ミュウ
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昼食も食べ終えたので、少しだけ惰眠を貪るのも悪くないかなと、カーテンの隙間から漏れ出る暖かい日の光に包まれてゆっくりソファに体を預け微睡んでいる私と、そんな私の周りを特に理由もなくゆらゆらと原型の姿で飛び回っている彼──ミュウ。
そんな彼は、夢の世界へと落ちていきそうになっている私の顔を覗き込んでは「今のお前半目ですげー不細工だぞ」とでも言う様にニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、私がそれをやめろと咎めれば、今度は機嫌を悪くしたように眉間に皺を寄せ、無駄に長いその桃色の尻尾で私の頭をペシンと叩いた。全く何なんだこいつ性格悪いな。私の昼寝を邪魔するな。
「ちょっと何なの、痛いでしょミュウ」
突然頭を叩かれたせいで、あっという間にどこかへ飛んで行ってしまった私の眠気。折角心地よく眠ろうとしていたのに何するんだ。と怒りを含んだ声でそう言うと、ミュウが心底私の事を馬鹿にしたような顔のまま、姿をポケモンから人間の形へと変えた。その際彼から放たれた眩しい光のせいで、尚更眠気が飛んで行ったのはここだけの話にしておこう。さらば私の睡魔、さらば私の睡眠。
「ボクが何しようと勝手でしょ。それにちょうど良い所に叩くと良い音しそうな頭があるのが悪いんだし」と、ミュウが先程と同じく私の事を見下しているかの様な表情と声色でそう放った。相変わらずご主人様に向かってポケモンがする様な態度じゃないが、それを指摘したところでどうせ治らないのは目に見えているので私も何も言わない。
「ふざけるな私の頭は太鼓じゃない」
「ふーん、まあ別にそんなのボクにとっちゃどうでも良いけどね。ていうかナマエ、今日は本棚の整理するんじゃなかったの?気楽に昼寝しようとしてるけどさ」
そんなミュウの言葉を聞いて、思わずハッとしてソファから体を下ろした。
すっかり眠気に飲み込まれてしまったせいで忘れていたが、今日こそはあの本やら雑誌やらで、朝の満員電車の如くギチギチに詰まっている本棚を整理するんだった。一昨日から考えてたのに何忘れてるんだ私の馬鹿。と脳内ですぐさま反省し、部屋の隅に置かれた本棚の前へすぐさま移動する。一人暮らしを始める時に奮発して買った、上品な雰囲気を醸し出しているアンティーク調の、普通よりほんの少し小さめの本棚。その美しい彫刻に埃が溜まらない様に前は定期的に磨いていたっけ。…今は全然してないけど。
「…すっかり忘れてた」
「ほんと馬鹿だよねキミ」
馬鹿とは失礼な!とミュウの頭に来る表情も相まって思わず頭に血が上りそうになったが、怒りに呑まれて本来の目的を忘れるべからずと何とか堪え、私はそっと本棚に手を伸ばした。こう見ると、ここに入れている本も随分増えた様な気がする。ジャンルも作家も問わない様々なぶ厚さの小説や雑誌、そしてなぜ買ったのかすらよく分からない自己啓発本と参考書に、昔旅先で貰った現地のパンフレット。そして古ぼけた淡い色のアルバム──ん?アルバム?
「うわ、懐かし…」
思わずそんな声が私の口から漏れ出るのと同時、自分の手が何かに導かれるかの様にそのアルバムを本棚から抜き出した。そして表紙にも埃が満遍なく積もっていたので全て手で払い落とし、恐る恐るそのページを1枚捲る。何のアルバムなのか表紙を見ただけでは思い出す事が出来ずにいたが、今こうして中身を見てようやくこれが何のアルバムなのか思い出す事が出来た。このアルバムは、私がまだ幼い子供だった頃にトレーナーとして旅をしていた時のものだ。
仲間達と共に無邪気にはしゃいで、流れに身を任せて気ままに旅をしていたあの頃。博士に言われるがまま図鑑を埋めたり、ライバルと共に競争するようにバッヂを集めたり、悪の組織の事件に巻き込まれそうになったり。その全てが良い思い出だったかと言われれば、きっと私は曖昧な笑みを浮かべると共に首を捻るだろう。それでもこうして成長して、世の中の決して綺麗とは言えない事まで知ってしまった"おとなのわたし"のすっかり濁ってしまった瞳には、この写真に写っている純粋無垢な子供時代の自分が、どうにも眩しく映って仕方がないのだ。
前までは自分の旅路をもう一度辿るかのように何度も何度もこのアルバムを開いては旅をしていた昔の自分に思いを馳せていたが、身も心も成長して自分の居場所と財産を手に入れてしまった今、私はすっかり旅の輝きや素晴らしさというものを忘れ、いつしかこのアルバムを本棚から取り出すことすらめっきり無くなってしまった。めまぐるしく巡る日々の忙しさに脳を灼かれ、年々弱りいつしか朽ち果てるであろうこの身体に鞭打ってがむしゃらに生きる色褪せた私を見て、昔の私は一体どう思うのだろうか。まるで物語に出てくる主人公のような煌めきと輝きに満ち溢れていた、昔のわたしは。
「…戻りたいなあ、この頃に」
写真の中で当時の愛獣を抱きしめながら無邪気な笑みを浮かべている幼い私。俗世の汚い出来事も、生きていく上で必要なお金の重さすら、本当に何も知らない無垢な私。だがそんな幼い彼女は、今の私がどう足掻き藻掻いても手に入らないものを全て持っている。それに漸く気付くことが出来たのは、もう既に幼さを無くした年齢になってからだったけれど。
…でも、その思い出をこうして振り返る事は決していけない事ではない筈だ。と次の写真に進もうとページを捲ろうとした途端、私の手は突然背後から回ってきた小さな白い手にあっという間に絡め取られてしまった。それに驚いて後ろを振り向くと、呆れたような顔をしながら私をじっとりと睨んでいるミュウと目が合った。
「まだ1ミリも終わってない癖に何やってんの、君って整理整頓すらまともに出来ないワケ?ボク暇なんだけど」
「ごめん、懐かしい物を見つけたから、つい…」
「こんなもん見てないでさ、早く終わらせてよね。ボク待つの嫌いなんだから」
そう言って私の持っていたアルバムを取り上げてパタンとページを閉じ、本棚から取り出されて積み上げられた本の山の中へそれを何でもない様に放り込んでしまった彼。その一連の流れを見てどこか切ない気持ちを胸に抱きながらも、私はアルバムの事を頭の隅に追いやり、本棚の整理に勤しむのであった。
そんな彼は、夢の世界へと落ちていきそうになっている私の顔を覗き込んでは「今のお前半目ですげー不細工だぞ」とでも言う様にニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、私がそれをやめろと咎めれば、今度は機嫌を悪くしたように眉間に皺を寄せ、無駄に長いその桃色の尻尾で私の頭をペシンと叩いた。全く何なんだこいつ性格悪いな。私の昼寝を邪魔するな。
「ちょっと何なの、痛いでしょミュウ」
突然頭を叩かれたせいで、あっという間にどこかへ飛んで行ってしまった私の眠気。折角心地よく眠ろうとしていたのに何するんだ。と怒りを含んだ声でそう言うと、ミュウが心底私の事を馬鹿にしたような顔のまま、姿をポケモンから人間の形へと変えた。その際彼から放たれた眩しい光のせいで、尚更眠気が飛んで行ったのはここだけの話にしておこう。さらば私の睡魔、さらば私の睡眠。
「ボクが何しようと勝手でしょ。それにちょうど良い所に叩くと良い音しそうな頭があるのが悪いんだし」と、ミュウが先程と同じく私の事を見下しているかの様な表情と声色でそう放った。相変わらずご主人様に向かってポケモンがする様な態度じゃないが、それを指摘したところでどうせ治らないのは目に見えているので私も何も言わない。
「ふざけるな私の頭は太鼓じゃない」
「ふーん、まあ別にそんなのボクにとっちゃどうでも良いけどね。ていうかナマエ、今日は本棚の整理するんじゃなかったの?気楽に昼寝しようとしてるけどさ」
そんなミュウの言葉を聞いて、思わずハッとしてソファから体を下ろした。
すっかり眠気に飲み込まれてしまったせいで忘れていたが、今日こそはあの本やら雑誌やらで、朝の満員電車の如くギチギチに詰まっている本棚を整理するんだった。一昨日から考えてたのに何忘れてるんだ私の馬鹿。と脳内ですぐさま反省し、部屋の隅に置かれた本棚の前へすぐさま移動する。一人暮らしを始める時に奮発して買った、上品な雰囲気を醸し出しているアンティーク調の、普通よりほんの少し小さめの本棚。その美しい彫刻に埃が溜まらない様に前は定期的に磨いていたっけ。…今は全然してないけど。
「…すっかり忘れてた」
「ほんと馬鹿だよねキミ」
馬鹿とは失礼な!とミュウの頭に来る表情も相まって思わず頭に血が上りそうになったが、怒りに呑まれて本来の目的を忘れるべからずと何とか堪え、私はそっと本棚に手を伸ばした。こう見ると、ここに入れている本も随分増えた様な気がする。ジャンルも作家も問わない様々なぶ厚さの小説や雑誌、そしてなぜ買ったのかすらよく分からない自己啓発本と参考書に、昔旅先で貰った現地のパンフレット。そして古ぼけた淡い色のアルバム──ん?アルバム?
「うわ、懐かし…」
思わずそんな声が私の口から漏れ出るのと同時、自分の手が何かに導かれるかの様にそのアルバムを本棚から抜き出した。そして表紙にも埃が満遍なく積もっていたので全て手で払い落とし、恐る恐るそのページを1枚捲る。何のアルバムなのか表紙を見ただけでは思い出す事が出来ずにいたが、今こうして中身を見てようやくこれが何のアルバムなのか思い出す事が出来た。このアルバムは、私がまだ幼い子供だった頃にトレーナーとして旅をしていた時のものだ。
仲間達と共に無邪気にはしゃいで、流れに身を任せて気ままに旅をしていたあの頃。博士に言われるがまま図鑑を埋めたり、ライバルと共に競争するようにバッヂを集めたり、悪の組織の事件に巻き込まれそうになったり。その全てが良い思い出だったかと言われれば、きっと私は曖昧な笑みを浮かべると共に首を捻るだろう。それでもこうして成長して、世の中の決して綺麗とは言えない事まで知ってしまった"おとなのわたし"のすっかり濁ってしまった瞳には、この写真に写っている純粋無垢な子供時代の自分が、どうにも眩しく映って仕方がないのだ。
前までは自分の旅路をもう一度辿るかのように何度も何度もこのアルバムを開いては旅をしていた昔の自分に思いを馳せていたが、身も心も成長して自分の居場所と財産を手に入れてしまった今、私はすっかり旅の輝きや素晴らしさというものを忘れ、いつしかこのアルバムを本棚から取り出すことすらめっきり無くなってしまった。めまぐるしく巡る日々の忙しさに脳を灼かれ、年々弱りいつしか朽ち果てるであろうこの身体に鞭打ってがむしゃらに生きる色褪せた私を見て、昔の私は一体どう思うのだろうか。まるで物語に出てくる主人公のような煌めきと輝きに満ち溢れていた、昔のわたしは。
「…戻りたいなあ、この頃に」
写真の中で当時の愛獣を抱きしめながら無邪気な笑みを浮かべている幼い私。俗世の汚い出来事も、生きていく上で必要なお金の重さすら、本当に何も知らない無垢な私。だがそんな幼い彼女は、今の私がどう足掻き藻掻いても手に入らないものを全て持っている。それに漸く気付くことが出来たのは、もう既に幼さを無くした年齢になってからだったけれど。
…でも、その思い出をこうして振り返る事は決していけない事ではない筈だ。と次の写真に進もうとページを捲ろうとした途端、私の手は突然背後から回ってきた小さな白い手にあっという間に絡め取られてしまった。それに驚いて後ろを振り向くと、呆れたような顔をしながら私をじっとりと睨んでいるミュウと目が合った。
「まだ1ミリも終わってない癖に何やってんの、君って整理整頓すらまともに出来ないワケ?ボク暇なんだけど」
「ごめん、懐かしい物を見つけたから、つい…」
「こんなもん見てないでさ、早く終わらせてよね。ボク待つの嫌いなんだから」
そう言って私の持っていたアルバムを取り上げてパタンとページを閉じ、本棚から取り出されて積み上げられた本の山の中へそれを何でもない様に放り込んでしまった彼。その一連の流れを見てどこか切ない気持ちを胸に抱きながらも、私はアルバムの事を頭の隅に追いやり、本棚の整理に勤しむのであった。
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