Extraordinary!
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「ヒトモシくん!ヒトモシくーん!」
ホウオウさんと二手に別れ、必死に小さなあの子の名前を叫び続けながら足を動かす。ホウオウさんから「何かあった時に鳴らせ」と受け取った''とうめいなすず''が、走った事による振動でポケットの中でカラコロと小さく鳴った。その心地よい小さな音を耳で拾いながら、私は周りを用心深くキョロキョロと見回した。白くて綺麗な髪の毛が、トパーズのようにキラキラ光る黄色い瞳が、私の瞳にもう一度映ってくれる事を願って。
「どこに行ったの...!?ヒトモシくん!」
前にも話した通り、この辺は街灯が全く設置されて居ないため、夜になってしまう前にヒトモシくんを探し出さねば、夜目の効かない私まで迷子になってしまう。それに今さっき気がついたのだが、ホウオウさんも原型時は鳥目だし、ポケモンは擬人化時の五感が原型時と比べて少々人間寄りになってしまう為、私達2人共夜の散策は不可能だ。即ち夜になるまでにヒトモシくんを見つけて屋敷に戻らなければ、私とホウオウさんまで帰れなくなってしまうという訳だ。
散々走り回ってだいぶ足が疲れて来たので、休憩がてら空を見上げてみると、太陽はだいぶ西の方に傾いていた。日が完全に傾くまであと2時間といった所だろうか。今こうして休憩している間にも、タイムリミットは刻々と近づいてきている。残されている時間が大分少なかった事を改めて思い知らされ、私はいても立っても居られずにまた先程のようにヒトモシくんの名を叫んだ。
「ヒトモシくーん!どこにいるの!いたら返事して!」
それを2、3回繰り返していた所、とうとう私の喉が限界を迎えたのか、ゲホゲホと咳が出てきた。喉奥がジィンと痛む感覚に僅かな不快感を覚えながら傷んだ喉を労る様に摩っていると、途端に後ろから男性の声が聞こえてきた。
「君の探している子はこの子かい?」
「...え、」
聞き慣れないその男性の声に驚いて反射的に後ろを振り向けば、そこには今にも泣きそうな顔で私をじっと見つめているヒトモシくんと、金属の様な髪色をした、色素の薄い男性が立っていた。ヒトモシくんはその男性に手をガッチリと掴まれており、このまま男性の手を振り払って私の所まで来るのは到底不可能そうだった。
「ヒトモシくん!」
「ナマエさん!」
私がヒトモシくんの名前を呼んだ途端、ヒトモシくんは我に返った様に男の手を振り払おうと力いっぱい腕を振ったが、その男性がヒトモシくんをキッと睨み付けた途端、ヒトモシくんはビクリと肩を震わせ、怯えたように縮こまってしまった。
原型の姿に戻ろうとも、恐らく無理矢理身体の一部を掴まれてしまっている為、上手く姿を変える事が出来なくなっているのだろう。私の大事な家族にどうしてこんな事が出来るのだ。私はこんな人知らないし会ったことも無いのに。それにこの人は一体どうやって屋敷からヒトモシくんを攫ったのか...といった疑問が絶えず出てくるが、それを聞いたところでこの人はちゃんと答えてくれるだろうか。ポケットの中の鈴を使ってホウオウさんを呼ぶのが1番安全なのだろうが、ヒトモシくんを人質に取られている以上、こちらも下手な事は出来ない。
今の私がするべきことは、ヒトモシくんを解放してもらう事。たったそれだけだ。
「その子を離して下さい。貴方が誰だか存じませんが、その子は私の大事な家族なんです」
「へぇ、まあ俺が用事があるのはこのヒトモシじゃなくて君だから、別に離すくらいなら造作もないけれど...でも、ここは1つ交換条件といこうか。俺がこの子を解放する代わりに、君は俺の話を聞いて欲しい」
私の目をじっと見ながら真剣そうな口振りでそう言うので、思わず首を縦に振ってしまった。その途端男性はヒトモシくんの腕を解放し、ヒトモシくんはすぐさま私の腰辺りへ怯えた様にぎゅっとしがみついてきた。そんなヒトモシくんを安心させるように抱きしめていると、件の男性が私達の方に足早に近づいてきた。反射的にヒトモシくんを自分の背に守るようにして立つと、男性はフッと笑いながら口を開く。
「そんなに怯えなくてももう何もしないよ。...まずは話を聞いてもらう前に、自己紹介といこう。俺はパルキアって言うんだ、宜しくね。因みに君の保護者のスイクンと、君が今こっそり呼ぼうとしてるホウオウとは知り合いだよ」
ホウオウさんに助けを求めようとしていた事が一瞬で見破られてしまったのに驚いて、ポケットに徐に突っ込んでいた手をサッと外に出した。此方の行動は全てこの人にお見通しと言う訳だ。
スイクンさんのミラーコートを見破れる程の力に、ポケモンであるヒトモシくんを一睨みで捻じ伏せられる圧倒的なプレッシャー。そして伝説のポケモンであるスイクンさんやホウオウさんと知り合いという点から察するに、この人は多分だけど、人間では無いのだと思う。そこは良いのだけれど、問題はヒトモシくんを攫った理由と、初対面である筈の私に一体何を話したいのかについてだ。
「君達の名前はもう知っているから、一々言わなくて大丈夫だよ。俺は生憎、無駄な事が嫌いでね」
「それで、話とは一体...?あと、此方も聞きたいことは沢山あるんですけど...」
ヒトモシくんを背に庇いながら恐る恐る口を開くと、男性...もといパルキアさんは、「君達の質問については後で答えるよ」と貼り付けた笑みを有無も言わせぬ雰囲気を醸し出しながら此方に向けてきた為、今はとりあえずパルキアさんの話を聞くだけに留めておいた。どうでもいい事だが、この人の行動一つ一つに人間らしさが少しも見えず、はっきり言って少し気味が悪い。それなのに長い睫毛やら白い肌やらツヤツヤサラサラな髪の毛やら、面目だけはスイクンさん達同様に物凄く整っているものだから余計に人間らしさが感じられなくて最早恐怖すら感じる。
「...こんな妄想をした事は無いかい?平凡な生活を送っていた人間が、神からの頼まれ事を引き受けた事で、仲間と共に英雄になって崇め奉られ、平凡とは真逆の非凡な存在となった...その辺にいる人間なら、誰しも一度は想像した事のある筈だ」
君とて例外では無いだろう?とわざとらしく首を左にこてんと傾げながら、パルキアさんは人間離れした瞳の色をキラリと輝かせながら上目遣いで私にそんな事を問うた。機械的なその不気味な動作に恐怖を覚えて何も反応出来ずにいると、パルキアさんは心底面白くなさそうに数回首を横に振った。
「...何か反応してくれないかい?これじゃあまるで俺が1人芝居をしている様じゃないか」
「あ、あなたの、言っている事の意味が、全く分かりません...」
「なら質問を変えようか。君、この世界とは別の世界からやってきただろう」
「なっ...!」
口に弧を描きながらそう放たれたパルキアさんの言葉に、私は目を見開いて驚くばかりで何も返答を返す事が出来なかった。何故初対面である筈のこの人がそんな事を知っているのか。一体パルキアさんは何者なのか。と相変わらず疑問が絶えず頭に浮かび上がってきたが、疑問を口にしようとした途端、先程ヒトモシくんを威圧した時と同じ様に軽く睨みつけられてしまった為、保身の為に私はすぐさま開こうとした口を閉じた。
「なぜ知っているのか...そう聞きたくて堪らないんだろう?良いよ、教えてあげる」
獲物を捉えた獣のように赤い瞳をギラギラと光らせたパルキアさんは、私の反応を一々楽しむようにして弧を描いた口をスっと開いた。
「それはね...俺が、君をこの世界に連れてきた張本人だからだよ」
「えっ...」
この世界へ自分を連れてきた張本人に会えた事への驚きか、それとも目の前の男から放たれているプレッシャーに対する恐怖か。その得体の知れない感情に呑まれ、一瞬平衡感覚を失って倒れ込んでしまいそうになった私の身体を、ヒトモシくんがそっと小さな手で支えてくれた。その事に小さく感謝の言葉を述べてまたパルキアさんに向き直ろうとするも、彼と上手く視線が噛み合わない。私の防衛本能が知らずの内に発揮されて、彼を視界に入れないように無意識に目を逸らしてしまっているのか、それとも彼が面白がってわざと私と目が合わないようにしているのか。多分どちらも正解なのだろうが、今の私にそんなことを悠長に考えている程の余裕はなかった。
「あ、貴方が、私を...?」
「うん。驚いたかい?此方も早く君に会いに行きたいのは山々だったんだけれど、今のシンオウ地方はちょっと面倒臭い事になっていてね...その代わりにほら、俺の大事な大事な宝石、君に預けておいただろう?」
大事な宝石と聞いて直ぐに頭に思い浮かんで来たのは、元の世界の倉庫で見つけたあの眩い光を放っている手のひらサイズの白い不思議な玉だった。もしかしてその事だろうか、と彼に確認してみれば、彼は満足そうにうんうんと首を3、4度縦に振った。どうやら正解だった様だ。
「あれを君の傍へ置いておいたおかげで、離れていても君が今どこで何しているのか、全部確認できた訳さ。...あぁ、変な勘違いはしないでね。あくまでも俺が君をこの世界へ連れてきたのだから、勝手な事をされては困ると思った上での監視だ」
「...どうして私を、この世界へ連れてきたのですか?」
「その事に関しては、君の家族達も交えてお話しよう。君も俺に質問したい事が山ほどあるだろうし、ここではなくて落ち着ける屋内で話し合おうか」
パルキアさんはそう言うと、「俺は空間を伝って屋敷へ行くから、君達はホウオウとゆっくり来なよ」とにこやかに言い放ち、瞬く間に消えてしまった。その嵐の様な一幕に呆然としながらも、何とかポケットの中をまさぐって鈴を出し、カランコロンと軽く2、3回振って軽やかな音を鳴らせば、ホウオウさんは虹色に光る羽をキラキラと羽ばたかせながら、すぐに此方へと飛んできてくれた。
「ヒトモシ...!お前一体どこに行ってたんだ!皆心配してたんだぞ!」
「ほ、ホウオウさん...!それには深い訳があって...」
先程出会ったパルキアさんについて色々と掻い摘んでホウオウさんに説明すると、ホウオウさんは難しそうな顔をしながらも何とか理解してくれたのか、眉を顰めながらも私達の頭を安心させるように撫でてくれた。その温かさにやっと心が安堵してくれたのか、思わず目尻に涙が溜まる。
「成程...お前が別の世界から来たのはスイクンから聞いていたが、よりにもよってあいつの仕業だったとはな」
「それを説明したかっただけなら屋敷を訪ねてくれば良いものを、なんでわざわざあいつヒトモシを連れ去ったんだ?」と、ホウオウさんも先程の私と同じような疑問を口から零した。それに関しては私も全く同意見だ。その行動のせいで、私達3人がどれだけヒトモシくんの事を心配したか、あの人には分からないのだろう。パルキアさんと言葉を交わしてまず感じた印象は、''人の感情の機微に疎い、どことなく冷めている人''だった。
これ以上考えようにも、パルキアさんに疑問をぶつけて答えを得ない限りどうにもならなそうだったので、とりあえず早くスイクンさんを安心させる為にも、私達はホウオウさんの背に乗って、スイクンさんの屋敷を目指すのだった。
ホウオウさんと二手に別れ、必死に小さなあの子の名前を叫び続けながら足を動かす。ホウオウさんから「何かあった時に鳴らせ」と受け取った''とうめいなすず''が、走った事による振動でポケットの中でカラコロと小さく鳴った。その心地よい小さな音を耳で拾いながら、私は周りを用心深くキョロキョロと見回した。白くて綺麗な髪の毛が、トパーズのようにキラキラ光る黄色い瞳が、私の瞳にもう一度映ってくれる事を願って。
「どこに行ったの...!?ヒトモシくん!」
前にも話した通り、この辺は街灯が全く設置されて居ないため、夜になってしまう前にヒトモシくんを探し出さねば、夜目の効かない私まで迷子になってしまう。それに今さっき気がついたのだが、ホウオウさんも原型時は鳥目だし、ポケモンは擬人化時の五感が原型時と比べて少々人間寄りになってしまう為、私達2人共夜の散策は不可能だ。即ち夜になるまでにヒトモシくんを見つけて屋敷に戻らなければ、私とホウオウさんまで帰れなくなってしまうという訳だ。
散々走り回ってだいぶ足が疲れて来たので、休憩がてら空を見上げてみると、太陽はだいぶ西の方に傾いていた。日が完全に傾くまであと2時間といった所だろうか。今こうして休憩している間にも、タイムリミットは刻々と近づいてきている。残されている時間が大分少なかった事を改めて思い知らされ、私はいても立っても居られずにまた先程のようにヒトモシくんの名を叫んだ。
「ヒトモシくーん!どこにいるの!いたら返事して!」
それを2、3回繰り返していた所、とうとう私の喉が限界を迎えたのか、ゲホゲホと咳が出てきた。喉奥がジィンと痛む感覚に僅かな不快感を覚えながら傷んだ喉を労る様に摩っていると、途端に後ろから男性の声が聞こえてきた。
「君の探している子はこの子かい?」
「...え、」
聞き慣れないその男性の声に驚いて反射的に後ろを振り向けば、そこには今にも泣きそうな顔で私をじっと見つめているヒトモシくんと、金属の様な髪色をした、色素の薄い男性が立っていた。ヒトモシくんはその男性に手をガッチリと掴まれており、このまま男性の手を振り払って私の所まで来るのは到底不可能そうだった。
「ヒトモシくん!」
「ナマエさん!」
私がヒトモシくんの名前を呼んだ途端、ヒトモシくんは我に返った様に男の手を振り払おうと力いっぱい腕を振ったが、その男性がヒトモシくんをキッと睨み付けた途端、ヒトモシくんはビクリと肩を震わせ、怯えたように縮こまってしまった。
原型の姿に戻ろうとも、恐らく無理矢理身体の一部を掴まれてしまっている為、上手く姿を変える事が出来なくなっているのだろう。私の大事な家族にどうしてこんな事が出来るのだ。私はこんな人知らないし会ったことも無いのに。それにこの人は一体どうやって屋敷からヒトモシくんを攫ったのか...といった疑問が絶えず出てくるが、それを聞いたところでこの人はちゃんと答えてくれるだろうか。ポケットの中の鈴を使ってホウオウさんを呼ぶのが1番安全なのだろうが、ヒトモシくんを人質に取られている以上、こちらも下手な事は出来ない。
今の私がするべきことは、ヒトモシくんを解放してもらう事。たったそれだけだ。
「その子を離して下さい。貴方が誰だか存じませんが、その子は私の大事な家族なんです」
「へぇ、まあ俺が用事があるのはこのヒトモシじゃなくて君だから、別に離すくらいなら造作もないけれど...でも、ここは1つ交換条件といこうか。俺がこの子を解放する代わりに、君は俺の話を聞いて欲しい」
私の目をじっと見ながら真剣そうな口振りでそう言うので、思わず首を縦に振ってしまった。その途端男性はヒトモシくんの腕を解放し、ヒトモシくんはすぐさま私の腰辺りへ怯えた様にぎゅっとしがみついてきた。そんなヒトモシくんを安心させるように抱きしめていると、件の男性が私達の方に足早に近づいてきた。反射的にヒトモシくんを自分の背に守るようにして立つと、男性はフッと笑いながら口を開く。
「そんなに怯えなくてももう何もしないよ。...まずは話を聞いてもらう前に、自己紹介といこう。俺はパルキアって言うんだ、宜しくね。因みに君の保護者のスイクンと、君が今こっそり呼ぼうとしてるホウオウとは知り合いだよ」
ホウオウさんに助けを求めようとしていた事が一瞬で見破られてしまったのに驚いて、ポケットに徐に突っ込んでいた手をサッと外に出した。此方の行動は全てこの人にお見通しと言う訳だ。
スイクンさんのミラーコートを見破れる程の力に、ポケモンであるヒトモシくんを一睨みで捻じ伏せられる圧倒的なプレッシャー。そして伝説のポケモンであるスイクンさんやホウオウさんと知り合いという点から察するに、この人は多分だけど、人間では無いのだと思う。そこは良いのだけれど、問題はヒトモシくんを攫った理由と、初対面である筈の私に一体何を話したいのかについてだ。
「君達の名前はもう知っているから、一々言わなくて大丈夫だよ。俺は生憎、無駄な事が嫌いでね」
「それで、話とは一体...?あと、此方も聞きたいことは沢山あるんですけど...」
ヒトモシくんを背に庇いながら恐る恐る口を開くと、男性...もといパルキアさんは、「君達の質問については後で答えるよ」と貼り付けた笑みを有無も言わせぬ雰囲気を醸し出しながら此方に向けてきた為、今はとりあえずパルキアさんの話を聞くだけに留めておいた。どうでもいい事だが、この人の行動一つ一つに人間らしさが少しも見えず、はっきり言って少し気味が悪い。それなのに長い睫毛やら白い肌やらツヤツヤサラサラな髪の毛やら、面目だけはスイクンさん達同様に物凄く整っているものだから余計に人間らしさが感じられなくて最早恐怖すら感じる。
「...こんな妄想をした事は無いかい?平凡な生活を送っていた人間が、神からの頼まれ事を引き受けた事で、仲間と共に英雄になって崇め奉られ、平凡とは真逆の非凡な存在となった...その辺にいる人間なら、誰しも一度は想像した事のある筈だ」
君とて例外では無いだろう?とわざとらしく首を左にこてんと傾げながら、パルキアさんは人間離れした瞳の色をキラリと輝かせながら上目遣いで私にそんな事を問うた。機械的なその不気味な動作に恐怖を覚えて何も反応出来ずにいると、パルキアさんは心底面白くなさそうに数回首を横に振った。
「...何か反応してくれないかい?これじゃあまるで俺が1人芝居をしている様じゃないか」
「あ、あなたの、言っている事の意味が、全く分かりません...」
「なら質問を変えようか。君、この世界とは別の世界からやってきただろう」
「なっ...!」
口に弧を描きながらそう放たれたパルキアさんの言葉に、私は目を見開いて驚くばかりで何も返答を返す事が出来なかった。何故初対面である筈のこの人がそんな事を知っているのか。一体パルキアさんは何者なのか。と相変わらず疑問が絶えず頭に浮かび上がってきたが、疑問を口にしようとした途端、先程ヒトモシくんを威圧した時と同じ様に軽く睨みつけられてしまった為、保身の為に私はすぐさま開こうとした口を閉じた。
「なぜ知っているのか...そう聞きたくて堪らないんだろう?良いよ、教えてあげる」
獲物を捉えた獣のように赤い瞳をギラギラと光らせたパルキアさんは、私の反応を一々楽しむようにして弧を描いた口をスっと開いた。
「それはね...俺が、君をこの世界に連れてきた張本人だからだよ」
「えっ...」
この世界へ自分を連れてきた張本人に会えた事への驚きか、それとも目の前の男から放たれているプレッシャーに対する恐怖か。その得体の知れない感情に呑まれ、一瞬平衡感覚を失って倒れ込んでしまいそうになった私の身体を、ヒトモシくんがそっと小さな手で支えてくれた。その事に小さく感謝の言葉を述べてまたパルキアさんに向き直ろうとするも、彼と上手く視線が噛み合わない。私の防衛本能が知らずの内に発揮されて、彼を視界に入れないように無意識に目を逸らしてしまっているのか、それとも彼が面白がってわざと私と目が合わないようにしているのか。多分どちらも正解なのだろうが、今の私にそんなことを悠長に考えている程の余裕はなかった。
「あ、貴方が、私を...?」
「うん。驚いたかい?此方も早く君に会いに行きたいのは山々だったんだけれど、今のシンオウ地方はちょっと面倒臭い事になっていてね...その代わりにほら、俺の大事な大事な宝石、君に預けておいただろう?」
大事な宝石と聞いて直ぐに頭に思い浮かんで来たのは、元の世界の倉庫で見つけたあの眩い光を放っている手のひらサイズの白い不思議な玉だった。もしかしてその事だろうか、と彼に確認してみれば、彼は満足そうにうんうんと首を3、4度縦に振った。どうやら正解だった様だ。
「あれを君の傍へ置いておいたおかげで、離れていても君が今どこで何しているのか、全部確認できた訳さ。...あぁ、変な勘違いはしないでね。あくまでも俺が君をこの世界へ連れてきたのだから、勝手な事をされては困ると思った上での監視だ」
「...どうして私を、この世界へ連れてきたのですか?」
「その事に関しては、君の家族達も交えてお話しよう。君も俺に質問したい事が山ほどあるだろうし、ここではなくて落ち着ける屋内で話し合おうか」
パルキアさんはそう言うと、「俺は空間を伝って屋敷へ行くから、君達はホウオウとゆっくり来なよ」とにこやかに言い放ち、瞬く間に消えてしまった。その嵐の様な一幕に呆然としながらも、何とかポケットの中をまさぐって鈴を出し、カランコロンと軽く2、3回振って軽やかな音を鳴らせば、ホウオウさんは虹色に光る羽をキラキラと羽ばたかせながら、すぐに此方へと飛んできてくれた。
「ヒトモシ...!お前一体どこに行ってたんだ!皆心配してたんだぞ!」
「ほ、ホウオウさん...!それには深い訳があって...」
先程出会ったパルキアさんについて色々と掻い摘んでホウオウさんに説明すると、ホウオウさんは難しそうな顔をしながらも何とか理解してくれたのか、眉を顰めながらも私達の頭を安心させるように撫でてくれた。その温かさにやっと心が安堵してくれたのか、思わず目尻に涙が溜まる。
「成程...お前が別の世界から来たのはスイクンから聞いていたが、よりにもよってあいつの仕業だったとはな」
「それを説明したかっただけなら屋敷を訪ねてくれば良いものを、なんでわざわざあいつヒトモシを連れ去ったんだ?」と、ホウオウさんも先程の私と同じような疑問を口から零した。それに関しては私も全く同意見だ。その行動のせいで、私達3人がどれだけヒトモシくんの事を心配したか、あの人には分からないのだろう。パルキアさんと言葉を交わしてまず感じた印象は、''人の感情の機微に疎い、どことなく冷めている人''だった。
これ以上考えようにも、パルキアさんに疑問をぶつけて答えを得ない限りどうにもならなそうだったので、とりあえず早くスイクンさんを安心させる為にも、私達はホウオウさんの背に乗って、スイクンさんの屋敷を目指すのだった。