自分がこの世界の人間では無い事を今のスイクンさんの発言で否が応でも実感してしまって、私の心の中は一気に不安で押し潰されてしまいそうになった。ただでさえ世間知らずで社会に出たことも無いこの私が、この世界でどうやって生きれば良いのだろう。まずこの世界の常識すら知らないし、そもそも私、この世界でどうやって暮らしていけばいいのだ？衣食住、お金、保護者…私の様な子供が生きていくために必要なもの全て、今の私には存在しないのでは。それに、一体どうやって私はこの世界にやって来たのだろう。世界を渡るなんて話、私は今まで見た事も聞いた事無いし…

急に投げ出されたこの知らない世界への疑問や不安に押し潰されそうになりながらも必死に頭を働かせていると、スイクンさんがそんな私の心情を察してくれたのか、頭をくしゃりと撫でてくれた。

「…あんた、ナマエやったっけ？そない心配せんでも大丈夫やで？あんさんみたいな訳ありのか弱い子供を無闇にほっぽり出すなんて事は絶対せえへんから」

「今日から俺があんたの保護者や。まあ人間やなくてポケモンやけど…細かい事はええやろ！俺がパパや！」と、私を安心させようとしてくれているのかふざけ半分でそう言って、スイクンさんは私の頭をひたすら撫で回してくれた。その手のひらの温もりを感じて安心したのか、私は声を上げてわんわん泣きじゃくった…かと思いきや、涙を流す前に腹の虫がぐううぅと勢いよく鳴りだしてしまった。これでは感動的な雰囲気が台無しじゃないか。と思わず涙は引っ込んでしまったが、恥ずかしさで別の意味で泣きそうになった。

「…あっはははは！何や凄い音鳴ったなあ今！雷かと思たわ！そうよなあ2日間何も飲まず食わずやったもんなあ。今ご飯準備するからそこで待っとってな」

綺麗な赤い瞳を細めてそう言うと、スイクンさんは部屋を出ようと立ち上がり、静かに部屋のドアを開けた。その背中に向かって「私も手伝います」と言ったはいいのだが、その途端「変なもんは出さへんから安心して病人は休んどらんかい」と穏やかな声で間髪入れずにそう返されてしまった為、私は1人大人しく布団の中で待っている事になった。…別にスイクンさんの事を疑って言ったつもりは無いのだが。

スイクンさんを待っている間、やはり中々落ち着かなくて部屋の中を見渡していたのだが…改めて思う。ここ、本当に広い。広すぎる。今日からスイクンさんと一緒にここに住むことになったはいいが、何かもう広すぎて逆に住み心地悪そうな気がする。住まわせてもらう身でこんな事を思うのは些か失礼にあたる気もするけど。

広くてピカピカの立派な屋敷を我が物にする、精巧な作り物の様に美しい面目の男性…スイクンさん。何だかとんでもない人に拾われてしまったなあ、と私は他人事のように思うのだった。