ジョウト地方のエンジュシティの隅っこにひっそりとそびえ立つ屋敷の一室にて、丸2日間も目を覚まさず布団で眠り続けている少女を見つめながら、その男は深い溜息をついた。

「うちの前で倒れとったから取り敢えず保護したはええんやけど、食事も取っとらんし目も覚まさへんし...この子大丈夫やろか？」

懐に入れていた愛用の扇子で少女を軽く扇いでやりながら、その男は病人用に作られた流動食と水を少女の枕元に置くと軽く腹部辺りに手を当てて、少女の息があるかを確かめてやった。自分と年の離れた年端もいかない小さな少女ではあるが、見知らぬ男から寝ている間に身体を触られるのは不快だろうという考えが一瞬男の頭をよぎったが、もし本当に息をしていなかった場合取り返しが付かないので、背に腹はかえられぬという思いで男は腹部だけでなく、ついでに少女の首筋と、動脈がある手首付近にも触れておいた。

「息はしてるみたいやさかい取り敢えず安心やけど、流石に2日間もなんも口にしてへんのは心配やなあ...」

家族と呼べる様な者らは居れど、友人や知り合いも少なくずっと1人で過ごしていたこの男にとって、客人が来るという事は大変珍しく、そして嬉しいことであった。ただでさえ男が暮らしているこの屋敷はだだっ広く伽藍堂としており、どんなに孤独を愛している者であれ長年1人で過ごすのは憚られるであろう場所だ。そんな寂しい生活を送っていた男の元に珍しく客人が来てくれたのだから、こうして男がその客人である少女の事を心配して付きっきりで看病しているのはまあ当然と言えば当然の事と言える。...まあ大の男が少女を介抱しているという絵面は第三者から見て多少の違和感はあるし、そもそもこの少女は屋敷の前に倒れていただけの為客人と言っていいのかさえ疑問だが。

「そもそもやけど、何で家の前にこの子は倒れとったんやろうなあ...俺と会った事もあらへんし、そもそもここ周辺に人間は入られへんようになっとる筈やしなあ」

不思議そうに首を傾げながら男はそっと布団に横たわる少女を見やったが、少女が起きない事には何も分からないままである為、今はこの子が目を覚ますまで待つ他ない。その事実に若干の歯痒さを抱えながらも、男は少女を心配そうに眺めながら、その乱れた前髪を櫛でそっと整えてやった。