逢瀬
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ナマエが最後にユクシーとの逢瀬を終えてから、およそ数日が経過していた。ユクシーの居るエイチ湖へ毎日通いたいという思いはナマエにも大いにあれど、ナマエにはまだ引越しの準備という大変面倒臭い作業が残っていたのだ。その為中々ユクシーに会う時間が作れずにいたのである。せめて引っ越す前にもう1度だけでもエイチ湖に顔を出せたら良いのだが、そんな甘い事も言ってられない程引越しの日が近付いているのが現実であった。
今日も今日とて、ナマエは引越しの為の諸々の手続きを市役所で終え、ぐったりしながら帰路についていた。身につけている腕時計に目を向けてみると、もう時刻は夜の20時に差し掛かっていた。それを見るが否や、ナマエは深い溜息を一つ吐いてげんなりとした表情を見せる。まさか帰るのがこんな遅い時間になってしまうとは。市役所が混んでいて中々思い通りに事が進まなかったせいか、今日はいつもより帰る時間が遅くなってしまったのだ。こんな時間になってしまっては、自分に関心のない弟はともかく、過保護な両親には凄く心配をかけてしまっているだろう。とナマエはまた一つ溜息を吐いた。
ーー遅くなってごめんなさい。今家に向かってるから、心配しないで
せっせかせっせかと歩きながらナマエが携帯で母親にそんな連絡をしていると、前方不注意で誰かにぶつかってしまった。その衝撃により片手で持っていた携帯がナマエの手から滑り落ち、コンクリートで塗装された地面に勢いよく叩きつけられる。その衝撃で「ガン!」という何とも痛々しい音が響き渡り、その音に驚いたのか、ぶつかった相手が肩をビクッと跳ねさせたのが見えた。
「す、すみません!前を見ずに歩いていたもので…」
ナマエはコンクリートとぶつかって見るも無惨な状態になってしまった携帯を一瞥する事もなく、急いでぶつかってしまった相手に詫びを入れた。不幸中の幸いだったのが、壊れてしまった携帯はナマエが普段使いしている方の大事な携帯でなく、家族との連絡手段のみでしか使わない方の携帯だった事だろう。ナマエの両親はナマエがポケモントレーナーとして時たま旅に出る事を案じてか、何かあった時の為に携帯をもう1つ持たせていたのだ。勿論普段使いしている方でも家族との連絡は取れるので、もう1つの携帯は娘に対する親の行き過ぎた愛情が具現化した様なものなのだろうが。
「…もしかして、ナマエ?」
「え」
ナマエが相手が何も言わないのを良い事に何度も何度も謝罪していると、急に聞いた事のある声が頭上から降ってきた。その声に驚いてパッと頭を上げてみると、そこにはエムリットが心配そうな表情でナマエを見つめている姿があった。どうやら偶然にも、ナマエがぶつかってしまった相手はエムリットだったらしい。その事に少しだけ安堵したのかナマエは少しだけほっとした様な表情を見せたが、またすぐにエムリットに対して謝罪をし始めた。どうやら歩いたまま携帯を見ていた自分が招いてしまった悲劇に対し、相当罪悪感を感じているらしい。
「まさかエムリットさんだったなんて…それより、先程はぶつかってしまって本当にすみませんでした。あの、お怪我は…?」
「いいえ、アタシは全然大丈夫だけど…その、携帯壊れちゃったみたいだけど、それは大丈夫なの?」
「いえ、これはあくまで連絡用の携帯なので、何も心配する事はありません。…それより、本当にお怪我とかしてませんか…?」
「そんなのぜーんぜん大丈夫よ!周りをちゃんと確認して無かったアタシこそごめんなさい。連絡用のとは言え携帯壊しちゃったし、ナマエに何回も謝らせちゃったし…もし良かったら家まで送るわよ、女の子がこんな時間に一人で歩いてるなんてそれこそ危ないもの」
「そ、そんな…!それこそありがとうございます、エムリットさん。うちの両親何かと心配性で、こんな時間に1人で帰ったらまた過保護に拍車が掛かりそうだったので… 」
「全然気にしないで!アタシこそナマエに話しておきたい事があったからちょうど良かったわ。…ていうかアンタまた敬語使ってる!この前アタシ達に敬語は要らないって言った筈でしょ?」
エムリットが頬を膨らませてそう言うと同時、壊れた携帯をすぐさま回収した後、2人はナマエの家に向かって並んで歩き出した。並んで歩いてみて初めて分かったことだが、エムリットは華奢なのに意外と背が高い。いやユクシーやアグノムも大概だが、その2人と比べても明らかに細身な体格をしているのに、まさか身長はナマエよりも頭一つか二つ分高かったとは驚いた。この人スタイル良いんだなあとナマエがエムリットにぼーっと見惚れていると、エムリットがそんなナマエに対して徐に口を開いた。
「ねえナマエ、ユンちゃんの事、どう思ってる?」
「え!?えっと、どこか神秘的で、優しい方だな…って思ってるけど。どうしたの?」
「…異性として、ユンちゃんと特別な関係になりたいとか、そういった事は考えてないのよね?」
「も、勿論…」
普段は能天気であっけらかんとした態度でいるエムリットのらしくないその態度を不思議に思ったのか、ナマエは首を傾げながらおずおずとそう答えて見せた。ナマエ自身、あの日自分を助けてくれた上に「素の貴女が見たい」とまで言ってくれた優しい神様に対し心を許したいという思いはあれど、異性として、男女として特別な関係になりたいとは1ミリたりとも思ってはいなかった。そんなナマエの言葉を聞いて、エムリットは少しだけ肩の力を抜くも、まだナマエへの質問を途切れさせようとはしない。
「じゃあ、アタシ達…いや、ユンちゃんの持つ能力について、ナマエはどのくらい知ってる?」
「の、能力…?」
…なんだろうそれは。ポケモンの持つ特性や、エスパータイプの操るサイコパワーのようなものだろうかとナマエがぼんやり想像していると、エムリットが1枚のメモをナマエの手にギュッと握らせてきた。意外と節くれ立って分厚い質感のエムリットの手に驚いたのか、ナマエが反射的に体を跳ねさせると、エムリットが「そのメモ、見てみてくれない?」と圧を感じさせる微笑みを携えてナマエを見つめて来た。その微笑みに気圧されて、ナマエが己の手中に閉じ込められている小さく折りたたまれた1枚のメモを開いてみると、そこにはこう書かれていた。
''その ポケモンの めを みたもの
いっしゅんにして きおくが なくなり
かえることが できなくなる''
「そのポケモンの目を見た者、一瞬にして、記憶が、なくなる…?エムリット、もしかしてこれが……」
ナマエが恐る恐るそう聞いてみると、エムリットは「そうだ」と言わんばかりに力強く頷いて見せた。ナマエ自身学生時代にこの3匹に関する神話について学んだ事はあれど、それはあくまでこの神様達が人間に対し知識、感情、意志の3つを与えた事のみであり、まさかこの様な恐ろしい能力を持っているなんて知る由もなかったのである。ナマエが目を見開いて驚いた様子でそのメモを凝視していると、エムリットがまた口を開いた。
「…アタシとアグノムにもそれと似た能力はあるのだけれどね…ユンちゃんの持つその能力は、アタシ達の中でも1番異質で、1番タチの悪いものなの。あの子がいつも瞼を閉じているのも、それが理由」
エムリットは一つ息を付いてナマエを気遣うように見やると、またすぐに話を続けた。
「それに加えてあの子、1度自分が気に入った物にはとことん執着する厄介な性格してるから…だから、このままナマエがユンちゃんとエイチ湖で会い続けるなら、1度この事について忠告しておかないと…って思って」
「エムリット…」
「この話を聞いても、それでもナマエがこれまで通りユンちゃんに会いに行きたいっていうなら、アタシは止めないわ。でも、アタシ達がどれだけ人間の様な言動や姿をしているとしても、本当は人間とは程遠い異質な存在…って事は覚えておいて」
そこまで言い終わると、エムリットは「2人の問題なのに、お節介だったわよね!ごめんなさい」とナマエに向かって頭を下げた。神が人間に対し頭を下げるなんて、それこそエムリットの兄達や父親である創造神が見たら度肝を抜かれる様な光景だろう。親友である三日月の化身がこの光景を目の当たりにしたら、腹を抱えて笑い出すかもしれない。それでもエムリットは、神である己の立場なんぞかなぐり捨てても良い。それでナマエの記憶がユクシーに消されないなら本望だ。と覚悟を決めていた。
だが当のナマエは、そんなエムリットに対し「頭を上げて」とそっと促すと、この場にそぐわない静かな微笑みを携えてエムリットに対し口を開いた。その微笑みを見て、何故今の言葉を聞いてそんな風に笑っていられるの、とエムリットが不思議に思っていると、ナマエの声がすぐさまエムリットの耳を擽る。
「全然お節介なんかじゃないよ。忠告してくれてありがとう、エムリット」
「…それなら、なんでそんなに笑っていられるのナマエ。このままエイチ湖に通い続けてたら、ユンちゃんに記憶を消されちゃうかもしれないのに」
「あのね、ユクシーは、真夜中に1人で泣いていた私の事を助けてくれたの。それにね、これまで猫を被り続けて生きてきた私に「最初から素を曝け出してみませんか」って言ってくれた。初めてだったわ、そんな風に言ってくれた人。だから私も、彼になら自分を捧げてもいいって思えるの」
「たったそれだけの事で…」
「たったそれだけの事をこれまで言われた事が無かったからこそ、私は他人の忠告を聞けないこんな人間になってしまったのかもしれない。でも、心配しないでよエムリット、記憶を消されてしまったとして、私はきっと後悔しないと思うから」
「それじゃあ、お休みなさい」と言って、ナマエはいつの間にか到着していた家の中へと消えていってしまった。エムリットはそんな自分の忠告が全く響いてない様子のナマエに対し、「もう!ユンちゃんもあの子も本当に馬鹿なんだから」と頬を膨らませてそう吐き捨てると、テレポートで己の住処であるシンジ湖へと帰るのだった。
今日も今日とて、ナマエは引越しの為の諸々の手続きを市役所で終え、ぐったりしながら帰路についていた。身につけている腕時計に目を向けてみると、もう時刻は夜の20時に差し掛かっていた。それを見るが否や、ナマエは深い溜息を一つ吐いてげんなりとした表情を見せる。まさか帰るのがこんな遅い時間になってしまうとは。市役所が混んでいて中々思い通りに事が進まなかったせいか、今日はいつもより帰る時間が遅くなってしまったのだ。こんな時間になってしまっては、自分に関心のない弟はともかく、過保護な両親には凄く心配をかけてしまっているだろう。とナマエはまた一つ溜息を吐いた。
ーー遅くなってごめんなさい。今家に向かってるから、心配しないで
せっせかせっせかと歩きながらナマエが携帯で母親にそんな連絡をしていると、前方不注意で誰かにぶつかってしまった。その衝撃により片手で持っていた携帯がナマエの手から滑り落ち、コンクリートで塗装された地面に勢いよく叩きつけられる。その衝撃で「ガン!」という何とも痛々しい音が響き渡り、その音に驚いたのか、ぶつかった相手が肩をビクッと跳ねさせたのが見えた。
「す、すみません!前を見ずに歩いていたもので…」
ナマエはコンクリートとぶつかって見るも無惨な状態になってしまった携帯を一瞥する事もなく、急いでぶつかってしまった相手に詫びを入れた。不幸中の幸いだったのが、壊れてしまった携帯はナマエが普段使いしている方の大事な携帯でなく、家族との連絡手段のみでしか使わない方の携帯だった事だろう。ナマエの両親はナマエがポケモントレーナーとして時たま旅に出る事を案じてか、何かあった時の為に携帯をもう1つ持たせていたのだ。勿論普段使いしている方でも家族との連絡は取れるので、もう1つの携帯は娘に対する親の行き過ぎた愛情が具現化した様なものなのだろうが。
「…もしかして、ナマエ?」
「え」
ナマエが相手が何も言わないのを良い事に何度も何度も謝罪していると、急に聞いた事のある声が頭上から降ってきた。その声に驚いてパッと頭を上げてみると、そこにはエムリットが心配そうな表情でナマエを見つめている姿があった。どうやら偶然にも、ナマエがぶつかってしまった相手はエムリットだったらしい。その事に少しだけ安堵したのかナマエは少しだけほっとした様な表情を見せたが、またすぐにエムリットに対して謝罪をし始めた。どうやら歩いたまま携帯を見ていた自分が招いてしまった悲劇に対し、相当罪悪感を感じているらしい。
「まさかエムリットさんだったなんて…それより、先程はぶつかってしまって本当にすみませんでした。あの、お怪我は…?」
「いいえ、アタシは全然大丈夫だけど…その、携帯壊れちゃったみたいだけど、それは大丈夫なの?」
「いえ、これはあくまで連絡用の携帯なので、何も心配する事はありません。…それより、本当にお怪我とかしてませんか…?」
「そんなのぜーんぜん大丈夫よ!周りをちゃんと確認して無かったアタシこそごめんなさい。連絡用のとは言え携帯壊しちゃったし、ナマエに何回も謝らせちゃったし…もし良かったら家まで送るわよ、女の子がこんな時間に一人で歩いてるなんてそれこそ危ないもの」
「そ、そんな…!それこそありがとうございます、エムリットさん。うちの両親何かと心配性で、こんな時間に1人で帰ったらまた過保護に拍車が掛かりそうだったので… 」
「全然気にしないで!アタシこそナマエに話しておきたい事があったからちょうど良かったわ。…ていうかアンタまた敬語使ってる!この前アタシ達に敬語は要らないって言った筈でしょ?」
エムリットが頬を膨らませてそう言うと同時、壊れた携帯をすぐさま回収した後、2人はナマエの家に向かって並んで歩き出した。並んで歩いてみて初めて分かったことだが、エムリットは華奢なのに意外と背が高い。いやユクシーやアグノムも大概だが、その2人と比べても明らかに細身な体格をしているのに、まさか身長はナマエよりも頭一つか二つ分高かったとは驚いた。この人スタイル良いんだなあとナマエがエムリットにぼーっと見惚れていると、エムリットがそんなナマエに対して徐に口を開いた。
「ねえナマエ、ユンちゃんの事、どう思ってる?」
「え!?えっと、どこか神秘的で、優しい方だな…って思ってるけど。どうしたの?」
「…異性として、ユンちゃんと特別な関係になりたいとか、そういった事は考えてないのよね?」
「も、勿論…」
普段は能天気であっけらかんとした態度でいるエムリットのらしくないその態度を不思議に思ったのか、ナマエは首を傾げながらおずおずとそう答えて見せた。ナマエ自身、あの日自分を助けてくれた上に「素の貴女が見たい」とまで言ってくれた優しい神様に対し心を許したいという思いはあれど、異性として、男女として特別な関係になりたいとは1ミリたりとも思ってはいなかった。そんなナマエの言葉を聞いて、エムリットは少しだけ肩の力を抜くも、まだナマエへの質問を途切れさせようとはしない。
「じゃあ、アタシ達…いや、ユンちゃんの持つ能力について、ナマエはどのくらい知ってる?」
「の、能力…?」
…なんだろうそれは。ポケモンの持つ特性や、エスパータイプの操るサイコパワーのようなものだろうかとナマエがぼんやり想像していると、エムリットが1枚のメモをナマエの手にギュッと握らせてきた。意外と節くれ立って分厚い質感のエムリットの手に驚いたのか、ナマエが反射的に体を跳ねさせると、エムリットが「そのメモ、見てみてくれない?」と圧を感じさせる微笑みを携えてナマエを見つめて来た。その微笑みに気圧されて、ナマエが己の手中に閉じ込められている小さく折りたたまれた1枚のメモを開いてみると、そこにはこう書かれていた。
''その ポケモンの めを みたもの
いっしゅんにして きおくが なくなり
かえることが できなくなる''
「そのポケモンの目を見た者、一瞬にして、記憶が、なくなる…?エムリット、もしかしてこれが……」
ナマエが恐る恐るそう聞いてみると、エムリットは「そうだ」と言わんばかりに力強く頷いて見せた。ナマエ自身学生時代にこの3匹に関する神話について学んだ事はあれど、それはあくまでこの神様達が人間に対し知識、感情、意志の3つを与えた事のみであり、まさかこの様な恐ろしい能力を持っているなんて知る由もなかったのである。ナマエが目を見開いて驚いた様子でそのメモを凝視していると、エムリットがまた口を開いた。
「…アタシとアグノムにもそれと似た能力はあるのだけれどね…ユンちゃんの持つその能力は、アタシ達の中でも1番異質で、1番タチの悪いものなの。あの子がいつも瞼を閉じているのも、それが理由」
エムリットは一つ息を付いてナマエを気遣うように見やると、またすぐに話を続けた。
「それに加えてあの子、1度自分が気に入った物にはとことん執着する厄介な性格してるから…だから、このままナマエがユンちゃんとエイチ湖で会い続けるなら、1度この事について忠告しておかないと…って思って」
「エムリット…」
「この話を聞いても、それでもナマエがこれまで通りユンちゃんに会いに行きたいっていうなら、アタシは止めないわ。でも、アタシ達がどれだけ人間の様な言動や姿をしているとしても、本当は人間とは程遠い異質な存在…って事は覚えておいて」
そこまで言い終わると、エムリットは「2人の問題なのに、お節介だったわよね!ごめんなさい」とナマエに向かって頭を下げた。神が人間に対し頭を下げるなんて、それこそエムリットの兄達や父親である創造神が見たら度肝を抜かれる様な光景だろう。親友である三日月の化身がこの光景を目の当たりにしたら、腹を抱えて笑い出すかもしれない。それでもエムリットは、神である己の立場なんぞかなぐり捨てても良い。それでナマエの記憶がユクシーに消されないなら本望だ。と覚悟を決めていた。
だが当のナマエは、そんなエムリットに対し「頭を上げて」とそっと促すと、この場にそぐわない静かな微笑みを携えてエムリットに対し口を開いた。その微笑みを見て、何故今の言葉を聞いてそんな風に笑っていられるの、とエムリットが不思議に思っていると、ナマエの声がすぐさまエムリットの耳を擽る。
「全然お節介なんかじゃないよ。忠告してくれてありがとう、エムリット」
「…それなら、なんでそんなに笑っていられるのナマエ。このままエイチ湖に通い続けてたら、ユンちゃんに記憶を消されちゃうかもしれないのに」
「あのね、ユクシーは、真夜中に1人で泣いていた私の事を助けてくれたの。それにね、これまで猫を被り続けて生きてきた私に「最初から素を曝け出してみませんか」って言ってくれた。初めてだったわ、そんな風に言ってくれた人。だから私も、彼になら自分を捧げてもいいって思えるの」
「たったそれだけの事で…」
「たったそれだけの事をこれまで言われた事が無かったからこそ、私は他人の忠告を聞けないこんな人間になってしまったのかもしれない。でも、心配しないでよエムリット、記憶を消されてしまったとして、私はきっと後悔しないと思うから」
「それじゃあ、お休みなさい」と言って、ナマエはいつの間にか到着していた家の中へと消えていってしまった。エムリットはそんな自分の忠告が全く響いてない様子のナマエに対し、「もう!ユンちゃんもあの子も本当に馬鹿なんだから」と頬を膨らませてそう吐き捨てると、テレポートで己の住処であるシンジ湖へと帰るのだった。