逢瀬番外編

私も彼女の手持ちとして共に旅が出来れば良いのですがねぇ、と知識の神は微笑を浮かべてそう呟く。それと同時、エイチ湖のほとりで優雅に水浴びをしていた一匹のミロカロスが、それを咎める様にバシャッと長い尾を操り彼に水をかけた。明らかに怒っている。その途端、たちまち彼の金糸の様に美しい髪や彫刻の如く精巧な顔が一気に濡れ、身に纏っていた衣服が水分を吸ってずっしりと重くなった。だが知識の神はそれを気にも止めず、ただ一言「おや…」と呟いただけだった。

それを隣で見ていた同胞が「ちょっとアタシにまでかかったんだけど!?」と声を高くして騒ぎ出したが、知識の神はその無礼を咎めず釈然とした態度のまま、ただ静かに「おや、私を受け入れる気はございませんか」と、最も美しいポケモンの名を冠する竜に向かって静かに問いかけた。

「彼女だけでなくその仲間にまで拒まれるとは予想しておりませんでした。こう見えて私、結構お強いのですよ?」

「強さ云々の話じゃないと思うわよユンちゃん」

そのエムリットの言葉に、ミロカロスが長い首をもたげて大きく頷いた。どうやらユクシーを受け入れない理由は、強さの問題でなく他にあるらしい。それを知ってか知らずか、ユクシーは未だ毛先や顎から水を滴らせたまま涼しい笑みを浮かべ「⋯では、何が問題なのですか?」とゆっくり問いかけた。エスパータイプ特有のサイコパワーを用いた読心術を行わず、相手に直接答えを委ねる辺り、彼の性格の悪さが伺える。

『⋯⋯』

「え、何々?」

ミロカロスは暫し黙った後、答えをユクシーでなくエムリットの方にそっと告げた。警戒心の強い所は主である彼女によく似ているが、相手が神であれ全く物怖じせず自分本位に振る舞う辺り、この美しい竜は元の性格が相当強かのだろうなとユクシーは思ったが、また水を掛けられてはたまったもんじゃないのでそれを口には出さなかった。懸命な判断だ。

「⋯ふむふむ、なるほど?」

数分ほど待った後、漸く終わったのかミロカロスがエムリットの元から離れ、また先程と同じく静かにユクシーらを見つめた。それを見て、意外と早かったなと思いながらユクシーがエムリットに「それで、ミロカロスは何と?」と問いかけると、珍しく複雑そうな顔をしたエムリットが苦笑しながらこう放った。

「自分達の主人に独りよがりな思いをぶつけるような存在を、受け入れる気はない⋯ですって」

アンタが片思いしてるの、あの子の手持ちのポケモン達にもバレてるじゃない。と同胞に誂われながら、それを聞いた知識の神は、水を吸って冷えた袖口を自身の赤くなった頬に当てて暫らく黙っていることしか出来なかった。