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ストーリー•序章

部屋で一人になり思い出すのは、城へ来た当初の記憶。

いつもそばにいてくれ、周りにも優しい兄は幼い俺の自慢の兄だった。
もう顔もおぼろげで、声すらかすみがかかったような記憶。それでも、優しい兄だったことだけは覚えている。

たった一人の家族、兄と引きはがされて連れてこられた城はまるで牢獄のようだった。

兄の安否も確認できない不安で何日も眠れなかったのを覚えている。

暗い部屋から出ることはできず、3食のご飯だけしかあくことのない扉。

数日たった後、魔術師が部屋から俺を連れ出す。

「兄さんは?無事なの?」

思わず聞いてしまった。

「兄?あぁ、あの邪魔だった子供か今頃死んでるんじゃないか?」

聞きたくなかった言葉、体が冷え思わずせり上がってきたものを吐いた。
魔術師は、汚いものを見るように一瞥し近くにいたもう一人に俺を担ぐように指示する。

抵抗しようにも体力の限界に近いこの体は言うことを聞かない。
遠のく意識を手放して、心の中で兄を呼んだ。

次に目が覚めると広い部屋にいた。
特に何かあるわけじゃない部屋に数台の燭台がゆらゆら揺れていた。

「印の所有者、君のおかげで私の探究心はどこまでも広くそして深くなった」

部屋に響く声は、ゆっくりと近づいてくる。

「印は、魂に刻まれるもの。とても精密で多くの術式が組まれた印。今の我々はこの美しい術式を再現出来るのか。とても興味深い」

ゆっくりと部屋の周りを歩き始める魔術師。他に人がいないが、逃げようとしても、見えない壁があるのか部屋の中心から離れることが出来ない。

「前回の印所有者は、印の分離に失敗した。魂の結びつきが強かったせいだ。なら、結びつきの弱い子供であれば?」

背中に冷たい汗が流れる。息をするのが難しい。
目の前にいる恐怖をただ凝視するしかない。

「君は実に理想的な、実験体だよ。簡単に死んでくれるなよ」

ニヤリと弧を描いた口元を隠すこともせず、手を挙げる。
数人の魔術師が部屋へ入ってきて準備が始まる。

「い・・いや・・だ・・・兄さん・・・助けて・・・」

絞りだした声はむなしく掻き消えた。

それからは、実験の繰り返し。
体の感覚、意識、自我が少しずつ消えていく、恐怖さえもなくなって何も感じなくなるまでに、そう時間はかからなかった。

そうして何年過ぎただろう、何も感じない世界に金色の光が見えた。
ただそばにいるその光は、時には強く時には弱く煌めく。
それは時々2つに増えたり減ったりして俺に寄り添っていた。

少しずつそれが、人の形になっていき音が入ってきた。

カミュー

それが人型の名前らしい。
しばらくすると、もう一つの光も形を持った。

クラウディア

二つの光が、少しずつぼやけた世界に形を作り始める。
硬い地面や柔らかい地面、深い緑に色とりどりの花が舞い始め自分を覆いつくすほど生命に満ちた世界がそこには広がった。
風はほほを撫で、木々を揺らし花びらをさらって遠くへと流れていった。

何もなかった世界が色づいていくそこに”俺”は立っていた。


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