Extraordinary!
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スイクンさんの用意してくれたご飯(と言っても病人用に作られたかなり柔らかめのお粥)を口に運びながら、私は彼に色々とこの世界の事を教えて貰っていた。ポケモンの世界はこのジョウト地方以外にも色々な地方が存在している事や、その地方ごとに生息するポケモンはまちまちであることなど。スイクンさん曰く、この世界では私の様な年齢の少年少女はとっくのとうに独り立ちしてポケモンと一緒に旅に出るのが普通らしい。それを聞いて思わず度肝を抜かれてしまったが、これもポケモンの不思議な力と人間離れした強さあってこそなのだろう。元いた世界では10代そこそこで独り立ちだなんて絶対考えられなかったので、元いた世界との常識のギャップに改めて驚かされるばかりだ。
「そういえば、スイクンさんは人間ではなくポケモン…なんですよね?ポケモンって擬人化出来るものなんですか?」
「せやで!野生であれトレーナーのポケモンであれ、生まれた時から人とポケモンの2つの姿を持って生まれてくるんや。まあ原理は俺もよう分かっとらんのやけどな」
そう言うと「俺の元の姿見せたろか?」とスイクンさんは悪戯っぽく笑い、「ナマエには特別やで」と不意に立ち上がった。それと同時に彼の身体を青い光が包み込み、その眩しさに思わず目を瞑ってしまった…のだが、次に目を開けた途端、そこに居たのは赤い瞳に紫色の髪の美男子ではなく、しなやかな体躯を持ち、額にはクリスタルを思わせる六角形の角を抱いた麗しい4足獣だった。背中には何とも触り心地の良さそうな紫色の鬣が揺らめいていて、思わず手が伸びそうになったのをグッと堪える。
「わあ…凄く綺麗ですスイクンさん!これがスイクンさんの元の姿…!」
初めてポケモンを見た事で年甲斐も無く幼児のようにキャッキャとはしゃぎ回る私を、スイクンさんは擬人化時と同じ様な優しい目で微笑ましそうに見守ってくれている。それに気付いた途端思わず恥ずかしくなってしまって頬が熱くなったが、意を決して「触ってみても良いですか?」と聞いてみれば、スイクンさん自ら私の方へ近付いて来てくれた。そして念願のふわふわでもふもふなその鬣に触れてみた途端、その手触りの良さに思わず「凄い…!ふわふわです!ふわふわ!」と、語彙力が皆無になってしまった。それ程に素晴らしい感触だったのだ。
「どうや?驚いたやろ?」
人の姿に戻ったスイクンさんの問いかけに、私は無言で何度も首を縦に振った。見た目の美しさもそうだが、スイクンというポケモンの醸し出す雰囲気が何とも神秘的で、思わず言葉を失ってしまった程だった。
「すっごく素敵でした…!鬣がふわふわで、尻尾がヒラヒラで…」
自分の語彙力の無さに段々泣きそうになってきたが、そんな私の拙い言葉でもスイクンさんは一言一句聞き漏らさずしっかりと拾ってくれた。
「せやろ?まあ俺が自分で言うのもアレやけど、スイクン自体かなり珍しいポケモンやからなあ…珍しさと美しさで厄介な奴が湧いて来る事もあるねん」
悲しげな顔をして目を伏せながらそう言ったスイクンさんは、「さっきチラッと言うた、ジョウト地方の伝説についてナマエに教えたるわ」と呟いて、部屋の本棚に収納されていた分厚い本を取り出すと、それをテーブルの上に広げて私に見せてくれた。
「事前に言うとくけど、ここに載っとる赤くてでっかい鳥がホウオウって言うポケモンやねん。今から話す話に深く関わってくるから覚えとくんやで…細かくて難しい文字ばっかやけど許してなあ」
そう一言置いてスイクンさんは、本の内容を私に読んで聞かせてくれた。
ー150年程前、エンジュシティのカネの塔が焼け落ちた際、名も無き三匹のポケモンが逃げ遅れて命を落としてしまった。
それを見て哀れに思ったホウオウは空から舞い降りると、その三匹のポケモンに力を分け与え、「エンテイ」「スイクン 」「ライコウ」として蘇らせた。
それを見ていた人間達は蘇った三匹のポケモンを恐れ、攻撃する者らまで現れたが、三匹のポケモンはホウオウが己らに与えた力を理解していた為、人間達に反撃すること無く去っていった…
「…とまあ、こんな感じや」
本をパタリと優しく閉じて、スイクンさんは寂しいとも悲しいとも取れる何とも複雑な表情をしながら、本を元あった場所に戻した。
「ということは、スイクンさんは1度…」
私はそう言おうとしてハッと口を閉ざした。いくらスイクンさん自ら己の過去を話してくれたとはいえ、いきなり相手の矜持に触れる様な事を言うものでは無いだろう。ただでさえまだ会って日が浅いと言うのに。だが、ここまで壮大な話を聞かせてもらった手前、無難な感想を言うだけなのも何か違うと思う。そう思って口を半開きにしたままみっともなくオロオロしていると、スイクンさんは笑って私の頭をまたわしゃわしゃと撫でてくれた。
「…良いんやで。別にもう引きずってないし…過去の事は過去の事やし、俺ももう人間の事を無差別に嫌う様な事はしてないしな」
「まあ、俺の事を無闇に捕まえようとしてきたりするような奴には容赦せんけどな!」と無理矢理口角を上げる様に笑って、「ほら、早う食わんとお粥冷めてまうで」と穏やかに言うスイクンさんからは、ついさっき垣間見えた複雑な表情はもう消えていた。私の正面に見えるのは、穏やかな顔でニコニコと微笑み続けている元通りのスイクンさんだ。違和感すら感じさせない切り替えの速さに思わず驚いてしまったが、顔に出すのはやめておいた。
きっとスイクンさんは、自分について触れられても良い事と触れられたくない事の線引きがハッキリしたタイプの性格をしているのだろう。だから、家族になったとはいえまだ知り合って日の浅すぎる私が無闇やたらとスイクンさんの話してくれた事について深堀りするのはあまりして良い事ではない…と思う。
人の良い笑みを浮かべながら私がお粥を食べている姿をじっと見ているスイクンさんの仄暗い背景を覗いてしまった様な気がして、私はスイクンさんについて少しだけ知れた事を喜ぶべきなのか分からなくなってしまった。
それでもスイクンさんの用意してくれたお粥は味の薄い割にやけに美味しくて、2日間何も食べていなかった私の身体に温かく染み渡ってくれたのだった。
「そういえば、スイクンさんは人間ではなくポケモン…なんですよね?ポケモンって擬人化出来るものなんですか?」
「せやで!野生であれトレーナーのポケモンであれ、生まれた時から人とポケモンの2つの姿を持って生まれてくるんや。まあ原理は俺もよう分かっとらんのやけどな」
そう言うと「俺の元の姿見せたろか?」とスイクンさんは悪戯っぽく笑い、「ナマエには特別やで」と不意に立ち上がった。それと同時に彼の身体を青い光が包み込み、その眩しさに思わず目を瞑ってしまった…のだが、次に目を開けた途端、そこに居たのは赤い瞳に紫色の髪の美男子ではなく、しなやかな体躯を持ち、額にはクリスタルを思わせる六角形の角を抱いた麗しい4足獣だった。背中には何とも触り心地の良さそうな紫色の鬣が揺らめいていて、思わず手が伸びそうになったのをグッと堪える。
「わあ…凄く綺麗ですスイクンさん!これがスイクンさんの元の姿…!」
初めてポケモンを見た事で年甲斐も無く幼児のようにキャッキャとはしゃぎ回る私を、スイクンさんは擬人化時と同じ様な優しい目で微笑ましそうに見守ってくれている。それに気付いた途端思わず恥ずかしくなってしまって頬が熱くなったが、意を決して「触ってみても良いですか?」と聞いてみれば、スイクンさん自ら私の方へ近付いて来てくれた。そして念願のふわふわでもふもふなその鬣に触れてみた途端、その手触りの良さに思わず「凄い…!ふわふわです!ふわふわ!」と、語彙力が皆無になってしまった。それ程に素晴らしい感触だったのだ。
「どうや?驚いたやろ?」
人の姿に戻ったスイクンさんの問いかけに、私は無言で何度も首を縦に振った。見た目の美しさもそうだが、スイクンというポケモンの醸し出す雰囲気が何とも神秘的で、思わず言葉を失ってしまった程だった。
「すっごく素敵でした…!鬣がふわふわで、尻尾がヒラヒラで…」
自分の語彙力の無さに段々泣きそうになってきたが、そんな私の拙い言葉でもスイクンさんは一言一句聞き漏らさずしっかりと拾ってくれた。
「せやろ?まあ俺が自分で言うのもアレやけど、スイクン自体かなり珍しいポケモンやからなあ…珍しさと美しさで厄介な奴が湧いて来る事もあるねん」
悲しげな顔をして目を伏せながらそう言ったスイクンさんは、「さっきチラッと言うた、ジョウト地方の伝説についてナマエに教えたるわ」と呟いて、部屋の本棚に収納されていた分厚い本を取り出すと、それをテーブルの上に広げて私に見せてくれた。
「事前に言うとくけど、ここに載っとる赤くてでっかい鳥がホウオウって言うポケモンやねん。今から話す話に深く関わってくるから覚えとくんやで…細かくて難しい文字ばっかやけど許してなあ」
そう一言置いてスイクンさんは、本の内容を私に読んで聞かせてくれた。
ー150年程前、エンジュシティのカネの塔が焼け落ちた際、名も無き三匹のポケモンが逃げ遅れて命を落としてしまった。
それを見て哀れに思ったホウオウは空から舞い降りると、その三匹のポケモンに力を分け与え、「エンテイ」「スイクン 」「ライコウ」として蘇らせた。
それを見ていた人間達は蘇った三匹のポケモンを恐れ、攻撃する者らまで現れたが、三匹のポケモンはホウオウが己らに与えた力を理解していた為、人間達に反撃すること無く去っていった…
「…とまあ、こんな感じや」
本をパタリと優しく閉じて、スイクンさんは寂しいとも悲しいとも取れる何とも複雑な表情をしながら、本を元あった場所に戻した。
「ということは、スイクンさんは1度…」
私はそう言おうとしてハッと口を閉ざした。いくらスイクンさん自ら己の過去を話してくれたとはいえ、いきなり相手の矜持に触れる様な事を言うものでは無いだろう。ただでさえまだ会って日が浅いと言うのに。だが、ここまで壮大な話を聞かせてもらった手前、無難な感想を言うだけなのも何か違うと思う。そう思って口を半開きにしたままみっともなくオロオロしていると、スイクンさんは笑って私の頭をまたわしゃわしゃと撫でてくれた。
「…良いんやで。別にもう引きずってないし…過去の事は過去の事やし、俺ももう人間の事を無差別に嫌う様な事はしてないしな」
「まあ、俺の事を無闇に捕まえようとしてきたりするような奴には容赦せんけどな!」と無理矢理口角を上げる様に笑って、「ほら、早う食わんとお粥冷めてまうで」と穏やかに言うスイクンさんからは、ついさっき垣間見えた複雑な表情はもう消えていた。私の正面に見えるのは、穏やかな顔でニコニコと微笑み続けている元通りのスイクンさんだ。違和感すら感じさせない切り替えの速さに思わず驚いてしまったが、顔に出すのはやめておいた。
きっとスイクンさんは、自分について触れられても良い事と触れられたくない事の線引きがハッキリしたタイプの性格をしているのだろう。だから、家族になったとはいえまだ知り合って日の浅すぎる私が無闇やたらとスイクンさんの話してくれた事について深堀りするのはあまりして良い事ではない…と思う。
人の良い笑みを浮かべながら私がお粥を食べている姿をじっと見ているスイクンさんの仄暗い背景を覗いてしまった様な気がして、私はスイクンさんについて少しだけ知れた事を喜ぶべきなのか分からなくなってしまった。
それでもスイクンさんの用意してくれたお粥は味の薄い割にやけに美味しくて、2日間何も食べていなかった私の身体に温かく染み渡ってくれたのだった。