ナマエの人生は、全てが順風満帆で、全てが完璧であるはずだった。

父と母には、多彩で文武両道で、どこに出しても恥ずかしくない完璧な娘を。

ポケモンには、両手に抱えきれない程の愛情を注ぎ、バトルでポケモンの能力を最大限に引き出す事の出来る、優秀なトレーナーを。

そうして彼女は周りの人達の期待に応え、常に完璧を目指して生きてきた。自己を消し、表面のみをただひたすらに取り繕いながら、周囲に完璧な自分を見せ続けた。その隙の無い取り繕い方のせいか、はたまた皆が見て見ぬふりをしたからか、誰も彼女の心の内にある孤独と悲しみに対して手を差し伸べてやる事は無かった。そうしてふと自分を見つめ直してみると、彼女は自分が何も持っていない事に気が付いた。まるで綿の入っていない人形の様に、彩りの無い人生を歩んで来た、中身の無い存在こそが自分である事に気が付いた彼女は、いつしか自分の人生に希望を見出すことを無くし、その人格の根幹部は歪んだものとなってしまっていた。

然し、ナマエとてこの現状に決して満足していた訳では無かった。いくら周囲に己の綺麗な部分だけを見せ続けてきたといえど、彼女は物事の分別をきちんと付ける事の出来る人間性を持ち合わせる事が出来ていた。嫌な事に対しては素直に嫌と言う事が出来たし、自分のやりたい事を素直に両親に伝え、その目標を叶える為のひたむきな努力の積み重ねにも決して根を上げたりはしなかった。周囲の人間の為に自己すらも擦り減らして、従順で真っ直ぐなお人形にも変身出来る彼女の事だ。己に対し、甘露な飴を口に放り込んでやるよりも痛々しい鞭を身体に打ってやる事の方が賢明であると、ナマエは信じていたのだ。