王族サイド(番外編)

「母様! お願いがあります!」
執務室のテーブルの先。
書類の隙間から、金髪の男の子がテーブルの端に掴まり、つま先立ちで覗いてきていた。
我が子の微笑ましい姿に目を細める。
「どうしたの? お仕事中にカミューが来るなんて」
「お祭りのあの子と、お話がしたいです!」
「お祭りの……?」
「みこしで踊っていた子です!」
確かノルン、と言ったか。
あの子供の管理は、王室とは違う管轄の為、詳しくは知らないが。

「どうして?」
「どう……えっと……」
言葉に詰まり、困った顔で口ごもる。
思う所があるのだろうが、まだ言語化するのが難しいようだ。
それでも、この子からお願いをされるの初めてだった。
その気持ちを尊重したかった。

「お友達が欲しいのかしら?」
「…はい!」
困っていた顔が、ぱあっと輝く。
そういえば、あの子供が笑っているところを見たことない、と気づく。
あの子もこんな風に笑うのだろうか。
「なら、母様からお願いしてみるわね」
「ありがとう! 母様!」
跳ねるように礼を言うと、その勢いで部屋から出ていく息子。
ふ、と息を吐き窓の外に目をやる。
自分の子供と近い年の少年。
どんな状態でいるのか、今まで関わってこなかったが、様子を見る必要がありそうだった。


「はじめまして!」
「……」
差し出された手を、ただ見つめるノルン。
そんなノルンを不思議そうにのぞき込み、
「こうするんだよ」
ノルンの手をそっと持ち上げ、自分の手と重ね、小さな手が握手をする。
それでも何の反応もないノルン。
ふと、妹が今日咲いた花で喜んでいたことを思い出す。
「見せたいものがあるんだ! こっちにきて!」

「今日咲いたんだよ」
中庭に出て、花壇の前にしゃがむカミュー。
相変わらず、何の反応もないノルンを見上げ、
「このお花はね、妹が種を埋めたんだよ」
花に向かいなおす。
「最初は、全然かわらなくて、妹、しょげちゃったんだ」
何も映らない瞳でノルンは佇む。
長い銀髪が風に遊ばれる。
「でもね、そのうち芽がでてきたんだ」
くるっと、ノルンの方に振り向く。
「毎日、少しずつ、変ってくんだ!」

立ち上がり、ノルンの手を取る。
「楽しいよ! ノルンも、植えてみない?」
人形のように立ち尽くすノルンの顔を覗き込む。

今よりもっと幼かった頃、カミュ―は引っ込み思案だった。
変ったのは妹が出来てからだ。
破天荒な妹は何をしでかすか分からず、世話をしているうちによく笑う自分がいた。
こんな時、妹なら、と考え、
「おいで、ノルン」
ノルンの腕をゆっくりと引き、庭師を捕まえに行く。
少しずつでいい。
いつかこの子が笑ってくれるのを思い描きながら、花の種を探しに行った。
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