ポケモンと人間。それは本来生態も力も何もかもが正反対な生き物同士であり、昔は共存する事さえ難しかった。いつしか何百年か経って文明が進んでゆき、ポケモンと人間が共に過ごす事が当たり前の世界になったとしても、小さなモンスターボール1つで繋がっているだけの不確かなケモノと人間の関係に生産性を求める事自体、本当に馬鹿みたいだと私は思う。


だが私は、一瞬の気まぐれからそんな馬鹿になってみたいと思ってしまったんだ。

「ナマエよ、人間とは寿命の短いものだ」

「知ってるわよ。何せ人間だもの」

何が言いたいんだこいつ。とでも言いたげな瞳をこちらに向けながら、ナマエは何とも抑揚のない声でそう返答を私に返した。好きな女にこの様な素っ気無い態度を取られるのは神であれ人間であれポケモンであれ寂しくなる事に変わりは無いが、ここで悲しんでしまっては神の名折れ。

お前それ明らかに自分のポケモンに対する態度じゃないだろ。と言いたくなる気持ちを歯を食いしばってぐっと堪えつつ、私は残りの言葉を吐き出そうと1歩進んでナマエの近くへ寄った。

「…ルギア？」

私の急な行動を不審がったのか、ナマエが不安げな声で私の名を呼んだ。その声に後押しされて、喉まで出かかっていた言葉が一気に流れ出てきた。

「…私はもっとナマエと共に居たい。だがその願いは確実に叶わないのだろう。…ならば、今よりもっとお前と深い関係になりたい。いずれ寿命のせいでお互い離れ離れになったとしても、今だけはお前と共に幸せでありたいと思ってしまったんだ」

まだまだ沢山彼女に伝えたい想いは山程あったのだが、生憎私は言葉数が多い方では無い。言葉足らずな性分故に、一度に多くの事を伝える行為に慣れていないのだ。そんな己の不器用さが何とも歯痒かったが、一旦ここで言葉を切ってナマエの反応を待ってみる事にする。

「それって、もしかして告白？」

数秒程度間が空いて、ナマエが驚いた様子でそう聞いてきた。

「…捉えようによってはそうだ」

「ねえルギア、私も勿論あなたと幸せになりたいと思っているわよ」

ナマエからそう発された言葉を聞いて、私の心を巣食っていた黒い霧がスっと晴れていくのが分かった。人間と神という種族の違い故に寿命の差はあれど、こうして相思相愛ならば必ずお互い幸せになれる糸口が必ず見つかるはずだと私はナマエに惚れたその瞬間から信じて疑わなかったのだから。

「…だけどね、貴方と恋人になって一時は幸せになれたとしても、いずれ私は貴方を置いて旅立ってしまうのよ。その後に遺されるのは虚しい喪失感と悲しみだけ。私は貴方にそんな惨いトラウマを植え付けたくないの」

至極悲しそうな顔で目に涙を貯めてそう言った彼女は、震える両手で私をそっと抱きしめた。こんな獣に一方的な愛情をぶつけられても尚、相手の事をこんなにも思いやる事の出来るナマエを見て、嗚呼やはり私が彼女に惚れた事は間違っていなかったのだと思うと同時に、私の様な馬鹿な男からの一方的な愛情でナマエを振り回してしまった事の罪悪感が、私の心を締め付けるのだった。

「どうか悪く思わないでね。…本当にごめんなさい、ルギア」

私はね、貴方の様な存在に愛して貰えるほど高尚な種族じゃないの。と声を震わせながらそう発したナマエを、ただ慰めの言葉1つ掛けてやる事も出来ずに抱き締める事しか出来ない自分は、彼女の恋人になるどころか彼女のポケモンを名乗る資格さえもない、この世で世界一の大馬鹿者の様に思えた。