キュレム
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ずっと独りで生きて来た。理想と真実、そのどちらも持たず、自分の空虚な心を広く暗い洞窟の中で慰める日々。寂しいという感情にも蓋をしてずっと気付かない振りをしていたから、いつの日か表情筋は凍り付いて動かなくなっていた。
だが、そんな孤独な生活に終止符を打つ時がやって来た。洞窟の入口から聞こえて来た、明らかにポケモンのものでは無い足音。これは人間のものだ、とキュレムは直感で分かった。薄暗くて寒いだけの何も無い洞窟に入ってくる者なんて珍しいな、と思ってその侵入者に近付いた途端、キュレムは気付いた。この人間もまた、自分と同じ様に曖昧な存在であると。自分がずっと求め続けていた者であると。
その人間(まだ若く、女性というより少女という方が適切だった)は、キュレムの凍り付いた抜け殻の様なその身体を目で捉えると、そっとキュレムの頭部に手を伸ばした。片割れである真実の操る炎の様に温かく、キュレムがずっと求めていた理想の温もりだった。
女はキュレムの頭を一頻り撫でた後、そっと口を開く。「やっと見つけた。私の竜」
女は言葉を続ける。「私ね、理想も真実も持って無かったから、英雄になれなかったんだ。…ていうか、理想と真実の定義が自分の中で曖昧だから、レシラムにもゼクロムにも認めて貰えなかった感じ?」
「ただ何となくで生きてきた人間だから、そんな事考えた事も無かったんだ。」そう言って女は悲しいとも嬉しいとも読み取れる曖昧な笑みを作ると、それを自分の顔に貼り付けた。キュレムはそこではっとする。この人間もまた、曖昧な存在故に認めて貰う事が出来ず、感情を押し殺して来たのだと。
「貴方さえ良ければ、私を貴方の英雄にしてくれないかな」
女のその言葉を聞いた途端、キュレムは己の姿を氷を纏った竜の姿から、人間の姿へと形を変えた。こうした方が意思の疎通を測りやすいだろうという、キュレムなりの女に対する不器用な気遣いでもあった。
無論、その女の願いを拒否する理由など何処にも無い。
「お前の様な者をずっと待ち続けていた。よくぞ来てくれた。俺だけの英雄」歓喜で声が震えそうになるのを何とか抑えながら、キュレムは英雄の誕生を祝福し、静かに彼女を自分の中に受け入れた。
「お前の名を聞かせておくれ」と言って、キュレムは英雄の白く柔い頬を両手で包むと、そっと屈んで英雄と同じ目線になり、静かに目を細めた。長い事表情筋を動かすことの無かった彼にとって、それは精一杯の感情表現だった。
「ナマエよ、ナマエ。世界であなただけの、キュレムだけの英雄」
「…ナマエ」
キュレムはナマエをそっと抱き寄せると、彼女の額に優しく口付けを落とす。涙なんてとっくの昔に枯れ果てたと思っていたのに、気が付けば両目から温かいものが止めどなく流れ出て頬を濡らしていた事に気が付いたのは、ナマエが親指でキュレムの目尻を優しく拭ってくれたからだった。
「これから、よろしくね」
ナマエはそう言ってキュレムの髪を先程と同じ様に一撫ですると、懐から赤と白のツートンカラーをしたボールを取り出してそっとキュレムの身体に当てた。その時既にもう、キュレムの心に纏わりついていた氷の鎧は温かい熱で溶け出していた。
この日をずっと待っていた。愛しい愛しい、俺だけの英雄。
だが、そんな孤独な生活に終止符を打つ時がやって来た。洞窟の入口から聞こえて来た、明らかにポケモンのものでは無い足音。これは人間のものだ、とキュレムは直感で分かった。薄暗くて寒いだけの何も無い洞窟に入ってくる者なんて珍しいな、と思ってその侵入者に近付いた途端、キュレムは気付いた。この人間もまた、自分と同じ様に曖昧な存在であると。自分がずっと求め続けていた者であると。
その人間(まだ若く、女性というより少女という方が適切だった)は、キュレムの凍り付いた抜け殻の様なその身体を目で捉えると、そっとキュレムの頭部に手を伸ばした。片割れである真実の操る炎の様に温かく、キュレムがずっと求めていた理想の温もりだった。
女はキュレムの頭を一頻り撫でた後、そっと口を開く。「やっと見つけた。私の竜」
女は言葉を続ける。「私ね、理想も真実も持って無かったから、英雄になれなかったんだ。…ていうか、理想と真実の定義が自分の中で曖昧だから、レシラムにもゼクロムにも認めて貰えなかった感じ?」
「ただ何となくで生きてきた人間だから、そんな事考えた事も無かったんだ。」そう言って女は悲しいとも嬉しいとも読み取れる曖昧な笑みを作ると、それを自分の顔に貼り付けた。キュレムはそこではっとする。この人間もまた、曖昧な存在故に認めて貰う事が出来ず、感情を押し殺して来たのだと。
「貴方さえ良ければ、私を貴方の英雄にしてくれないかな」
女のその言葉を聞いた途端、キュレムは己の姿を氷を纏った竜の姿から、人間の姿へと形を変えた。こうした方が意思の疎通を測りやすいだろうという、キュレムなりの女に対する不器用な気遣いでもあった。
無論、その女の願いを拒否する理由など何処にも無い。
「お前の様な者をずっと待ち続けていた。よくぞ来てくれた。俺だけの英雄」歓喜で声が震えそうになるのを何とか抑えながら、キュレムは英雄の誕生を祝福し、静かに彼女を自分の中に受け入れた。
「お前の名を聞かせておくれ」と言って、キュレムは英雄の白く柔い頬を両手で包むと、そっと屈んで英雄と同じ目線になり、静かに目を細めた。長い事表情筋を動かすことの無かった彼にとって、それは精一杯の感情表現だった。
「ナマエよ、ナマエ。世界であなただけの、キュレムだけの英雄」
「…ナマエ」
キュレムはナマエをそっと抱き寄せると、彼女の額に優しく口付けを落とす。涙なんてとっくの昔に枯れ果てたと思っていたのに、気が付けば両目から温かいものが止めどなく流れ出て頬を濡らしていた事に気が付いたのは、ナマエが親指でキュレムの目尻を優しく拭ってくれたからだった。
「これから、よろしくね」
ナマエはそう言ってキュレムの髪を先程と同じ様に一撫ですると、懐から赤と白のツートンカラーをしたボールを取り出してそっとキュレムの身体に当てた。その時既にもう、キュレムの心に纏わりついていた氷の鎧は温かい熱で溶け出していた。
この日をずっと待っていた。愛しい愛しい、俺だけの英雄。
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