私の父親。写真でしかその顔を見た事は無いが、ツンツン逆立っている金髪に、怒っているのかと勘違いしてしまいそうなくらい目つきの悪い顔。父の写っている写真を色々と多感な時期に見た時は、この目付きが遺伝しなくて本当に良かったと安堵したものだ。穏やかで柔和な雰囲気の母とは真逆な人という印象だが、何故母はこんな人を選んだのだろう。

わたしの母はちょっと抜けている所もあるが、強かで決して弱音を吐かない人だった。私がほぼ家出同然の様な勢いで旅に出ると決めた時も、母はのほほんと笑って必要な物を揃えて送り出してくれた。今思えばとても悪い事をしたなあと思う。でも1つ言い訳をさせてもらうと、怖かったのだ。優しさの塊の様な雰囲気で、来る者拒まず去るもの追わずな性質の母の包容力に呑まれたら、自分が将来自立出来くなってしまいそうで。

だから突拍子も無く旅に出る事を決めて、その次の日には逃げるように博士から貰ったゼニガメと一緒にマサラタウンを出た。これが私の身に起こった、少し前の出来事だ。

それから私は強くなった。元チャンピオンである母の素晴らしいバトルセンスが遺伝したのか、私は片手で足りる程しか敗北を学ばずにジムバッジを集め終え、そのままポケモンリーグに挑んで呆気なくチャンピオンの座を手に入れてしまった。母の素晴らしいバトルセンスの遺伝だけでこんなにトントン拍子で旅を進められるものかと自分でも思ったが、恐らく私は元々石橋を叩いて渡る性格なので、ポケモン達の特訓やレベリングを毎日入念にしていたのが幸いしたのだろう。

だって周りのトレーナー達がようやく貰ったポケモンをリザードやらフシギソウやらに進化させた時、うちの子はもう既にカメックスへと最終進化を遂げていたのだから。…まあそんな性格が幸を成して、私は自分が思っていたよりも早く旅を終えて家に帰る事になったのだった。ちなみに家に帰るなり母と母のパートナーであるリザードンから熱い抱擁を食らわせられたので、危うく身体が潰れる所だった。加減しろ加減。

…とまあここまでが事の顛末になる。ちなみに今はもう既に帰宅して、手持ちのもふもふ担当であるウインディのお腹に身を預けながら自室でダラダラしている最中である。下の階では恐らく母が久々に顔を合わせる娘にちょっぴり豪勢な夕食を用意している最中だろう。手伝おうかと思ったが、疲れ果てて身体が鉛の様に重たいのでやめておいた。