どうやら私は酷く愛に飢えているらしい。それはもう腹を空かせたケダモノのように。でもそんなのおかしい話だ。幼い頃の私は優しくて温かい両親に無償の愛を溢れるほど注いでもらいながら育って来たというのに、どうして今更そんな物に対して酷い欲求が生まれたのだろう。

誰かにうんと愛されたい。溺れて息が出来なくなってしまうくらい愛されて、いっその事その愛で溺れ死んでしまいたくなる程に深い愛が今の私には足りない。これは依存と同じだ。嗚呼もう駄目、早く誰か私を愛して。息が苦しい。このまま呼吸困難で死んでしまいそうだ。

「ゼクロム、ゼクロム…！」

家の中でほぼ半狂乱になりながら私はゼクロムを見つけ、勢いよくその背中に抱きついた。旅に出て故郷を離れて両親と簡単に会えなくなった今、私を愛してくれるのはパートナーのゼクロムしか居ない。震えながらゼクロムにぎゅっと抱きついていると、ゼクロムは｢どうした、ナマエ｣と言ってこちらに振り返り、優しく頭を撫でてくれた。もっと撫でて。

「寂しいの。愛して欲しいの」

「ああ成程。いつものやつか」

ゼクロムは察した様にそう呟くとフローリングの床に胡座をかいて座り、「こっちに来い」と私の腕を優しく引っ張って脚の間に座らせてくれた。そのまま後ろから抱きしめられて、温かいゼクロムの体温が伝わってくる。

「よーしよーし。よく俺の所まで来れたな」

「…うん」

「しっかし不思議だよなあ。両親からの愛情不足ってやつでも無いんだろ？」

「欲求不満って奴か？」と冗談めかして言いながらゼクロムは私の髪を優しく指先で弄ぶ。もし私が欲求不満だとしたら、それを満たしてくれるのはゼクロムになるのだろうか。否、きっとゼクロム以外居ないだろう。

人間の知能が獣並に低かったなら、本能のままに生活を送る獣として生まれる事が出来たなら私は今頃こんな事考えなくて良かったのかなあ。

「ゼクロムなら、私を満たしてくれる？」

鼻を啜りながらポツリとそう零すと、後ろからの抱擁が強くなった様な気がした。

「ナマエが望むなら俺は応えるまでだ」

私の醜い欲求を満たしてくれる存在は、今となってはあなたしかいないのです。