ふかふかの毛布の中でパチリと目を開き、欠伸をしながらベッドから降りて床に足を付ける。

リビングの壁に掛けてある時計にちらりと目を向けると、もう昼過ぎだった。今日は何も用事が無いとはいえ、一日の半分以上を無駄にしてしまったように感じて少し気持ちが沈んだ。


そのままキッチンに足を運び、眠気覚ましに水を飲んでいるとテーブルの上に何やら書き置きが置いてある事に気が付いた。水の入ったコップを一旦置いて中身を確認してみると、そこにはナマエの字で「職場から呼び出しを食らったので行ってきます」と殴り書きで書かれていた。

それに苦笑しつつも、ナマエの顔が見れない事に少しだけガッカリしてしまう自分がいる。家に独りだと何もすることが無いし、何より私も、今はヒトのカタチを真似てはいるが一応ポケモンだ。トレーナーの顔が見れなくて不安になる気持ちだって少なからずある。

「…忙しいのなら仕方がないか」

そう小さく口に出して納得したふりをしつつも、内心ではどこか腑に落ちていない自分がいた。最後にナマエと一緒に飯を食ったのはいつだったか。朝早くから職場に向かい、夜遅くに日付が変わってからやっと帰ってくるナマエを見ては溜息を着く日々だ。


「エンテイ、一緒に散歩行こうよ」と眩しい笑顔で寄り添ってくれていた昔のナマエの姿が脳裏に浮かび上がる。もうあの笑顔を見ることは叶わないのだろうか、と私は溜息を付いて残りの水を飲み干した。

人間の成長とは本当に早いものだ。ナマエの成長を近くで見れるのは嬉しい事だが、こんな成長望んでなかった。

殴り書きで書かれた書き置きの下に、「早く帰ってこい」と小さく書いて、また私は溜息を付いた。溜息を付くと幸せが逃げるとか何とか聞いた事あるが、まあいいか。そんなことで逃げる幸せなんてこっちから願い下げである。


寂しさを逃がす様に静かに首を振って、今のナマエのために出来ることを考えてみる。そうだ、夜飯でも作って待つとするか。彼女の好物でも作っておこう。疲れて帰ってきた彼女の疲れが取れるならばこのくらい容易い事だ。