Extraordinary!
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「ナマエ頭下げとき!」
私の耳に入ってきたのは、私が今一番会いたかった人の声だった。その聞き慣れた声が聞こえたことに安堵して、私はスイクンさんの言う通り頭を下げるより先に、ふっと身体の力が抜けて地面にぺたりとへたりこんでしまった。…まあ結果的に頭が低くなる姿勢になったから良いか。それにしても、何でスイクンさんがここにいるんだろう、もしかして恐怖で幻聴でも聞こえたのかなあ。もし幻聴だったら私このままへたりこんでたら確実に死んじゃう。でももう身体に力が入ってこないや。
そんな事を働かない頭の片隅でぼんやりと考えていたら、背後から白くて冷たいスイクンさんの手が私の身体にギュッと回された。その手は私の頭を2、3度ゆっくり撫でた後、手中から大量の水を噴射させ、私の目の前にいたポケモンに勢い良くその水を発射させた。先程まで唸っていたポケモンも咄嗟に炎を出して応戦するが、その度に目の前の白い手が噴射している水の威力も強まってゆく。ポケモンも負けじと炎を吐き出して対抗していたが、一瞬の隙をつかれて遂に水圧に巻き込まれて倒れてしまった。私はその現状を見て何が起こったのか分からず、とうとうキャパオーバーして後ろに倒れ込んだ。辛うじて意識はあるが、今はもう1ミリたりとも身体を動かせない。
そんな中、先程スイクンさんの出した水によって倒されたポケモンが、ゆっくり唸りながら此方に向かってきた。
『…我が同胞、スイクンよ。なぜ人間を庇うのだ』
声に怒りと失望を混ぜてそう放ったポケモンは、私の頭を未だ優しく撫でてくれているスイクンさんを睨みつけながら低く唸り続けている。だがその圧にスイクンさんは怯む様子もなく、普段私と話している時のような声色で優しくこう言った。
「エンテイ、一旦落ち着きいや。あんたが俺らの中でも一際人間嫌いなのは重々承知しとるけどなあ…でも、この子は俺の家族やねん。どうか見逃したって?」
…あぁ、あのポケモンがエンテイさんだったんだ。とぼーっとしながらもスイクンさんとエンテイさんの話を聞く私。擬人化したスイクンさんに抱きしめられながら原型の姿のエンテイさんに威嚇されている少女という、傍から見たら相当カオスな絵面だ。
「家族…だと?お前が、その人間と?」
「まあ話したら長くなるんやけど…取り敢えず俺とこの子に対して敵意剥き出しの目で威嚇するの止めてくれへん?傷つくわあ」
「…話を逸らすんじゃない!ちゃんと説明しろスイクン!」
「うわうるさ…!急に怒鳴らんといてや…ほら、取り敢えず屋敷戻ろうや。ナマエも疲れとるやろうし、エンテイもここに居るってことはわざわざ旅の途中に帰ってきてくれたんやろ?」
「…ふん」
スイクンさんがそう言った途端、エンテイさんは渋々といった様子で己の姿を擬人化させ、私達を置いてスタスタと何処かへ行ってしまった。…一足先に屋敷へと向かって行ったのだろうか。襲われた時はまさかあのポケモンがエンテイさんだったなんて思いもしなかったから、見逃して貰う為にひたすら訳の分からないことを叫んでいたけれど、もしかしてすっごい最悪な第一印象だったのでは。
「ほなナマエ、俺らも屋敷帰るか」
「は、はい…ってスイクンさん?私普通に歩けますけど…」
「駄目や。さっき腰抜かしとった子が何言うとるねん。それに、こうしとった方がもう迷子にならんで済むやろ?」
そんな風に言いくるめられてしまってはもう何も言えない。もうすぐ17歳になる身で男性に姫抱きされてるのは非常に恥ずかしい状態だけど、かと言ってもう自分で歩ける体力も残ってないし2度迷子になるのも御免なので、大人しくスイクンさんにお姫様抱っこされながら屋敷まで帰路に着くのだった。
*
「遅かったなスイクンよ」
「あんたが早すぎるんやエンテイ」
スイクンさんにゆっくり歩いて貰いながら屋敷へ帰り、エンテイさんの所へ向かう前に私の部屋にデパートで買った衣服を置いて来た所、見事に「遅い」と苦言を呈されてしまった。…まあ元々はこの人もこの屋敷に住んでたんだから、勝手知ったる我が家とでも言うように寛いでいるのにはまあ納得が行く。だがこの屋敷にはスイクンさんがミラーコートを貼っている為、外側からは屋敷が見えないはずだ。エンテイさんはどうやって屋敷に入ったんだろう。
「あ、あのエンテイさん」
「何だ人間」
「…どうやってミラーコートを掻い潜って、ここに入って来れたんですか?」
「…同胞の仕込んだ技くらい見抜けるに決まっているだろう。そんな事一々聞いてくるな」
刺々しい物言いでそう返されて思わず項垂れそうになったが、スイクンさんが隣に居てくれる手前、先程襲われそうになっていた時よりも辛うじて心には余裕があったので何とか前を向いている事が出来た。
「それで人間よ、何故お前の様な者が我らの屋敷に居る?」
とんでもない威圧を込めた瞳に射抜かれて一瞬思考回路がショートしかけたが、ここで質問に答えられなかったらきっと、エンテイさんにはずっと警戒され続けるばかりだ。最悪スイクンさんに取り入った意地汚い人間と思われるかもしれない。何でもいいから取り敢えず話さないと。
「えっと…まず私、この世界の人間じゃなくて、ポケモンの居ない別の世界からやって来たんです。しかも意図的にやって来たんじゃなくて、気づいたらこの世界に居たって感じで…それでこの屋敷の前に倒れていた所を、スイクンさんが保護して下さったんです」
嘘偽りの無い情報を淀み無い声で伝えたつもりなのだが、それでもエンテイさんからの訝しげな眼差しは消えない。襲われかけた時も今も、嘘なんて1ミリも言ってない筈なんだけど、この人どれだけ人間に対して不信感持ってるんだ。いい加減その親の仇を見るような瞳やめてください。
「…今この人間が言った情報は真か?スイクンよ」
「あんたにそんな風に睨まれて嘘付ける子なんて居るわけないやろ。今ナマエが言ったのは全部本当の事やで。俺が保証する」
スイクンさんにそう言って貰えた途端、恐怖でガタガタ震えていた私は安心感から危うくスイクンさんに抱き着きそうになったが、エンテイさんに未だ警戒されている手前野暮な事はするべきでは無いだろうと何とか思い留まる事が出来た。スイクンさんも本当の事だって言ってくれたんだから、これでエンテイさんも信じてくれる筈だ。ていうかもうこれだけ言って信じて貰えなかったらもうどうしようもない。四面楚歌状態にも程がある。
「…ていうかエンテイ、こっちもあんたに聞きたいこと仰山あるんやけど?まずな、ライコウはどうしたん?一緒に行動しとったんとちゃうん?後あんたら、2週間前に1回帰ってきたばっかりやろ?こんな短期間に2回も帰ってくるなんて珍しいけど、何か俺に用事でもあったん?」
有無を言わさぬ口調でスイクンさんがそう問いただすと、エンテイさんはた溜息を1つ着いた後、 ゆっくり口を開いた。
「ライコウも共に帰ってくる予定だったが、女との用事が入ったとかで私が先に此処へ帰ってきただけだ。明日にはライコウも此処に帰ってくるだろう。後、お前に用事があるのは正解だ。じゃないと一々旅を切り上げてここに帰ってくる意味が無い」
「ならナマエ怖がらせとらんと早う本題に入りや!全く、あんたのその頭でっかちな所、ほんと辟易するわぁ…」
スイクンさんにそう言われてエンテイさんはまた1つ溜息を吐くと、懐から赤と白のツートンカラーをした小さなボールを取り出した。元の世界で全くポケモンというコンテンツに触れて来なかった私でも、そのボールについては知っていた。モンスターボールという、野生のポケモンにぶつけて捕獲する為の道具だ。ポケモンをプレイしていた友達曰く、モンスターボール以外にも色んな種類のボールがあるんだとか。まあそれは置いておいて、このボールは一体何なのだろう。
「エンテイさん、このモンスターボールは一体…?」
「…放浪の旅をしていた最中に捨てられていた所をライコウと発見したものだ。中にはポケモンも入っている。…ほら、さっさと出てこい」
エンテイさんがそう言った途端、モンスターボールがパカりと開いて中から小さな蝋燭の様な形をしたポケモンが出てきた。その蝋燭の様なポケモンは暫くキョロキョロと屋敷の中を見渡していたが、私とスイクンさんを見た途端、黄色い瞳を震わせてエンテイさんの影に隠れてしまった。パッと見すっごく可愛い見た目をした子だけど…人見知りなのかな。
「エンテイ、その子ヒトモシやんな…?本来はこのジョウト地方やなくて、遠く離れたイッシュ地方に生息しとる筈やろ?」
「…あぁ。だがそこが問題なのだ。捨てられていたポケモンがこのジョウト地方に生息しているポケモンだったならばボールから逃がしてやるだけで留められたのだが、別地方のポケモンならそうもいかん」
エンテイさんが真面目な口調でそう話していた最中、小さなポケモン(以後ヒトモシ君)はずっとエンテイさんの陰から私たちの事を観察していた。その可愛さに自然と頬を緩ませていると、エンテイさんがまた話を続ける。
「我ら2匹の旅に同行させるにも、旅の最中に何かが起こっても必ず此奴を守ってやれる保証はない。だからこうしてお前に頼みに来たのだ。此奴をここに置いてやってくれないか」
「なあエンテイ、ここは託児所でも保護施設でも無いんやで?それにもうこの屋敷にはナマエがおるし…でも家族が増えるのはええ事やしなあ…俺はええけど、ナマエはどう思う?」
「えっ、私ですか!?…そりゃあスイクンさんの言う通り、家族が増えるのはとても嬉しいですし、何より私も捨てられていた訳ではありませんが、ヒトモシ君とは多少境遇も似ているので、ここに来てくれたら嬉しいな〜って思ってます…あとスイクンさん、私ポケモンじゃないです」
こんな所でボケを挟まないで下さいよとスイクンさんに呆れながらそう言ってヒトモシ君を見てみると、ヒトモシ君は未だ私とスイクンさんをじっと見つめていた。エンテイさんはその様子を見てヒトモシ君の背中を押して私とスイクンさんの前に立たせると、「…お前も自己紹介しろ」と優しく促した。その一連の流れを見て親子みたいだなあと思ったけど、言ったら間違いなく怒られそうだったので言わないでおいた。
「あ、あの…僕、ヒトモシと言います。ジョウト地方に捨てられてた所を、エンテイさんとライコウさんに拾って貰いました。不束者ですが、どうかよろしくお願いします…!」
擬人化して礼儀正しくそう自己紹介したヒトモシ君は、はにかみながら私とスイクンさんの方に近づいて来ると、「よろしくお願いします…」とおずおずとそう言ってぺこりとお辞儀してくれた。その動作を見て可愛いなあと思っていたら、スイクンさんが真っ先にヒトモシ君を抱き締め、「こんないじらしくて礼儀正しい子を捨てるなんて信じられへんわあ…!」と言ってわしゃわしゃと頭を撫で始めた。その流れを見てエンテイさんが呆れていたが、彼も彼で口元が先程よりも緩んでいた。
…この空間の温かい空気がやけに身体に染みて、思わず元の世界の両親の顔が思い浮かんできた。2人とも元気にしてるかなあ。また会えるだろうか。
私の耳に入ってきたのは、私が今一番会いたかった人の声だった。その聞き慣れた声が聞こえたことに安堵して、私はスイクンさんの言う通り頭を下げるより先に、ふっと身体の力が抜けて地面にぺたりとへたりこんでしまった。…まあ結果的に頭が低くなる姿勢になったから良いか。それにしても、何でスイクンさんがここにいるんだろう、もしかして恐怖で幻聴でも聞こえたのかなあ。もし幻聴だったら私このままへたりこんでたら確実に死んじゃう。でももう身体に力が入ってこないや。
そんな事を働かない頭の片隅でぼんやりと考えていたら、背後から白くて冷たいスイクンさんの手が私の身体にギュッと回された。その手は私の頭を2、3度ゆっくり撫でた後、手中から大量の水を噴射させ、私の目の前にいたポケモンに勢い良くその水を発射させた。先程まで唸っていたポケモンも咄嗟に炎を出して応戦するが、その度に目の前の白い手が噴射している水の威力も強まってゆく。ポケモンも負けじと炎を吐き出して対抗していたが、一瞬の隙をつかれて遂に水圧に巻き込まれて倒れてしまった。私はその現状を見て何が起こったのか分からず、とうとうキャパオーバーして後ろに倒れ込んだ。辛うじて意識はあるが、今はもう1ミリたりとも身体を動かせない。
そんな中、先程スイクンさんの出した水によって倒されたポケモンが、ゆっくり唸りながら此方に向かってきた。
『…我が同胞、スイクンよ。なぜ人間を庇うのだ』
声に怒りと失望を混ぜてそう放ったポケモンは、私の頭を未だ優しく撫でてくれているスイクンさんを睨みつけながら低く唸り続けている。だがその圧にスイクンさんは怯む様子もなく、普段私と話している時のような声色で優しくこう言った。
「エンテイ、一旦落ち着きいや。あんたが俺らの中でも一際人間嫌いなのは重々承知しとるけどなあ…でも、この子は俺の家族やねん。どうか見逃したって?」
…あぁ、あのポケモンがエンテイさんだったんだ。とぼーっとしながらもスイクンさんとエンテイさんの話を聞く私。擬人化したスイクンさんに抱きしめられながら原型の姿のエンテイさんに威嚇されている少女という、傍から見たら相当カオスな絵面だ。
「家族…だと?お前が、その人間と?」
「まあ話したら長くなるんやけど…取り敢えず俺とこの子に対して敵意剥き出しの目で威嚇するの止めてくれへん?傷つくわあ」
「…話を逸らすんじゃない!ちゃんと説明しろスイクン!」
「うわうるさ…!急に怒鳴らんといてや…ほら、取り敢えず屋敷戻ろうや。ナマエも疲れとるやろうし、エンテイもここに居るってことはわざわざ旅の途中に帰ってきてくれたんやろ?」
「…ふん」
スイクンさんがそう言った途端、エンテイさんは渋々といった様子で己の姿を擬人化させ、私達を置いてスタスタと何処かへ行ってしまった。…一足先に屋敷へと向かって行ったのだろうか。襲われた時はまさかあのポケモンがエンテイさんだったなんて思いもしなかったから、見逃して貰う為にひたすら訳の分からないことを叫んでいたけれど、もしかしてすっごい最悪な第一印象だったのでは。
「ほなナマエ、俺らも屋敷帰るか」
「は、はい…ってスイクンさん?私普通に歩けますけど…」
「駄目や。さっき腰抜かしとった子が何言うとるねん。それに、こうしとった方がもう迷子にならんで済むやろ?」
そんな風に言いくるめられてしまってはもう何も言えない。もうすぐ17歳になる身で男性に姫抱きされてるのは非常に恥ずかしい状態だけど、かと言ってもう自分で歩ける体力も残ってないし2度迷子になるのも御免なので、大人しくスイクンさんにお姫様抱っこされながら屋敷まで帰路に着くのだった。
*
「遅かったなスイクンよ」
「あんたが早すぎるんやエンテイ」
スイクンさんにゆっくり歩いて貰いながら屋敷へ帰り、エンテイさんの所へ向かう前に私の部屋にデパートで買った衣服を置いて来た所、見事に「遅い」と苦言を呈されてしまった。…まあ元々はこの人もこの屋敷に住んでたんだから、勝手知ったる我が家とでも言うように寛いでいるのにはまあ納得が行く。だがこの屋敷にはスイクンさんがミラーコートを貼っている為、外側からは屋敷が見えないはずだ。エンテイさんはどうやって屋敷に入ったんだろう。
「あ、あのエンテイさん」
「何だ人間」
「…どうやってミラーコートを掻い潜って、ここに入って来れたんですか?」
「…同胞の仕込んだ技くらい見抜けるに決まっているだろう。そんな事一々聞いてくるな」
刺々しい物言いでそう返されて思わず項垂れそうになったが、スイクンさんが隣に居てくれる手前、先程襲われそうになっていた時よりも辛うじて心には余裕があったので何とか前を向いている事が出来た。
「それで人間よ、何故お前の様な者が我らの屋敷に居る?」
とんでもない威圧を込めた瞳に射抜かれて一瞬思考回路がショートしかけたが、ここで質問に答えられなかったらきっと、エンテイさんにはずっと警戒され続けるばかりだ。最悪スイクンさんに取り入った意地汚い人間と思われるかもしれない。何でもいいから取り敢えず話さないと。
「えっと…まず私、この世界の人間じゃなくて、ポケモンの居ない別の世界からやって来たんです。しかも意図的にやって来たんじゃなくて、気づいたらこの世界に居たって感じで…それでこの屋敷の前に倒れていた所を、スイクンさんが保護して下さったんです」
嘘偽りの無い情報を淀み無い声で伝えたつもりなのだが、それでもエンテイさんからの訝しげな眼差しは消えない。襲われかけた時も今も、嘘なんて1ミリも言ってない筈なんだけど、この人どれだけ人間に対して不信感持ってるんだ。いい加減その親の仇を見るような瞳やめてください。
「…今この人間が言った情報は真か?スイクンよ」
「あんたにそんな風に睨まれて嘘付ける子なんて居るわけないやろ。今ナマエが言ったのは全部本当の事やで。俺が保証する」
スイクンさんにそう言って貰えた途端、恐怖でガタガタ震えていた私は安心感から危うくスイクンさんに抱き着きそうになったが、エンテイさんに未だ警戒されている手前野暮な事はするべきでは無いだろうと何とか思い留まる事が出来た。スイクンさんも本当の事だって言ってくれたんだから、これでエンテイさんも信じてくれる筈だ。ていうかもうこれだけ言って信じて貰えなかったらもうどうしようもない。四面楚歌状態にも程がある。
「…ていうかエンテイ、こっちもあんたに聞きたいこと仰山あるんやけど?まずな、ライコウはどうしたん?一緒に行動しとったんとちゃうん?後あんたら、2週間前に1回帰ってきたばっかりやろ?こんな短期間に2回も帰ってくるなんて珍しいけど、何か俺に用事でもあったん?」
有無を言わさぬ口調でスイクンさんがそう問いただすと、エンテイさんはた溜息を1つ着いた後、 ゆっくり口を開いた。
「ライコウも共に帰ってくる予定だったが、女との用事が入ったとかで私が先に此処へ帰ってきただけだ。明日にはライコウも此処に帰ってくるだろう。後、お前に用事があるのは正解だ。じゃないと一々旅を切り上げてここに帰ってくる意味が無い」
「ならナマエ怖がらせとらんと早う本題に入りや!全く、あんたのその頭でっかちな所、ほんと辟易するわぁ…」
スイクンさんにそう言われてエンテイさんはまた1つ溜息を吐くと、懐から赤と白のツートンカラーをした小さなボールを取り出した。元の世界で全くポケモンというコンテンツに触れて来なかった私でも、そのボールについては知っていた。モンスターボールという、野生のポケモンにぶつけて捕獲する為の道具だ。ポケモンをプレイしていた友達曰く、モンスターボール以外にも色んな種類のボールがあるんだとか。まあそれは置いておいて、このボールは一体何なのだろう。
「エンテイさん、このモンスターボールは一体…?」
「…放浪の旅をしていた最中に捨てられていた所をライコウと発見したものだ。中にはポケモンも入っている。…ほら、さっさと出てこい」
エンテイさんがそう言った途端、モンスターボールがパカりと開いて中から小さな蝋燭の様な形をしたポケモンが出てきた。その蝋燭の様なポケモンは暫くキョロキョロと屋敷の中を見渡していたが、私とスイクンさんを見た途端、黄色い瞳を震わせてエンテイさんの影に隠れてしまった。パッと見すっごく可愛い見た目をした子だけど…人見知りなのかな。
「エンテイ、その子ヒトモシやんな…?本来はこのジョウト地方やなくて、遠く離れたイッシュ地方に生息しとる筈やろ?」
「…あぁ。だがそこが問題なのだ。捨てられていたポケモンがこのジョウト地方に生息しているポケモンだったならばボールから逃がしてやるだけで留められたのだが、別地方のポケモンならそうもいかん」
エンテイさんが真面目な口調でそう話していた最中、小さなポケモン(以後ヒトモシ君)はずっとエンテイさんの陰から私たちの事を観察していた。その可愛さに自然と頬を緩ませていると、エンテイさんがまた話を続ける。
「我ら2匹の旅に同行させるにも、旅の最中に何かが起こっても必ず此奴を守ってやれる保証はない。だからこうしてお前に頼みに来たのだ。此奴をここに置いてやってくれないか」
「なあエンテイ、ここは託児所でも保護施設でも無いんやで?それにもうこの屋敷にはナマエがおるし…でも家族が増えるのはええ事やしなあ…俺はええけど、ナマエはどう思う?」
「えっ、私ですか!?…そりゃあスイクンさんの言う通り、家族が増えるのはとても嬉しいですし、何より私も捨てられていた訳ではありませんが、ヒトモシ君とは多少境遇も似ているので、ここに来てくれたら嬉しいな〜って思ってます…あとスイクンさん、私ポケモンじゃないです」
こんな所でボケを挟まないで下さいよとスイクンさんに呆れながらそう言ってヒトモシ君を見てみると、ヒトモシ君は未だ私とスイクンさんをじっと見つめていた。エンテイさんはその様子を見てヒトモシ君の背中を押して私とスイクンさんの前に立たせると、「…お前も自己紹介しろ」と優しく促した。その一連の流れを見て親子みたいだなあと思ったけど、言ったら間違いなく怒られそうだったので言わないでおいた。
「あ、あの…僕、ヒトモシと言います。ジョウト地方に捨てられてた所を、エンテイさんとライコウさんに拾って貰いました。不束者ですが、どうかよろしくお願いします…!」
擬人化して礼儀正しくそう自己紹介したヒトモシ君は、はにかみながら私とスイクンさんの方に近づいて来ると、「よろしくお願いします…」とおずおずとそう言ってぺこりとお辞儀してくれた。その動作を見て可愛いなあと思っていたら、スイクンさんが真っ先にヒトモシ君を抱き締め、「こんないじらしくて礼儀正しい子を捨てるなんて信じられへんわあ…!」と言ってわしゃわしゃと頭を撫で始めた。その流れを見てエンテイさんが呆れていたが、彼も彼で口元が先程よりも緩んでいた。
…この空間の温かい空気がやけに身体に染みて、思わず元の世界の両親の顔が思い浮かんできた。2人とも元気にしてるかなあ。また会えるだろうか。