絵画番外編

満月島の中心部にてボーッと月を眺めながら瞑想していると、後ろから聞き慣れた特徴的な喧しい声が聞こえてきた。島中に響き渡ったんじゃないかと思うくらい煩いその声は段々と此方に近付いてきており、それに気付いた途端瞑想を辞めてぱっと後ろを向いた時にはもう、声の主は此方へ到着していた頃だった。

「クレちゃんクレちゃん〜!ちょっと聞いて頂戴よ〜…!」

「…久々じゃのう、感情の神エムリットよ」

ため息を付きながら久々に顔を合わせる旧友にそう声をかけてやると、エムリットは珍しく焦りの感情を顕にしながら、「ちょっと相談があるの」と言って妾の隣に腰掛けると、紅茶の既に入ったティーカップ(多分中身はコイツの好きなダージリンだろう)をどこからともなく2つ取り出し、片方を此方にずいっと差し出すと前置きもなくつらつらとその悩みとやらを話し始めた。

ー曰く、兄弟であるユクシーの様子が最近どうにもおかしいらしい。

「いや確かにあの子、アタシとアグよりだいぶおかしい所はあったけどさあ…最近はそれに拍車が掛かってんのよ。本人が言うには、エイチ湖の近くで出会った人間の女の子に一目惚れしたそうよ…ったく、知識の神が何色ボケしてんだか!もう、なんか考えたら腹たって来たじゃない!ユンちゃんの馬鹿!阿呆!スカポンタン!」

「…全くお主の辞書に落ち着きという言葉が書かれる事はないのか?ウン千年とその癇癪に付き合わされる友の身にもならんか」

そう苦言を呈しながらエムリットの用意してくれた紅茶を1口飲むが、内心は面白おかしくて今にも笑いだしてしまいそうだった。神話に出てくるポケモンの中でも1等自分勝手で性格の破綻したあの知識の神が、人間の女にうつつを抜かしているだと。全く馬鹿な話である。今日は確かエイプリルフールでは無かった筈だが。

「ちょっとクレちゃん信じて無いでしょ」

「そりゃあな。そんな信憑性の無い話、信じろと言う方が難しいじゃろうて」

目の前の旧友は妾の返事を聞くが否や、「クレちゃんのばーか!性悪女!」と稚児レベルの悪口を此方に吐いてそっぽを向いてしまった。相変わらずの幼稚臭い態度だが、今更指摘してやる義理もないので放っておく事にした。

「兄弟ではあれど、あくまでも同じ神アルセウスから生み出されただけじゃろう。何故お主がユクシーの色恋沙汰に一々悩む必要がある」

「クレちゃんも知ってると思うけどさ、あの子はアタシ達3人の中でも特に異質な訳よ。だっておかしいじゃない。目を合わせただけで人の記憶を奪っちゃうなんて。アタシはね、あの子がその能力を悪用して1人の女の子の人生を滅茶苦茶にしちゃうんじゃないかって心配なの」

「もしそうなったら、連帯責任でアタシとアグまでお兄ちゃん達とパパに怒られちゃうでしょ」と言って、エムリットはティーカップの中身を勢いよく飲み干すと、空の上に浮かぶ満月を先程の妾と同じ様にボーッと見つめた。その神らしくも無い何とも人間臭い旧友の態度に、思わず苦笑が漏れる。

「なんじゃ結局我が身が可愛いだけか。見直して損したぞ」

「何よクレちゃんの馬鹿!折角紅茶ご馳走してあげたのに!」

「頼んどらんわそんなもん。急に来て人の住処で大声張り上げて相談に乗れと言って来たのはお主じゃろうて」

そう言ってやると旧友は寂しそうに笑って「でもありがとねクレちゃん、やっぱりアンタ優しいじゃない」と言って妾の手から空っぽのティーカップを受け取ると、「じゃあまた来るわね」と言ってテレポートの体制に入った。

「もう暫く来ないで良いぞ。後その女装癖まだ直して無かったんじゃな」

「アタシは着たい服着てるだけよ…!じゃあねクレちゃん!」

そう言って跡形もなくテレポートで去っていった友を見送って、三日月の化身はまた瞑想を続けるのだった。

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絵画の番外編的な話ですが、実を言うと短編クレセリアの話し方が管理人の好み過ぎたので、無理矢理絵画の時空にクレセリアを捩じ込んでみただけです。勿論絵画本編にクレセリアを出す気は無いので、裏話として読んでください。

エムリットがクレセリアと仲良しの設定にした理由は、まあこの2人なら同じエスパータイプだし気が合いそうだなと思っただけです。深い理由は無いです