絵画
Name Change
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誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。親とはぐれた幼児のような、どこかすすり泣いている様にも聞こえるその声の響きに、私は何処か懐かしさを感じた。私の名前はイヴといったか。どこかの誰かさんのせいですっかり忘れてしまっていたが、この声のお陰で、バラバラになっていたパズルのピースが1つ戻って来たような気がする。もっとその声が聞きたくて、あわよくばその声の主の姿が見てみたくて、私はその声に誘われるがまま、目をゆっくり開いた。
「ナマエ、ナマエ、ナマエ…」
「ぅ、ん…?」
目を開けた途端、まず視界に入って来たのは絹糸の様に美しい金色の髪だった。その髪の持ち主は私に向かってひたすら私の名前を呼び続けているようだった。私が意識を取り戻した事に気付いていない様子なのは、きっと名前を呼ぶ事にしか意識を向けていないからか、それとも瞼をピッタリ閉じているからだろうか。
「ナマエ、ナマエ、」
「…」
多分、この人が私の記憶を奪い去った元凶なのだろう。あの2人からはユクシーの外見までは説明されていなかった為これは憶測でしか無いが、目の前にいるこの金髪さんがあの二人と似通った雰囲気をしているお陰で何となく察しはついた。
私の記憶を奪い去っても尚飽き足らず、この様に何とも愛しげに私の名を呼ぶ神の頬に、ゆるりと片手を添えてみる。私の人生を滅茶苦茶にして全てを奪い去っても尚、まだこの神は私に執着するか。その執念深さに反吐が出そうになったが、同時に愛しささえも芽生えて来てしまう。そんな自分に内心唾を吐き捨てて、私は彼の頬をそっと撫でた。その動作にようやく彼も私が意識を取り戻した事に気付いたのか、私の名を呼ぶ声がはたと止んだ。
「…ねえ、」
口を開いて彼の名を呼ぼうとした途端、その唇は何かに塞がれていた。その柔らかい''何か''が彼の唇だと悟った時には、もうそれは銀の糸を一筋残して私から離れてしまっていた。名残惜しく未練がましくその銀糸を見つめていると、彼が震える声で私をまた呼んだ。
「ナマエ!嗚呼、ナマエ…!」
「ん…なあに?」
「私が、分かるのですか…?」
「何となく…確証は無いけれど」
苦笑混じりにそう言って身体を起き上がらせれば、その途端私の身体は彼の腕に閉じ込められてしまっていた。急な事に驚いて身を捩れば、逃がさないと言わんばかりに身体をホールドしている腕の力がどんどん強くなる。仕方が無いので、私はこのまま話を続ける事にした。
「ねえ、私ね、あなたのせいで記憶喪失になっちゃったみたい」
「…う…それは、その、」
「謝らないでよ。謝って欲しい訳じゃないわ…だからね、その代わりに」
私は地面に座り込んでいた状態から無理やり身体を起こして立ち上がると、もう離さないぞと言わんばかりに私の腰に巻きついている彼の腕を片方掴み、そのまま湖の方に無理やり引っ張り始めた。彼はそんな私の挙動に戸惑いながらも私の体から腕を解き、私のされるがままに引っ張られている。それをいい事に私はどんどん湖へと歩を進めて行った。
「ナマエ、何を…」
「良いから良いから…!もう少しよ」
遂に湖まであと一歩という所に到着した私達は身体を向き合わせると、どちらが口を開くともなくひたすら黙秘権に身を委ねていた。その沈黙に身を任せながら暫く湖の水を手で掬って遊んでいたら、気まづさに耐えかねたのか、いつの間にか私の口からスラスラと言葉が飛び出してきた。その勢いに身を任せ、私は仕返しと言わんばかりに彼の脇腹辺りに腕を差し込み、逃げられないようにぎゅっと腕を回す。
「責任取ってね。私から逃げられると思わないで、貴女も一緒に堕ちて」
涙が止めどなく溢れて私の頬をしとどに濡らす。その事にすら構わず、私は抱きしめた彼の身体ごと湖側に身を倒した。大の大人2人分の質量が倒れ込んできたからか、湖の水が飛沫を上げた音が辺り一面に響き渡る。その飛沫の音が鳴り止んだ時、先程までそこで抱き合っていた筈の男女はもう居なくなっていた。ただ1つ確かな事は、記憶を無くした女は寂しがり屋で自分勝手な神を道連れにして、無惨な最期を迎えたのだった。それだけが事実だった。
「ナマエ、ナマエ、ナマエ…」
「ぅ、ん…?」
目を開けた途端、まず視界に入って来たのは絹糸の様に美しい金色の髪だった。その髪の持ち主は私に向かってひたすら私の名前を呼び続けているようだった。私が意識を取り戻した事に気付いていない様子なのは、きっと名前を呼ぶ事にしか意識を向けていないからか、それとも瞼をピッタリ閉じているからだろうか。
「ナマエ、ナマエ、」
「…」
多分、この人が私の記憶を奪い去った元凶なのだろう。あの2人からはユクシーの外見までは説明されていなかった為これは憶測でしか無いが、目の前にいるこの金髪さんがあの二人と似通った雰囲気をしているお陰で何となく察しはついた。
私の記憶を奪い去っても尚飽き足らず、この様に何とも愛しげに私の名を呼ぶ神の頬に、ゆるりと片手を添えてみる。私の人生を滅茶苦茶にして全てを奪い去っても尚、まだこの神は私に執着するか。その執念深さに反吐が出そうになったが、同時に愛しささえも芽生えて来てしまう。そんな自分に内心唾を吐き捨てて、私は彼の頬をそっと撫でた。その動作にようやく彼も私が意識を取り戻した事に気付いたのか、私の名を呼ぶ声がはたと止んだ。
「…ねえ、」
口を開いて彼の名を呼ぼうとした途端、その唇は何かに塞がれていた。その柔らかい''何か''が彼の唇だと悟った時には、もうそれは銀の糸を一筋残して私から離れてしまっていた。名残惜しく未練がましくその銀糸を見つめていると、彼が震える声で私をまた呼んだ。
「ナマエ!嗚呼、ナマエ…!」
「ん…なあに?」
「私が、分かるのですか…?」
「何となく…確証は無いけれど」
苦笑混じりにそう言って身体を起き上がらせれば、その途端私の身体は彼の腕に閉じ込められてしまっていた。急な事に驚いて身を捩れば、逃がさないと言わんばかりに身体をホールドしている腕の力がどんどん強くなる。仕方が無いので、私はこのまま話を続ける事にした。
「ねえ、私ね、あなたのせいで記憶喪失になっちゃったみたい」
「…う…それは、その、」
「謝らないでよ。謝って欲しい訳じゃないわ…だからね、その代わりに」
私は地面に座り込んでいた状態から無理やり身体を起こして立ち上がると、もう離さないぞと言わんばかりに私の腰に巻きついている彼の腕を片方掴み、そのまま湖の方に無理やり引っ張り始めた。彼はそんな私の挙動に戸惑いながらも私の体から腕を解き、私のされるがままに引っ張られている。それをいい事に私はどんどん湖へと歩を進めて行った。
「ナマエ、何を…」
「良いから良いから…!もう少しよ」
遂に湖まであと一歩という所に到着した私達は身体を向き合わせると、どちらが口を開くともなくひたすら黙秘権に身を委ねていた。その沈黙に身を任せながら暫く湖の水を手で掬って遊んでいたら、気まづさに耐えかねたのか、いつの間にか私の口からスラスラと言葉が飛び出してきた。その勢いに身を任せ、私は仕返しと言わんばかりに彼の脇腹辺りに腕を差し込み、逃げられないようにぎゅっと腕を回す。
「責任取ってね。私から逃げられると思わないで、貴女も一緒に堕ちて」
涙が止めどなく溢れて私の頬をしとどに濡らす。その事にすら構わず、私は抱きしめた彼の身体ごと湖側に身を倒した。大の大人2人分の質量が倒れ込んできたからか、湖の水が飛沫を上げた音が辺り一面に響き渡る。その飛沫の音が鳴り止んだ時、先程までそこで抱き合っていた筈の男女はもう居なくなっていた。ただ1つ確かな事は、記憶を無くした女は寂しがり屋で自分勝手な神を道連れにして、無惨な最期を迎えたのだった。それだけが事実だった。
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