Extraordinary!
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ホウオウさんにスイクンさんの屋敷まで送ってもらい、私達は急いでミラーコートを潜り抜けて屋敷の敷居を跨ぐと、スイクンさんとパルキアさんのいるであろう広間へと足を進めた。ヒトモシくんの事を私達以上に心配しているであろうスイクンさんを早く安心させてあげたい気持ちと、パルキアさんに早く疑問をぶつけたい気持ちがせめぎ合い、半ば半狂乱になりながら屋敷の長い廊下を走る私の事を見かねて、原型の姿で眠っているヒトモシくんを腕に抱いたホウオウさんが片手で私の肩をぽんぽんと叩いて正気を戻してくれるまで、私はずっと身体に力を込めたままだった。
「お前も疲れてんだろ、少し落ち着けよ...別に誰も逃げたりしねえよ」
「う...すみません...ホウオウさん」
ホウオウさんに窘められて、そこで漸く私は自分の身体に力を入れ過ぎていた事に気が付いた。身体中の力を抜く為に一度走るのを止めてゆっくりと一つ息を吐くと、それだけで身体の力がふっと抜けて、先程よりも大分気が楽になった様な気がした。気を取り直してホウオウさんの横に並んで広間まで向かい、緩慢な動作で扉をおずおずと開いてみれば、そこには予想通りスイクンさんとパルキアさんの姿があった。
「スイクンさ...」
「...おいちょっと待てナマエ」
「え」
ホウオウさんの服の裾を引いてスイクンさん達のいる広間へ足を踏み入れようとした途端、後ろにいたホウオウさんに逆に腕を廊下側に引っ張られてしまい、私は広間へ入るはずが、また先程の長い廊下に滞在する事となってしまった。その事に驚いて思わず私の腕を引っ張ったホウオウさんを恨みを込めて睨みつければ、そこには苦笑しながら微かに開いた広間の扉を見つめているホウオウさんの姿があった。
「ホウオウさん...!何で広間に入ろうとしないんですか!」
「...ナマエ、ちょっと扉の隙間からパルキアの顔見つめてみろ」
「は...?ちょっとこんな時に何言って...」
早く広間に入りたい一心で、いきなり支離滅裂な事を言い出したホウオウさんに対して訝しげな感情を抱きながらも、とりあえず言う通りに扉の隙間からそっとパルキアさんの顔を凝視してみる。会ったばかりでまだ知り合いですらない他人の顔をこそこそ凝視するという、何とも失礼な行為をしている事に罪悪感を覚えたが、心の中で全部ホウオウさんに責任転嫁しておいた。
そうしてパルキアさんの整った顏に扉の隙間から集点を当ててみると、何やら彼の左側の頬がやけに赤く腫れ上がっている事に気が付いた。しかもくっきりと紅葉のような手形まで浮かび上がっており、パルキアさんは時折その腫れた頬を片手で摩っている。反射的にパルキアさんの正面にいるスイクンさんに目を向けてみると、スイクンさんもスイクンさんで何とも不機嫌な表情をしており、眉間にやけに皺が寄っている。その2人の雰囲気と顔つきから、何となくホウオウさんの言いたいことを察知した私は、後ろにいるホウオウさんにおずおずと向き直った。
「あ、あの...もしかしてパルキアさんの頬、スイクンさんに平手打ちされてませんかあれ...」
「やっと理解したか...?いや、俺もスイクンとは長年の付き合いだが...近年稀に見るレベルで相当怒ってるぜあいつ」
「で、でも!流れからして流石に私たちに対して激怒してる訳では無いと思いますし...普通に入って行っても問題無いのでは...?」
「...流れ弾食らっても知らねえぞ」
そんな感じで部屋に入る事をやけに渋っているホウオウさんを無理やり引っ張り込んで、半ば倒れ込むようにして私はやっとこさ広間へと入室した。その途端赤い2つの視線が私達へと突き刺さってきたが、その視線に知らん振りを決め込み、何とか空元気で「ただいま帰りました!」と傷んだ喉から無理矢理声を上げてスイクンさんの隣に敷いてあった座布団に腰掛ける。
「ス、スイクンさん...!ヒトモシくん、無事に見つかりましたよ!」
そう言ってホウオウさんの腕の中で眠りこけているヒトモシくんをスイクンさんに見せれば、スイクンさんは眉間の皺を若干緩ませて私の頭を優しく撫でてくれた。
「3人ともおかえり。ヒトモシも無事で何よりやわ...」
ヒトモシくんの安否を確認出来て安堵している様子のスイクンさんを見て、パルキアさんが傷んだ頬を先程のように擦りながら少し不機嫌な様子で口を開く。
「だから言ったでしょ?その子には何もしてないよって」
「黙らんかいこの誘拐犯」
パルキアさんが口を開いた途端にまた不機嫌な顔をしてしまったスイクンさん。その様子を見て未だ尚飄々とした表情を崩さないパルキアさん。その2人に板挟みになってしまった私は内心恐怖で怯えながら、隣に座っているホウオウさんに視線だけで助けを求めた。そんな私の視線を受け止めて仕方ねえなとため息をついたホウオウさんに心の中で謝罪しながらも、何とか2人に向き直る。
「あー...それでパルキア、とりあえず俺達も全部把握しきれてねえから、お前が何でナマエをこの世界に連れてきたのだとか、ヒトモシを攫った理由だとか、今ここで全部説明してくれねえか?」
「うん、勿論そのつもりだ。だけどその説明の前に...ナマエ、君にまだ俺の事を紹介していなかったね、改めて自己紹介といこう。俺はパルキア。ここにいるスイクンやホウオウと同じ伝説のポケモンだよ。あと...一応この世界に置ける、空間を管理している''神様''って呼ばれてる。あくまで人間が勝手に呼んでいるだけだから、俺自身に神様っていう自覚は無いに等しいのだけどね」
そう言ってへにゃりと頬を緩ませたパルキアさんの表情には、本当に神様としての威厳は確かに微塵も見られない様な気がした。...だが、先程ヒトモシくんや私を睨みつけた際に放たれた重苦しいプレッシャーには、私のような平凡な''人間''でもはっきりと分かる程の、生物としての格の違いがありありと醸し出されていた。この人に神としての自覚が無いだけで、パルキアさん自身に備わっている力や器自体は、きっと神様という肩書きに相応しいと言って差し支え無い程の物なのだろう。
「...神様いうより邪神みたいなもんやけどな」
「シャラップスイクン」
ヒトモシくんを攫った事についてまだ怒りが抑えきれていないのか、スイクンさんがまたパルキアさんに向かってボソリと毒を吐き、それをホウオウさんがため息を付きながら宥めた。
「それで、どうして私をこの世界に連れて来たんですか?」
「...ポケモンの世界には、こんな昔話がある。昔、ヒトと結婚したポケモンがいた。ポケモンと結婚したヒトがいた。当時はヒトもポケモンも同じだったから、普通の事だった」
「...は?」
私をこの世界に連れて来た訳を話してくれるのかと思いきや、いきなり妙な事を語り出したパルキアさん。その事に戸惑って、つい反抗的で不躾な相槌が口から零れ落ちてしまったが、幸か不幸か(それとも気づいていないのか)パルキアさんはその事に触れては来ず、ひとしきりその''昔話''とやらを語り終えた後、満足げに私を見つめた。
「...しかし今はどうだろう。ポケモンと人との結婚はおろか、いつからかポケモンと人間は全く別の生物だという認識が広まり、挙句の果てにポケモンを己の都合で使役し使い捨てる輩までいる始末だ。...俺は、そんな現状がどうにも認められなくてね」
「それと私がこの世界に来た理由と、なんの関係が...?」
だんだん訳が分からなくなってきて、両隣にいるホウオウさんとスイクンさんに視線をチラリと移して助けを求めたが、スイクンさんもホウオウさんも私と同じように訳が分からないと言った様子でため息を付きながらパルキアさんを見据えるばかりだ。私達のそんな様子を見て、パルキアさんはまた微笑を浮かべながら話を続ける。
「そこの2人も意味が分かっていない様だから、この際ハッキリと言ってしまおう。ナマエ、俺は君を、人とポケモンを繋ぐ者としてこの世界に呼んだんだ」
「人とポケモンを、繋ぐ者...?」
「あぁ。ポケモンの擬人化する条件とは何か、君は知っているかい?」
「い、いえ...」
「人間に対して強い感情を抱く事...やろ?」
私が分からないと首を振った途端、スイクンさんが間を置かずにハッキリとそう放った。先程までホウオウさんと一緒にだんまりになってパルキアさんの話を静かに聞いていたスイクンさんが急に食い気味になって口を開いたことに驚いていると、パルキアさんが静かに「正解だ」とまた微笑んだ。
「俺たち伝説のポケモンはそんな手順を踏まなくとも、元々の力で擬人化出来るのだけれど...普通のポケモンじゃあそうもいかない。人間に対して強い感情を持ち、その対象に少しでも近づきたいと願った時、初めて擬人化という現象は成立するんだ」
「な、成程...つまり、その擬人化出来るポケモンが増えれば、昔の様に結婚まではいかなくとも、ポケモンと人間がまた同じだと言えるような世界に近づける...という事ですか?」
「そう。...そこでナマエ、君に頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事...?」
「今この世界における人間の殆どが、自分のポケモンが擬人化出来るようになるほど絆を深める事が出来ていない。...だから、君にはこの世界で旅をして強くなり、手持ちのポケモン達と絆を深め、擬人化出来るポケモンを少しでも増やしてほしいんだ」
私の様な平凡な人間に対し、神という立場のパルキアさんが頭を下げてお願いするだなんて夢にも思わず、一瞬幻覚を見ているのではないかと失礼にも錯覚してしまったが、両隣のスイクンさんとホウオウさんも驚いた表情を浮かべているのを見るに、どうやら今見ている光景は現実で間違っていないようだ。
私自身他人から頭を下げられるという状況に対して非常に免疫が薄く、何より頼まれたら断れないという生粋のお人好しである為、パルキアさんが僅かに顔を上げた途端、私は首をおずおずと縦に振って「頑張ってみます...!」と何とも頼りない返事で頼みを許諾する他なかった。その途端、ふわりと低い体温が私の身体に伝わってきたと同時に、どこかで嗅いだ事のある様な人工的な芳香が私の鼻腔を擽った。ライコウさんの纏っている香水程くどく濃い香りでは無く、丁度良く均衛が保たれている感じがどことなくパルキアさんらしいなあ、とぼんやり考えながら自分の状況を省みてみれば、そこにはパルキアさんに抱きしめられているという何とも恥ずかしい状況に置かれている私がいた。それに気がついた途端、私の頬が一気に熱を帯び始める。
「パ、パルキアさん!?離れてください...!」
「...感謝するよ。ありがとう...ナマエ」
駄目だこれ話聞いてくれてないなと私は瞬時に悟り、何度目かの助けを2人に求めようとすぐさま両隣に目を向けてみたが、ホウオウさんは腕にヒトモシくんを抱えている為パルキアさんを私から引き剥がす事が出来ないし、スイクンさんは犬猿の仲であるライコウさん以外に直接的な牙を剥きたく無いのか、それとも目の前にいる神様に対してほとほと呆れ返ってしまっているのか、只々ドン引きした目でパルキアさんを見つめているばかりだった。
スイクンさんに対して''呆れ返るより先にこっちを助けて下さいよ''なんて烏滸がましい態度で訴える事を私が出来る筈も無い為、パルキアさんが一頻り私に感謝の言葉を述べ終わるまで、私は香水の良い香りに包まれながら、パルキアさんの腕の中に暫く拘束されていたのだった。
「お前も疲れてんだろ、少し落ち着けよ...別に誰も逃げたりしねえよ」
「う...すみません...ホウオウさん」
ホウオウさんに窘められて、そこで漸く私は自分の身体に力を入れ過ぎていた事に気が付いた。身体中の力を抜く為に一度走るのを止めてゆっくりと一つ息を吐くと、それだけで身体の力がふっと抜けて、先程よりも大分気が楽になった様な気がした。気を取り直してホウオウさんの横に並んで広間まで向かい、緩慢な動作で扉をおずおずと開いてみれば、そこには予想通りスイクンさんとパルキアさんの姿があった。
「スイクンさ...」
「...おいちょっと待てナマエ」
「え」
ホウオウさんの服の裾を引いてスイクンさん達のいる広間へ足を踏み入れようとした途端、後ろにいたホウオウさんに逆に腕を廊下側に引っ張られてしまい、私は広間へ入るはずが、また先程の長い廊下に滞在する事となってしまった。その事に驚いて思わず私の腕を引っ張ったホウオウさんを恨みを込めて睨みつければ、そこには苦笑しながら微かに開いた広間の扉を見つめているホウオウさんの姿があった。
「ホウオウさん...!何で広間に入ろうとしないんですか!」
「...ナマエ、ちょっと扉の隙間からパルキアの顔見つめてみろ」
「は...?ちょっとこんな時に何言って...」
早く広間に入りたい一心で、いきなり支離滅裂な事を言い出したホウオウさんに対して訝しげな感情を抱きながらも、とりあえず言う通りに扉の隙間からそっとパルキアさんの顔を凝視してみる。会ったばかりでまだ知り合いですらない他人の顔をこそこそ凝視するという、何とも失礼な行為をしている事に罪悪感を覚えたが、心の中で全部ホウオウさんに責任転嫁しておいた。
そうしてパルキアさんの整った顏に扉の隙間から集点を当ててみると、何やら彼の左側の頬がやけに赤く腫れ上がっている事に気が付いた。しかもくっきりと紅葉のような手形まで浮かび上がっており、パルキアさんは時折その腫れた頬を片手で摩っている。反射的にパルキアさんの正面にいるスイクンさんに目を向けてみると、スイクンさんもスイクンさんで何とも不機嫌な表情をしており、眉間にやけに皺が寄っている。その2人の雰囲気と顔つきから、何となくホウオウさんの言いたいことを察知した私は、後ろにいるホウオウさんにおずおずと向き直った。
「あ、あの...もしかしてパルキアさんの頬、スイクンさんに平手打ちされてませんかあれ...」
「やっと理解したか...?いや、俺もスイクンとは長年の付き合いだが...近年稀に見るレベルで相当怒ってるぜあいつ」
「で、でも!流れからして流石に私たちに対して激怒してる訳では無いと思いますし...普通に入って行っても問題無いのでは...?」
「...流れ弾食らっても知らねえぞ」
そんな感じで部屋に入る事をやけに渋っているホウオウさんを無理やり引っ張り込んで、半ば倒れ込むようにして私はやっとこさ広間へと入室した。その途端赤い2つの視線が私達へと突き刺さってきたが、その視線に知らん振りを決め込み、何とか空元気で「ただいま帰りました!」と傷んだ喉から無理矢理声を上げてスイクンさんの隣に敷いてあった座布団に腰掛ける。
「ス、スイクンさん...!ヒトモシくん、無事に見つかりましたよ!」
そう言ってホウオウさんの腕の中で眠りこけているヒトモシくんをスイクンさんに見せれば、スイクンさんは眉間の皺を若干緩ませて私の頭を優しく撫でてくれた。
「3人ともおかえり。ヒトモシも無事で何よりやわ...」
ヒトモシくんの安否を確認出来て安堵している様子のスイクンさんを見て、パルキアさんが傷んだ頬を先程のように擦りながら少し不機嫌な様子で口を開く。
「だから言ったでしょ?その子には何もしてないよって」
「黙らんかいこの誘拐犯」
パルキアさんが口を開いた途端にまた不機嫌な顔をしてしまったスイクンさん。その様子を見て未だ尚飄々とした表情を崩さないパルキアさん。その2人に板挟みになってしまった私は内心恐怖で怯えながら、隣に座っているホウオウさんに視線だけで助けを求めた。そんな私の視線を受け止めて仕方ねえなとため息をついたホウオウさんに心の中で謝罪しながらも、何とか2人に向き直る。
「あー...それでパルキア、とりあえず俺達も全部把握しきれてねえから、お前が何でナマエをこの世界に連れてきたのだとか、ヒトモシを攫った理由だとか、今ここで全部説明してくれねえか?」
「うん、勿論そのつもりだ。だけどその説明の前に...ナマエ、君にまだ俺の事を紹介していなかったね、改めて自己紹介といこう。俺はパルキア。ここにいるスイクンやホウオウと同じ伝説のポケモンだよ。あと...一応この世界に置ける、空間を管理している''神様''って呼ばれてる。あくまで人間が勝手に呼んでいるだけだから、俺自身に神様っていう自覚は無いに等しいのだけどね」
そう言ってへにゃりと頬を緩ませたパルキアさんの表情には、本当に神様としての威厳は確かに微塵も見られない様な気がした。...だが、先程ヒトモシくんや私を睨みつけた際に放たれた重苦しいプレッシャーには、私のような平凡な''人間''でもはっきりと分かる程の、生物としての格の違いがありありと醸し出されていた。この人に神としての自覚が無いだけで、パルキアさん自身に備わっている力や器自体は、きっと神様という肩書きに相応しいと言って差し支え無い程の物なのだろう。
「...神様いうより邪神みたいなもんやけどな」
「シャラップスイクン」
ヒトモシくんを攫った事についてまだ怒りが抑えきれていないのか、スイクンさんがまたパルキアさんに向かってボソリと毒を吐き、それをホウオウさんがため息を付きながら宥めた。
「それで、どうして私をこの世界に連れて来たんですか?」
「...ポケモンの世界には、こんな昔話がある。昔、ヒトと結婚したポケモンがいた。ポケモンと結婚したヒトがいた。当時はヒトもポケモンも同じだったから、普通の事だった」
「...は?」
私をこの世界に連れて来た訳を話してくれるのかと思いきや、いきなり妙な事を語り出したパルキアさん。その事に戸惑って、つい反抗的で不躾な相槌が口から零れ落ちてしまったが、幸か不幸か(それとも気づいていないのか)パルキアさんはその事に触れては来ず、ひとしきりその''昔話''とやらを語り終えた後、満足げに私を見つめた。
「...しかし今はどうだろう。ポケモンと人との結婚はおろか、いつからかポケモンと人間は全く別の生物だという認識が広まり、挙句の果てにポケモンを己の都合で使役し使い捨てる輩までいる始末だ。...俺は、そんな現状がどうにも認められなくてね」
「それと私がこの世界に来た理由と、なんの関係が...?」
だんだん訳が分からなくなってきて、両隣にいるホウオウさんとスイクンさんに視線をチラリと移して助けを求めたが、スイクンさんもホウオウさんも私と同じように訳が分からないと言った様子でため息を付きながらパルキアさんを見据えるばかりだ。私達のそんな様子を見て、パルキアさんはまた微笑を浮かべながら話を続ける。
「そこの2人も意味が分かっていない様だから、この際ハッキリと言ってしまおう。ナマエ、俺は君を、人とポケモンを繋ぐ者としてこの世界に呼んだんだ」
「人とポケモンを、繋ぐ者...?」
「あぁ。ポケモンの擬人化する条件とは何か、君は知っているかい?」
「い、いえ...」
「人間に対して強い感情を抱く事...やろ?」
私が分からないと首を振った途端、スイクンさんが間を置かずにハッキリとそう放った。先程までホウオウさんと一緒にだんまりになってパルキアさんの話を静かに聞いていたスイクンさんが急に食い気味になって口を開いたことに驚いていると、パルキアさんが静かに「正解だ」とまた微笑んだ。
「俺たち伝説のポケモンはそんな手順を踏まなくとも、元々の力で擬人化出来るのだけれど...普通のポケモンじゃあそうもいかない。人間に対して強い感情を持ち、その対象に少しでも近づきたいと願った時、初めて擬人化という現象は成立するんだ」
「な、成程...つまり、その擬人化出来るポケモンが増えれば、昔の様に結婚まではいかなくとも、ポケモンと人間がまた同じだと言えるような世界に近づける...という事ですか?」
「そう。...そこでナマエ、君に頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事...?」
「今この世界における人間の殆どが、自分のポケモンが擬人化出来るようになるほど絆を深める事が出来ていない。...だから、君にはこの世界で旅をして強くなり、手持ちのポケモン達と絆を深め、擬人化出来るポケモンを少しでも増やしてほしいんだ」
私の様な平凡な人間に対し、神という立場のパルキアさんが頭を下げてお願いするだなんて夢にも思わず、一瞬幻覚を見ているのではないかと失礼にも錯覚してしまったが、両隣のスイクンさんとホウオウさんも驚いた表情を浮かべているのを見るに、どうやら今見ている光景は現実で間違っていないようだ。
私自身他人から頭を下げられるという状況に対して非常に免疫が薄く、何より頼まれたら断れないという生粋のお人好しである為、パルキアさんが僅かに顔を上げた途端、私は首をおずおずと縦に振って「頑張ってみます...!」と何とも頼りない返事で頼みを許諾する他なかった。その途端、ふわりと低い体温が私の身体に伝わってきたと同時に、どこかで嗅いだ事のある様な人工的な芳香が私の鼻腔を擽った。ライコウさんの纏っている香水程くどく濃い香りでは無く、丁度良く均衛が保たれている感じがどことなくパルキアさんらしいなあ、とぼんやり考えながら自分の状況を省みてみれば、そこにはパルキアさんに抱きしめられているという何とも恥ずかしい状況に置かれている私がいた。それに気がついた途端、私の頬が一気に熱を帯び始める。
「パ、パルキアさん!?離れてください...!」
「...感謝するよ。ありがとう...ナマエ」
駄目だこれ話聞いてくれてないなと私は瞬時に悟り、何度目かの助けを2人に求めようとすぐさま両隣に目を向けてみたが、ホウオウさんは腕にヒトモシくんを抱えている為パルキアさんを私から引き剥がす事が出来ないし、スイクンさんは犬猿の仲であるライコウさん以外に直接的な牙を剥きたく無いのか、それとも目の前にいる神様に対してほとほと呆れ返ってしまっているのか、只々ドン引きした目でパルキアさんを見つめているばかりだった。
スイクンさんに対して''呆れ返るより先にこっちを助けて下さいよ''なんて烏滸がましい態度で訴える事を私が出来る筈も無い為、パルキアさんが一頻り私に感謝の言葉を述べ終わるまで、私は香水の良い香りに包まれながら、パルキアさんの腕の中に暫く拘束されていたのだった。