逢瀬
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次の日、ナマエは一昨日助けて貰ったのお礼をする為、もう一度エイチ湖へと足を運んでいた。家からエイチ湖までは決して近いとは言えない道程だったが、それでもナマエは借りたお礼はきっちり返さねば気が済まない性分であったし、何よりもう一度あの不思議な雰囲気を醸し出す美しい神様に会いたいという気持ちも少なからず抱えていた。そうして長い長い道程を何とか歩き切り、疲れて息を乱しながらも何とか湖まで到着したナマエを、ユクシーはこの前と同じ穏やかな微笑みで迎えてくれた。
「こんにちは、ナマエ。またお会いできて嬉しいです」
「ユ、ユクシーさん、こんにちは。私もお会いできて嬉しいです…えと、話の前にちょっと休憩しても良いでしょうか…私、あまり体力無くて、」
「えぇ、えぇ。それはもちろん構いませんよ。ここには水も木の実も、身を休める為の物はなんでもありますのでごゆっくり」
「あ、ありがとう、ございます…」
ユクシーから差し出された、見るからに透き通っていて美味しそうな水と、果汁と蜜がギュッと詰まった熟れたモモンの実を夢中で腹に詰めて、ようやくナマエは体力を満タンな状態に戻す事が出来た。彼女は一応ポケモントレーナーとして日々ポケモン達とシンオウ中を駆け回っていた筈なのだが、そんな立場に反して体力は全くと言って良い程少ないのだ。加えて運動神経も皆無なので、家からエイチ湖までの長い距離を歩き切る事は彼女にとって正に地獄の様な苦行であった。それでも彼女は見事にそれをやり切って見せたのだから、流石としか言い様がない。
「ナマエ、もう大丈夫ですか?…決して無理はなさらず」
「は、はい。もう大丈夫です、またご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません…」
「…ふむ」
ユクシーはナマエの言葉を聞いて、そのどこか遠慮した様な彼女の態度に思う所があったのか、自身の顎にその白い手をそっと宛てがい、ナマエの事をじっと見つめた。それもその筈、彼女は先日エムリットから「私達に敬語はいらない」と言われていた筈なのだ。あんな大きい声で伝えられ、彼女に聞こえていない訳が無いだろう。だからと言って、ナマエがその言葉を忘れているというのも考え難い。不思議に思ったユクシーは、ナマエに直接聞いてみる事にした。
「…前にエムリットから、私達に敬語は要らないと言われていたと思うのですが」
「それは勿論覚えてますけど…やっぱりユクシーさん達は神様ですし、私はあなたに助けて貰った訳ですし…」
「…私は神としてで無く、対等な存在として貴女と接したいと思っていたのですが」
「もし貴女がそうでないのなら、どうぞお好きに…」と、ユクシーがあからさまに眉を下げてしょんぼりした弱々しい顔をしてみせると、ナマエはそれを見て明らかに動揺した素振りを見せた。関心の無い弟以外には出来るだけ良い所しか見せたくない彼女にとって、相手の意見を知らん振りしてまで自分の意見を押し通すという行為は、明らかに彼女のポリシーに違反している事であった。助けて貰った自分が、その相手からの切実なお願いを聞き入れないという事は、恩を仇で返しているに等しい。それに気付いたナマエは、未だしょぼんとした顔で自分を見つめているユクシーに、渋々といった様子で「…そこまで言うなら」と、首を縦に振った。
「分かりまし…いや、分かった。今からもう敬語は使わないわ」
「ふふ、ありがとうございます。たまにはプライドをかなぐり捨てておねだりするというのも良いですね。これでまた少し、貴女との距離が縮まった」
「…貴方は敬語外さないの?何かそれ狡くないかしら」
「私の口調はこれがデフォルトですのでお気になさらず。それより、貴女の持っているその甘い香りのする菓子は一体?」
そう言ってユクシーが指差した先には、ナマエが先日のお礼として持って来たブラウニーの入った紙袋があった。ちゃんと箱に詰め込まれている筈なのに、その中身がお菓子だとパッと見抜いてしまう所に彼の異質さを感じる。ポケモン特有の優れた五感のおかげか、はたまたエスパータイプである彼が透視でも使ったのか。不思議に思う事は多々あるが、まあどっちみち彼にあげるために持って来たのだから良いか。と割り切り、ナマエは彼に紙袋ごとそれを差し出した。
「はいこれ、先日助けてくれたお礼よ」
「ふふ、ありがとうございます。甘味は私の好物なので大変嬉しいです。…もしかして、エムリット達から聞いたのですか?」
「ううん。ほら、贈り物に困った時は取り敢えず自分の好物あげとけって言うでしょ?私、甘い物なら何でも大好きなの。貴方も甘い物好きなら、きっと気に入る筈よ」
ユクシーをじっと見つめながら「トバリのデパートで買った物だから、味は保証するわ」と言って、またにこやかに微笑んでみせたナマエ。先程まで息を切らしていたせいか頬はほんのりと紅潮しており、目も少しばかり潤んでいる。それが何とも言えない可憐さを醸し出しており、ユクシーはこの前と同じくまた彼女に目を奪われてしまった。
男を一瞬で虜にする豊満な身体付きの持ち主な訳でも無く、かと言って女神かと見紛う程に美しく精巧な顔立ちという訳でもない至って平凡な彼女の微笑みに、何故こんなにもユクシーは目が離せなくなってしまったのか。本来湖に身を隠して陰ながら人間を見守る立場である彼にとって、一人の人間を特別扱いするなど言語道断。天上から地を這う者らを見守る存在として、人間に近付き過ぎてはならないという暗黙の了解を彼は守らねばならない立場であるはずなのに。
そんな彼をナマエは湖から引きずり出し、あまつさえ己の弱さを曝け出して一目惚れさせてしまった。彼女はどうしようもない猫被り人間だが、極稀に垣間見る事の出来るその素の表情には、他の人間からは見る事が出来ない、何とも言えない魅力が醸し出されていた。その魅力に当てられて、ユクシーは元々エイチ湖に引き篭っていたせいで殆ど人間と関わった事が無いのもあってか、まんまと目の前にいる平凡な猫かぶり女に骨抜きにされてしまったと言う訳だ。
「それはありがとうございます。美味しく頂きます。そうだ、近々一緒に何処か出掛けてみませんか。…私はもっと、貴女について知りたいんです」
惚れ惚れしてしまう様な、何とも言えない神秘的な微笑みを携えながら、ユクシーはうっとりとナマエを見つめてそう提案してみせた。神として、人間を陰から見守らねばならない立場など捨てて、彼女にもっと近付きたい。神である彼がそこまで恋焦がれてしまう程、ナマエという女の笑顔には底知れぬ魅力があった。そんなユクシーの思いに応える様に、ナマエはそっとユクシーに近付くと、控えめに頷いてみせた。
「近々一人暮らしするから、その準備とかで忙しくてすぐにとは言えないけど…もしそれでもいいなら」
ユクシーはその返事を聞くと、そっとナマエの手を取り、「ありがとうございます」と心底嬉しそうに放った。それと同時にそっと開かれた彼の瞳からの焼け付く様な眼差しと執着心に、ナマエは気付くことなく彼にもう一度微笑みかけ、そっと彼の手を握り返した。
「こんにちは、ナマエ。またお会いできて嬉しいです」
「ユ、ユクシーさん、こんにちは。私もお会いできて嬉しいです…えと、話の前にちょっと休憩しても良いでしょうか…私、あまり体力無くて、」
「えぇ、えぇ。それはもちろん構いませんよ。ここには水も木の実も、身を休める為の物はなんでもありますのでごゆっくり」
「あ、ありがとう、ございます…」
ユクシーから差し出された、見るからに透き通っていて美味しそうな水と、果汁と蜜がギュッと詰まった熟れたモモンの実を夢中で腹に詰めて、ようやくナマエは体力を満タンな状態に戻す事が出来た。彼女は一応ポケモントレーナーとして日々ポケモン達とシンオウ中を駆け回っていた筈なのだが、そんな立場に反して体力は全くと言って良い程少ないのだ。加えて運動神経も皆無なので、家からエイチ湖までの長い距離を歩き切る事は彼女にとって正に地獄の様な苦行であった。それでも彼女は見事にそれをやり切って見せたのだから、流石としか言い様がない。
「ナマエ、もう大丈夫ですか?…決して無理はなさらず」
「は、はい。もう大丈夫です、またご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません…」
「…ふむ」
ユクシーはナマエの言葉を聞いて、そのどこか遠慮した様な彼女の態度に思う所があったのか、自身の顎にその白い手をそっと宛てがい、ナマエの事をじっと見つめた。それもその筈、彼女は先日エムリットから「私達に敬語はいらない」と言われていた筈なのだ。あんな大きい声で伝えられ、彼女に聞こえていない訳が無いだろう。だからと言って、ナマエがその言葉を忘れているというのも考え難い。不思議に思ったユクシーは、ナマエに直接聞いてみる事にした。
「…前にエムリットから、私達に敬語は要らないと言われていたと思うのですが」
「それは勿論覚えてますけど…やっぱりユクシーさん達は神様ですし、私はあなたに助けて貰った訳ですし…」
「…私は神としてで無く、対等な存在として貴女と接したいと思っていたのですが」
「もし貴女がそうでないのなら、どうぞお好きに…」と、ユクシーがあからさまに眉を下げてしょんぼりした弱々しい顔をしてみせると、ナマエはそれを見て明らかに動揺した素振りを見せた。関心の無い弟以外には出来るだけ良い所しか見せたくない彼女にとって、相手の意見を知らん振りしてまで自分の意見を押し通すという行為は、明らかに彼女のポリシーに違反している事であった。助けて貰った自分が、その相手からの切実なお願いを聞き入れないという事は、恩を仇で返しているに等しい。それに気付いたナマエは、未だしょぼんとした顔で自分を見つめているユクシーに、渋々といった様子で「…そこまで言うなら」と、首を縦に振った。
「分かりまし…いや、分かった。今からもう敬語は使わないわ」
「ふふ、ありがとうございます。たまにはプライドをかなぐり捨てておねだりするというのも良いですね。これでまた少し、貴女との距離が縮まった」
「…貴方は敬語外さないの?何かそれ狡くないかしら」
「私の口調はこれがデフォルトですのでお気になさらず。それより、貴女の持っているその甘い香りのする菓子は一体?」
そう言ってユクシーが指差した先には、ナマエが先日のお礼として持って来たブラウニーの入った紙袋があった。ちゃんと箱に詰め込まれている筈なのに、その中身がお菓子だとパッと見抜いてしまう所に彼の異質さを感じる。ポケモン特有の優れた五感のおかげか、はたまたエスパータイプである彼が透視でも使ったのか。不思議に思う事は多々あるが、まあどっちみち彼にあげるために持って来たのだから良いか。と割り切り、ナマエは彼に紙袋ごとそれを差し出した。
「はいこれ、先日助けてくれたお礼よ」
「ふふ、ありがとうございます。甘味は私の好物なので大変嬉しいです。…もしかして、エムリット達から聞いたのですか?」
「ううん。ほら、贈り物に困った時は取り敢えず自分の好物あげとけって言うでしょ?私、甘い物なら何でも大好きなの。貴方も甘い物好きなら、きっと気に入る筈よ」
ユクシーをじっと見つめながら「トバリのデパートで買った物だから、味は保証するわ」と言って、またにこやかに微笑んでみせたナマエ。先程まで息を切らしていたせいか頬はほんのりと紅潮しており、目も少しばかり潤んでいる。それが何とも言えない可憐さを醸し出しており、ユクシーはこの前と同じくまた彼女に目を奪われてしまった。
男を一瞬で虜にする豊満な身体付きの持ち主な訳でも無く、かと言って女神かと見紛う程に美しく精巧な顔立ちという訳でもない至って平凡な彼女の微笑みに、何故こんなにもユクシーは目が離せなくなってしまったのか。本来湖に身を隠して陰ながら人間を見守る立場である彼にとって、一人の人間を特別扱いするなど言語道断。天上から地を這う者らを見守る存在として、人間に近付き過ぎてはならないという暗黙の了解を彼は守らねばならない立場であるはずなのに。
そんな彼をナマエは湖から引きずり出し、あまつさえ己の弱さを曝け出して一目惚れさせてしまった。彼女はどうしようもない猫被り人間だが、極稀に垣間見る事の出来るその素の表情には、他の人間からは見る事が出来ない、何とも言えない魅力が醸し出されていた。その魅力に当てられて、ユクシーは元々エイチ湖に引き篭っていたせいで殆ど人間と関わった事が無いのもあってか、まんまと目の前にいる平凡な猫かぶり女に骨抜きにされてしまったと言う訳だ。
「それはありがとうございます。美味しく頂きます。そうだ、近々一緒に何処か出掛けてみませんか。…私はもっと、貴女について知りたいんです」
惚れ惚れしてしまう様な、何とも言えない神秘的な微笑みを携えながら、ユクシーはうっとりとナマエを見つめてそう提案してみせた。神として、人間を陰から見守らねばならない立場など捨てて、彼女にもっと近付きたい。神である彼がそこまで恋焦がれてしまう程、ナマエという女の笑顔には底知れぬ魅力があった。そんなユクシーの思いに応える様に、ナマエはそっとユクシーに近付くと、控えめに頷いてみせた。
「近々一人暮らしするから、その準備とかで忙しくてすぐにとは言えないけど…もしそれでもいいなら」
ユクシーはその返事を聞くと、そっとナマエの手を取り、「ありがとうございます」と心底嬉しそうに放った。それと同時にそっと開かれた彼の瞳からの焼け付く様な眼差しと執着心に、ナマエは気付くことなく彼にもう一度微笑みかけ、そっと彼の手を握り返した。