逢瀬
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「…それじゃあ、行ってきます」
とうとうナマエの独り立ちの日。雲一つない青空に太陽が燦々と輝いていて、新しい世界に飛び出すにはもってこいの日だった。
暖かいそよ風がナマエの色付いた頬を撫で、艶のある髪を揺らして彼女を激励している。その心地よくも力強いその風に後押しされて、ナマエはそっと自分の大切な家族に対して口を開いた。
「お父さん、お母さん。…今まで、お世話になりました!」
そこには、以前の様に両親の顔色を伺いながら相手に都合の良い言葉のみを並べ立てるお人形ではなく、自分の考えを持ってしっかり自立する事が出来た1人の女性が立っていた。
「...私は、あの家を継がないよ。これからは一人で、ありのままの人生を生きるの」
芯の籠った瞳と凛と響く声で、はっきりとそう言い切ったナマエ。前までは’’両親がそう望むなら、自分は従う他ない’’とどこか諦めの姿勢でいた彼女だが、猫を被り続ける自己欺瞞者を卒業した結果、案外あっさりとその言葉を伝える事ができた。両親はその言葉を聞いて驚くより先に、横でじっと佇んでいる弟に目を向ける。ナマエが家を継がないと両親にはっきりと明言した事で、また弟がナマエに噛みついてしまうのでは。と両親は危惧した様子だったが、次の弟からの発言によってそれは杞憂に終わった。
「...俺はもう姉さんのやる事に対しては何も言わない。女ってのは怖い生き物だって、今回ではっきり分かったから」
どうやら弟は、この前ナマエと廊下で話し合った次の日、交際していたそのとびきり可愛い彼女に’’自分と一緒に駆け落ちしよう’’と、ナマエのアドバイス通り持ちかけたらしい。然しそのとびきり可愛い彼女からの返事はNO。どうやら弟以外にも何人かの男性と関係を持っていた、いわゆる尻軽悪女だったようだ。なるほど、ここ最近弟が妙にイライラしていた様子だったのはそれが原因だったのか。と両親は腑に落ちた表情で頷いた。
「それじゃあ、私はもう行くから」
弟の話に興味を微塵も示さず、ナマエは強かな笑みをにっこり浮かべてそう言った。その佇まいには、以前の様な暗い陰など微塵も浮かんでいない。そこにいるのは、眩い強かさと真っ直ぐさを携えた、芯のある女だった。
「...あの子、変わったわねぇ」
ナマエから発されたその言葉に、両親は驚いた様子で顔を見合わせるとそんな呟きをぽつりと零した。以前の様な、可愛らしく作った偽りの笑顔を携えて耳心地の良い機械的な言葉を両親に吐き続けるお人形としての彼女はもう居なくなってしまったのだ。
今両親の目の前に居るのは、猫を被る事を完全に忘れ去り、素の表情とありのままの言葉を両親に伝えられる事が出来るようになった、一人の自立した女である。
もう自分自身が両親に猫を被っていた事さえも忘れてしまっている彼女にとっては何でもない事なのだろうが、以前の様に猫を被り続けることに対し苦しみ続けていた彼女が今の自分を目の当たりにしたら、きっと歓喜に満ちた涙を流して喜んだことだろう。
「…さようなら。お父さん、お母さん」
自分を変えてくれたあの賢い神様に、次はいつ逢えるだろう。そして、彼が自分にあそこまで執着する理由は一体何なのか。先日ユクシーの腕の中で目覚めてからずっと考えていたが、未だにその理由がナマエには分からなかった。元々彼は人間に知識を与えた偉大なる神様なのだ。ナマエのちっぽけでお粗末な作りの脳味噌で神の考えている事が理解し得ないのも至極当然であろう。
ーーー貴女を絶対に諦めませんから。
上等だ、やれるものならやってみろ。
例えこの選択が己の身を滅ぼす事になったとして。それでもわたしは、絶対に後悔なんてしてやらないのだから。
とうとうナマエの独り立ちの日。雲一つない青空に太陽が燦々と輝いていて、新しい世界に飛び出すにはもってこいの日だった。
暖かいそよ風がナマエの色付いた頬を撫で、艶のある髪を揺らして彼女を激励している。その心地よくも力強いその風に後押しされて、ナマエはそっと自分の大切な家族に対して口を開いた。
「お父さん、お母さん。…今まで、お世話になりました!」
そこには、以前の様に両親の顔色を伺いながら相手に都合の良い言葉のみを並べ立てるお人形ではなく、自分の考えを持ってしっかり自立する事が出来た1人の女性が立っていた。
「...私は、あの家を継がないよ。これからは一人で、ありのままの人生を生きるの」
芯の籠った瞳と凛と響く声で、はっきりとそう言い切ったナマエ。前までは’’両親がそう望むなら、自分は従う他ない’’とどこか諦めの姿勢でいた彼女だが、猫を被り続ける自己欺瞞者を卒業した結果、案外あっさりとその言葉を伝える事ができた。両親はその言葉を聞いて驚くより先に、横でじっと佇んでいる弟に目を向ける。ナマエが家を継がないと両親にはっきりと明言した事で、また弟がナマエに噛みついてしまうのでは。と両親は危惧した様子だったが、次の弟からの発言によってそれは杞憂に終わった。
「...俺はもう姉さんのやる事に対しては何も言わない。女ってのは怖い生き物だって、今回ではっきり分かったから」
どうやら弟は、この前ナマエと廊下で話し合った次の日、交際していたそのとびきり可愛い彼女に’’自分と一緒に駆け落ちしよう’’と、ナマエのアドバイス通り持ちかけたらしい。然しそのとびきり可愛い彼女からの返事はNO。どうやら弟以外にも何人かの男性と関係を持っていた、いわゆる尻軽悪女だったようだ。なるほど、ここ最近弟が妙にイライラしていた様子だったのはそれが原因だったのか。と両親は腑に落ちた表情で頷いた。
「それじゃあ、私はもう行くから」
弟の話に興味を微塵も示さず、ナマエは強かな笑みをにっこり浮かべてそう言った。その佇まいには、以前の様な暗い陰など微塵も浮かんでいない。そこにいるのは、眩い強かさと真っ直ぐさを携えた、芯のある女だった。
「...あの子、変わったわねぇ」
ナマエから発されたその言葉に、両親は驚いた様子で顔を見合わせるとそんな呟きをぽつりと零した。以前の様な、可愛らしく作った偽りの笑顔を携えて耳心地の良い機械的な言葉を両親に吐き続けるお人形としての彼女はもう居なくなってしまったのだ。
今両親の目の前に居るのは、猫を被る事を完全に忘れ去り、素の表情とありのままの言葉を両親に伝えられる事が出来るようになった、一人の自立した女である。
もう自分自身が両親に猫を被っていた事さえも忘れてしまっている彼女にとっては何でもない事なのだろうが、以前の様に猫を被り続けることに対し苦しみ続けていた彼女が今の自分を目の当たりにしたら、きっと歓喜に満ちた涙を流して喜んだことだろう。
「…さようなら。お父さん、お母さん」
自分を変えてくれたあの賢い神様に、次はいつ逢えるだろう。そして、彼が自分にあそこまで執着する理由は一体何なのか。先日ユクシーの腕の中で目覚めてからずっと考えていたが、未だにその理由がナマエには分からなかった。元々彼は人間に知識を与えた偉大なる神様なのだ。ナマエのちっぽけでお粗末な作りの脳味噌で神の考えている事が理解し得ないのも至極当然であろう。
ーーー貴女を絶対に諦めませんから。
上等だ、やれるものならやってみろ。
例えこの選択が己の身を滅ぼす事になったとして。それでもわたしは、絶対に後悔なんてしてやらないのだから。
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