逢瀬
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引越しの荷造りの為に、自分の部屋の物を新居に持って行くダンボールやら捨てる為のゴミ袋やらに入れて選別していたナマエ。だがダンボールが足りなくなってしまった為、彼女は物置きへ行ってあと二つ程新しいダンボールを持ってくる事にした。自分の部屋から物置まで地味に遠いんだよなあとげんなりしながら家の中を歩いていると、不意に後ろから弟に呼び止められた。
「姉さん、少し良い?」
「何よ?今急いでるから後ででも…」
「…すぐ終わるから」
先日の一件から、ナマエと弟の仲はこれまで以上に険悪なものになっていた。これまではお互い興味関心が無くとも最低限の挨拶とコミュニケーションはしていたのだが、最近ではそれすら全くしておらず、お互いがお互いを完全に透明人間として扱っていたのである。そんな弟に急に呼び止められてナマエは驚愕しながらも、引越しまでもう日がないのだからお前に構っている場合では無い。とでも言いたげな冷たい返答を返した。傍から見てみれば、この2人が姉弟だなんて何とも信じ難い態度である。だが弟があまりにも縋り付く様な瞳でナマエを見つめてくるので、流石に良心が痛んだナマエは仕方が無いなと肩をすくめて今回だけは折れてやることにした。
「…で、話って何よ。まさか未だに「独り立ちするな
」なんてつまらない事言ってくるんじゃ無いでしょうね」
姉のそんな苛立ちを隠そうともしない態度を見ても全く億さず、どこか憂鬱そうな態度で縋るようにナマエを見ている弟は、「…相談があるんだ」と静かに話を切り出した。
「あのさ…姉さんが出ていってしまった後、俺は一体どうしたら良いと思う?」
「…は?」
何で急にそんな事。そんなのお前の好きにしたら良いじゃないか。とナマエは返答しようとしたが、それを口にする前に弟がまた話を続ける。私は一体こいつに何を聞かされているんだろう。と半ば呆れながらナマエは仕方なくまた弟の話に耳を傾けてやった。
「父さんと母さんと、それから恋人に、こう言われたんだ」
曰く、両親から「ナマエが独り立ちをした後、祖父母の家を絶対にお前が継ぐんだ」と一方的に言われた事。
曰く、逆に付き合ってる彼女からは、「貴方と結婚するのは良いが、あんな歴史のある家を管理していくのは些か荷が重い。結婚するならせめて私の家に養子に入るか、実家と完全に縁を切ってくれ」と言われてしまった事。
そして現在、そんな両親と彼女の板挟みになってしまって精神的にとても参っている事。
「…そんなのうちと縁切って、彼女の家に養子に入れば解決じゃない」
「そしたら父さんと母さんは跡継ぎが居なくなるから、独り立ちした姉さんを強制的にここに連れ戻すだろうね」
「なら彼女と別れれば?」
「馬鹿言うなよ、あの子うちの会社の中でもとびきり可愛い子なんだ。手放せるわけないだろ」
「別れたくない理由下らなさ過ぎて笑えるわね」
要約するとこうだ。姉の為、両親の為家を継がない訳にはいかないが、今付き合っている彼女が可愛いから別れたくない。なんとまあ馬鹿げた理由だろう、とナマエはじろりと蔑みの目を目の前にいる弟に向けた。ナマエとて折角長い時間をかけて独り立ちする決心を固めたというのに、弟が居なくなったからというつまらない理由で連れ戻されるなんて死んでも御免だ。別にお前好みの可愛い女なんぞこの地球上にわんさかいるのだから、とっととそんな女と別れてしまえ。と叫んでやりたかったが、別の部屋にいる両親に聞かれてこの前の二の舞になっては不味いと、何とか踏み留まっていた。
「…下らない。本当に下らないわね」
「なっ…姉さん!何もそんな言い方しなくても…!」
「煩い。貴方が家を継ぐ気があるなら、その子に言ってあげなさい。いずれ恋人と一緒に住む家に対してそんなに荷が重いと感じるなら、この先君とはやっていけないって。それか家を捨てて彼女と駆け落ちするのなら、明日職場で会った時に思いっきり指輪突き付けて抱き締めてやりなさい」
ナマエは弟に対し、彼女を捨てるか家を捨てるか、お前もいい大人なら自分の事くらい自分で選べ!と遠回しに言ってやった。たとえ相手がどれだけ関心の無い者だとしても、相談された以上何か解決策を提示してやらねば。と相手の立場になって物事を考えてやる事が出来るのがナマエという女だ。いつまでも煮えきらずにウジウジウジウジとその場に踏みとどまって、その結果私が引越し出来なくなったらどうする。お前責任とってくれるのか、とっとと決めてしまえ。ナマエが言いたいのはつまりそういう事だ。
「…でも、もし俺が彼女を選んだら、いずれ父さんと母さんは姉さんを連れ戻すと思うよ。あの家を絶対に廃れさせる訳には行かないって、この前言ってたのを聞いた」
「何で私の心配してるの、前まで私の一人暮らしにあれほど反対してた癖に。あのね、別に今すぐあの家継がなきゃいけない訳でもないし、私は少しの間遠くで一人暮らせればそれで満足なのよ。貴方がもし彼女を選んで家を捨てるのなら、私が「将来私があの家継ぐから、今だけは一人暮らしさせて欲しいの」って猫被って2人に上手く言っておくから。だからあんたは私の事気にせずに、自分が後悔しない方選びなさいよ」
「自分が損するの嫌いなんでしょ、なら好きな方選んだら良いじゃない。別に私はあんたに興味ないし」と言って、ナマエは未だ踏ん切りのつかない様子でしゅんと項垂れている弟を苛立ちの籠った目で睨みつけた。いつもは損得勘定でしか動かない生意気なお前の癖に、そうやってしおらしく居られたら居られたで物凄く気持ちが悪い。ナマエの苛立ちには、そういった理由も含まれていた。そんな姉に睨まれても尚答えを出し切れて居ない様子の弟に、ナマエはこう放つ。
「…エネちゃんを見てみなさいよ」
「え…何でエネコ?」
「好きなもの は好き、嫌いなもの は嫌い。あの子はいつもそうやって過ごしてるじゃない。あんたもそうやってモジモジ踏み留まってるくらいなら、エネちゃんみたいに正直になってみなさいよ。いつも自分が得する方しか選ばない癖に、今更そうやってうだうだ悩まれてもうっとおしいのよ」
「それじゃ私は引越しの準備で忙しいから」と言って、ナマエは廊下に弟を置き去りにして1人スタスタと物置きへ歩いていってしまった。それはもう自分が弟に言ってやれる事は無い。と判断したからかもしれないし、踏ん切りをつけず悩み続けるみっともない弟を面倒臭いから見放したのかもしれない。
どちらにせよ弟が自分で決めなければいけない事には変わりないのだ。これ以上ナマエが弟に何か言ってやるにしても、もう十分言いたい事はぶつけてやったのだし、後は本人に任せる他ないのである。ナマエ自身弟がどちらを選択しようが何ら構わないのだから。それより早くユクシーと会いたいなあ、とダンボールに荷物を詰めながら、ナマエは微笑むのだった。
「姉さん、少し良い?」
「何よ?今急いでるから後ででも…」
「…すぐ終わるから」
先日の一件から、ナマエと弟の仲はこれまで以上に険悪なものになっていた。これまではお互い興味関心が無くとも最低限の挨拶とコミュニケーションはしていたのだが、最近ではそれすら全くしておらず、お互いがお互いを完全に透明人間として扱っていたのである。そんな弟に急に呼び止められてナマエは驚愕しながらも、引越しまでもう日がないのだからお前に構っている場合では無い。とでも言いたげな冷たい返答を返した。傍から見てみれば、この2人が姉弟だなんて何とも信じ難い態度である。だが弟があまりにも縋り付く様な瞳でナマエを見つめてくるので、流石に良心が痛んだナマエは仕方が無いなと肩をすくめて今回だけは折れてやることにした。
「…で、話って何よ。まさか未だに「独り立ちするな
」なんてつまらない事言ってくるんじゃ無いでしょうね」
姉のそんな苛立ちを隠そうともしない態度を見ても全く億さず、どこか憂鬱そうな態度で縋るようにナマエを見ている弟は、「…相談があるんだ」と静かに話を切り出した。
「あのさ…姉さんが出ていってしまった後、俺は一体どうしたら良いと思う?」
「…は?」
何で急にそんな事。そんなのお前の好きにしたら良いじゃないか。とナマエは返答しようとしたが、それを口にする前に弟がまた話を続ける。私は一体こいつに何を聞かされているんだろう。と半ば呆れながらナマエは仕方なくまた弟の話に耳を傾けてやった。
「父さんと母さんと、それから恋人に、こう言われたんだ」
曰く、両親から「ナマエが独り立ちをした後、祖父母の家を絶対にお前が継ぐんだ」と一方的に言われた事。
曰く、逆に付き合ってる彼女からは、「貴方と結婚するのは良いが、あんな歴史のある家を管理していくのは些か荷が重い。結婚するならせめて私の家に養子に入るか、実家と完全に縁を切ってくれ」と言われてしまった事。
そして現在、そんな両親と彼女の板挟みになってしまって精神的にとても参っている事。
「…そんなのうちと縁切って、彼女の家に養子に入れば解決じゃない」
「そしたら父さんと母さんは跡継ぎが居なくなるから、独り立ちした姉さんを強制的にここに連れ戻すだろうね」
「なら彼女と別れれば?」
「馬鹿言うなよ、あの子うちの会社の中でもとびきり可愛い子なんだ。手放せるわけないだろ」
「別れたくない理由下らなさ過ぎて笑えるわね」
要約するとこうだ。姉の為、両親の為家を継がない訳にはいかないが、今付き合っている彼女が可愛いから別れたくない。なんとまあ馬鹿げた理由だろう、とナマエはじろりと蔑みの目を目の前にいる弟に向けた。ナマエとて折角長い時間をかけて独り立ちする決心を固めたというのに、弟が居なくなったからというつまらない理由で連れ戻されるなんて死んでも御免だ。別にお前好みの可愛い女なんぞこの地球上にわんさかいるのだから、とっととそんな女と別れてしまえ。と叫んでやりたかったが、別の部屋にいる両親に聞かれてこの前の二の舞になっては不味いと、何とか踏み留まっていた。
「…下らない。本当に下らないわね」
「なっ…姉さん!何もそんな言い方しなくても…!」
「煩い。貴方が家を継ぐ気があるなら、その子に言ってあげなさい。いずれ恋人と一緒に住む家に対してそんなに荷が重いと感じるなら、この先君とはやっていけないって。それか家を捨てて彼女と駆け落ちするのなら、明日職場で会った時に思いっきり指輪突き付けて抱き締めてやりなさい」
ナマエは弟に対し、彼女を捨てるか家を捨てるか、お前もいい大人なら自分の事くらい自分で選べ!と遠回しに言ってやった。たとえ相手がどれだけ関心の無い者だとしても、相談された以上何か解決策を提示してやらねば。と相手の立場になって物事を考えてやる事が出来るのがナマエという女だ。いつまでも煮えきらずにウジウジウジウジとその場に踏みとどまって、その結果私が引越し出来なくなったらどうする。お前責任とってくれるのか、とっとと決めてしまえ。ナマエが言いたいのはつまりそういう事だ。
「…でも、もし俺が彼女を選んだら、いずれ父さんと母さんは姉さんを連れ戻すと思うよ。あの家を絶対に廃れさせる訳には行かないって、この前言ってたのを聞いた」
「何で私の心配してるの、前まで私の一人暮らしにあれほど反対してた癖に。あのね、別に今すぐあの家継がなきゃいけない訳でもないし、私は少しの間遠くで一人暮らせればそれで満足なのよ。貴方がもし彼女を選んで家を捨てるのなら、私が「将来私があの家継ぐから、今だけは一人暮らしさせて欲しいの」って猫被って2人に上手く言っておくから。だからあんたは私の事気にせずに、自分が後悔しない方選びなさいよ」
「自分が損するの嫌いなんでしょ、なら好きな方選んだら良いじゃない。別に私はあんたに興味ないし」と言って、ナマエは未だ踏ん切りのつかない様子でしゅんと項垂れている弟を苛立ちの籠った目で睨みつけた。いつもは損得勘定でしか動かない生意気なお前の癖に、そうやってしおらしく居られたら居られたで物凄く気持ちが悪い。ナマエの苛立ちには、そういった理由も含まれていた。そんな姉に睨まれても尚答えを出し切れて居ない様子の弟に、ナマエはこう放つ。
「…エネちゃんを見てみなさいよ」
「え…何でエネコ?」
「
「それじゃ私は引越しの準備で忙しいから」と言って、ナマエは廊下に弟を置き去りにして1人スタスタと物置きへ歩いていってしまった。それはもう自分が弟に言ってやれる事は無い。と判断したからかもしれないし、踏ん切りをつけず悩み続けるみっともない弟を面倒臭いから見放したのかもしれない。
どちらにせよ弟が自分で決めなければいけない事には変わりないのだ。これ以上ナマエが弟に何か言ってやるにしても、もう十分言いたい事はぶつけてやったのだし、後は本人に任せる他ないのである。ナマエ自身弟がどちらを選択しようが何ら構わないのだから。それより早くユクシーと会いたいなあ、とダンボールに荷物を詰めながら、ナマエは微笑むのだった。