好きな男に溺愛されて、喜ばない女は居ないだろう。無論、私もその1人。

だがしかし、それは対象が己と同じ種族だった場合の話である。ヒトの形を真似ただけの獣に溺れるくらい愛されても、それはただ単に恐怖心が煽られるだけだ。

「パルキア」と、彼の名前を呼んでみる。まあ隙間もないくらいぴったりと隣に居るんだから、呼ぶ必要性なんて微塵もないのだが。

「ん、どうした？」

神が出していい訳のない甘ったるい声を響かせて私の方を向いた、薄紫の髪が似合う男。世間ではこういう男を色男なんて呼ぶのだろう。

…そもそも彼は人間ですらないのだが。

「そろそろお風呂入っておいで。その間に私は夕食の用意しておくから」と、何でもない風を装ってそう言ってみれば。

「ナマエも一緒に入ろうぜ？」

いつもの如くそう駄々を捏ねる彼。こいつは本当に空間の神なのだろうか。何かの手違いで取り違えられた、ただの頭が弱い成人男性じゃないのか。と最初は思っていたが、残念ながら彼は本当に空間の神らしい。

こんなのが神様やってて大丈夫なのかこの世界は。とつくづく思う。自分のトレーナーだからという理由で一人の人間を特別扱いする神なんて、きっと彼くらいだろう。

「パルキア」と、また彼の名前を呼んでみる。パルキア。神の名をこんなに容易く呼べるようになったのは一体いつからだっただろうか。　

「どうした？ナマエ」と、甘ったるい声がまた、私の鼓膜を刺激した。

私をそんなに愛しても、いずれ私は寿命であなたを残して死んでしまう。

そう言いかけて、静かに言葉を飲み込んだ。

だって、寿命のない彼に寿命の話をしても無駄だろうから。

「…早くお風呂入っておいで」と、笑顔を取り繕いながら、腰に回されている彼の腕をそっと解く。

受け入れるフリをして、拒絶する。それはきっと、何よりも残酷な事だ。言いたい言葉も言えない私は多分、彼に愛される資格もないくらい弱い人間だ。