逢瀬
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取り敢えずもうすぐで家族が仕事やら買い物から帰ってくる時間なので、何もせずにじっと待っているくらいならばもうすぐ離れて暮らす家族の為に料理でも用意しておいた方が良いだろう。と考え、ナマエはキッチンの隅に置かれた冷蔵庫の中から作り置きされてフリーザーバッグに詰められた料理を取り出し、電子レンジで解凍した後に手際よくそれらを皿に移してテーブルに並べ始めた。
だが、この家の電子レンジは小さく、まとめて料理を温める事が出来ない為、家族4人分の料理を温めるとなると中々に時間が掛かってしまうのである。早く解凍が終わらないだろうかとナマエが齷齪しながら電子レンジの前で待っていると、玄関の方からガチャリと鍵が開く音がした。ああ、料理の準備が終わる前に家族が帰ってきてしまった。とナマエはがっくりと肩を落とす。だがこんな早い時間に父の仕事が終わる訳がないので、弟が母だろうか。と思いながらナマエがようやく温まった料理を皿に盛っていると、朝ワックスで綺麗にセットした髪をうっとおしそうに手で乱した弟が疲れた様子でキッチンに入ってきた。
「…ただいま、姉さん」
「おかえりなさい」
お互い最低限の挨拶もそこそこに、冷たい水を求めて冷蔵庫の中を物色しだす弟と、何も言わず皿に夕食を盛り付ける姉。そんな両者の間には、大変気まずい沈黙が流れている。ご存知の通りこの姉弟は只今方向性の違いで若干険悪な関係になっているのだ。このようにキッチン中が先程ナマエが1人で夕食の準備をしていた時と一変して重苦しい雰囲気に包まれてしまうのも無理はないだろう。
だがそんな時、隣のリビングからこの重々しい雰囲気のキッチンへ、勇敢にも入って来る者が居た。
──ニャー!
「あら、エネちゃん…?」
普段母にべったり引っ付いてナマエらには目も向けず、母が家にいない間は隣のリビングに置かれた自分用の小さなベッドでのんびり昼寝している筈のエネコが、何故全く懐いてすらいないナマエ達のいるキッチンへと自分から身を投じたのか。答えは至極簡単である。お腹が空いたからだ。腹が満たされていなければ例え敵の居ないこの平和な家の中でも生きる事は出来ない。だが今現在、自分がずーっとくっついて甘える事を許してくれる優しい母は家におらず、代わりに居るのは何かと神経質で口煩い子供達だけである。エネコからすればそんな奴等から餌を貰うなんて心底嫌であったが、背に腹はかえられぬ思いでこのキッチンへと足を運んだ次第だった。
「…はい姉さん、これエネコの餌皿と缶詰」
「あぁ、ありがとう…」
喧嘩中の姉に手を貸すなんてまっぴら御免だと、最初は手すら貸さずに水を飲みながら姉がエネコの餌を準備している様を横目で見ていただけの弟だったが、あまりにもエネコが遅いぞ飯はまだかと大きな声で鳴くので、自分の鼓膜が破れるよりましだと仕方なしに餌皿と缶詰を戸棚から取り出してやった。さすが取捨選択の良く出来る立派な社会人である。
「はいエネちゃん、どうぞ」
ナマエが餌皿をエネコの前へスっと出してやるが、エネコは中々餌を口に入れる素振りを見せない。そんなエネコの挙動を不思議に思い、「エネちゃん..…?」とナマエが軽く手をエネコの方へ差し出した途端、物凄い勢いでエネコがナマエの手に噛み付いた。まだあまり研ぎ澄まされて居ない子猫の牙だった為、幸い手に風穴が空く事は無かったが痛い事に変わりは無い。
そして噛まれた事にナマエが驚いてすぐさま手を引きエネコの元から数歩下がると、エネコはやっと目の前の飯にありつき始めた。どうやらナマエが近くに居る時にご飯を食べたく無かったらしい。そこまで私は懐かれていないのか、とナマエは本日何度目かの溜息をつきながら、軽く出血している手を冷水で濡らしたハンカチで軽く押さえ付けた。
「...俺部屋から包帯持って来る」
「別にそんなの良いわよ」
「...あぁ、そう。じゃあ姉さん、ちょっと話したい事があるんだけど」
「それも要らない。却下」
「却下を却下。俺としてもやっぱり納得がいかない。あの家の跡を継いだのが俺達の親な以上、いずれは皆この家を引き払ってあのだだっ広いボロ家に住む事になるんだ。家族4人で今の綺麗な状態を保つのさえやっとなのに、一人でも欠けたらもう手が回らなくなるのは姉さんだって目に見えてるだろ」
「...別に良いじゃないの、あんただって特別あの家に情が湧いてる訳じゃないでしょ」
「確かに俺だってあんな邪魔な家大っ嫌いだよ!でもさ、父さんと母さんは違うだろ...?あの二人にとってめちゃくちゃ大事なあの家が、今よりずっとみすぼらしい風貌になって目も当てられなくなったら、その矛先は姉さんが居ない場合、誰に向けられると思う...?」
「そんなの、俺しか居ないだろ...?」と弟は声を震わせて、縋るようにナマエを見た。ナマエが他者に対して表面上の美しい自分しか見せたくない自己欺瞞者だとしたら、弟は自分が損をするのを人一倍嫌い、損得勘定でしか動かない手余し者だ。お互い自分中心に物事を考える性格かつ、また互いに譲れないポリシーを持っているせいか、この話し合いという名の口論は終わる兆しが全く見えない。少し離れた所で餌を食べ終えたエネコが呆れた様子で2人を見つめているのにも気付かず、2人の口論は冷めるどころか段々とヒートアップしていった。
だが、この家の電子レンジは小さく、まとめて料理を温める事が出来ない為、家族4人分の料理を温めるとなると中々に時間が掛かってしまうのである。早く解凍が終わらないだろうかとナマエが齷齪しながら電子レンジの前で待っていると、玄関の方からガチャリと鍵が開く音がした。ああ、料理の準備が終わる前に家族が帰ってきてしまった。とナマエはがっくりと肩を落とす。だがこんな早い時間に父の仕事が終わる訳がないので、弟が母だろうか。と思いながらナマエがようやく温まった料理を皿に盛っていると、朝ワックスで綺麗にセットした髪をうっとおしそうに手で乱した弟が疲れた様子でキッチンに入ってきた。
「…ただいま、姉さん」
「おかえりなさい」
お互い最低限の挨拶もそこそこに、冷たい水を求めて冷蔵庫の中を物色しだす弟と、何も言わず皿に夕食を盛り付ける姉。そんな両者の間には、大変気まずい沈黙が流れている。ご存知の通りこの姉弟は只今方向性の違いで若干険悪な関係になっているのだ。このようにキッチン中が先程ナマエが1人で夕食の準備をしていた時と一変して重苦しい雰囲気に包まれてしまうのも無理はないだろう。
だがそんな時、隣のリビングからこの重々しい雰囲気のキッチンへ、勇敢にも入って来る者が居た。
──ニャー!
「あら、エネちゃん…?」
普段母にべったり引っ付いてナマエらには目も向けず、母が家にいない間は隣のリビングに置かれた自分用の小さなベッドでのんびり昼寝している筈のエネコが、何故全く懐いてすらいないナマエ達のいるキッチンへと自分から身を投じたのか。答えは至極簡単である。お腹が空いたからだ。腹が満たされていなければ例え敵の居ないこの平和な家の中でも生きる事は出来ない。だが今現在、自分がずーっとくっついて甘える事を許してくれる優しい母は家におらず、代わりに居るのは何かと神経質で口煩い子供達だけである。エネコからすればそんな奴等から餌を貰うなんて心底嫌であったが、背に腹はかえられぬ思いでこのキッチンへと足を運んだ次第だった。
「…はい姉さん、これエネコの餌皿と缶詰」
「あぁ、ありがとう…」
喧嘩中の姉に手を貸すなんてまっぴら御免だと、最初は手すら貸さずに水を飲みながら姉がエネコの餌を準備している様を横目で見ていただけの弟だったが、あまりにもエネコが遅いぞ飯はまだかと大きな声で鳴くので、自分の鼓膜が破れるよりましだと仕方なしに餌皿と缶詰を戸棚から取り出してやった。さすが取捨選択の良く出来る立派な社会人である。
「はいエネちゃん、どうぞ」
ナマエが餌皿をエネコの前へスっと出してやるが、エネコは中々餌を口に入れる素振りを見せない。そんなエネコの挙動を不思議に思い、「エネちゃん..…?」とナマエが軽く手をエネコの方へ差し出した途端、物凄い勢いでエネコがナマエの手に噛み付いた。まだあまり研ぎ澄まされて居ない子猫の牙だった為、幸い手に風穴が空く事は無かったが痛い事に変わりは無い。
そして噛まれた事にナマエが驚いてすぐさま手を引きエネコの元から数歩下がると、エネコはやっと目の前の飯にありつき始めた。どうやらナマエが近くに居る時にご飯を食べたく無かったらしい。そこまで私は懐かれていないのか、とナマエは本日何度目かの溜息をつきながら、軽く出血している手を冷水で濡らしたハンカチで軽く押さえ付けた。
「...俺部屋から包帯持って来る」
「別にそんなの良いわよ」
「...あぁ、そう。じゃあ姉さん、ちょっと話したい事があるんだけど」
「それも要らない。却下」
「却下を却下。俺としてもやっぱり納得がいかない。あの家の跡を継いだのが俺達の親な以上、いずれは皆この家を引き払ってあのだだっ広いボロ家に住む事になるんだ。家族4人で今の綺麗な状態を保つのさえやっとなのに、一人でも欠けたらもう手が回らなくなるのは姉さんだって目に見えてるだろ」
「...別に良いじゃないの、あんただって特別あの家に情が湧いてる訳じゃないでしょ」
「確かに俺だってあんな邪魔な家大っ嫌いだよ!でもさ、父さんと母さんは違うだろ...?あの二人にとってめちゃくちゃ大事なあの家が、今よりずっとみすぼらしい風貌になって目も当てられなくなったら、その矛先は姉さんが居ない場合、誰に向けられると思う...?」
「そんなの、俺しか居ないだろ...?」と弟は声を震わせて、縋るようにナマエを見た。ナマエが他者に対して表面上の美しい自分しか見せたくない自己欺瞞者だとしたら、弟は自分が損をするのを人一倍嫌い、損得勘定でしか動かない手余し者だ。お互い自分中心に物事を考える性格かつ、また互いに譲れないポリシーを持っているせいか、この話し合いという名の口論は終わる兆しが全く見えない。少し離れた所で餌を食べ終えたエネコが呆れた様子で2人を見つめているのにも気付かず、2人の口論は冷めるどころか段々とヒートアップしていった。