんで無理なの?」
「ネポット星人とカタッチャ星人が戦争しているからね。宇宙が危ないんだよ」
「へー、そうなの」
「興味なさそうだなぁ」
「うん」
正直言って興味が無い。宇宙人同士が戦っているとかそんな話はどうでもいいのだ。それよりも何故、彼が突然そんな話をしてきたのかの方が気になっている。もしかしてまた私をからかっているだけなんじゃないかと思ったが、今日に限っては違うような気がした。
「ねぇ、どうしてそんな話を持ちかけてきたの? まさか本当に私を宇宙に連れて行くつもりじゃないよね?」
「もちろんだよ。本当だとも!」
彼は自信たっぷりに答えた。その目には嘘偽りなど無いように見えた。本気で言っているらしい。ますますわけがわからない。
「じゃあどうやって行くっていうの?」
「それは秘密! 楽しみにしておいてよ」
やっぱりからかわれているだけだったようだ。まあいいや、今度こそ帰るぞと立ち去ろうとした時、腕を掴まれた。
「何?」
「一緒に帰らないか?」
「……別にいいけど」
帰り道の道中、風間はずっと上機嫌だった。鼻歌を歌いながらスキップをしたりしている。まるで子供だ。その様子を見て、私は少し笑ってしまった。
「そういえば他に誰か宇宙行くの誘った人いるの?」
今日は何となく気分がいいから風間の話に付き合ってやることにした。
「いいや。君一人だけだよ」
「ふぅん、そっか」
特に理由は無いが、二人だけで行けるならそれでいいかと納得してしまった。知らない人と一緒に行くよりかは風間と二人だけで行く方がいいし。
ふと、顔を上げると陽が落ちかけていてキラキラと光る星が見えた。
「あっ! 風間、見て星だよ!!」
「あの星は......」
風間まるでドラマのセリフのように滞りなくあの星の説明をする。私の誕生日を忘れるくせにこういうことは覚えているんだな。
それからいつもみたいにダラダラと中身のない会話をしていたらいつの間にか家の前に着いた。
「今日はありがとうね。風間」
「それじゃあ、また明日」
「............忘れないでね。約束」
「忘れないさ」
風間はくるりと回り、歩いて行く。私は風間の姿が見えなくなるまで、ずっといつまでそこに立っていた。
翌日、学校へ行くと風間の姿は無かった。翌日も来週も再来週も姿が無かった。一ヶ月過ぎても風間の姿は無かった。
隣の席は無くなってしまった。不思議なことにあれだけ人気者だった風間の姿が見えなくなったら必ず噂になるはずなのに誰も風間の話をする人がいない。
まるでみんなの記憶から風間望が抜け落ちたみたいだ。でも、私は覚えている。彼のことは忘れたくとも忘れられないだろう。......あんな奴忘れてやるもんか。結局、風間が何処に行ったのかはわからなかった。
それから私は学校を卒業した。大学に進学し、就職し、平凡な毎日を過ごしている。
それにしても今日は散々な一日だった。アラームをかけ忘れて遅刻するし、仕事のミスはするし、上司に怒られたし、最悪だ。ため息を吐きながら帰り道を歩く。
顔を上げると電柱に付いた明かりに照らされている桜と夜空に一際輝く一等星があった。そういえばあの日もこんな風に綺麗だったっけ。
「やぁ。こんばんは」
背後から声が聞こえた。振り返るとそこには風間望の姿があった。彼はあの日から何も変わっていない。背が伸びたり痩せ細ったりしてもない。
「……風間!? なんでここにいるの?」
驚きすぎて声が裏返る。そんな私を見て彼はクスリと笑う。
「言っただろう? 僕は君を宇宙に連れていくって」
「……約束、守ってくれたんだ」
「ああ、当たり前じゃないか」
嬉しかった。あの日のことが夢ではなかったんだと思うと心の底から喜びを感じた。
「じゃあ早速行こうよ」
風間の手を握る。すると体がフワリとした感覚に包まれた。それと同時に私の意識は遠くなっていった。
目を覚ますと見慣れない部屋にいた。ここはどこだろう。起き上がって辺りを見渡す。そこは寝室のような場所だった。だがベッドではなく布団に寝かせられていた。
ちゃぶ台で食事をしている風間を見つけた。彼は私が起きたことに気がついたようで、立ち上がった。
「やぁ。おはよう、よく眠れたかい」
隣に風間が座りにっこりと笑った。
「うん、まぁ」
「それはそれは何よりだ」
そう言うと彼は立ち上がり台所の方へと向かった。しばらくするとお盆を持って戻ってきた。その上に乗っているのはご飯とみそ汁と焼き魚とサラダだった。それをちゃぶ台の上に置くと再び座る。
「お腹空いているだろ。さあ食べようか」
「いただきます」
手を合わせて箸を手に取る。そして食事を始めた。味は普通に美味しい。
「どうだい?僕の作った料理は」
「美味しいよ」
素直に答えると彼は満足げな表情を浮かべた。そして自分も食事を始める。しばらくの間、沈黙が続いたがそれを破ったのは彼の方だった。
「それにしても君の指輪似合っているよ」
指輪......? 私はそんなものなんてつけていないんだけど。チラリと左手の薬指を見た。そこには銀色に輝くものが。
「はっ!? なにこれ?」
慌てふためく私をよそにのんびりと彼は答えた。
「見ればわかるだろ。結婚指輪でしょ」
「け、け、けっこん!? わたしが!? だれと!?」
「............僕とに決まっているだろう。何を言っているんだ」
風間はやれやれと言わんばかりにお茶を一口飲んだ。
「いやいや......そもそも私たち結婚どころか付き合ってすらいないでしょ!?」
「まぁ、交際はしていなかったね。でも、君は僕のこと好きだろう」
「なっ......!?」
ドキリと心臓が跳ねる。さも当たり前のようにさらりとそんなことを口にするもんだから驚いた。「図星だろ」と彼が口パクで言っている。
............悔しいが図星だ。久しぶりに会えてすごく嬉しいとか、本当はとても会いたかったとか、実は初めて会った日から風間のことが好きとか、そんなことは口が裂けても言ってやるものか。
なんで私が彼が好きということが彼自身が知っているのかは謎だけど、聞かないでおこう。絶対変なこと言ってくるぞ奴は。
こんな話題今はいいのだ。そんなことより今まで思っていた疑問を彼にぶつけることにした。
「あ、あのさ。ここってどこなの?」
「ここ? ここは宇宙船だよ」
「えぇ......そんなわけないでしょ、風間。こんな普通の部屋みたいなところが宇宙船なんて」
風間が立ち上がりカーテンを開けた。
「外、見てみなよ」
半信半疑でカーテンの外を見た。そこには、どこまでも真っ暗な空と宝石のようなキラキラしたものが当たり一面に散らばっている景色があった。
まさか、映像や本や見たものがそのままそっくり自分の目で見られるなんて私は胸の高まりが抑えられなかった。
「わあ! すごいすごい!! なにこれ!!」
「喜んでいるようでなにより」
風間は自慢気に腕を組んで鼻を鳴らした。その様子がちょっとイラッとしてくる。まぁ、これが風間なんだけどね。
「なんで私の夢を叶えてくれたの、というかなんで私と結婚しようと思ったの」
「地球人である君は知らないだろうから教えるよ。地球人一人を宇宙に連れて行くっていうのはとても大変なんだよ、わかるかい? だが、この僕の手にかかればお茶の子さいさいさ。地球潜入調査に協力してくれたし、この僕と仲良くしてくれたから君の夢を叶えてやろうと思ったのさ。結婚は......その、つまり」
「えっと……つまり?」
「君が好きだっていうことだ」
真っ直ぐ見つめられて言われた言葉に思わずドキッとする。
「そ、そうなんだ」
照れ隠しのためにみそ汁を飲もうとするも中身は空っぽだった。
「おかわりいる?」
「............ください」
風間はすぐにおかわりを持ってきてくれた。みそ汁の入った器を受け取ろうとすると風間の手が優しく私の手を握る。
「末永くよろしく頼むよ」
私の手を握る彼の手に視線を向ける。そこには私と同じように銀色に輝く指輪があった。
私が過ごしていた平穏な日常をことごとく破壊した変な奴。こんな私の夢を叶えてくれた頭のおかしい......否。ちょっと頭のおかしい奴で私の好きな人で結婚相手。それが風間望だ。
「やぁ。おはよう」
風間望。奴が私が望む平穏な日常をことごとく破壊する変な奴、否。頭のおかしい奴。
本当はこんな奴とは会話したくも無いのだが、無視すると更に面倒な事になるので仕方がなく返事をする。
「風間おはよう」
「いやぁ、今日もこのカッコマンと会えて君は今日も幸せ者だねぇ」
今日も風間は殴りたくなるほどムカつく笑顔を浮かべ、私の隣の席に座った。私と会話をしたくて仕方がないのか、休み時間になると必ずと言っていい程、話しかけてくる。私はそんな彼に迷惑しているのだ。
それに、彼はこの学校でかなりの人気者で女子からモテているらしい。こんな奴のどこに魅力を感じるのかさっぱりわからない。
たしかに顔とスタイルは良い、それは認める。だが性格が最悪なのだ。この男は。とにかくウザイ。話が長いし、しつこい。無理矢理こっくりさんに付き合わせられるし、その後500円取られるし。
悲しいことに三年間も風間望と同じクラスになってしまったのだ。きっとこれから先もずっと付きまとわれるんだろうなと思うと憂鬱になる。そんな事を考えながら机の上で頬杖をつく。
その時だった。ふわりとした風が教室内に吹き込んできた。それと同時に桜の花びらがひらりと舞い落ちる。窓から外を見ると満開になったソメイヨシノの木があった。
そういえばもう春か。なんて事を考えていると隣に座っていたはずの風間の姿が見えなくなっていた。トイレでも行ってるのかな?と思いながらも視線を戻し、彼を待つ。だがそこには誰もいなかった。
あれ……さっきまでここに居たはずなのに……。
キョロキョロと周りを見渡してみるがやはり姿はない。不思議に思いつつもそのまま授業を受けた。チャイムの音と共に授業が終わった。結局、風間はいなかった。あの後、どこに行ったのだろうかと考えつつ教科書等を鞄の中にしまう。そして帰ろうと立ち上がり歩き出した瞬間、背後から声をかけられた。
「ちょっと待ってよ」
振り返るとそこには風間がいた。いつの間に後ろに立っていたのだろう。全く気付かなかった。というより何で呼び止められたのか、今まで何処に行ってたのかと沢山の疑問を抱きながら彼の方を見る。
「えっと……何か用?」
恐る恐る聞いてみた。すると彼は相変わらずムカつく笑顔を浮かべながらこう言った。
「宇宙に行ってみたいとは思わないかい」
一瞬何を言われたのか理解出来なかった。いきなり訳の分からないことを言われても困ってしまう。
「......なんだって?」
「だから。宇宙に行ってみたいとは思わないかいと言っているんだ」
聞き返すと彼はもう一度同じ言葉を繰り返した。今度はしっかりと聞こえたがそれでも意味がわからなかった。
宇宙に行きたいかどうかだって? なんで急にそんなことを聞くんだろうか。
「行きたいとは思うけど……」
「だと思ったよ。君は宇宙に行くのが夢なんだろう?」
「えっ......! うん、そうだよ」
困惑しながら答えると彼は嬉しそうな表情を見せた。一体どうしたというのだろう。いつも以上に様子がおかしい気がする。
というか、まさか私の夢を風間が覚えているなんて驚いた。だって私の夢を風間に話したのは一年生の時だったから。入学したての頃に図書館で宇宙の本を読んでいたら風間に声をかけられた「君、宇宙に興味があるのかい」と。
その質問に私は大きく頷き、小さい頃から天文学が好きだからと答えた。それから何故か宇宙のことに詳しい風間と話が進み、その当時友達がいなかった私は浮かれてしまってついつい「私の夢は宇宙に行くことなんだよ」と口走ったのだ。
あぁ、そうだ。今思い出した。それを聞いた風間が目を見開かせて驚いた顔をしていたな。
それからだんだんと風間と仲良くなってしまい、今に至る。もし過去に戻れるならあの当時の私に言いたい。風間望とは付き合うなと。......いや、付き合うなは言い過ぎかな。ほどほどに仲良くしろとでも言っておこう。
「僕が宇宙に連れて行ってやるよ。今は無理だけどね」
「なんで無理なの?」
「ネポット星人とカタッチャ星人が戦争しているからね。宇宙が危ないんだよ」
「へー、そうなの」
「興味なさそうだなぁ」
「うん」
正直言って興味が無い。宇宙人同士が戦っているとかそんな話はどうでもいいのだ。それよりも何故、彼が突然そんな話をしてきたのかの方が気になっている。もしかしてまた私をからかっているだけなんじゃないかと思ったが、今日に限っては違うような気がした。
「ねぇ、どうしてそんな話を持ちかけてきたの? まさか本当に私を宇宙に連れて行くつもりじゃないよね?」
「もちろんだよ。本当だとも!」
彼は自信たっぷりに答えた。その目には嘘偽りなど無いように見えた。本気で言っているらしい。ますますわけがわからない。
「じゃあどうやって行くっていうの?」
「それは秘密! 楽しみにしておいてよ」
やっぱりからかわれているだけだったようだ。まあいいや、今度こそ帰るぞと立ち去ろうとした時、腕を掴まれた。
「何?」
「一緒に帰らないか?」
「……別にいいけど」
帰り道の道中、風間はずっと上機嫌だった。鼻歌を歌いながらスキップをしたりしている。まるで子供だ。その様子を見て、私は少し笑ってしまった。
「そういえば他に誰か宇宙行くの誘った人いるの?」
今日は何となく気分がいいから風間の話に付き合ってやることにした。
「いいや。君一人だけだよ」
「ふぅん、そっか」
特に理由は無いが、二人だけで行けるならそれでいいかと納得してしまった。知らない人と一緒に行くよりかは風間と二人だけで行く方がいいし。
ふと、顔を上げると陽が落ちかけていてキラキラと光る星が見えた。
「あっ! 風間、見て星だよ!!」
「あの星は......」
風間まるでドラマのセリフのように滞りなくあの星の説明をする。私の誕生日を忘れるくせにこういうことは覚えているんだな。
それからいつもみたいにダラダラと中身のない会話をしていたらいつの間にか家の前に着いた。
「今日はありがとうね。風間」
「それじゃあ、また明日」
「............忘れないでね。約束」
「忘れないさ」
風間はくるりと回り、歩いて行く。私は風間の姿が見えなくなるまで、ずっといつまでそこに立っていた。
翌日、学校へ行くと風間の姿は無かった。翌日も来週も再来週も姿が無かった。一ヶ月過ぎても風間の姿は無かった。
隣の席は無くなってしまった。不思議なことにあれだけ人気者だった風間の姿が見えなくなったら必ず噂になるはずなのに誰も風間の話をする人がいない。
まるでみんなの記憶から風間望が抜け落ちたみたいだ。でも、私は覚えている。彼のことは忘れたくとも忘れられないだろう。......あんな奴忘れてやるもんか。結局、風間が何処に行ったのかはわからなかった。
それから私は学校を卒業した。大学に進学し、就職し、平凡な毎日を過ごしている。
それにしても今日は散々な一日だった。アラームをかけ忘れて遅刻するし、仕事のミスはするし、上司に怒られたし、最悪だ。ため息を吐きながら帰り道を歩く。
顔を上げると電柱に付いた明かりに照らされている桜と夜空に一際輝く一等星があった。そういえばあの日もこんな風に綺麗だったっけ。
「やぁ。こんばんは」
背後から声が聞こえた。振り返るとそこには風間望の姿があった。彼はあの日から何も変わっていない。背が伸びたり痩せ細ったりしてもない。
「……風間!? なんでここにいるの?」
驚きすぎて声が裏返る。そんな私を見て彼はクスリと笑う。
「言っただろう? 僕は君を宇宙に連れていくって」
「……約束、守ってくれたんだ」
「ああ、当たり前じゃないか」
嬉しかった。あの日のことが夢ではなかったんだと思うと心の底から喜びを感じた。
「じゃあ早速行こうよ」
風間の手を握る。すると体がフワリとした感覚に包まれた。それと同時に私の意識は遠くなっていった。
目を覚ますと見慣れない部屋にいた。ここはどこだろう。起き上がって辺りを見渡す。そこは寝室のような場所だった。だがベッドではなく布団に寝かせられていた。
ちゃぶ台で食事をしている風間を見つけた。彼は私が起きたことに気がついたようで、立ち上がった。
「やぁ。おはよう、よく眠れたかい」
隣に風間が座りにっこりと笑った。
「うん、まぁ」
「それはそれは何よりだ」
そう言うと彼は立ち上がり台所の方へと向かった。しばらくするとお盆を持って戻ってきた。その上に乗っているのはご飯とみそ汁と焼き魚とサラダだった。それをちゃぶ台の上に置くと再び座る。
「お腹空いているだろ。さあ食べようか」
「いただきます」
手を合わせて箸を手に取る。そして食事を始めた。味は普通に美味しい。
「どうだい?僕の作った料理は」
「美味しいよ」
素直に答えると彼は満足げな表情を浮かべた。そして自分も食事を始める。しばらくの間、沈黙が続いたがそれを破ったのは彼の方だった。
「それにしても君の指輪似合っているよ」
指輪......? 私はそんなものなんてつけていないんだけど。チラリと左手の薬指を見た。そこには銀色に輝くものが。
「はっ!? なにこれ?」
慌てふためく私をよそにのんびりと彼は答えた。
「見ればわかるだろ。結婚指輪でしょ」
「け、け、けっこん!? わたしが!? だれと!?」
「............僕とに決まっているだろう。何を言っているんだ」
風間はやれやれと言わんばかりにお茶を一口飲んだ。
「いやいや......そもそも私たち結婚どころか付き合ってすらいないでしょ!?」
「まぁ、交際はしていなかったね。でも、君は僕のこと好きだろう」
「なっ......!?」
ドキリと心臓が跳ねる。さも当たり前のようにさらりとそんなことを口にするもんだから驚いた。「図星だろ」と彼が口パクで言っている。
............悔しいが図星だ。久しぶりに会えてすごく嬉しいとか、本当はとても会いたかったとか、実は初めて会った日から風間のことが好きとか、そんなことは口が裂けても言ってやるものか。
なんで私が彼が好きということが彼自身が知っているのかは謎だけど、聞かないでおこう。絶対変なこと言ってくるぞ奴は。
こんな話題今はいいのだ。そんなことより今まで思っていた疑問を彼にぶつけることにした。
「あ、あのさ。ここってどこなの?」
「ここ? ここは宇宙船だよ」
「えぇ......そんなわけないでしょ、風間。こんな普通の部屋みたいなところが宇宙船なんて」
風間が立ち上がりカーテンを開けた。
「外、見てみなよ」
半信半疑でカーテンの外を見た。そこには、どこまでも真っ暗な空と宝石のようなキラキラしたものが当たり一面に散らばっている景色があった。
まさか、映像や本や見たものがそのままそっくり自分の目で見られるなんて私は胸の高まりが抑えられなかった。
「わあ! すごいすごい!! なにこれ!!」
「喜んでいるようでなにより」
風間は自慢気に腕を組んで鼻を鳴らした。その様子がちょっとイラッとしてくる。まぁ、これが風間なんだけどね。
「なんで私の夢を叶えてくれたの、というかなんで私と結婚しようと思ったの」
「地球人である君は知らないだろうから教えるよ。地球人一人を宇宙に連れて行くっていうのはとても大変なんだよ、わかるかい? だが、この僕の手にかかればお茶の子さいさいさ。地球潜入調査に協力してくれたし、この僕と仲良くしてくれたから君の夢を叶えてやろうと思ったのさ。結婚は......その、つまり」
「えっと……つまり?」
「君が好きだっていうことだ」
真っ直ぐ見つめられて言われた言葉に思わずドキッとする。
「そ、そうなんだ」
照れ隠しのためにみそ汁を飲もうとするも中身は空っぽだった。
「おかわりいる?」
「............ください」
風間はすぐにおかわりを持ってきてくれた。みそ汁の入った器を受け取ろうとすると風間の手が優しく私の手を握る。
「末永くよろしく頼むよ」
私の手を握る彼の手に視線を向ける。そこには私と同じように銀色に輝く指輪があった。
私が過ごしていた平穏な日常をことごとく破壊した変な奴。こんな私の夢を叶えてくれた頭のおかしい......否。ちょっと頭のおかしい奴で私の好きな人で結婚相手。それが風間望だ。
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