Extraordinary!
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パルキアさんの腕の中で身動ぎしながらやっとこさ脱出し、私はまだ鼻腔に残っているパルキアさんの香水の香りに辟易しながら、乱れた髪を手櫛で直していた。パルキアさんの頼みを許諾した途端、まさかいきなり抱きついて来るだなんて思いもよらなかった。さっきまで淡々とした佇まいだったのに、急にどうしたんだこの人。
言葉の節々に微塵も感情が込められていない、人の心に疎くどことなく冷たい人だと思っていたのに。まさかパルキアさん、自分の都合の良い動きをしてくれる者に対しては甘い対応をするタイプの人なのだろうか。全ての生物の上に立つ神様がこんな自由人で良いのかと思ったが、まず1人の人間が世界を渡ってしまっているのに今まで何のお咎めも無かったのだ。私が深く考え過ぎなだけで、以外とこのポケモンの世界というものは、私のような異分子やパルキアさんのような度の過ぎたマイペースな方が混ざり込んでいても、上手く回っていられる様な構造をしているのだろう。そう思わなきゃやってられない。
「...そんでパルキア、うちの子を誘拐した理由について、まだ説明して貰っとらんのやけど」
「...?あぁ、そうだったそうだった。すっかり忘れてた」
いや忘れるなよとその場にいた誰もが心の中でツッコミを入れたが、生憎目の前にいるのは物事を深く考えず突拍子もない行動で周りを困らせ、威厳は無いが力と器だけは無駄に持ち合わせているという何とも扱いに困る''神様''だ。その神に等しい力を持っているであろうホウオウさんでさえ、下手にパルキアさんを刺激しないよう物凄く慎重に言葉を選びながら発言しているというのに、当の本人がこの調子なのでどうにも調子が狂う。まあ、パルキアさんがその気遣いに気付いてくれることは絶対にないだろうが。
「まあ...普通にミラーコート掻い潜って屋敷を訪ねるのが1番平和かつ波風立たない方法だって事は自分でも分かってたんだけどね。でも俺って伝説って呼ばれてるポケモンの中だと異端児扱いされてるからさ、警戒心の高いスイクンが普通に俺の事出迎えてくれるなんて事はまず無いよなー...って思ってさ」
「...だからナマエを屋敷の外にあの手この手でおびき寄せて、無理やり話を聞かせようとしたって訳か?」
「そうそう、ホウオウ大正解」
「何が''大正解''だよ...力づくすぎるにも程があるだろそのやり方」
ホウオウさんの呆れ果てた様な言葉に対し、その場にいたパルキアさん以外の全員が賛同の意を表すかのように首を縦に振った。確かにスイクンさんは己の安住の地を荒らす輩に対しては非常に高い警戒心を発揮する。その対象は人間だろうがポケモンだろうが関係ない。その為パルキアさんが真っ直ぐに屋敷を訪ねて来てくれていたとしても、スイクンさんに警戒されて追い返されていたのがオチだろう。
...それでもちょっとやり口が非人道的すぎる。他にもっと良いやり方は絶対にあっただろうに。というか屋敷の庭からヒトモシくんを誘拐するより先に、私をそのまま誘拐した方が絶対に効率が良かった筈だ。
...確かにあの時私はホウオウさんと一緒に自室にいた為、誰にもバレずに私だけを攫うのは不可能だったかもしれないが、だとしても関係ないヒトモシくんやスイクンさんまで巻き込むのはお門違いも良い所である。...なんか申し訳なさ過ぎて胃に穴が空きそうだ。そのせいでヒトモシくんは物凄く怯えてしまっていたし、スイクンさんはこの世の終わりかと思うくらい激怒していたし、パルキアさん自身もスイクンさんに平手打ちを喰らわせられたりで、誰にも得のない最悪な結果になってしまった。まあ自分がこの世界に来た理由を知れたのは大きいかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。
「そういえば、ポケモンが擬人化出来るようになるまで絆を深めて欲しいとは言ってますけど...擬人化出来ないポケモンと私の様な普通の人間が意思の疎通を図るのって、結構難しく無いですか...?言葉も通じませんし...」
「…流石の俺でもその辺は対策してるに決まってるでしょ?ほら、ナマエをこの世界に送る時、原型のポケモンと会話したり、ポケモンの話してる言葉が分かるようにしてあげたじゃないか」
「え、何ですかそれは...全然分からなかったんですけど」
基本的に私の周りに居るポケモン達は常に擬人化している状態な為、私がこの世界に来てから原型のポケモンと触れ合った事は片手で数えられる程しかない。先程原型の姿のホウオウさんに乗って帰路に着いていた時もホウオウさんは飛ぶ事に集中していた為か常に無言だったし、少しでもホウオウさんの背中が軽くなる様にヒトモシくんも原型の姿に戻っていたが、私の腕の中でグッスリ眠ってしまっていた。それにスイクンさんも常日頃から屋敷の中にいる為、そもそも原型の姿に戻る必要性がない。その為パルキアさんが私にそんな能力を授けてくれていたとしても、今までに気付くきっかけが皆無だったのだ。
...だが、必死に記憶を辿らせていると何か引っかかる事があった。随分前に私が夜道で迷子になっていた時、運悪くエンテイさんと遭遇してしまった事があった。その時の私は自分の保身の事しか考えておらず、殺意マシマシで威嚇してきたエンテイさんに対して訳の分からない泣き言を無我夢中で叫んでいた。その時エンテイさんは原型の姿だったのに、何故か彼が私に対して放った罵詈雑言全てが私の耳にスっと入って来たのだ(ちなみに悪口の威力が強すぎて結構傷ついた)。本来なら原型のポケモンと人間は意思疎通が測れない筈だろうに。まあ初めて原型のポケモンと会話したのがこんな緊迫した状況だった為、これは気付かなくても仕方がないだろう。
そんな苦い記憶を思い出しながら1人物思いに耽っていると、パルキアさんがもう用事は済んだとばかりにゆっくり立ち上がった。その動作で彼の付けている香水がふわりと香り、また私の鼻を掠める。
「…それじゃあ話すべき事も話したし、俺はそろそろ御暇しようかな」
「あ、もう行っちゃうんですか…?」
まだ聞きたいことは沢山あったのに、と私はガックリと肩を下ろした。確かに突然私をこの世界に連れて来たことについては勝手だなあと内心憤慨したけれど、私の聞いた事に対して淀みなく全て正直に答えてくれた所を見るに、実はこの神様自分勝手なだけで根は良い方なんじゃないかと、やっと好意的な印象を持つ事が出来たのに。…とまあそんな風に分かりやすく残念がっていると、隣にいるスイクンさんに目を覚ませと言わんばかりに溜息を吐かれてしまった。どうやらまだスイクンさんはパルキアさんを許す事は出来ないらしい。そんな珍しく強情なスイクンさんが面白くて、いつの間にか急降下していた気分は元通りの平常運転に戻っていた。
「何かあれば、しらたま越しに俺を呼んでくれれば良いよ。たまになら応えてあげられるからね」
「俺そういうあんたの図太い神経ほんま苦手やわぁ。なんや応えて''あげる''って…上から目線もええとこやわ」
「…こらスイクンシャラップ」
先程のようにまたパルキアさんに対して毒を吐いたスイクンさんを、ホウオウさんが低い声で制する。そんな2人の様子はまるで、生意気な息子とそれを宥める父親の様だ。
胃の辺りを片手で抑えながらもう片方の手でヒトモシくんを抱えているホウオウさんを器用だなあと思いながら眺めていると、気付けばパルキアさんはもう居なくなってしまっていた。今度会う時は、もう少し彼の突拍子の無い行動に対して慣れておかないと。
「それじゃあナマエ、勉強の続きを…って、もう夜かよ…仕方ねえから皆で夕飯食うか」
「その事なんやけど…パルキアが急に来たせいで夕食の用意出来へんかったから、俺1人で今ちゃちゃっと終わらせて来るわ。その間に2人共ちょっとで良いからお勉強進めとき」
「あ、ありがとうございますスイクンさん…!」
別の世界から突然やって来た上にポケモンと話せるという、平凡とは真逆の人間に自分が成り果ててしまっても尚、こうしてまたいつもの日常は戻って来つつあるのだった。
言葉の節々に微塵も感情が込められていない、人の心に疎くどことなく冷たい人だと思っていたのに。まさかパルキアさん、自分の都合の良い動きをしてくれる者に対しては甘い対応をするタイプの人なのだろうか。全ての生物の上に立つ神様がこんな自由人で良いのかと思ったが、まず1人の人間が世界を渡ってしまっているのに今まで何のお咎めも無かったのだ。私が深く考え過ぎなだけで、以外とこのポケモンの世界というものは、私のような異分子やパルキアさんのような度の過ぎたマイペースな方が混ざり込んでいても、上手く回っていられる様な構造をしているのだろう。そう思わなきゃやってられない。
「...そんでパルキア、うちの子を誘拐した理由について、まだ説明して貰っとらんのやけど」
「...?あぁ、そうだったそうだった。すっかり忘れてた」
いや忘れるなよとその場にいた誰もが心の中でツッコミを入れたが、生憎目の前にいるのは物事を深く考えず突拍子もない行動で周りを困らせ、威厳は無いが力と器だけは無駄に持ち合わせているという何とも扱いに困る''神様''だ。その神に等しい力を持っているであろうホウオウさんでさえ、下手にパルキアさんを刺激しないよう物凄く慎重に言葉を選びながら発言しているというのに、当の本人がこの調子なのでどうにも調子が狂う。まあ、パルキアさんがその気遣いに気付いてくれることは絶対にないだろうが。
「まあ...普通にミラーコート掻い潜って屋敷を訪ねるのが1番平和かつ波風立たない方法だって事は自分でも分かってたんだけどね。でも俺って伝説って呼ばれてるポケモンの中だと異端児扱いされてるからさ、警戒心の高いスイクンが普通に俺の事出迎えてくれるなんて事はまず無いよなー...って思ってさ」
「...だからナマエを屋敷の外にあの手この手でおびき寄せて、無理やり話を聞かせようとしたって訳か?」
「そうそう、ホウオウ大正解」
「何が''大正解''だよ...力づくすぎるにも程があるだろそのやり方」
ホウオウさんの呆れ果てた様な言葉に対し、その場にいたパルキアさん以外の全員が賛同の意を表すかのように首を縦に振った。確かにスイクンさんは己の安住の地を荒らす輩に対しては非常に高い警戒心を発揮する。その対象は人間だろうがポケモンだろうが関係ない。その為パルキアさんが真っ直ぐに屋敷を訪ねて来てくれていたとしても、スイクンさんに警戒されて追い返されていたのがオチだろう。
...それでもちょっとやり口が非人道的すぎる。他にもっと良いやり方は絶対にあっただろうに。というか屋敷の庭からヒトモシくんを誘拐するより先に、私をそのまま誘拐した方が絶対に効率が良かった筈だ。
...確かにあの時私はホウオウさんと一緒に自室にいた為、誰にもバレずに私だけを攫うのは不可能だったかもしれないが、だとしても関係ないヒトモシくんやスイクンさんまで巻き込むのはお門違いも良い所である。...なんか申し訳なさ過ぎて胃に穴が空きそうだ。そのせいでヒトモシくんは物凄く怯えてしまっていたし、スイクンさんはこの世の終わりかと思うくらい激怒していたし、パルキアさん自身もスイクンさんに平手打ちを喰らわせられたりで、誰にも得のない最悪な結果になってしまった。まあ自分がこの世界に来た理由を知れたのは大きいかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。
「そういえば、ポケモンが擬人化出来るようになるまで絆を深めて欲しいとは言ってますけど...擬人化出来ないポケモンと私の様な普通の人間が意思の疎通を図るのって、結構難しく無いですか...?言葉も通じませんし...」
「…流石の俺でもその辺は対策してるに決まってるでしょ?ほら、ナマエをこの世界に送る時、原型のポケモンと会話したり、ポケモンの話してる言葉が分かるようにしてあげたじゃないか」
「え、何ですかそれは...全然分からなかったんですけど」
基本的に私の周りに居るポケモン達は常に擬人化している状態な為、私がこの世界に来てから原型のポケモンと触れ合った事は片手で数えられる程しかない。先程原型の姿のホウオウさんに乗って帰路に着いていた時もホウオウさんは飛ぶ事に集中していた為か常に無言だったし、少しでもホウオウさんの背中が軽くなる様にヒトモシくんも原型の姿に戻っていたが、私の腕の中でグッスリ眠ってしまっていた。それにスイクンさんも常日頃から屋敷の中にいる為、そもそも原型の姿に戻る必要性がない。その為パルキアさんが私にそんな能力を授けてくれていたとしても、今までに気付くきっかけが皆無だったのだ。
...だが、必死に記憶を辿らせていると何か引っかかる事があった。随分前に私が夜道で迷子になっていた時、運悪くエンテイさんと遭遇してしまった事があった。その時の私は自分の保身の事しか考えておらず、殺意マシマシで威嚇してきたエンテイさんに対して訳の分からない泣き言を無我夢中で叫んでいた。その時エンテイさんは原型の姿だったのに、何故か彼が私に対して放った罵詈雑言全てが私の耳にスっと入って来たのだ(ちなみに悪口の威力が強すぎて結構傷ついた)。本来なら原型のポケモンと人間は意思疎通が測れない筈だろうに。まあ初めて原型のポケモンと会話したのがこんな緊迫した状況だった為、これは気付かなくても仕方がないだろう。
そんな苦い記憶を思い出しながら1人物思いに耽っていると、パルキアさんがもう用事は済んだとばかりにゆっくり立ち上がった。その動作で彼の付けている香水がふわりと香り、また私の鼻を掠める。
「…それじゃあ話すべき事も話したし、俺はそろそろ御暇しようかな」
「あ、もう行っちゃうんですか…?」
まだ聞きたいことは沢山あったのに、と私はガックリと肩を下ろした。確かに突然私をこの世界に連れて来たことについては勝手だなあと内心憤慨したけれど、私の聞いた事に対して淀みなく全て正直に答えてくれた所を見るに、実はこの神様自分勝手なだけで根は良い方なんじゃないかと、やっと好意的な印象を持つ事が出来たのに。…とまあそんな風に分かりやすく残念がっていると、隣にいるスイクンさんに目を覚ませと言わんばかりに溜息を吐かれてしまった。どうやらまだスイクンさんはパルキアさんを許す事は出来ないらしい。そんな珍しく強情なスイクンさんが面白くて、いつの間にか急降下していた気分は元通りの平常運転に戻っていた。
「何かあれば、しらたま越しに俺を呼んでくれれば良いよ。たまになら応えてあげられるからね」
「俺そういうあんたの図太い神経ほんま苦手やわぁ。なんや応えて''あげる''って…上から目線もええとこやわ」
「…こらスイクンシャラップ」
先程のようにまたパルキアさんに対して毒を吐いたスイクンさんを、ホウオウさんが低い声で制する。そんな2人の様子はまるで、生意気な息子とそれを宥める父親の様だ。
胃の辺りを片手で抑えながらもう片方の手でヒトモシくんを抱えているホウオウさんを器用だなあと思いながら眺めていると、気付けばパルキアさんはもう居なくなってしまっていた。今度会う時は、もう少し彼の突拍子の無い行動に対して慣れておかないと。
「それじゃあナマエ、勉強の続きを…って、もう夜かよ…仕方ねえから皆で夕飯食うか」
「その事なんやけど…パルキアが急に来たせいで夕食の用意出来へんかったから、俺1人で今ちゃちゃっと終わらせて来るわ。その間に2人共ちょっとで良いからお勉強進めとき」
「あ、ありがとうございますスイクンさん…!」
別の世界から突然やって来た上にポケモンと話せるという、平凡とは真逆の人間に自分が成り果ててしまっても尚、こうしてまたいつもの日常は戻って来つつあるのだった。